TEAM 無限、ツインリンクもてぎで「MUGEN CR-Z GT」発表会
SUPER GT第4戦から参戦。「早期に1勝を目指したい」とチーム代表の安井氏

MUGEN CR-Z GTと武藤英紀選手(左)、中嶋大祐選手

2012年7月4日発表



 M-TEC(無限)は7月4日、栃木県茂木町にあるツインリンクもてぎにおいて記者会見を開催し、同社が開発を続けてきたハイブリッドレーシングカー「MUGEN CR-Z GT」を公開。7月28日、29日に宮城県のスポーツランド菅生で行われる予定のSUPER GT第4戦「SUGO GT 300km RACE」から参戦することを明らかにした。

 M-TECのブランドである無限をチーム名に冠した「TEAM 無限」として参戦するMUGEN CR-Z GT(カーナンバー:16)は、V型6気筒2.8リッターツインターボエンジンをミッドシップにレイアウトし、ザイテック製のレーシング用エネルギー回生システムを搭載したハイブリッドレーシングカーとなる。ドライバーはすでに発表されていた武藤英紀選手に加え、中嶋大祐選手が起用されることが発表されたほか、タイヤはGT300では2台目となるブリヂストンを採用し、強力なラインアップでGT300での1勝を目指すことになる。

トヨタ「プリウス」に対抗することになるMUGEN CR-Z GT
 日本で販売される自動車の売れ筋がハイブリッドに移行してからすでに久しいが、モータースポーツもようやくそのトレンドをキャッチアップしつつある。

 先日フランスで行われたル・マン24時間レースでは、トヨタ自動車「TS-030 Hybrid」とアウディ「R18 Etron クワトロ」によるハイブリッド車同士による戦いが大きな注目を集めた。また、ポルシェがハイブリッド車を擁してル・マン24時間に2014年から復帰することを明らかにしているなど、モータースポーツの世界でも世界規模でハイブリッドは大きな注目を集めつつある。

 日本でもそれは同様で、今年のSUPER GTにはトヨタ自動車「プリウス」をベースにJAF GT300規定車両として制作されたapr HASEPRO PRIUS GTがハイブリッド車として参戦しており、大きな注目を集めている。モータースポーツが自動車メーカーのマーケティング活動の一環という宿命を背負っている以上、世の中のトレンドがハイブリッドに向かっているなら、モータースポーツもそれを無視することはできないというのは当然の流れだろう。

 日本国内でトヨタとハイブリッド車の市場を2分していると言ってよいホンダも、無論この動向を無視できるわけがなく、トヨタがプリウスで参戦するのであれば、ホンダもそれに対抗するというのは当然の流れだろう。実際、今回の参戦もかなり急に決まった印象は否めない。通常であればきちんと準備して、シーズンの最初から参戦するというのが一般的な手順であるのに対し、今回のMUGEN CR-Z GTの参戦はシーズン半ばの第4戦からという、異例のスタートになっていることからもそれは分かるだろう。

 実際、TEAM 無限で監督を務める熊倉淳一氏は「2月にホンダの発表会があったときからレイアウト等の検討を始めて、すべての部品がそろって組み立てることができたのはシェイクダウン当日だった」と述べ、ギリギリのスケジュールで今回のプロジェクトが行われてきたことを明らかにしている。

 だが、たった4カ月でここまで来ることができたというのは、相当な驚きと言ってよいだろう。それだけレース運営を担う無限も、開発に協力しているホンダも、本気で取り組んでいるという証しだろう。ファンとしては国内の自動車メーカー2社が、ハイブリッド技術のレーシングカーへの応用で競争するという状況は、ル・マン24時間やWEC(世界耐久選手権)を除き、それを見ることができるのはSUPER GTだけということになるので、要注目と言えるだろう。

MUGEN CR-Z GTは2.8リッターV6エンジンにレーシングハイブリッドを組み合わせた、JAF-GT300規定のレーシングマシン

ザイテックと共同開発されたハイブリッドシステムを助手席に搭載
 今回発表されたMUGEN CR-Z GTの技術的なスペックは下記のようになっている。

車両規定JAF GT300
ボディーサイズ(全長/全幅/全高)4445/1940/1100mm以上
ホイールベース2555mm
車両重量1200kg以上
フレームパイプフレーム
パワートレイン2.8リッターV6ツインターボ+レーシングハイブリッド
エンジン形式J35A
エンジン出力221kW(300PS/5250rpm)以上
モーター出力32kW(最大50kW)
タイヤメーカーブリヂストン
タイヤサイズ(フロント/リア)330/40 R18

 現在、SUPER GTのGT300クラスは、JAF-GT300とFIA-GT3の混走というカテゴリーになっているが、今回のMUGEN CR-Z GTはJAF-GT300の規定に準じたマシンになる。シャシーはパイプフレームで作られており、その上にCR-Zのボディーをかぶせるという形で作られている。

 注目のパワートレーンだが、ホンダ製V型6気筒2.8リッターツインターボエンジンにレーシングハイブリッドを組み合わせる。発表会に同席したホンダ技術研究所 4輪R&Dセンター モータースポーツ開発室 主任研究員 Honda GT300プロジェクトリーダー 平沼英勇氏によれば、このV6エンジンは米国ホンダの研究開発部門であるHPD(ホンダパフォーマンスデベロップメント)が開発し、ル・マン24時間やアメリカルマンシリーズ(ALMS)に参戦するスポーツカーに対して供給しているエンジンがベースになっていると説明した。

2.8リッターV6ツインターボエンジンのJ35A助手席に搭載されているエネルギー回生システムのインバーターとバッテリー
ハイブリッドシステムの構造。助手席にインバーターとバッテリーを、後輪近くにモーターが搭載されているハイブリッドシステムにはホンダとザイテックのロゴが並んで貼られていた

 ハイブリッドシステムについては「ホンダとザイテックの共同開発」(平沼氏)と説明され、イギリスのレーシングコンストラクターであるザイテック(Zytek)が開発したレーシングハイブリッドシステムを元に、ホンダ側のニーズを組み入れて開発されたシステムであると説明した。

ピットにはザイテックのエンジニアが詰めており、ハイブリッドの稼働状況などをテレメタリーで確認していた

 ザイテックは、レーシングカー用のハイブリッドシステムを市販しており、フォーミュラ・ニッポンが導入に向けて評価を続けている「システムE」などもザイテックのシステムをベースに開発されたもの。レーシングカー用のハイブリッドシステムの開発では定評のあるレーシングカーコンストラクターだ。すでに述べたとおり、今回のMUGEN CR-Z GTの開発は非常に短期間で行われており、そうした中で最善の選択肢として、実績のあるザイテックが開発パートナーとして選ばれたということだろう。なお、発表会会場の試走に向けたピットでは、ザイテックの関係者がテレメトリーで状況をチェックする様子などが確認されている。

 平沼氏によれば、以前ホンダのGT500車両にハイブリッドシステムを組み込んだ時は、ザイテックのシステムをそのまま取り付けたものだったとのことだったが、今回のCR-Zに採用されたものは、ホンダ側で開発した技術を実際に部品として取り込んでもらい、共同で開発されたシステムであるとの説明が行われた。

 熊倉監督によれば、MUGEN CR-Z GTのハイブリッドシステムは、インバーターとバッテリーが助手席に搭載され、モーターがリアの駆動輪に取り付けられる形になっている。平沼氏によるとシステム全体の重量は60kgで、そのままでは車両重量へのインパクトがあると考えることができるが、「GT300に関してはリストリクター径での性能調整があり、現時点ではそれがどの程度になるか決まっていない。今後テストで性能などのデータを収集してGTAに提供し、それを元にGTAが決定するが、基本的にはプリウスと同じリストリクター径になると考えている」と述べ、リストリクター径による性能調整が行われるSUPER GTでは、ハイブリッドシステムの重量はハンデにはならないだろうとの見解を明らかにした。

TEAM 無限 安井一秀チーム代表TEAM 無限 熊倉淳一監督

ドライバーは武藤英紀、中嶋大祐の2名
 記者会見ではチーム代表の安井一秀氏(M-TEC)、チーム監督の熊倉氏(M-TEC)が紹介されたほか、ドライバーとして元インディカードライバーの武藤英紀選手、フォーミュラ・ニッポンドライバーの中嶋大祐選手の2名が紹介された。

 武藤選手は「非常に乗りやすい車だと好印象を得た。これからハイブリッドの調整などを行っていくことになるが、これからも実戦までに数回テストがあるので、その間に慣れたいと思っている。また、メカニックやチーム関係者、ホンダ関係者が時間がない中で、それこそ寝る時間を削って頑張っているので、その想いに応えたい。ファンの皆さんにも見守って欲しい」と述べ、新しいマシンに好感触をもっていると述べた。

 また、中嶋選手は「これまで箱車に乗る機会がほとんどなく、新しいチャレンジになる。(SUPER GTは)速度の違うクルマが混走しているので、そうした対処が課題になると思うが、精一杯頑張りたい」と述べ、初めての体験となるSUPER GTへのチャレンジに期待半分・不安半分という気持ちを語っていた。

 なお、タイヤはブリヂストンが供給する。ブリヂストンはGT500では最大勢力だが、GT300ではARTA Graiyaの1チームへの供給にとどまっており、MUGEN CR-Z GTへの供給で2チームになる。なお、供給タイヤはGraiya用とはサイズが異なるため、MUGEN CR-Z GT専用ということになりそうだ。それでも供給台数が2台になることで集積されるデータが増え、ブリヂストンにとっても意味があるだろう。

 チーム代表の安井氏は、「我々にとっての参戦の目的はハイブリッドという新しい技術の研究開発と人材育成。しかし、レースに参戦するからにはやはり優勝を目指していきたいが、SUPER GTはそんなに簡単なカテゴリーではないのも事実なので、早期に1勝を目指すということを実現していきたい」と参戦目標を説明した。

武藤英紀選手中嶋大祐選手

(笠原一輝)
2012年 7月 4日