【インプレッション・リポート】
スズキ「スイフト」

Text by 岡本幸一郎


 かつてのスズキは、「価格こそ正義」を社是としていて、実際それが支持されていた。その半面、品質面や走行性能で弱い部分が散見されたのは否めなかった。軽自動車の拡大版のようなクルマだった初代スイフトも、驚くほど安かったし、さりげないSUVテイストの表現には先見の明があったような気もするものの、まあクルマとしての見どころはあまりなかったように思う。

 しかし、ガラリと変わった2代目は、オシャレなルックスだけでなく、ドライブしてもなかなかしっかりしていて、いきなりスズキというメーカーに一目置くことになった。当時、品質の重要性を強く認識したスズキが、これまでと変わったことを知らしめるに十分なインパクトがあった。販売的にも評判が評判を呼んで右肩上がりとなり、当初は大差をつけられていたマーチやデミオと、やがて激しく火花を散らすようになったことも印象に残っている。

 そして、2代目スイフトの登場から6年たらずが経ち、3代目スイフトが2010年8月に発表、9月より発売となった。いわゆるキープコンセプトで、それもかなりのものであるのは見てのとおり。余談だが、知人の某編集者がスズキ広報部に、3代目スイフトの写真を送ってくれるよう依頼し、届いた写真を見て2代目と勘違いしてしまったらしい。写真で見ると確かにそのくらい似ている。

 あまり変わりばえしなかったモデルチェンジでは売れなくなるというジンクスもあるが、開発陣によると「いろいろなデザイン案はあったが、一目でスイフトと分かることが大事と判断し、スイフトらしさを強く残したデザインを採用した」とのこと。

 そうはいっても、実車を並べて見ると結構違って、前後ランプやボディーパネルの面構成など、ずいぶん違うことに気づかされ、新型は明らかに新しく見える。もともとデザインの評価は高かったことだし、これはこれでイイと思う。

 ボディーサイズは、全長が95mm長くなった。このうちホイールベースが40mm拡大され、残りの大半はフロントオーバーハングの延長にあてられている。これについて開発陣によると、目的のメインは居住性の向上ではなく、走行安定性と安全性の向上にあるとのこと。

 一方の全幅は1695mmと、今やBセグの世界的な趨勢は、1700mmを少し超えたあたりにあるのだが、日本市場で重要な5ナンバー枠を堅持したことは見識だと思う。この背景には、スイフトは日本市場も重要視していることはもちろん、世界的に見るとヒットモデルでありながら日本では低迷しているSX4(全幅1730mm~1755mm)の厳しい現実もあるのかもしれない。

キープコンセプトのデザインでありながら、細部で新型であることを感じさせる。リアバンパーが大型化し、リアゲート開口部の地上高が上がっているのも特徴

 実車を見て新型であることを強く感じるのは、むしろインテリアだ。先代ではいささか安っぽかったインストルメントパネルの雰囲気がまったく変わり、質感が大きく向上した。シートの作りもしっかりとしており、可倒式アームレストも備わった。運転席の調整機構が充実しており、標準状態から上方への調整幅が32mmから38mmに増え、下方にも20mmダウンできるようになった。さらに前後スライドも10mm×24段階と、より細かいピッチで調節できる。ステアリングには、欧州勢では常識ながら、国産勢のこのクラスでは装備が遅れ気味のテレスコピック機構も標準で付いている。

 ややアップライトな前後シートポジションと必要十分な居住空間は先代と同等。ただし、リアシート中央に3点式シートベルトが与えられなかったのは腑に落ちない。法制化を受けて今回のモデルチェンジで装備されるのは確実と思っていたのだが、なぜか見送られてしまったようだ。

 ラゲッジについて、テールゲート下端位置が先代よりもずいぶん高くされている。これは後衝時のダメージを抑えるためとのこと。こうすることで、ダメージがバックドアまで及んで修理費が高くつく可能性をいくぶん低められるとのことで、欧州における保険料との関連が深いらしい。低いほうが荷物の積み下ろしはラクだろうが、とはいえ大きなアンダーボックスが備わったので、トータルでの使い勝手では、新型のほうが便利に使えるんじゃないかと思う。

洗練され質感の向上したインストルメントパネル
オーディオにはUSB端子も装備エンジンスタートはプッシュボタン式だ
シンプルで落ち着いたインテリア運転席にはシートリフターやアームレストも装備後席中央のシートベルトは2点式になる
ラゲッジルームは奥行きもあり実用度は高いサブトランクもあり使い勝手がよさそう
後席は6:4分割可倒式

 パワートレイン、シャシーもともに大きく進化を遂げている。「K12B」という従来と同じ型式名の1.2リッターエンジンは、吸気側だけでなく排気側にもVVT-iが採用されたことをはじめ大幅に改良された。この主な目的は、いわゆる内部EGRを増加させることで燃焼温度を下げ、燃費を向上させることにあるといえる。また充填効果が増すので、トルクの向上も期待できる。

 トランスミッションには、サプライヤーが従来のアイシンからジャトコに変わり、スズキではパレットですでに採用している副変速機付きのCVTが全グレードに採用された。また、最上級グレードXSを除いては5速MTも設定されている。MTを設定した理由は、てっきり中高年ユーザーでたまにMTでないと運転できないとか、MTを好むという一部の層のために設定したのかと思いきや、開発陣によるとあくまで「操る楽しさを残すため」とのこと。そうなると、最上級のXSグレードに設定がないというのはおかしい。ということは、さらに上のモデル(=スイスポ?)がそのうち出てくると見てよいのだろう(笑)。

 販売の9割超を占めるというCVT車をドライブした印象は、フラットなトルク特性のエンジンと、大きな変速比幅を持つCVTのおかげで発進加速もよく、とても1.2リッターとは思えないほどの動力性能を実現している。XSグレードでは、ステアリングスポークのシフトパドルが付く。ちなみにフロアセレクターに「+」「-」のポジションはなく、マニュアルシフトはシフトパドルによる操作のみ。また、Dレンジのままでも一時的にマニュアルシフト操作が可能となっている。これらの一連の設定は理に適ったもので、とても合理的だと思う。

エンジンは型式こそ従来どおりながら、改良が加えられた新型マニュアルモードでの変速はステアリングのシフトパドルでのみ可能。Dレンジでも一時的な変速ができる

 CVTのフィーリングもスムーズだし、普通に運転する分にはなんら問題ない。とはいうものの、マニュアルシフトではもう少し素早くシフトダウンしてほしいし、攻めた走りでは、コーナー立ち上がり等での再加速時に、もっと瞬発力がほしいと感じるシーンもなくはない。開発陣によると、そこはあえて燃費を優先して、このように味付けしているとのことだったが、走りを楽しみたいときに、じれったい思いをするのも事実なので、モード切り替え等あるとなおよかったと思う。

 とはいえ、ごく普通に走るぶんには、フラットトルクによる運転しやすさと低燃費という恩恵は十二分に享受できるはずなので、そういうクルマとわりきれば何ら問題はない。これもやがて出てくるであろう上のモデル(=スイスポ?)に期待することにしよう。

 一方のMTに試乗すると、エンジン特性がよりダイレクトに伝わってきて、このエンジンが本当にフラットトルクであることを改めて痛感した。エンジン自体も1.2リッターらしからぬ力感を持っているのだ。

 そして、フットワークもとても洗練されていた。先代の2代目スイフトの完成度の高さが、スズキのイメージを変える大きな力になったのは間違いないが、現在の水準からすると、コーナリングの限界域ではリアが不安定になる症状が見られた。

 そこで3代目では、取り付け剛性の強化や、進行方向に対しアームブッシュを斜めに配置して横剛性を高めるなど手を加えた。これによりコーナリングの安定感が増した。さらに、リアが十分に安定したからこそ、フロントに可変ギアレシオステアリングを採用することで、クイックなハンドリングを実現することができたとのこと。

 実際、ステアリングを切り込むとノーズがスッと抵抗なく向きを変える印象は、Bセグ屈指のレベル。最近のスポーティモデルが軒並み追求している、いわゆる「アジリティ(=俊敏性)」を感じさせるほどの仕上がりだ。

 ただし、OEM装着の16インチタイヤがどうもイマイチ。エコ性能を重視してかケース剛性が高すぎるようで、荒れた路面を走ると、いわゆるドラミングが起こるし、ロードノイズも大きめ。また、せっかくクイックなハンドリングを実現しているのに、接地感が薄くコンタクトフィールを感じ取りにくいのも、どうやらタイヤに原因がありそうだ。このあたり、銘柄を見直すだけでも、ずいぶんフィーリングが変わるのではないかと思う。

フラットトルクのエンジンと軽快なハンドリング。ただしロードノイズは大きめ

 スイフトは、世界の名だたるBセグメント車と比べても、かなりよいセンに行ったと思う。少なくとも国産勢の中では、もっとも完成度が高いと思えるし、内容のわりに価格も控えめであることも好印象だ。販売的にも、相変わらずデミオやマーチとしのぎを削ることだろうが、大御所フィット、まもなくモデルチェンジするヴィッツ、根強いパッソら国産Bセグの先頭集団に対し、どこまで健闘できるかも見どころだ。

 そして、スイフトというとやはり気になるのは、スイフトスポーツがどうなるか。おそらくそう遠くないうちに出てくることと思われるが、期待して待つことにしたいと思う。

2010年 11月 19日