エヴァンゲリオンレーシング、第3戦セパンは5位
チャンピオンを狙える位置を確保


 6月10日、2012 AUTOBACS SUPER GT第3戦「SUPER GT INTERNATIONAL SERIES MALAYSIA」の決勝レースがマレーシア、セパンサーキットで開催された。今回はCar Watchの読者に人気の高い、エヴァンゲリオンレーシングの各セッションの詳細をお届けする。

 6月セパン、7月SUGO、8月鈴鹿と続く夏の3連戦は暑さとの戦いとなるが、過去に優勝したことのある得意なサーキットでもある。前回の第2戦富士で2位を獲得、ポイントランキングも3位と好位置につけ、ここセパンからの3連戦で上位入賞をすればシリーズチャンピオンを争うことが可能となる。

 セパンサーキットはバックストレートとメインストレートが印象的なコースレイアウトだが、それ以外は中高速コーナーが多く、コーナーリング性能に優れた2号車 エヴァンゲリオンRT初号機PETRONAS紫電が得意とするサーキットだ。

 赤道直下に位置し高温多湿、スコールに見舞われる可能性もあり波乱のレースとなることもある。スタート時刻は16時(日本時間17時)と普段より遅めなので、スタート後は徐々に気温、路面温度も下がるのはやや救いと言えよう。

セパンサーキットで練習走行が始まった

6月9日 練習走行、予選
 決勝前日は薄曇り。練習走行の開始直後にポツリポツリと雨が落ちたが、路面を濡らすほどではなくタイムにも影響はなかった。まずは加藤選手からコースイン。セッティングを変えながら2分6秒035のラップタイムをマーク。5番手のタイムを出し高橋選手に交代した。

 高橋選手は2分12秒台から11秒台までラップタイムを短縮するが、ここからタイムが伸び悩みピットイン。加藤選手とデータを重ねるなどしウイークポイントを確認。再度コースインをすると2分10秒台をマーク。2分10秒05まで短縮したところでセッション終了となった。

 午後の予選は前回の富士と同様スーパーラップ方式。予選Q1で10位以内に入ったマシンがスーパーラップに進出。1台ずつタイムアタックを行いスタートグリッドを決める方式だ。Q1とスーパーラップは同じドライバーが走ることはできないので、加藤選手がQ1で10位以内を確保し、高橋選手がスーパーラップで1つでも順位を上げられればという作戦だ。

 今シーズンのルールではQ1で敗退した場合はQ1で使用したタイヤで決勝レースをスタート。スーパーラップに進出した場合はQ1で使用したタイヤかスーパーラップで使用したタイヤを大会事務局が抽選で決め決勝で履くことになっている。

 余談となるが、F1でもQ3に進出した場合そのタイヤで決勝レースをスタートするルールとなっていて、最近は予選で使用したタイヤで決勝スタートというのが1つの流れとなっているが、筆者は個人的にこの方式は変更してほしいと思っている。

 決勝で勝つためにタイヤを温存しまったく走らない、あるいはそれ以上のタイムアップよりもタイヤ温存を優先し早々にピットに戻るケースが多い。テレビで見ているとそれほど気にならないが、サーキットにいると「おいおい、走らないのかよ」と思うことがしばしばある。

 F1がクオリファイ専用タイヤで予選を走った頃とは時代が違うとは思うが、サーキットに観戦に来たファンの前を1周でも多くマシンが走るルールを考えてほしいと思っている。

 予選Q1、加藤選手は皮むきだけしたNEWタイヤでコースイン。2周タイヤを暖め3周目にタイムアタック。2分5秒515をマークし2番手。そのままもう1周アタックするが2分5秒739とタイムは上がらなかったが、スーパーラップ進出は確実と判断しタイヤ温存を考えピットインした。

 Q1を2位で通過したためスーパーラップは10台中9番目でタイムアタックを行う。スーパーラップで高橋選手が履くタイヤは午前中のセッションで数ラップしたユーズドタイヤのためグリップのピークは過ぎている。高橋選手のラップタイムは2分9秒080とこの日のベストラップを出すが、他のマシンもミスなく予選を走行したので10位にとどまった。決勝で使用するタイヤは加藤選手がQ1で使用したラップ数の少ないタイヤとなり、決勝への期待は高まった。

予選Q1を走る加藤選手スーパーラップを走る高橋選手

ピットウォーク
 マレーシアでもエヴァンゲリオンレーシングのレースクイーンは大人気だ。土曜日のピットウォークは日本から来たファンが目立ったが、日曜日のピットウォークはレーススタートが遅いこともある12時から14時まで2時間もあり、現地のファンも大勢集まった。

 GT300のチームはレースクイーンが参加していないチームも多い中、エヴァンゲリオンレーシングは綾波レイ役の水谷望愛さん、アスカ役の千葉悠凪さんが参加した。

今回は2人のレースクイーンが参加

6月10日 決勝
 国内でも行われているサーキットサファリだが、マレーシアでもその人気は高く、今年は決勝日の午前中にサーキットサファリ、フリー走行、サーキットサファリとバスの乗客を乗せ替えて2度のサーキットサファリが開催された。

 決勝日の午前中の走行は、当然決勝レースのシミュレーションとなる。ガソリン満タンで走り、ピット作業ではタイヤ交換もドライバー交代も短時間で行う。満タン走行のラップタイムは2分7秒235で3番手。午後の決勝に向け準備は整いつつあった。

 ところが高橋選手に交代した直後にアクシデントが発生した。コースを3分の1くらい走ったところで右リアタイヤが外れストップ。赤旗中断の原因を作ってしまった。幸いマシンの足回りにはダメージはなかったが、現地マーシャルがマシンの屋根を使ってつり上げようとしたため、ドア上部の屋根部分にクラックが入ってしまった。

 それも大事にはいたらず、決勝スタートの4時までは時間もたっぷりあったので、マシンの修復を済ませ、いよいよ決勝レースのスタートを迎えた。

 開幕戦の岡山では数年振りに高橋選手がファーストスティントを担当、第2戦の富士では加藤選手、高橋選手、加藤選手とつないだ。今回のセパンは加藤選手でスタートしおよそ3分の2を走り残りを高橋選手という通常どおりの作戦を採った。

フォーメーションラップが2周行われた

 フォーメーションラップが2周行われ、決勝レースは54周から53周に減算されスタートが切られた。10番グリッドからスタートした加藤選手は1コーナーの混乱を予想して慎重にコーナーへ進入。

 ポールポジションの33号車 HANKOOK PORSCHE(影山正美)はトップをキープするが、予選3位からスタートした911号車 エンドレス TAISAN 911(横溝直輝)が1コーナーで単独スピン。コースの真ん中に横向きに停止した。加藤選手は接触を避けイン側をすり抜ける。アウト側に逃げた0号車 GSR 初音ミク BMW(片岡龍也)、4号車 GSR ProjectMirai BMW(番場琢)が順位を落とした。

 0号車 GSR 初音ミク BMWとは4コーナーまで競り合いとなるが、加藤選手が競り勝ち1周目を7位で通過した。トップの33号車 HANKOOK PORSCHEは独走態勢となったが、加藤選手の前には4位、5位、6位が団子状態。


スタート直後の混乱で遅れた0号車と4コーナーでバトルとなる2周目の4コーナーを7位で通過

 7周目に3号車 S Road NDDP GT-R(千代勝正)、8周目に31号車 apr HASEPRO PRIUS GT(新田守男)、10周目には52号車 GREEN TEC & LEON SLS(黒澤治樹)を抜き4位まで浮上、団子状態から抜け出した。

3号車を抜き、52号車に迫る52号車を抜き4位浮上

 この時点で3位の87号車 JLOC ランボルギーニ GT3(山西康司)との差は3.9秒。前が開けた加藤選手はトップの33号車 HANKOOK PORSCHEを上回るラップタイムで快走。87号車 JLOC ランボルギーニ GT3との差を11周目に2.9秒、12周目に1.9秒、13周目に1.3秒、14周目には0.6秒と縮めテール・トゥ・ノーズの争いに持ち込んだ。

87号車との差は大きかったが……すぐに追い付き攻め立てるが抜くことができない

 トップ独走の33号車 HANKOOK PORSCHEとの差も10周目の14秒から14周目には11秒に縮め、さらなる追い上げを図りたいところだが、87号車 JLOC ランボルギーニ GT3を抜くことができない。結局24周目に87号車 JLOC ランボルギーニ GT3がピットインするまで前を塞がれ、トップとの差も15秒まで開いてしまった。

 前半のタイム差をグラフにしてみた。トップの33号車 HANKOOK PORSCHEと上位陣のタイム差を見ると、加藤選手は7周目に3号車 S Road NDDP GT-R、10周目に52号車 GREEN TEC & LEON SLSを抜き団子状態を抜け出すまでペースが遅くトップとの差が14秒まで開く。

 前がいなくなってから14周目に87号車 JLOC ランボルギーニ GT3に追い付くまでの間はトップとの差も縮める快走を見せるが、87号車 JLOC ランボルギーニ GT3を抜くことができず24周目までそのペースに付き合わされトップとの差も開いていくことが分かる。

上位陣がピットインし見かけ上のトップへ

 25周目にはトップの33号車 HANKOOK PORSCHEと2位の88号車 マネパ ランボルギーニ GT3(織戸学)がピットイン。加藤選手は見かけ上のトップに立った。2位の88号車 マネパ ランボルギーニ GT3と3位の87号車 JLOC ランボルギーニ GT3はピットイン後にトラブルが発生し戦線から離脱した。

 加藤選手のラップタイムを見ると、団子状態を抜け出す10周目までは2分10秒から11秒台、前が開けた14周目までは2分10秒台前半から9秒台後半、87号車 JLOC ランボルギーニ GT3に詰まってからは2分10秒から11秒台へと落ちている。

 トップに立った加藤選手は再び2分9秒台にラップタイムを上げ快走。32周目にピットに入り高橋選手にドライバー交代を行った。燃費性能の高い2号車 エヴァンゲリオンRT初号機PETRONAS紫電は給油時間が15秒と短く、FIA-GT勢に対し10秒ほどのアドバンテージがある。

 各車の給油時間だけの比較はできないが、ピットインする周のラップタイム(インラップ)、ピットアウトした周のラップタイム(アウトラップ)の合計タイムを比較するとその差はハッキリと出ている。

マシンラップタイム計タイム差
0号車 GSR 初音ミク BMW(谷口信輝/片岡龍也)05:18.9-14.8
2号車 エヴァンゲリオンRT初号機PETRONAS紫電05:33.6
33号車 HANKOOK PORSCHE(影山正美/藤井誠暢)05:41.88.1
3号車 S Road NDDP GT-R(関口雄飛/千代勝正)05:44.911.3
911号車 エンドレス TAISAN 911(峰尾恭輔/横溝直輝)05:45.812.2
52号車 GREEN TEC & LEON SLS(竹内浩典/黒澤治樹)05:52.619.0
66号車 triple a Vantage GT3(吉本大樹/星野一樹)05:56.622.9

 0号車 GSR 初音ミク BMWはタイヤ無交換作戦を採ったため2号車 エヴァンゲリオンRT初号機PETRONAS紫電よりも15秒近くピット時間が短いが、他の上位陣よりは10秒から20秒のアドバンテージがある。

 高橋一穂選手がコースに戻った段階の順位はトップの33号車 HANKOOK PORSCHE(藤井誠暢)が13.6秒差前。0.6秒後ろに3位の0号車 GSR 初音ミク BMW(谷口信輝)、12秒差で4位の911号車 エンドレス TAISAN 911(峰尾恭輔)、14秒差で5位の3号車 S Road NDDP GT-R(関口雄飛)、27秒差で6位の66号車 triple a Vantage GT3(吉本大樹)となった。

 前戦の富士では中盤に快走を見せた高橋選手だがこの日は苦戦。土曜日の練習走行では2分10秒台、スーパーラップでは2分9秒台のラップタイムだったが、決勝の後半スティントはアウトラップ後の34周目に2分14秒台、その後も12秒台、14秒台が続き、39周目にやっと2分10秒台までタイムを上げることができた。

 上位陣のラップタイムはトップ独走の33号車 HANKOOK PORSCHEは2分10秒台、0号車 GSR 初音ミク BMWはタイヤ温存、燃費セーブの走行で2分11秒前後、僅差で争う911号車 エンドレス TAISAN 911と3号車 S Road NDDP GT-Rは2分10秒前後、ミッショントラブルで2速が使えない66号車 triple a Vantage GT3は何故か2分8秒から9秒で猛烈な追い上げを見せていた。

 ラップタイムが上がらない高橋選手はアウトラッブを終えた34周目の4コーナーで0号車 GSR 初音ミク BMWに抜かれ3位。37周目には911号車 エンドレス TAISAN 911と3号車 S Road NDDP GT-Rにまとめて抜かれ5位。ラップタイムを2分10秒台まで上げるが、42周目には2分8秒台で怒濤の追い上げを見せた66号車 triple a Vantage GT3にも抜かれ6位に後退してしまった。

アウトラップで0号車が背後に迫る911号車、3号車の3位のかなり後方を走る高橋選手66号車はかなり後方にいたが怒濤の走りで追い付いてきた
最終ラップ、後続との差を保ち5位でフィニッシュ

 このままフィニッシュかと思われたが、最終ラップに0号車 GSR 初音ミク BMWがガス欠で止まったため1つポジションが上がり5位でゴール。6ポイントを獲得した。序盤に遅いマシンに引っかかりタイムを上げられなかったことや、後半やや失速したことなどはあるが、貴重は6ポイントを獲得し、ドライバーズポイントは5位。トップとは8ポイント差に付けている。

 終盤の33号車 HANKOOK PORSCHEと上位陣のタイム差をグラフで見てみると、33周目から38周目までタイムが上がらない様子やその後少し持ち直す様子がうかがえる。また、0号車 GSR 初音ミク BMWがギリギリまでペースを落として2位狙いの戦略を取っていることや、66号車 triple a Vantage GT3が怒濤の追い上げを見せ表彰台を獲得した様子も見て取れる。


 最終ラップに止まった0号車 GSR 初音ミク BMWも含め2位から4位のマシンがトップから25秒差でゴールしたことをみると、それより少し前、20秒差でゴールできれば2位表彰台が確保できたことになる。レースが終わった後で、たらればの話しをしても意味はないが、違う戦略を採ったらどうなったかを考えてみた。

 レース前には911号車 エンドレス TAISAN 911がスピンしたり、88号車 マネパ ランボルギーニ GT3と3位の87号車 JLOC ランボルギーニ GT3がトラブルで脱落したりすることや0号車 GSR 初音ミク BMWがガス欠で止まったりすることが分かっているわけではない。

 あくまで仮定として、開幕戦の岡山と同じく高橋選手がスタートドライバーを務めた場合を考えてみよう。今回のレースで高橋選手はピットアウト後の冷えたタイヤでタイムが思うように上がらなかった。幸いフォーメーションラップは2周。加えてスタート時の路面温度は50度を超えていた。

 スタート直後の混乱を抜け、4コーナーでは0号車 GSR 初音ミク BMWに抜かれ8位に後退。その後も2分12秒台のタイムで走り、後方から追い上げる66号車 triple a Vantage GT3や911号車 エンドレス TAISAN 911に抜かれ徐々に順位を落とす。

 12位まで後退したとすると、その後方は岡山で高橋選手が延々とバトルを続けた4号車 GSR ProjectMirai BMW(番場琢)だ。4号車 GSR ProjectMirai BMWのラップタイムは2分11秒から12秒。岡山よりはセパンはマシン性能にアドバンテージがあるので、抜かれることなく15周目にピットインを行う。15周目の4号車 GSR ProjectMirai BMWとトップ33号車 HANKOOK PORSCHEとの差は30秒弱。その少し前で最初にピットに入り加藤選手が新品タイヤを履き、やや路面温度の下がった後半のスティントを担当する。

 インラップ、アウトラッブの2周で5分34秒。通常のラップより1分14秒ほど掛かるが周回遅れにはならない。ここから加藤選手が空いた空間を33号車 HANKOOK PORSCHEと同等のラップタイムで走れば、25周目に33号車 HANKOOK PORSCHEがピットインしコースに復帰したときには8秒ほど戻せるので20秒程度の差となるはずだ。

 20秒差なら2位の0号車 GSR 初音ミク BMWの後ろ、3位のポジションとなる。5秒ほど後ろに911号車 エンドレス TAISAN 911だ。このまま加藤選手がトップと同じラップタイムを最後まで刻めば、燃費走行でタイムを上げられない0号車 GSR 初音ミク BMWを抜き2位に浮上、できたかもしれない。

 この仮定をグラフにしてみた。序盤は徐々に順位を落とし15周目にピットイン。26周目には20秒差の3位。そのままペースを維持し2位フィニッシュとなっている。各車の戦略、ラップタイム、トラブルが分かった上でのシミュレーションに大した意味はないが、可能性としては戦略で表彰台が確保できたかもしれない。

 次戦は7月29日にスポーツランドSUGO(宮城県)で第4戦 SUGO GT 300km RACEが開催される。SUGOも得意とするサーキットなので上位入賞を期待したい。

(奥川浩彦)
2012年 6月 25日