HTML5対応の「QNX CAR 2」を武器に日本自動車市場への取り組みを強めるQNX
アウディ、BMWに採用されたIVIシステムOSベンダー


 QNX Software SystemsはリアルタイムOSベンダーとしてよく知られており、自動車関連でもIVI(In-Vehicle Infotainment)のOSやデジタルメータークラスタのOSとして採用されている。自動車で言えば、アウディやBMWなどのドイツ車メーカーのIVIシステムのOSとして採用されており、今後のIVIの普及に一役買う存在として期待されている。

 そのQNXは次世代のIVI向けプラットフォームとしてQNX Car 2と呼ばれるプラットフォームを発表し、実際にデモした。本記事では、そうしたQNX Car 2の現状について、QNX Software Systems アジア太平洋地域営業統括部長 キム・クルーガー氏にお話しをうかがってきた。

組み込みシステム技術展におけるQNXのQNX CAR 2の展示。メータークラスター、IVIそれぞれがQNXにより稼働されているカーナビの画面を動かしているところ
車両状態などもグラフィカルに表示できる。こうしたユーザーインターフェイスもHTML5で作成することが可能PlayBookのアプリケーションストアをカーナビから利用することも可能。もちろん、カーメーカー自身が自分のアプリストアのような仕組みを持つことも容易に実現できる

組み込み向けOSとして実績があるQNXをBlackBerryのRIMが買収
 クルーガー氏によれば、QNX Software Systemsは1980年に設立され、2004年までは独立系のソフトウェアベンダとして運営されてきた。2004年に自動車やオーディオ関連のソリューションベンダであるHarman Internationalの傘下となり、その後2010年に現在の親会社であるResearch In Motion(RIM)に譲渡され、RIMの子会社として組み込み向けのソリューションを提供するベンダとして運営されている。

 親会社のRIMは、日本ではNTTドコモより提供されているビジネス向けスマートフォン「BlackBerry」を開発したベンダとして知られている。クルーガー氏によれば「RIMがQNXを買収したのは、QNXが自動車、医療、産業、ミリタリー向けの組み込みに強いソリューションを持っていたから。しかし、今後もQNXは独立企業として運営され、これまで培ってきた組み込み市場での高いブランド力を生かしてビジネスを展開していく」とのことで、基本的には今後も別の企業として運営されていくということだ。

 QNXの強みは、これまで数々の組み込み機器に採用されてきたリアルタイムOSとしての信頼性だ。QNXはマイクロカーネルという仕組みを採用して、実際に動作するときには必要な部分だけをロードして不要な部分はオフロードするようになっている。このため、非常に少ないメモリで動作させることが可能になっており、もともとメモリ量が小さい組み込み向けなどで多く採用されてきた。

 QNXのコンパクトなOSという側面と、過去に多数の組み込み機器に採用されてきたという実績などが評価されており、近年は自動車のIVIやメータークラスターなどを動作させるOSとしても採用されている。例えば、International CESではドイツの自動車メーカーであるアウディやBMWなどがNVIDIAのTegraを採用したIVIシステム搭載の自動車を展示していたが、それらのOSはQNXが採用されていた。クルーガー氏によれば「このほかにもレンジローバー、ジャガー、フェラーリ、ボルボカーズ、クライスラー、GMなどがQNXを採用している」とのとおり、ワールドワイドの自動車メーカーに採用されているのだ。

RIMのBlackBerry PlayBookにも採用されているQNX
 QNXのアドバンテージについてクルーガー氏は「通常こうした車載情報システムを開発するには数年といった単位で開発に時間がかかる。しかし、QNXが用意しているQNX Car 2を利用することで、開発期間を最短で18カ月に削減することが可能だ」と述べ、QNXが用意するソフトウェア開発のソリューションを利用することで、自動車メーカーは従来よりも短期間で車載システムの開発ができると説明した。

 QNXはQNX CAR 2で、ベンダーがより短い期間で開発できるようなソリューションを提供する。具体的には、OSそのものだけでなく、TCP/IPの実装といったネットワークまわり、Bluetoothへの対応などをベンダーに提供して、それらを利用して開発することで、これまでよりも短期間にシステムの開発ができるようになるのだ。

 また、QNX Car 2にはRIMにおけるコンシューマ向けの経験も上手く取り入れていく。日本でこそ未発売だが、RIMは米国やカナダなどの市場で、「BlackBerry PlayBook」というタブレット端末を提供しているが、そのOSはQNXをベースに開発されており、その経験を自動車向けのOSの開発にも生かしていく方針だという。

 実際、5月に東京ビックサイトで行われた「組み込みシステム技術展」において展示されたQNX Car 2プラットフォームの参考展示では、PlayBookのアプリケーションがそのまま自動車などでも利用できる様子などがデモされていた。自動車メーカーが自社でアプリケーションプラットフォームを構築しようとすると、自社でアプリストアを用意して、ソフトウェア開発社にも魅力的な環境を用意しなければならないが、PlayBookの仕組みがそのまま利用することができれば、その手間はなくなる。車の中でiTunes Storeが利用できるようなものだと言えば分かりやすいだろうか。

今後のIVIの標準になるHTML5の実装を容易に実現できるQNX CAR 2
 もちろん、そうしたアプリケーションプラットフォームを構築したいという自動車メーカー(むしろそのほうが多いと思うが)に対しても、きちんとソリューションを用意している。クルーガー氏は「自動車向けの情報システムではHTML5への対応が今後は重要になる。今後はHTML5を利用することで、コンテンツや機能を常に最新のものにしたり、モバイルアプリケーションと連携したりなどをできるほか、ソフトウェア開発者はHTML5に慣れ親しんでおり、開発者を見つけるのも容易だ」と述べ、これからのIVIではHTML5への対応が鍵になるという見解を明らかにした。

 HTML5というのは、現在Webブラウザにコンテンツを表示されるための仕組みであるHTML(Hyper Text Markup Language)の最新版で、文字ベースが中心だったHTMLから大きく発展し、よりリッチなユーザーインターフェイスを実現することができる。具体的には、従来HTMLでは、Adobe Flashなどのプラグインを使わない限りはゲームなどのユーザーインターフェイスの実現は難しかったのだが、HTML5ではそうしたプラグインを使わなくても標準でリッチなユーザーインターフェイスが利用できるようになるのだ。このため、プラグイン不要でリッチなユーザーインターフェイスHTML5はモバイル環境(スマートフォンやタブレット)やIVIのような機器では、標準的に利用されるようになると考えられている。

 クルーガー氏は「QNX CAR 2の最大の特徴はHTML5に対応したこと。これにより自動車メーカーはよい使いやすいアプリケーションを自社のシステムに実装することなどが容易になる」と述べ、HTML5に対応することがこれからのIVIに求められることであり、QNX CAR 2はそれを実現するソリューションであることをアピールした。

日本市場にも積極的に取り組み、日本メーカーへの浸透を目指す
 日本市場に向けた取り組みに関してクルーガー氏は「既存製品であるQNX CAR 1は多数の自動車メーカーで採用されており、QNX CAR 2に関しても大きな興味を持っていただいていると考えている。現時点では公式にお話しできるところはないが、少なくとも2メーカーに採用していただけるのではないかと考えている」と述べ、具体的なメーカー名は明らかにしなかったものの、QNX CAR 2に関しても採用に向けてメーカーに働きかけていると述べた。

 なお、QNX Software Systemsは日本法人を2000年に設立しており、日本での顧客のサポートなどを行っている。クルーガー氏によれば、「多数の自動車メーカーが存在している日本市場を重要視しており、今後もサポート体制の充実していきたい」と述べ、QNXが今後も日本市場に対して積極的に取り組んでいくという姿勢を明らかにした。

(笠原一輝)
2012年 6月 21日