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BlackBerry、QNX OSの自動運転・ADAS向け事業説明会レポート
「AGLやAndroidよりも高いセキュリティを実現している」とアピール
2017年11月21日 21:49
- 2017年11月21日 開催
カナダのソフトウェア・セキュリティベンダのBlackBerry(ブラックベリー)は11月21日、東京都内のカナダ大使館において、同社の子会社であるQNXソフトウェアシステムズなどが提供する自動運転・ADAS向けのOSとなる「QNX」に関する事業説明会を開催した。
このなかでBlackBerry Limited 上級副社長 兼 BlackBerry QNX ジェネラルマネージャーのジョン・ウォール氏は、「QNXは35年にわたり、ミッションクリティカルな製品に向けてOSを作ってきた。このため、AGLやAndroidといったほかの選択肢に比べて高いセキュリティを実現している。自動運転・ADASに対応した自動車を製造するメーカーは高いセキュリティを必要としている」と述べ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて官民一体となって自動運転の実現を目指している日本の自動車メーカーにとって、QNXがよい選択肢になるとアピールした。
自動車向けのテレマティックス、インフォマティクス市場で市場シェア1位
BlackBerryは、元々はエンタープライズに特化した携帯電話を提供する企業(当時はRIM=Research In Motionが社名だった)として成長した企業。携帯電話事業を行なっていた時代は携帯電話を管理するソフトウェア、携帯電話のOS、携帯電話のハードウェアを垂直統合して提供する企業として知られていたが、スマートフォンが登場し、普及してからはその方針を大きく転換。2010年に買収して子会社化したQNXソフトウェアシステムズのソリューションを中心に、OSやセキュリティソフトウェアなどのソフトウェアソリューションを提供する企業としてその姿を大きく変えている。
BlackBerry Technology Solutions セール&マーケティング担当 上級副社長 カイヴァン・カリミ氏は「BlackBerryが提供するQNXの特徴は高いセキュリティ性。ミッションクリティカルな用途向けに35年、自動車向けとしては20年にわたり提供してきた。G10の政府全部に、G20のうち16の政府で採用されているほか、センサーのようなデバイスから家電、そして自動車までカバーしている。我々のビジョンは世界を安全にし、エンタープライズにあるネットにつながっている機器の安全を確保することだ」と述べ、同社が提供するQNXの特徴は高いセキュリティで、とくにミッションクリティカルな用途などでも安定して動き続けることなどであると強調した。
実際にQNXは自動車メーカーでも多く採用されており、「タイム誌はQNXのことをPCにおけるWindows OSのようなものだと表現した」(カリミ氏)との言葉どおり、カリミ氏が示した自動車業界の顧客というスライドでは、グローバルなメーカーのほとんどが掲載されている。また、自動車市場におけるQNXの実績に関しては「6000万台の自動車に搭載されており、テレマティックス、インフォマティクスで市場シェア1位。240以上のモデルに採用しており、大量生産までの開発成功率は100%となっている」と説明した。
ISO26262 ASIL レベルDの認証を得ているOSとハイパーバイザーを提供
引き続きBlackBerry Limited 上級副社長 兼 BlackBerry QNX ジェネラルマネージャー ジョン・ウォール氏がQNXの特徴などについて説明した。
ウォール氏は「自動運転の実装が進むにつれてECUの集約化が進む。そうすると1つのSoCでセーフティとノンセーフティが1つのSoCで実現されるようになるため、切り離しと分離が必要になる。そこで弊社は2つのOSを提供する。1つは“ISO26262 ASIL レベルD”の認証を実現したOSとミドルウェア。もう1つが同じくISO26262のレベルD認証を確認したハイパーバイザーだ」と述べ、QNXが機能安全の規格であるISO26262 レベルDの認証を獲得したOSとハイパーバイザーを提供し、1つのSoCで複数のOSを安全に稼働させることができると説明した。「2030年までに自動車のコストで、エレクトロニクスとソフトウェアが製造原価の50%を占めると予想されている、その多くの部分はソフトウェアであり、これはBlackBerryのような企業にとっては大きなビジネスチャンスだ」と、今後自動運転・ADASの普及でQNXの潜在市場は大きいとした。
そして、いわゆるコネクテッドカー、つまり常時インターネットに接続された自動車が今後は当たり前になっていくことで、サイバーアタックなどのセキュリティの問題が大きくクローズアップされるとウォール氏は語る。「とくにコックピット周りは大きな問題で、現在そうした製品にはオープンソースのソフトウェアが利用されている。2015年にジープがハッキングされた例では、携帯電話回線を経由して遠隔地からクルマが操作されてしまった。一般消費者は自動運転の懸念の1つとしてサイバーセキュリティに注目し始めている」と述べ、米国政府が発表したQNX、Androidそれぞれの脆弱性の数などを例に出して、2016年にQNXはわずか1件だったのに対して、Androidは611件の脆弱性が確認されているとし、QNXの安全性の高さをアピールした。また、BlackBerry Technology Solutionsのカリミ氏は「AGL(オートモーティブグレードLinux)にも多数の脆弱性が発見されている。仮に自分のクルマがAGLやAndroidベースだというと、ハッカーに攻撃してくれといってようなものだ」と述べた。
ウォール氏は「自動運転では自動運転車と人間が運転するクルマの両方が道路を走る。その場合に悪意のある誰かが制御権を握るとどうなるか。それに業界のみんなが懸念を持っており、自動車業界はそうしたシステムが安全かつセキュアであることを求めている」と述べ、それを実現する完全なソリューションを提供できるのは現状QNXだけだとアピールした。
ルネサス、デルファイ、Intel、フォードなどと取り組んでいる「QNXハイパーバイザー」のデモを公開
BlackBerry Technology Solutionsのカリミ氏は日本向けの戦略として、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの時期に日本の顧客やパートナーとエコシステムを構築して提供していくとした。その具体的な例として、富士ソフトと日立産業制御ソリューションズが、BlackBerryのVAI(Value-Added Integrator)プログラムに参加したことを明らかにした。VAIプログラムではQNXなどのエンジニアをBlackBerryと協力して育成し、QNXを利用した製品を顧客などに提供していくことになる。
また、QNXでは日本のルネサスエレクトロニクスと協力して自動運転車の開発を進めており、ルネサスの「R-CAR」とQNXを利用した自動運転車両の開発プログラム「Project Skyline」を使い、2017年のCESでデモ走行を行なっている。現在、2018年のCESに向けて新型を開発しており、次のCESで公開される見とおしだという。このほかにも、米フォードとの取り組み、さらには米国のティアワン部品メーカーのデルファイ、Intel/Mobileyeとの自動運転車の試作(別記事「Intel、米国カリフォルニア州サンノゼで自動運転車のテスト走行を公開」参照)や、カナダのオタワで進める公道における実証実験などの取り組みを紹介した。
記者説明会の終了後には、ジャガーの車両にQNXを組み込んだ試作プラットフォームが公開された。試作プラットフォームは、IntelのAtomプロセッサ(開発コードネーム:Apollo Lake)が使われており、その上でQNXのハイパーバイザーが動き、さらにゲストOSとしてメータークラスターとIVI(車載情報システム)が動いているという環境になる。
現在はそれぞれにSoCが1つ必要になっているが、QNXのハイパーバイザーを活用することで、1つのSoCでメーターのような機能安全を必要とする部分を安定して動かしながら、IVIを動かすことも可能になる。デモではIVIだけをリブート(再起動)しても、メーターはちゃんと動き続ける様子などが公開された。
【お詫びと訂正】記事初出時、カリミ氏のお名前を誤って表記している部分がありました。お詫びして訂正させていただきます。