エヴァンゲリオンレーシング、SUPER GT第4戦SUGOはリタイヤに


 7月29日、2012 AUTOBACS SUPER GT第4戦「SUGO GT 300km RACE」の決勝レースがスポーツランドSUGO(宮城県柴田郡村田町)で開催された。今回はCar Watchの読者に人気の高い、エヴァンゲリオンレーシングの各セッションの詳細とフォトギャラリーをお届けする。

 エヴァンゲリオンレーシングは第3戦を終えてドライバーズポイントトップと8点差の5位。上位4台はポルシェ、BMW、アウディなどFIA-GT勢で、戦力を考えると大健闘のシーズンとなっている。

 第4戦が行われるスポーツランドSUGOはコーナリング性能が問われるサーキットで、紫電は2年前に優勝している得意なサーキットだ。続く第5戦も得意な鈴鹿。加えて1000kmの長丁場のため、給油時間の短い2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電には有利な条件となっている。この2戦で好成績を挙げれば、シリーズチャンピオンの可能性が見えてくる。

練習走行を走る2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電

7月28日 練習走行、予選
 土曜日午前の練習走行はいつもどおり加藤選手からコースイン。予選用タイヤの皮むきなどを済ませ、基準のセッティングで1分24秒台のタイムを出す。24秒台は昨年ならトップタイムだが、上位陣はすでに23秒台と、ここSUGOでもFIA-GT勢の速さが目立つ。

 セッティングを詰め、加藤選手が再度タイムアタックを行うと一気に1分22秒919へ。33号車 HANKOOK PORSCHEの1分22秒774に次ぐ2番手タイムだ。加藤選手はNEWタイヤに交換し再度タイムアタック。1分22秒689をたたき出しトップに立った。その10秒後に33号車 HANKOOK PORSCHEが1分22秒603とタイム更新。2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電は2位に後退するが、手応えは充分ということで、残りの時間は高橋選手の走行に当てた。

 高橋選手は1分28秒台からスタートし、27秒、26秒後半と徐々にタイムを上げていく。10周を走行し一旦ピットイン。加藤選手のデータと比較してウイークポイントをチェックし再びコースイン。1分26秒前半までペースアップしたところで他車と接触。左リアのホイールが割れパンク、ピットへ戻ってきた。

 ホイールが割れるほどの接触だったので、足まわりのチェックが必要となり、残り20分の走行はキャンセル。徐々にタイムを上げていただけに少々悔やまれることとなった。

 今回の予選はスーパーラップ方式。いつもどおり加藤選手が予選1回目を走りスーパーラップ進出に必要な10位以内を確保。高橋選手がスーパーラップを走ることとなる。

 予選1回目。加藤選手は計測2周目に1分22秒612を出し2番手タイム。そのままラップを続け1分22秒162とSUGOのGT300クラスのコースレコードを更新。トップで予選1回目を通過した。

 スーパーラップは予選1回目を通過した10台が参加し、タイムの遅いマシンから1台ずつタイムアタックを行う。1位通過の2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電は当然最後に登場することとなる。

 前を走る9人のプロドライバーに対し、高橋選手の本業は実業家、いわゆるジェントルマンドライバーとして唯一スーパーラップを走行するドライバーだ。高橋選手のラップタイムは1分25秒089とこの日の自己ベストを出すが、残念ながら順位は最後尾の10位。決勝は10番手グリッドからスタートすることとなった。

予選1回目でコースレコードとなるトップタイムを記録スーパーラップは10位となった

ピットウォーク、キッズウォーク、グリッドウォーク
 毎年SUGOで開催されるSUPER GTは、鈴鹿8時間耐久ロードレース(通称:8耐)と同じ日に開催される。エヴァンゲリオンレーシングはSUPER GTに加え8耐にも参戦しているため、SUGOには高塚麻奈さんと采女華さんの2人のレースクイーンが登場した。高塚麻奈さんは金曜まで鈴鹿、空路仙台に移動し土曜にはSUGOに登場するハードスケジュールでファンの前に現れた。エヴァンゲリオンレーシングのレースクイーンの人気はいつもどおりで多くのファンがピットやグリッドに集まっていた。

高塚麻奈さん采女華さん
ピットウォークグリッドウォーク

7月29日 フリー走行、決勝
 日曜朝のフリー走行は高橋選手からコースイン。燃料満タンの重い状態だがタイムは1分25秒台とまずまずの滑り出し。この段階でスタートドライバーは決まっていなかったため、ピット作業のシミュレーションは高橋選手から加藤選手、加藤選手から高橋選手とどちらがスタートドライバーを務めても対応できるようにドライバー交代の練習も行った。加藤選手のタイムは1分23秒053とこの日も好調。高橋選手が再度コースインし計測3周目にアクシデントが発生した。

ラジエーターを芝生が塞いでしまった

 SPコーナーでコースアウトしグラベルを走行。ハンドリングにも異常はなくそのまま走行を続けるが、タイムが急速に落ち始めた。「エンジンパワーがない」と無線が入りピットイン。グラベルに出た際にエアインテークに芝生が詰まりラジエーターへの通風が止まりオーバーヒートを起こしてしまった。

 この時点ではエンジンブローはしていないが、決勝レース中にエンジントラブルが起こる可能性は否定できない。コースレコードを出すなど好調なだけに不安の芽は摘み取っておきたい。とは言え決勝までは3時間、時間的にはギリギリの選択となる。絶対に間に合わない作業なら、このまま走る選択となるが、チーフメカの出した結論は「エンジンチェンジ」となった。

 全スタッフが動き出す。トランスポーターに積まれたスペアエンジンを準備するスタッフ、重整備をする為のジャッキ(ミニクレーン)、専用工具を用意するスタッフ……。

 1時間少々でエンジンを車体から分離したが、当然外す事より組み付ける方が時間が掛かる。レーススタートは14時だが、10番手のグリッドにマシンを並べるには13時13分のピットクローズまでにコースに出なければならない。時間との勝負だ。

 10時から開始された作業は12時過ぎには大雑把にエンジン、ミッションが組み付けられた。だが配管や配線などの細かな作業は時間も掛かるし、慎重度も増す。

 13時10分。各チームが、一斉にコースインする中、作業は続けられた。最後尾からピットスタートという選択をすれば45分以上の猶予は生まれるが、チームの「絶対、間に合わせる!!」の決意は固い。

 ギリギリのところでピット内でエンジン始動。水漏れ、オイル漏れ、異音もなく、特に問題なさそうだ。残り2分を切ったところで、「ドライバー乗って」の声とともに、既に準備をしていた加藤選手がコックピットに乗り込む。

 スタートタイヤ装着、ジャッキが降ろされエンジンカウルが被せられる。すでにほかのマシンはピットを後にし、ピットロードはグリッドに向かう各チームのクルーでごったがえしているが、2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電の甲高いエンジン音で皆が道を開ける。

 ピットを離れたのがクローズ30秒前、ピットロード出口まで10数秒要し、ギリギリセーフでコースインすることができた。思わずピット周辺から誰とはなく拍手が沸き起こった。

 ピット内は感動に包まれたが、決勝のレースはこれからだ。このグリッドまでの1周は、重要な1周である。加藤選手は水温、油温、油圧、燃圧を次々と読み上げて来る。異常無し。グリッドで再びエンジンカウルを外しチェック。加藤選手からも「今の1周は問題ない」と伝えられ、“まずは”一段落。いよいよ決勝だ。

 14時、奇跡的なエンジン交換を済ませた2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電は10番グリッドからスタートした。GT500クラスのマシンが1コーナーでクラッシュしたため黄旗が振られ追い抜き禁止。加藤選手はオープニングラップで早々に9位の16号車 無限 CR-Z GT(武藤英紀)を抜きポジションアップした。2周目に66号車 triple a Vantage GT3(星野一樹)がクラッチトラブルのためスロー走行。労せずして8位となった。

10番手グリッドから無事スタート(Photo:Burner Images)16号車に続く10位で2コーナーを抜ける加藤選手9位に浮上した加藤選手

 序盤はトップの33号車 HANKOOK PORSCHE(影山正美)が集団を抑える展開となり、1位から9位までが数珠つなぎの状態となった。この隊列は9周目まで動かず、トップとの差も約5秒と大きく開いてはいない。

 10周目に入るとGT500クラスのマシンが入り混じり、6位3号車 S Road NDDP GT-R(千代勝正)と7位87号車 JLOC ランボルギーニ GT3(山西康司)の順位が入れ替わる。

 当面の目標が3号車 S Road NDDP GT-Rに変わり加藤選手が肉薄。各コーナーで詰め寄るもののストレートで離されるシーソーゲーム。ラップタイムは1分25~26秒と予想より遅い。

7位の87号車に迫る加藤選手87号車と3号車が順位を入れ替える3号車を追う加藤選手

 14周を終える最終コーナーからの上りストレートで、3号車 S Road NDDP GT-Rが87号車 JLOC ランボルギーニ GT3をオーバーテイク。これに加われない加藤選手は15周目の1コーナーで7位に後退した87号車 JLOC ランボルギーニ GT3に急接近。続く2コーナーで、鼻先をインにねじ込もうとするが果たせず、3コーナー立ち上がりでも喰らいつくが並ぶまでにはいたらない。

 続く4コーナーはヘアピン。87号車 JLOC ランボルギーニ GT3の右後方からヘアピンへのブレーキングで僅かに鼻先がインに入るが87号車 JLOC ランボルギーニ GT3がラインを締めブロック。加藤選手はブレーキをロックさせた。

 2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電の右フロントホイールと87号車 JLOC ランボルギーニ GT3の左リアが軽く接触。87号車 JLOC ランボルギーニ GT3はスピン、加藤選手はフルブレーキングで停止、再び走行を開始した。

 直後、加藤選手から「ハンドリングがおかしい」と無線が入り緊急ピットイン。ジャッキアップし、ピット前で点検するが外観的には右ホイールの損傷のみなので、タイヤ交換を行いピットアウトした。

87号車と接触。87号車は一旦グラベルへ。2号車はすぐにコース復帰するも……ピットインしタイヤ交換。コースインするがすぐにピットへ戻りリタイヤ

 しかしハンドリングの状態は変わらず、再度ピットイン。ガレージにマシンを入れ再チェックしても特に異常は見られない。最終コーナーなど横Gの大きな高速コーナーもあり、原因不明のままコースに戻すのはリスクが大きすぎる。既に2回のピットインでポイント獲得は難しくリタイヤを決断した。

 期待されたSUGOでノーポイントに終わり、ドライバーズポイントは6位に後退。トップとの差も14ポイントに広がった。間近に迫った第5戦の鈴鹿(8月18日~19日)は1000kmの長丁場。コーナリング性能と燃費性能に優れた2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電には優勝のチャンスがある。逆にここでポイントが稼げないとチャンピオン争いから脱落となる重要な1戦だ。

フォトギャラリー
 画像をクリックすると、フルHD解像度(1920×1080ピクセル)などで開くので、その迫力の写真を楽しんでほしい。また、拡大写真については、Tv(シャッター速度)、Av(絞り数値)などのEXIF情報を一部残してある。撮影時の参考にしていただければ幸いだ。

(奥川浩彦/Photo:奥川浩彦/報道専用レースフォトデータベース Burner Images)
2012年 8月 10日