【インプレッション・リポート】
スバル「BRZ」

Text by 真鍋裕行


 12月11日に閉幕した東京モーターショーでは、運転席に座るために長蛇の列ができるなど、多くの来場者から注目を集めたスバル(富士重工業)の「BRZ(ビー・アール・ゼット)」。

 ご存知のようにBRZは、スバルとトヨタ自動車が共同開発した小型FRスポーツカーで、トヨタ「86(ハチロク)」と兄弟車となる。「86」は、東京モーターショーの前に開催された「トヨタガズーレシングフェスティバル2011」で先行公開されたことやメディア向けの試乗会をすでに開催したことから、多くの試乗インプレッションや速報記事が公開されている。

 車両のプロモーションは86が先行していたが、今回、袖ヶ浦フォレストレースウェイにて「BRZ」の量産試作モデルに試乗できる機会が設けられたので、走行性能を含めた詳細をお届けする。86の試乗記ついては、6速MT仕様を岡本幸一郎氏が、6速AT仕様を筆者が担当し、すでに掲載しているので、そちらを参照していただきたい。

BRZの仕様を確認
 まずは、BRZのスペックや特徴だが、エンジンやディメンションなどの基本コンポーネンツは86と共通になっている。そのため、すでに公表されているものが多いのだが、おさらいとして紹介しよう。

 エンジンは、2010年から市場に投入されているスバルのロングストロークタイプの第3世代ボクサーエンジン「FB」型をベースに、ボア、ストロークを86×86mmのスクエアに変更した「FA20」を搭載している。

 レブリミットは7,400rpmで最高出力は200PSをマーク。FA20は、FB20に比べてコンパクトになっているのも特徴で、エンジン上部にセットされる吸気マニホールドは65mm、エンジン下部の排気ブランチは19mmほど高さが抑えられている。エンジンが搭載される位置は、新型インプレッサに比べて120mm低く、240mm後方にマウント。この低くマウントされた水平対向4気筒エンジンにより、車両の重心高460mmを実現。この数値は欧州のスーパースポーツと比べても遜色なく、国産モデルでは圧倒的に優れた値になる。

BRZに搭載される水平対向4気筒 直噴2リッターエンジンレブリミットは7,400rpm。トヨタの86と異なり、ブラックのタコメーターを装備するタイヤサイズは215/45 R17。タイヤは、ミシュランのPrimacy HP

 前後重量配分は、53:47(2名乗車時)で、オーバーハングは、前が840mm、後ろが825mm。

 低重心がもたらすメリットは数多く、ロールやピッチモーメントの低下などが挙げられ、コーナリング中の内輪から外輪への荷重移動も抑えられることから、タイヤのグリップに頼ることなく高いコーナリングスピードを生み出すことが可能となる。

 シャシーは、「キャビン」「フロント」「リア」の3セクションで最適な剛性が保てるように鋼板や構造を取り入れた3ゾーンマネジメントを採用。フロントまわりは、操舵初期のレスポンスを向上させるために剛性のバランスを考え、リアまわりは、フロントからの入力を即座にリアタイヤに伝えるための剛性向上を図っている。キャビンセクションは、軽量な980MPa級以上の高張力鋼板を積極的に用いて、高い安全性と剛性を確保している。

試乗コースは袖ヶ浦フォレストレースウェイ
 今回の試乗車として用意されたのは6速MTモデル。この6速MTは、アイシンAW製で、1速ギアから3速ギアにトリプルコーンシンクロを採用し、内部の摺動抵抗を抑制するなどしてドライバビリティを向上。また、シフトノブの形状やストローク、操作性などをトヨタとスバル双方の社内基準に合致するように徹底した品質追及を行ったという。

 試乗コースの袖ヶ浦フォレストレースウェイは、1周約2.5kmのコースで、3、4速でまわり込むコーナーを持つ。早速コクピットに座り込みシート、ステアリングポジションをあわせる。86を試乗したときにも思ったことだが、チルトとテレスコの可動域が大きく、ドライビングポジションが非常にあわせやすい。シートやステアリングのデザインが86とは異なるが、素材は一緒なので、コクピットに座った感覚は同じ。ただ、センターに位置するタコメーターの盤面がブラックになっていて、86のホワイトと比べるとシックな印象を受ける。

シートポジションは、チルトやテレスコの可動部が大きくあわせやすいリアシートに座ってみた。座面はお尻がすっぽり入るようにえぐられているので、身長173cmの筆者でもルーフに頭があたらない。長時間の移動は楽ではないが、短距離なら大人4人が乗ることも可能だ

 シートを合わせたところで、シフトレバーを1速に入れて、ゆっくりとピットロードから発進。コースインしてアクセルを全開にすると、迫力のある吸気音に気付かされた。アクセルワークに連動したリニアでスポーティなサウンドを生み出すために、吸気音を車内に引き込むエンジンサウンドクリエーターシステムを採用している。

 86の試乗ではヘルメットを装着していたため、試行錯誤を繰り返したという吸気サウンドがそれほど聞こえてこなかったが、今回は、はっきりと確認できた。アクセルを踏み込むと瞬時にエンジンが反応し加速していく。それにあわせて吸気サウンドも反応する。ついついブリッピングをしたくなるような感覚にもなる。

 コースを半分ほど走行すると、ステアリングに伝わってくる感触に重厚な感覚があり、BRZの特徴を見ることができた。開発者に伺ったところBRZと86の違いは、サスペンションとスプリングにもあるようだ。アーム類やブッシュ類の変更はないが、減衰力やスプリングレートを変えていて、スバルらしい安心感があり、フロントタイヤからの操舵感を掴みやすい仕立てとなっている。やや、BRZの方が操舵に対して素直な感覚を持っているという印象を受けた。

 6速MTは、シフト操作が非常にしやすく、コーナリング中のシフトダウンでもシフトミスをすることなく、すんなりと次のギアに入っていく。ちなみに、各ギアのレブリミットでの到達速度は、2速が95km/h、3速が135km/h。ホームストレートや2コーナーを越えた下りでは4速170km/hまで確認できたが、この時点でのエンジン回転数は6,500rpmくらいだった。4速170km/hがこのサーキットでの最高速だったが、車体がふらついたり、ステアリングインフォメーションが希薄になることもまったくなく、かなり直進安定性も重視していることが感じ取れた。

 試乗はインラップ、アウトラップあわせて3周を数セット繰り返して走行したが、ブレーキのフィーリングが変化することもなく、最後までしっかりとしたタッチで制動していた。

 サーキット走行でも高いポテンシャルを見せつけたBRZ。限りなく低くマウントされたエンジンや軽量なボディーが生み出す、スポーティなハンドリングは秀逸で、水平対向2リッター自然吸気エンジンは、気持ちよく高回転まで吹け上がる。

 最高出力が200PSなので、ドライビングテクニックがないとねじ伏せられないというクルマではない。そのため、スポーツドライビングの入門モデルとしても最適だ。もちろんハイアマチュアのようなドライビングテクニックを持った人なら、自在な車両コントロールを楽しめるだろう。初心者から上級者まで満足できる仕上がりとなっていた。

 なお、BRZは、大きく分けて3つのグレードが存在する。そのうち、最も安価な下位グレードは6速MTのみ。中位と上位のグレードには、6速MTと6速ATが用意される。試乗したBRZのにはトルセンデフが装着されていたが、これは中位のグレードではオプション、上位のグレードでは標準装着される。グレード構成などは発売までに変更されるかもしれないが、エアバッグなどの安全装備はすべてのグレードで同一となる模様。発売は来春となっており、価格を含めた正式な発表が待ち遠しい。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 12月 19日