【短期連載】「スポーツ&エコ・プログラム」でハイブリッド・スポーツ走行を学ぶ アドバンススクールから実戦へ! |
ハイブリッド・スポーツカーによる、まったく新しいスポーツドライビングの世界。それは、エネルギー効率を突き詰めながら、速く楽しく走るテクニックを身につけることで実現する。今年から開校した「Honda スポーツ&エコ・プログラム」は、そんな世界を体感できるドライビングスクールだ。
教習車には、レースに参加できる規定に則った改造を無限が施した「CR-Z」を使い、講師陣には第一線で活躍中のレーシングドライバーが揃う。サーキットを走れるようなクルマを持っていなくても参加でき、レーシングスーツやヘルメットなどの装備品もレンタルOKで、まったくの初心者から受け容れてくれるのが嬉しい。
今回の体験入学では、ベーシックスクール「Basic1」から、「Basic2」「Basic3」とステップアップして受講し、3日目のレッスンを終える頃には、国際サーキットであるツインリンクもてぎの本コースを先導走行付きで走れるようになり、サーキットでのマナーやルール、安全に楽しむためのコツなども教わることができた。
Basic3を終えてJAF国内B級ライセンスを取得した人には、次のステップとして「CR-Z Ecoチャレンジ」という競技が用意されている。1台ごとのトライアル形式で速さと燃費のベストバランスを競うもので、ベーシックスクールで学んだ成果を試すことができる絶好の晴れ舞台だ。
2クールを受講すると、複数台が同時に走るレース形式で行う競技、「CR-Z 10リッターチャレンジ」への参加資格が得られる。私はこちらを目指して、アドバンススクールを受講することとした。
■実戦向けレッスンのアドバンススクール
アドバンススクールは、ベーシックスクールからステップアップしてきた人はもちろん、サーキット走行経験者でももっとスキルアップしたいという人にピッタリの内容。ツインリンクもてぎの本コースで開催されたスクール当日は、19人もの受講生が揃った。
講師には元2輪GPライダーでモータージャーナリストの宮城光さん、スーパーGTやフォーミュラ・ニッポンに参戦中の山本尚貴さん、塚越広大さんという豪華な3名。和やかな雰囲気の中、いよいよレッスンがスタートした。
午前中は、希望者にJAF国内A級ラインセンス取得のための講習があり、私はすでに取得済みだが復習のために参加。その後、講師を交えた昼食タイムでは「レースの前には、何を食べていますか?」といった質問が飛び出すなど、他ではなかなかできないコミュニケーションタイムにみんなで盛り上がった。
レッスンの最初のブリーフィングでは、コースに出る心構えから、このレッスンで身につけてもらいたい要点の解説などが講師から丁寧に行われ、それを頭に入れながら実践に移る。
1回30分ずつ合計3回の走行タイムがあり、1回目の走行タイムは講師の先導で完熟走行を行いながら、ライン取りを覚えたり、ブレーキングポイントを確認。また、実際にレースに出た時のために、他の車両に追い越される間合い、追い抜く時の間合いの練習も行った。こうした練習は他のドライビングスクールではまず見たことがなく、とても丁寧な指導だと感じた。
走行タイムの間の休憩時間には、自由に講師とコミュニケーションをとり、講師が受講生の走りを見ていて気づいたことを教えてくれたり、逆に受講生から質問やアドバイスを求められる。時間を置かずにすぐにダメなところやコツがわかるので、次の走行タイムに活かせるのが上達するポイントだ。しかも、百戦錬磨のプロの的確な言葉だからこそ、それがものすごく効いてくる。2回目の走行タイムは、講師のアドバイスを踏まえて各自がフリーで練習に励んだ。
そして3回目の走行タイムは、レースデビューに向けてのスキルアップの総仕上げ。実際のレーススタートまでの進行を疑似体験してレースの雰囲気に慣れたり、タイムアップを目指して全力で走ったり、みんなそれぞれかなり集中して走っていた。初めて参加した人は驚いていたが、たった30分と思っても、それを全力で走ることはかなりの運動量。走行を終えて無限CR-Zから降りてきた受講生たちは、みんな顔を上気させていい汗をかき、やり遂げたあとの清々しい笑顔になっていた。
閉講式では講師からそれぞれ総評があり、レッスンの終了証を1人ずつ手渡されて無事に終了。ベーシックスクールから一緒に受講してきた人たちとは仲間意識が芽生え、その後も記念撮影などで楽しい1日となった。
個人的には、ショートコースの時にみっちり練習した成果が、少しずつ本コースでの走りに表れている手応えを感じたのが嬉しかった。これまでは、まだまだCR-Zの性能をうまく引き出して走れていないと行き詰まっていたが、このレッスンでとてもいいヒントをもらうことができ、次への自信が湧いてきた。いよいよ次はCR-Zのワンメイクレース、「10リッターチャレンジ」への参加である。
■いよいよ実戦へ
10リッターチャレンジは、全車が同じ量の燃料で、決められた周回数を走ってその順位を競うというもの。燃料の量と周回数は、事前に行う「Ecoチャレンジ」という予選を兼ねた練習走行の結果を踏まえて、主催者がその時のレベルに応じて設定。ただ単に速く走っただけでは完走できない燃料となるので、そこをどう効率よく速く走るかが勝敗の決め手となる。
もし、規定周回数を走り切る前に規定燃料がなくなってしまうと、マシンが自動的に疑似ガス欠状態に入り、速度が70km/hまでしか出せなくなってしまう。ただ、それで失格というわけではなく、先にゴールしたマシンから順位が決定するので、最後までガス欠させずに走るか、それとも……と、そのあたりの作戦もドライバー次第だ。
ツインリンクもてぎで開催された今回の「10リッターチャレンジ」は、参加者16名。CR-Zやもてぎの本コースに慣れていない人のために、前日に練習走行タイムもあった。フォーミュラ・ニッポンとの併催ということもあり、スタンドではたくさんのギャラリーがコースを見守っており、その中での走行はとてもテンションがあがる。
まずは午前中にブリーフィングのあと、予選を兼ねた「Ecoチャレンジ」のスタートだ。主催者が決めたラップタイムを基準値として、そのタイムより速く走りながら、最も燃費のよかったタイムで決勝のスターティンググリッドを争う。この日は2分43秒という基準タイムが設定され、20分間の走行時間内でのチャレンジだ。
コースインした最初の周はラップタイムに換算されないので、私は20分間で6周ほど走ることができた。ただ、最初は燃費にばかり気を使ってしまい、もう少しというところで43秒を切れない。無限CR-Zには「オーバーテイクシステム」と言う、スイッチを押している間だけモーターアシストをフルに効かせることができる機構があるが、それはバッテリー残量が30%を切ると作動できないので、なるべく早めの周回で使う方が効率がよい。
頭では分かっていても、なかなかそのうまい使いどころが決まらず、けっこう損をしてしまったのが悔しかった。なんとか残り時間内に2周だけ43秒を切って走れたが、結果は消費燃料とのバランスで10番手となった。
午後までは自由にフォーミュラ・ニッポンのフリー走行を観戦したり、ランチタイムでサーキットの休日を満喫できる。そして午後1時に、決勝での規定燃料と規定周回数の発表があり、今回の「10リッターチャレンジ」は燃料6Lで8周を走ることになった。単純計算して、1周あたり0.75Lしか燃料を使えない。コースインするまでのピットロードや、インラップ、アウトラップで使う分も計算に入れなくてはならないので、これは悩ましいところだ。ここから、各自の頭の中での決勝シミュレーションが始まり、難しいながらもみんな楽しんでいる。
■実戦の難しさを実感
そしてついに、決勝のスタート。ピットロードからコースインしたら、ゆっくり走ってメインストレートで自分の順番通りのグリッドに停める。アドバンススクールでこの練習を行っているので、誰もミスしたりせず、落ち着いてスタートを待つことができた。シグナルが青になり、16台の無限CR-Zがいっせいに走り出す。アクセル全開で飛び出す人と、じんわり加速で行く人とさまざまで、私はじんわり加速で後続の3台に1コーナーの手前で抜かれてしまった。
ただ、これは相手のペースに惑わされることなく、自分がシミュレーションした走りを続けることが大事だと考え、抜かれてもその後を追うことなくマイペースで走行。ラップタイムは2分47秒前後を狙い、1周の燃料を0.7L以下に抑えて走ることを心がけた。とはいえ、途中で前の無限CR-Zに追いついてしまった時などは、追い越すためにどうしても強く加速しなければならなかったり、逆に追い越される時に不要なブレーキを踏んでしまったりと、やはりここは1台だけで好きに走る練習走行とは違い、複数台で走るレースの難しさを実感。
そしてもうひとつ、無限CR-Zにはバッテリー残量が周囲にわかるように、インジケーターランプがフロントとリヤに設置されている。青ランプ3つが満タンで、2つ、1つと減っていき、オレンジになるとバッテリー残量がほとんど無いという印だ。だから、もし競り合っている相手がいた場合には、その相手のランプを見てバッテリー残量を確認し、少なければ一気に追い越しをかけたり、自分よりも多ければ無理せずバッテリーが溜まるまで待ったりと、その駆け引きも面白い。
レースがラスト2周ほどになったところで、異変が起こった。ガス欠する無限CR-Zが多くなり、自分よりもかなり前を走っていたマシンをキャッチ。3~4台を抜き去った。最初に飛ばしていても、リードがとれなければこうして順位が入れ替わることになる。これこそが、ただ速く走ればいいというレースと違うところで、テクニックや経験の見せどころだ。
私はガス欠することなくチェッカーフラッグを受けて、スタートと変わらず10位でフィニッシュ。優勝は同じモータージャーナリストの橋本洋平さんで、ポールポジションからスタートしたものの1周目で2番手に抜かれ、その後はずっとスリップについて虎視眈々とトップを狙い、最後に相手のバッテリーが少なくなったところを見計らって抜き去ったとのこと。作戦とテクニックが最もいい形で活きた、素晴らしい優勝だったと思う。
レース終了後は、それぞれが「どうやって走ったか」という話題でもちきりで、「もう一度チャレンジしたい!」と言う人がほとんど。それくらい、このレースは奥が深く、面白いものだったということだ。普段はスプリントレースや耐久レースなどに参加しているベテランでも、一度参加してみる価値は十分にあるのではないだろうか。
■必ず素晴らしい「気づき」をくれる
こうして「Honda Sports&Eco Program」のベーシックスクールからアドバンススクール、10リッターチャレンジまでのステップをすべて修了したら、次なるステップはやはりアマチュアレースへの参加だ。これはサーキットや主催団体によって多彩なレースが用意されており、ホームページや口コミなどで自分のレベルや目標に合ったレースを見つけることがまず第一歩となる。
私はツインリンクもてぎで年に1度開催されている、Enjoy7時間耐久レース「Joy耐」に、ジャーナリスト仲間の石井昌道さん、橋本洋平さんと「TOKYO NEXT SPEED」チームとして参加した。
マシンはスクールの講習車と同じ無限CR-Zで、メカニックなどのサポートも協力をいただいた。当日の参加は約80台。ホンダ・NSXなどのスーパーカーから、ロータス・エリーゼなどの輸入車、トヨタ・86やヴィッツなど、多種多様なマシンが揃っている。排気量でクラス分けが行われ、総合順位とクラス順位を競う華やかなレースだ。
またJoy耐は1回に30Lまでという給油量制限があり、1回の給油ごとに10分間の停止義務があるので、やはり速く走るだけでなく燃費も重要なレース。私はレッスンで丁寧な運転と低燃費のテクニックを教わっていたおかげで、その基本を守って順調に走行することができた。石井さん、橋本さんのプロ並みのテクニックにも助けられ、総合34位/エコクラス優勝と大満足の結果となった。
こうした体験を踏まえて強く感じたのは、もし以下のような人がいたら、このスクールはぜひとも勧めたいということ。サーキットで走りたいけど敷居が高いと感じている人。経験者でもタイムが伸び悩んでいる人。サーキットだけでなく一般道でも効率のよい走り方を身につけたい人。最新鋭のハイブリッド・スポーツの世界を体験してみたい人などなど。それぞれの目標に応じて、必ず素晴らしい「気づき」をくれるスクールだと実感した。
写真:滝井宏之(スクール)/宮門秀行(Joy耐)
取材協力:M-TEC/ツインリンクもてぎ
(まるも亜希子)
2012年 11月 12日