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マツダ、クルマに命を与える“魂動”デザインに触れるイベント「This is Mazda Design. CAR as ART」リポート

Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2015で10月25日まで開催

2015年10月16日~25日開催

マツダの中牟田泰氏、川野穣氏、藤木修氏

 2012年の「CX-5」からスタートしたマツダの新世代商品群は、機能面ではエンジン、トランスミッション、シャシーなどに「SKYACTIV TECHNOLOGY」と呼ばれる最新技術を取り入れ、デザイン面では生命感や躍動感を強く印象づける「魂動(KODO)デザイン」を採用している。

 フランクフルトモーターショー2015の会期中に行われた、ドイツ自動車デザイン賞では3分野の賞を獲得するなど、マツダの新世代商品群は高い評価を得ている。クルマを「命あるもの」と考え、ドライバーとクルマの関係を愛馬と心を通わせるかのようにエモーショナルなものにするデザインテーマを掲げているマツダ・デザインの「志」について知ることができるイベント「This is Mazda Design. CAR as ART」が、10月16日~25日に東京ミッドタウンで開催されている「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2015」において出展されている。

 開催初日の10月16日に、アートワークを交えた取材会が開催されたので、その模様をリポートする。

 会場では、マツダのデザインテーマ「魂動」を反映したトラックレーサー「Bike by KODO concept」やソファ「Sofa by KODO concept」など、4月にイタリア ミラノで開催された「ミラノデザインウィーク2015」に出展したアートワークを展示。

 また、「魂動」に共感して創作された日本の伝統工芸として制作された、玉川堂作の鎚起銅器「魂銅器」や金城一国斎作の卵殻彫漆箱「白糸」とともに、「CX-3」「ロードスター」の実車も展示された。

マツダのデザイナーがデザインし、ハードモデラーが鉄板から叩き出しフレームなどを造形したトラックレーサー「Bike by KODO Concept」。カーボンやグラスファイバーではないことを主張。美しさへの拘りが随所に散りばめられている

Bike by KODO concept 製作者 ハードモデラーの川野穣氏、藤木修氏に聞く

 今回の取材会では、「Bike by KODO concept」の製作を担当したハードモデラーの川野穣氏、藤木修氏に話を聞くことができた。

ハードモデラーの川野穣氏

 川野氏はデザイン開発に必要な部品を板金加工などにより生み出すハードモデラー。ロードスターのデザインに通じている「Bike by KODO concept」に関しては、チェーンとペダルとタイヤ以外は、すべてを地金からハンマーで叩き出して造形している。

 川野氏は「ハンドルとなったパイプは、中に砂を詰めて炙る手曲げで成型していて、機械加工では成しえないデザインとなり、美しいフォルムを持つことができたと思います。素材感を見せたかったので、地金が分かるように塗装にも凝って、ロードスターのイメージに沿うように何回もコート(塗装)をしています。ロアーフレームの黒い部分については、あえて素材を見せるためにグラデーション塗装としました」とコメント。

川野氏が使用する道具
フレームの造形からハンドルパイプの曲げまで手を下したと言う
ハードモデラーの藤木修氏

 藤木氏は、ハードモデラーとして多くのドライバーが触れる部分であるステアリングやシートなどの開発を担当する。「Bike by KODO concept」の制作においてはシート部分を担当した。

 ステッチのパターン1つにもこだわりがあるという藤木氏は「ステッチ1つにも、オリジナリティを持ったデザインをロードスターには与えたいと考えており、その手法をBike by KODO conceptに応用しています」と話した。

 ロードスターに採用されているステッチについて聞くと、藤木氏は「ドライバーの目に付くところ、実際に触れるところ、コストなども含めて、どのようなステッチを採用するか判断しています。クルマの開発においては、クルマの特性などに合わせて立体案などを製作して検討を重ねたうえで、素材選択も含めて決定しています。マツダが魂動デザインを掲げることで現場のモチベーションが上がり、ハードモデラーからも提案を発信することが増えています」と話した。

クルマの特性やユーザー層の嗜好を考慮しながら、実用面とのマッチングを詰めるのも藤木氏の仕事

 なお、Bike by KODO conceptの市販化については「現時点では何とも言えない」とのこと。

マツダ アドバンスデザインスタジオ 部長 中牟田泰氏「クルマは単なる鉄の塊ではなく、命あるもの」

 マツダは「クルマはアート」ととらえ、研ぎ澄まされた品格である「凛(りん)」、人の情念に訴えかける「艶(えん)」という日本の美意識に根ざした感性に着目し、その表現を試みることにより、動きの表現のさらなる進化を図っている。会場では、マツダ アドバンスデザインスタジオ部長の中牟田泰氏がマツダのデザインが目指すものについて、プレゼンテーションを実施した。

マツダ アドバンスデザインスタジオ 部長 中牟田泰氏

 プレゼンテーションのなかで、中牟田氏は「我々は、クルマは美しい道具であり、人の手で生み出す美しいフォルムをまとった命あるアートであり、心高ぶるマシンでありたいと考える。なぜなら、美しい道具は生活や感性を豊かにするからである」と強調。

 加えて、中牟田氏は「クルマに命を与えるというコンセプトを持つデザインテーマ“魂動”に取り組み続けている。クルマは単なる鉄の塊ではなく、命あるものだと我々は考え、デザインによってその命の在り方を変えていきたいと思っている」と話し、加えて「クルマとドライバーの関係を、友達あるいは恋人のようにしたい」とも語った。

 魂動デザインについて、中牟田氏は「日本固有の美意識は余計なものをそぎ落とした凝縮のダイナミズムにある。研ぎ澄まされた精緻さと品格を“凛”、人の情念に訴えかける命を感じるダイナミズムを“艶”とし、その相反する要素を調和することが欧米の文化とは異なった日本独自のエレガンスの表現だと考えている。“魂動”は躍動感を有しながら、日本の美意識を兼ね備えたデザインである」と説いた。

 会場に展示されたCX-3とロードスターについては、「マツダ・デザインの奥行きを示したもの。CX-3はシンプルな中に研ぎ澄まされた“凛”を表現。ロードスターは情念に訴えかける“艶”を表現した」とした。

中牟田氏は「凛と艶、その相反する要素の調和することが欧米の文化とは異なった日本独自のエレガンス」と語った
プレゼンテーション内で再生されたマツダ・デザインのコンセプトイメージから文字情報を抜粋。この動画はTokyo Midtown DESIGN TOUCH 2015会場内でも見ることが可能

 プレゼンテーションでは、そのほか「Milano Salone 2015」に出展したアートチャレンジ「Bike by KODO Concept」や「Sofa by KODO Concept」、玉川堂、金城一国斎氏とのコラボレートによる作品を紹介。これらのアート活動をクルマのデザインに活かすことを目的としており、魂動のコンセプトは東京モーターショーに出展するモデルにも反映されていることを示した。

こちらはマツダのデザイナーとイタリアの家具職人の共同作業により生まれた「Sofa by KODO Concept」。マツダ車に共通する力強いスタンスを表現。ソファーの裏側にレーザーカットを施し色気を出している。テーブルはマツダ車のフロントグリルのイメージだ
鎚起銅器「魂銅器」(玉川堂作 槌起銅器)。1枚の銅板を槌で繰り返し叩きながら成形して器を手造りする200年の歴史を誇る工房。今回、銅の板材がなかった時代の技術を再現。銅の塊を無心に叩き自然にできたフォルムが、ダイナミックな美を完成させている
卵殻彫漆箱「白糸」(金城一国斎作 卵殻彫漆箱)。細かく砕いて四角いものだけに選別した卵殻を1つひとつ漆の上に貼りこみ、上から卵殻が見えなくなるまで漆を塗り重ね、表面を研ぎ出して卵殻の模様を再び現す「彫漆」技法で、精密なディテールによる凛とした雰囲気と磨き上げられた漆の艶やかさを表現
プレゼンテーションの中にあった「志=全員がアーティスト」。デザインに携わる人間全員がアーティストになる。でも芸術作品を作るということではなく、自分の手で何か新しいもの、美しいものを作ることが重要だと中牟田氏は語った

 最後に、今後の魂動デザインについて聞くと、中牟田氏は「表現の仕方は変わっていくと思うが、もっともっと研ぎ澄まし美しさを高めて理解を深めていきたい。日本ならではの研ぎ澄まされた美しさを原点として、そこに力強さを加えていきたい」との考えを示した。

「美しいフォルムをまとった命あるアートで心高ぶるマシン」。そんな魂動デザインがさらにブラッシュアップされていくことに期待したい。実際の作品は10月25日まで開催されている「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2015」で見ることが可能なので、関心をお持ちの方は是非足を運んでみて欲しい。

(酒井 利)