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GTAとSROが2015年のFIA GT3車両の“より公平なBoP”に向け連携を強化

SUPER GT最終戦が行われたツインリンクもてぎで調印式を実施

2014年11月16日発表

交わされた契約書を手に握手するGTアソシエイション 代表取締役 坂東正明氏(左)とSRO CEOのステファン・ラテル氏(右)

 SUPER GTのプロモーターであるGTアソシエイション(以下GTA)と、ヨーロッパを中心としたGTカーレーシング“BLANCPAIN GT”(ブランパンジーティ)のプロモーターであるSRO Motor Sports Group(以下SRO)は、2015年のSUPER GTのGT300クラスの車両規定として利用しているFIA GT3車両の性能調整(BoP:Balance Of Performance)をSROが策定することで合意したことを発表した。

 SUPER GTのGT300クラスには、JAF GTという日本独自の規定とFIA GT3の2つの規定の車両が混在しているが、特にFIA GT3はBoPの設定次第で有利不利が出てしまうといった点にエントラントから不満の声があった時期もあり、参戦するエントラントにとって公平なBoPになるように近年さまざまな施策を打ってきている。2014年からはSROが運営するBLANCPAIN GTシリーズで採用されているBoPを採用しており、2013年までのFIA-GTシリーズのBoPよりも高い評価を受けてきた。

 これを受けてGTAは、2015年にSROが策定するBoPをベースにSUPER GT向けにカスタマイズしたBoPを策定してもらい、それを2015年シーズンのBoPとして採用することを決めた。これにより、FIA GT3車両を利用してGT300に参戦するエントラントの公平性をより高める狙いがある。また、GTAは今後もSROとの連携を深め、さまざまな分野で連携を行っていくとした。

BoPで性能を調整して各エントラントの公平性を保っているGT300クラス

 GTAが運営しているSUPER GTの最大の特徴は、マシンやタイヤなどがワンメイクではなく、マルチメイクで争われるレースということだ。例えば、全日本選手権の最高峰と言えばスーパーフォーミュラだが、以前のフォーミュラ・ニッポンや全日本F3000選手権という名称の時代にはシャシーがマルチメイクだった時期もあるが、近年はワンメイクになっており、全選手が同じレーシングカーを利用している。それでもスーパーフォーミュラはエンジンがマルチメイク(トヨタ自動車と本田技研工業)になっており、ほかのシリーズと比べれば多様性があるとも言えるが、観客からの視点ではどれも同じマシンにしか見えないこともまた事実だ。もちろん、すべての選手が同一のシャシーを使うからこそ、本当の意味でドライバーの腕が試されるわけで、より“ドライバーレース”であるとも言えるのだが、見た目に派手さがないというのも一面の真実だ。

 では、SUPER GTはどうなのかと言えば、基本的にマシンもタイヤもマルチメイクで、同じ土俵で異なる車両が戦うというコンセプトから始まったこともあり、GT500、GT300ともに複数のマシンが複数のメーカーのタイヤを使って戦うという、世界的に見てもユニークなコンセプトで行われている。

 しかし、モータースポーツが道具を使うスポーツである以上、お金をかければよりよいものを手に入れることができるのは事実であり、競争が激化すればどうしても“勝つための賭け金”が上昇していくことは避けられない。過去に日本で行われていたシリーズでも、メーカー間での競争が激しくなってコストが上昇し、それに嫌気がさしたメーカーが撤退してシリーズ自体が消滅するという悪循環に陥った例もある。SUPER GTはそうした悪しき前例を反面教師にして“そこそこのコストで戦えるレース”を標榜してきたという歴史的な背景がある。

 2014年になって上位カテゴリーのGT500クラスで導入された新規定も、その延長線上にある戦略。シャシーにはドイツのDTMで導入されているレギュレーションを導入し、共通部品を増やすことでコストが抑えられるよう工夫されているのだ。メーカーはシャシーの上に載せる“ガワ”を自社製品のイメージに合うようカスタマイズして使っているので、見た目はレクサス(トヨタ)なら「RC F」、日産自動車なら「GT-R」、ホンダなら「NSX CONCEPT-GT」になっているなど、見た目を違う車両のようにする演出は、見ていて楽しいレースというSUPER GTのコンセプトに合致したものだと言える。

 これに対して、下位カテゴリーとなるGT300クラスでは、過去にはJAF GTと呼ばれる市販車を改造してレーシングカーとする規定が採用されていた。しかし、JAF GTは改造できる範囲が広く、事実上ワンオフのレーシングカーを作るようなコストが必要になるため、メーカーと提携しているような有力チームでなければ車両を用意できないといった状況が起き始めていた。そこでGTAが導入したのがFIA GT3規定だ。このFIA GT3規定は、そもそも今回GTAと提携したSROがFIA(国際自動車連盟)に提案して策定されたレーシングカーの規定。市販車をベースにして価格に制限を設けることで、メーカーは低コストでレーシングカーを製造し、エントラントはそれを低コストで購入してGTカーによるレースシリーズに利用できるというメリットがあるため、世界中のGTカーのシリーズで採用されつつある規格だ。余談だが、GT3というぐらいなので、同じようにFIA GT1、FIA GT2という規格も存在していたが、あまり流行らなかった。

 SUPER GTではこのFIA GT3規定を以前から導入しており、特に2012年以降はFIA規格のレーシングカーではFIA GT3だけがGT300クラスに出走できるよう定めたことで、多くのチームがこぞってFIA GT3車両を導入した。実際、ここ数年は2013年のホンダ CR-Zを除いては、2011年のBMW Z4、2012年のポルシェ 911、2014年のBMW Z4と、いずれもFIA GT3車両がGT300クラスのシリーズチャンピオンに輝いている。現在ではBMW、アウディ、メルセデス・ベンツといった欧州の自動車メーカーの日本法人がGT300クラスに参戦するプライベートチームとパートナーを組んでおり、今年はStudie BMW Z4のようにワークス相当のチームを参戦させた例もある。こうした成果を見れば、GTAがFIA GT3に賭けたのは大成功だったと言ってよい。

GTAの坂東代表は自動車メーカーが取り組みやすい環境作りを重視すると表明

 その一方で、完全に機能していたとは言えないのがBoPだ。シーズンの途中で突然ある車両が速くなったり、明らかに特定の車両だけが遅かったりと、本来は性能の異なる車両を調整するのがBoPの役割なのだが、それが機能していない側面があり、エントラントから不満の声が出ていた。実際、2013年まではFIAが策定しているFIA GT3のBoPを利用していたのだが、FIA GT選手権に出ていない車両は本来の性能が反映されずに一方的に不利になったり、逆に有利になったりする例が見られた。

 そこで「できるだけフェアになるように、これまでもBoPに対してさまざまな取り組みをしてきた。さまざまなマニファクチャラーともお話をしていくなかで、BLANCPAINシリーズのBoPが一番フェアという意見を頂いて、今シーズンからそれを導入した」とGTアソシエイション レース事業部 シニアマネージャーの服部尚貴氏は語り、今シーズンからSROが運営しているBLANCPAIN GTシリーズ(FIA GT3車両を利用したGTカーレーシングシリーズ)で利用されているBoPを導入し、エントラントからも高評価を受けたと解説。

 GTアソシエイション 代表取締役の坂東正明氏は、「今シーズンから導入したSROのBoPはエントラントにも好評で、かつ車両を製作するマニファクチャラー各社がそれぞれのマーケティング戦略に従って車両を作成し、参加しやすいように配慮するという点を重視した」と述べ、単にエントラントにとって公平というだけでなく、FIA GT3車両を製造する自動車メーカーがさまざまなマーケティング戦略の観点から自社ブランドに見合ったレーシングカーを製造・販売する環境を整え、かつBoPにより公平な競争環境を作ることでシリーズを盛り上げていくというGTAの考え方とも合致したからだと強調した。

GTアソシエイション レース事業部 シニアマネージャー 服部尚貴氏
GTアソシエイション 代表取締役 坂東正明氏

 すでに紹介したとおり、現在のGT300クラスには、アウディ、BMW、メルセデス・ベンツといった欧州の自動車メーカーがワークス待遇、あるいは準ワークス待遇でレースに参加しており、日産のモータースポーツ部門であるニスモもGT-RのFIA GT3版を製造してエントラントに販売している。トヨタもレクサス RC FのFIA GT3版をすでに公開しており、実際にサーキットでも試走を行っているなど、日独のメーカーを中心に自動車メーカーはFIA GT3への取り組みに力を入れており、GTAとしてはこうしたトレンドを今後も発展させたいという狙いがあるものと考えられる。

ポール・リカールで行うテストで大枠を決め、日本仕様に微調整していく

 今回の記者会見には、SUPER GTの最終戦(別記事)に合わせて来日した、SROの創設者でCEOのステファン・ラテル氏、およびSROのテクニカルディレクターであるクロード・シュルモン氏も同席。GTAの坂東代表と契約書の署名を交わす調印式や報道関係者からの技術的な質問に答えた。

 ステンファン・ラテル氏は、自らの名前を冠したステファン・ラテル・オーガナイゼーション(Stefan Ratell Organization)を起こして、数々のレースシリーズのプロモーターとして活躍している人物。自身もプロドライバーだった経歴の持ち主で、かつてのFIA GT選手権やその後継となるBLANCPAIN GTを運営するプロモーターとして世界的に名前が知られている。ラテル氏は「我々は2005年からFIA GT3規定に関わってきて、今ではそれがSUPER GTのGT300クラスの重要な部分を占めるようになっていて非常に嬉しい。SUPER GTとSROが、BoPに関して提携していけることを光栄に思っている」と述べ、SROがGT300クラスにおけるFIA GT3のBoPに関われることに喜びを表明し、GTAの坂東代表との調印式に臨んでいた。

SRO CEO ステファン・ラテル氏
SRO テクニカルディレクター クロード・シュルモン氏
記者会見では調印セレモニーも行われた

 SROのシュルモン氏は、今回の発表における技術的な内容に関して説明を実施。シルモン氏は「今年も実施したのだが、フランスのポール・リカールサーキットにすべてのFIA GT3車両を集めて、1人のドライバーに評価してもらい、より公平なシステムを作っていきたい。2015年も同じようなテストを行う予定だが、それに加えてハイスピードコース(A)、ハイダウンフォースコース(B)、ストップ&ゴーコース(C)の3つに分類し、それぞれに合わせたBoPを作成していく。さらに2015年3月に行われる岡山のSUPER GT公式テストの結果も参考にするほか、何戦かにはSROの担当者が出向き、より公平なBoPを作っていけるように努力したい」と述べ、SROが作成するSUPER GTにおけるBoPの概要を紹介した。シルモン氏はそうした最適化を加えていくことで、従来よりもさらに公平なBoPが作れるようになるはずだと語っている。

 なお、報道関係者からは「BoPにタイヤは含まれるのか?」という質問が出たが、「日本のSUPER GTでは激しいタイヤ競争が行われていることは理解しているが、BoPはあくまで車両側の性能を調整するものだ。日本向けではミディアムコンパウンドのスペックを元に、シミュレーターである程度の想定を入れながらBoPを作成し、微調整していく」(シュルモン氏)と、基本的にはタイヤの差はBoPには入らないように調整するとした。

 また、現在SUPER GTではポイントを獲得した車両に次戦以降重りを積んでいく“ウェイトハンデ”の仕組みが導入されているが、それはどうなるのかという質問については、坂東代表は「ハンデウェイトに関しては現行のまま」と述べ、そこには変更がないことが明言された。