【ナビレビュー】ケンウッド 彩速ナビ「MDV-737DT」
ストレスなしの操作感とYoutube再生など充実のスマートフォン連携機能搭載


彩速ナビ、MDV-737DT。一般的な2DINサイズのAVN機

 カーナビは毎年、春と秋に新製品の発表が行われるのが恒例となり、今シーズンも各メーカーから趣向を凝らしたモデルが世に送り出されている。ほとんどのメーカーはゴールデンウイーク明けに発表会などでお披露目を行うのが常となっているが、そんな中で独自のスタンスを採っているのがケンウッドだ。

 ここ数年、同社では年明けすぐの発表というスケジュールが定着しており、今年も1月の東京オートサロンに合わせ「MDV-737DT」と「MDV-535DT」の2機種がリリースされた。同機は「彩速ナビ」の愛称がつけられた2011年モデル「MDV-727DT」「MDV-626DT」の後継機という位置づけ。型番のアタマにある「M」が示すように、システムや地図データなどをSSDに収録した、いわゆるメモリータイプのナビゲーションだ。同社のメモリーナビとしては2010年に「MDV-313」がリリースされているので、都合3世代目となる。

パネルを開けるとCD/DVDスロットとSDカードスロット。B-CASカードはミニタイプパネルは下側が手前にスライドするだけでなく上側がスライドする逆チルトにも対応。取材車両のプジョー「3008」のように取り付け部が上を傾いているクルマでも見やすい設定が可能だ

ミドルクラスの位置づけながらフル装備のスペック
 MDV-737DTは2DINサイズにオーディオ、ビジュアル、カーナビ機能をまとめたいわゆるAVN機。モニターは7型のワイドVGA液晶で、高輝度ホワイトLEDバックライトの採用による鮮やかな表示を実現。地図データは16GBの内蔵SSD(うち8GBはオーディオ用)に収録されており、高速LSI&独自開発の「S3フォーマット」との組み合わせにより、キビキビした動作を実現。つまり「鮮やかな高画質」と「瞬間スクロール」で、この2つを合わせて「彩速ナビ」というワケだ。

 カーナビ関連の新機能としては新たに3Dジャイロを搭載。同時に全国主要道約140万個所の高低差データを収録することで、平面だけではなく立体的な自車位置精度を高めているのが特長だ。この点は据え置き型ならではのメリットで、スマートフォンやPND(Portable Navigation Device)にはマネのできないポイントといえる。

 もう1つの大きな特長となるのがiPhoneとの連携だ。最近の流れとしてスマートフォンとの連携が強化される傾向にあるけれど、スマートフォンで場所を調べて位置情報を送るといったシンプルな機能が標準的。だが、本機は一歩踏み込んでデンソーの「NaviCon(ナビコン)」アプリを利用することで位置情報の活用だけでなく、カーナビ本体のリモートコントロールやナビコン連携アプリの利用にも対応している。

 AV機能の面ではiPhone/iPod接続はもちろん、オリジナルアプリを利用することでAndroidでも快適な操作を実現しているのが新しい。接続用のUSBポートも2基用意されているので同時接続も可能だ(1ポートは、電源が強化された1Aタイプ)。そのほかフルセグ地デジやBluetoothレシーバー内蔵など、スペック的にはほぼフル装備といった内容になる。

 ちなみに、ベーシックモデルのMDV-535DTでは、内蔵SSDが16GBから8GBとなるほか、USBが2ポートから1ポートに、Bluetoothレシーバーが未装着となるなど差別化が図られている。

SDカードは本体で再生した音楽データの記録が可能なほか、地点データの持ち運びや地図更新などでも利用するUSBポートが2つ用意されているため、iPhoneとAndroidを同時に接続することが可能。片方は1A供給できるので多くのスマートフォンの充電もOK。さらに4ポートハブを使って拡張も可能で、理論上は最大8台接続可能

強力なスマートフォン連携機能
 本機の場合、もっとも注目したいのがiPhoneとの連携だ。前述したように最近ではスマホ連携をうたうナビが多いが、本機は一歩進んだ印象を受ける。必要となるのはデンソーがリリースする「NaviCon」という無料アプリ。とにかく便利なのがナビコンを立ち上げておけば、リモートで操作できる点。

 いちいち手を伸ばしてナビの画面を触らなくても済むのはもちろん、例えば地図の縮小・拡大がピンチイン・ピンチアウトでできてしまう。iPhoneを含めスマホに慣れていると、ついナビでもフリック操作してしまってアレ? なんてことがあるけれど、iPhone側で操作できるのだからまったく問題なし。もちろん、検索した目的地などの転送もワンタッチでOKだから、ナビのデータには入っていない目的地でも簡単に設定することができる。

 このリモートコントロールは走行中でも可能だから、助手席の彼女(とか友人)に目的地の検索や設定を頼むことができるのも便利。ナビだと各社独自の作法みたいなものがあるため「操作が分からない~」なんて場合でも、iPhoneなら使い慣れている人が多いハズだ。

 また、ナビコンとの連携をうたっているアプリ、たとえば「ことりっぷ」などを利用して、目的地の検索や設定も可能。ナビに収録されている情報はどうしても鮮度が古くなってしまうため、こうした情報を手軽かつスマートに活用できるのは相当に便利といえる。自分が利用してるキャリアにはiPhoneがない、なんて場合はiPod touch(第4世代)+WiFiという手もある。

iPhoneと連携する上で重要な役割を果たすのがデンソー製アプリ「NaviCon」ナビコンで表示される地図をスクロールしたりピンチイン/アウトすると、ナビ本体の地図もそれに合わせて変化。この感覚は新鮮だもっと便利に使うことを可能にするのがナビコン連携アプリ。数多くリリースされているが、今回は昭文社の「ことりっぷ」を使ってみた
ガイドの中から行きたい施設を見つけたら「転送」をタップ転送先にナビコンを選ぶだけでOK
自動的に目的地設定が行われる後はナビ上でルートを選んで案内を開始すればよい。ナビにデータが収録されていない施設でも、いちいち住所や電話番号をメモって入力する手間いらずで、とってもカンタンでスピーディ

必要十分な機能と気持ちのよい操作感
 基本のナビ機能はといえば、ごくごく標準的といった印象。地図は道路を重視した表現で、道幅の反映や色分けなどによりスッキリと見やすい仕上がり。新たに採用された100mスケールでの一方通行表示や、最小10mスケールの市街地図が全国1334都市に用意されているのも実用的でうれしい。個人的には施設名に半角カナが使われているのが気になるけれど、まぁこれは好き好きといったところか。

 目的地検索は住所約3800万件、電話番号が訪問宅とタウンページ合わせて約3530万件と十分なデータを収録するほか、名称や周辺、SDカードからの地点データ読み込みなどに対応。さらにMAPPLEガイドデータによる全国の観光スポット情報を約7万件収録しているが、ローカルで使える強みはあるもののiPhoneが使えることを考えると、あまり大きなメリットとはいえないかも。

 ルート探索は「推奨」をメインに「距離」「高速」「一般」「高速/距離」の5ルートを同時に行う。いくつかのルートを設定してみた感じでは、ほぼ「推奨」にオマカセでOKな感じ。多くのコースを走ったわけではないので断言はできないものの、あまり狭い道路は使わない王道的なアルゴリズムに感じられた。その一方で、短距離では有料道路を使わないなんて細かさもあるので、そんな時は「高速」をチョイスすればいい。逆に「高速を使いたくない」なんて時は意識的に「一般」を使えばいいワケだ。

操作は本体下部中央の「AV」「現在地」「メニュー」キーで行う。AVソースの切り替えが一番手前の「SRC」なのは初見だと分かりづらい「メニュー」ボタンを押すと目的地検索メニューに。上のタブでルート編集や設定などのメニューに行くこともできる
もっとも基本となる100mスケール表示。道路と建物が強調されているため見やすい仕上がり。このスケールで一方通行表示があるのも実用的だ画面下のサブメニューは消すことが可能
サブメニュー左端のボタンでAV機能との2画面表示が可能。地デジは画面上の左右をタップすることでチャンネル切り替えができる真ん中のボタンはエコモードとの2画面表示。「メモ」ボタンでは地点登録をワンタッチで行える
緑色の「ECOメニュー」ボタンを押すことで、より詳細な各種データが参照可能。エコドライブ実践のサポートをしてくれる
左下のクイックメニューはいわゆるショートカット。カスタマイズが可能なボタンが6個用意されているため、使用頻度の高いものをセットしておくと便利

 スポット情報はiPhoneで補完できるからいいとして、地図の鮮度に関してはどうするか。当然、地図更新のメニューも用意されているが、「MapFan」アプリ(月額315円)を1年以上継続利用&「KENWOOD MapFan Club」に登録することでなんと無料になる。要は3780円で更新可能というわけ。もちろん、その間はMapFanの「渋滞情報」や「駐車場満空」といったコンテンツが利用できるため、実質的にはもっと低価格と考えていいだろう。また、このメジャー更新以外に新規開通道路情報も収録されている。こちらはアップデートキーをホームページからダウンロード、SDカードを介してナビにインストールするだけで対応できる。ナビの発売または地図のリリースから1年以内に限られてしまうが、無料で行えるのはユーザーにとっては嬉しい限りだろう。

 以上のように、ナビの基本機能としては必要十分といった感じだけれど、使っていて気持ちよいのは何よりその操作感。こちらのアクションに対してすぐに反応してくれるのは、このナビ最大の美点といえる。ナビを使っていて以外とイライラするのは、目的地の検索やルート探索ではなく、地図の縮尺変更やスクロールでの待ち時間。本機はこれがホントに速いため、ストレスを感じることがまったくといっていいほどないのだ。

市街地図は10m/25m/50mの3スケール。全国1334都市で表示可能
200mスケール以上の地図表示。1kmより上のスケールは常用することはないと思うが、切り替えが速いため長距離をスクロールしたいなんて場合には有効活用できそう
3Dタイプの表示も用意されている3D表示では画面の矢印をタップすることで回転もできる。これもスピーディで気持ちよい感じ
ノースアップ。地図モードの切り替えは左上のコンパスボタンで行える「渋滞ぬけみちデータ」も収録。地図上では紫色で表示される
名称検索でスカイツリーを検索してみた。入力時は自動的に候補が絞り込まれるため、すべてを入力する必要はない検索結果が2件だったため必要ないが、候補が多い時はエリアやジャンルでさらなる絞り込みが可能目的の施設を選択すれば地図とともにメニューが表示される
ここで周辺検索から駐車場を選べば、施設付近の駐車場を目的地にできる周辺検索は駐車場以外にも多彩なジャンルで可能QRコードを利用すれば目的地の地点情報を携帯電話に転送できる。クルマを駐車した場所が目的地から遠い、なんて時に便利だ
電話番号検索の例。カーナビとしてはごく一般的な手順だ
MDV-737DTのみ観光ガイドを収録。約7万件と情報が豊富で、通信を利用しないためどこでも使えるのがメリット
ルート探索はデフォルトでは「推奨」で行われる右下の5ルートボタンを押すことで距離、一般、高速、高速/距離の最大5ルートを探索。このときばかりは瞬時とはいかず、結果表示までちょっと時間が掛かる新東名高速道路の探索にも対応。ただし、現状では料金表示には未対応となっている

ルート案内
 一般道でのルート案内は左側にサブ画面を表示する2画面表示が中心。案内のメインとなるのは交差点拡大図で、交差点付近を市街地図レベルまで拡大し、ランドマークや距離を示すバー表示を加えたもの。ハデさはないものの実用面では十分で、細街路でもキチンと表示されるのはありがたい。交差点拡大図のほか、方面案内看板やイラストによる交差点案内も用意されている。細かい部分だが、それらの示すポイントがメイン画面側の地図にアイコン表示されているのも実用的。慣れない場所を走っていると、せっかくこれらの案内が表示されても「これ、どこのこと?」って悩む場面が意外と多いのだ。

 一方、メイン画面側には交差点名をはじめ推奨走行レーンや次の分岐での進行方向を示す矢印が表示されるなど、情報量も文句ナシだ。

 新搭載となった3Dジャイロ&道路高低差データに関しては、今回のテストでは100%判別とまではいかなかった。もっとも、走行距離が短かくポイントが限られたことに加え、テスト車両(プジョー3008)のコンソール形状が極端に傾斜していることも影響がありそう。というのも、地下駐車場を使った平面のテストでは、ほぼ完璧といえる動作を見せていたため。ジャイロそのものの精度はかなり高そうに感じられるからだ。

一般道の分岐では左側にサブ画面として交差点拡大図を表示細街路でも拡大図を表示してくれるため、複雑な場所や一方通行が込み入った道路などでも安心
メイン画面側には上部に次、その次の交差点で曲がる方向を表示。その下には推奨走行レーン表示も行われるため安心して走行できる方面案内看板も用意。メインの地図上に小さなアイコンが用意され、表示位置が示されているのが分かりやすい方面案内看板、拡大図と続けて表示されると分かりづらいが、これならどこにあった表示なのかが一目瞭然だ
目印となる建築物はアイコンタイプで大きく表示される。初めて走る道路では結構役に立つ高速/都市高速では左側にICやJCTなどを2画面で表示できる。距離や通過予定時刻が分かるのも便利左側のサブ画面は消すことも可能
サブ画面のSA/PAをタップすると詳細情報を見ることができる。観光ガイドも用意されている
分岐点はイラストによる分かりやすい表示。右は夜モード
GPS衛星の電波を受信できない地下駐車場での精度チェック。中をぐるぐると回ってから出口に向かったが自車位置は完璧。精度はかなり高そうだ
iPhone再生時の画面。アルバムアートの表示に対応するほか、シークバーでのサーチもできる。iPhoneの操作はナビ側、iPhone側のどちらでも選択可能

多彩なソースに対応するAV機能
 フルセグ地デジをはじめDVDビデオ、Bluetooth、SDカードやUSBメモリー、そしてiPhoneおよびAndroidにも対応と、これ以上望みようがないフルスペック状態。とくにiPhone接続では音楽だけにとどまらずYouTubeの動画再生も実現。もう、メディアでデータを持ち運ぶなんて面倒なことは必要ないのだ。

 Androidでは、同社オリジナルアプリ「KENWOOD Music Control」をインストールすることで、プレイリストやアーティスト、アルバムといった項目による選曲/再生が可能になるほか、サビの部分だけを再生したり曲調タイプ別に選曲したり、なんて機能も使えるようになる。


「SRC」ボタンを押すとソースの選択が可能iPhoneを接続し「External Mode」にすることでYouTubeをナビ画面上で見ることができる。アスペクト比の変更も可能だ
Android接続時はUSBとして認識。普通なら単なるマスストレージとしての扱いになるが、専用アプリをインストールすることでiPhoneのような多彩な楽曲管理やアートワーク表示が可能
サウンドの設定機能も豊富に用意。クルマに合わせた簡単な設定はもちろん、好みやスピーカーに合わせたコダワリのセッティングもできる
地デジはフルセグタイプ。4チューナー×4アンテナなので感度も上々だ

オプションのバックカメラ「CMOS-310」

据え置きナビならではのオプションもアリ
 ミニバンなど背の高いくるまでは必須といえるバックカメラは、5つのビューモードを持つ「マルチビューカメラ CMOS-310」を用意。タッチパネル上の切り替えボタンを押すだけで、通常映像のほか俯瞰やコーナービューなどを選ぶことができる。当然、俯瞰などの表示は映像処理による擬似的なものとなるけれど、クルマの運転が苦手な人ほど強い味方になってくれるハズ。

 必要に応じて光・電波ビーコンユニットやETC車載器も装着可能。オプションによる拡張性の高さは、スマホやPNDにはないメリットといえる。

画角190度の「スーパーワイドビュー」のほか「ワイドビュー」「俯瞰ビュー」「PinPビュー」「カーナービュー」の5つのモードを用意。画面上の「ビュー」ボタンを押すだけで切り替えられる
デンソー製ETC車載器「DIU-5310」との連動に対応。履歴表示も可能光・電波ビーコンユニット「VF-M99」の接続もできる。渋滞情報や時間考慮探索、位置補正などが可能になるため、都市部を走る機会が多いなら欲しいオプション

iPhone使いには最強のパートナーかも!?
 価格的に見ればMDV-737DTは決してハイエンドではなく、ミドルからベーシックに位置するモデル。細かく見れば地図の表示モードが少ないなど、簡素化されている部分があるものの、機能的に劣っている部分はほとんどないといえる。

 逆に操作の快適さはトップクラスといえる仕上がりだし、iPhone連携に関しては最強レベル。スマートフォンに慣れた人ほど、その使い勝手のよさに満足できるはず。個人的に残念なのが、iPhoneの接続ケーブルがオプション扱いとなっている点。iPhoneナシでも使えるとはいえ、接続してこそ本領発揮ということを考えると、標準添付として欲しいところ。

 総合的に見れば使い勝手のよいナビ機能に、充実したAV機能、そして抜群のiPhone連携と3拍子揃ったモデルといえる。これだけの内容ながら実売価格はかなりお手頃なレベル。iPhoneを日常的に使っているなら、ぜひ使ってみてほしいナビだ。

(安田 剛)
2012年 7月 27日