【インプレッション・リポート】
フォルクスワーゲン「パサート」

Text by 日下部保雄


 フォルクスワーゲンのミッドサイズサルーン「パサート」がフルモデルチェンジされて登場した。すでにTV CMも流れており、ご存じの方も多いと思われるが、販売も好調で輸入車としてかなり大きな数である1000台以上を、1カ月で受注している。

 フォルクスワーゲンは「サステナビリティ・モビリティ」の概念の下にエンジンのダウンサイジングを進めてきたが、パサートもその例に漏れない。フォルクスワーゲンのダウンサイジングは「ゴルフ」から始まり、「ポロ」も同様の路線をたどる。

 パサートはフォルクスワーゲンの中堅車種で、ドイツでは昨年はゴルフよりも販売台数が多かったという重要なモデルだ。それだけに本国では6気筒モデルをはじめとして多くのバリエーションがあるが、日本導入モデルはダウンサイジングを明確にするために1.4リッターエンジンのみの設定となる。

 初代パサートは1973年に登場し、以来、世界で累計1500万台以上を販売するフォルクスワーゲンにとって大きな柱に成長しているが、今回登場した新型で7代目となる。

1クラス上の質感
 車型は2種類あり、オーソドックスな3ボックスのセダンと、「ヴァリアント」と呼ばれるステーションワゴンとなる。ボディーサイズは従来のパサートをベースとして手を入れているので、基本的なサイズは変わらない。全長はセダン、ヴァリアントとも4785mmで、ホイールベースは2710mm、全幅は1820mmと、比較的大きなDセグメントモデルになる。全高はセダンとヴァリアントではルーフレールの分だけ40mm違い、セダンの1490mmに対してヴァリアントは1530mmとなる。

 デザインは好みが分かれるところだが、最近の一連のフォルクスワーゲン車と共通するヘッドライトまわりを与えられており、4本の横バーで構成されたグリルでクルマの幅を強調するデザインとしている。さらにグリル中央のフォルクスワーゲンのエンブレムは一段と大きい。

 ヘッドライトではオプションのバイキセノンを選択すると、U字型のLEDのポジションランプ付となる。1度キセノンヘッドランプを経験すると、その明るさからもうハロゲンには戻れない。お勧めのオプションだ。

 サイドは欧州車らしくエッジラインを効かせたデザインで、流れを強調している。またリアデザインは3ボックスらしさを強調しており、ウェストラインを下げているので、落ち着きのあるデザインになっている。個人的にはもう少し冒険してもいいと思うのだが、確かにデザインの一貫性はある。

 もともとフォルクスワーゲンのインテリアの質感は優れていたが、新しいパサートではダッシュボードのシボの質的向上、センターにアナログ時計を置き、アルミ、クローム、ウッドの配置などこれまでのパサートから比べると格段に質感が上がっており、1クラス上に感じる。

 またベースグレードのコンフォートラインのシートもデザインが一新され、ハイラインではナパレザーを使ったタッチのよい革張りとなっている。

 

さまざまな燃費改善技術で18/4km/L
 さて、新型パサートの重量はセダンが1430㎏、ヴァリアントが1470kgと、このサイズのクルマとしてはかなり軽く作られている。比較的軽いボディーを運ぶエンジンは一律1.4リッターのシングルターボエンジン。

 直列4気筒DOHC 16バルブエンジンはゴルフなどに搭載されているものと同じもので、直噴技術と小型ターボで最高出力は90kW(122PS)/5000rpmながら、トルク特性に優れており、排気量やパワー表示以上の動力性能を発揮する。最大トルクは200Nm(20.4kgm)と2リッタークラスだが、実際に日常的に使う1500~4000rpmでこのトルクを出しているために、むしろそれ以上のパワフルさを体感する。

 トラスミッションはフォルクスワーゲン得意のデュアルクラッチAT「7速DSG」。このデュアルクラッチシステムは2003年にフォルクスワーゲンが量産化したもので、トルクコンバーターを使わないためにスリップロスがなく、パワートレーン革命の一翼を担って欧州のATでは拡大の一途をたどっている。

 DSGは導入以来、すでに数多くの改良が図られ、現在はよりロスの少ない乾式クラッチが主流となっている。またパドルシフトがハイラインでは標準で、コンフォートラインではパッケージオプションで装着可能となっている。もちろん通常のセレクターレバーでもマニュアル操作ができる。

 この直噴1.4リッターターボと7速DSGで燃費をかなり稼ぐことができているが、さらにストップ&ゴーの多い都市部での燃費改善を図るために、アイドリングストップが搭載されている。そして、ブレーキエネルギーを回生することでオルタネーターの発電量を抑える仕組みを採用しているのも、最近の欧州車らしい。これらの燃費技術をフォルクスワーゲンでは「ブルーモーション・テクノロジー」と総称している。

 10・15モード燃費で18.4㎞/Lをマークし、75%のエコカー減税対象車になっている。ちなみにパサートの燃料タンクは75Lと巨大で、ハイオクを使う必要があるが、単純に考えると九州まで無給油で行けることになる。

余裕のあるドライビング
 フォルクスワーゲンらしい気取りのない表情で待っていたパサート・セダンに乗り込む。わるい癖ですぐにあら捜しを始めるが、これまでより1クラス上のインテリアにほーと頷く。

 ハンドルの手へのなじみもよく、位置関係もよくアジャストできている。新しいシートはサイズがたっぷりしており、なかなかすわり心地がよい。ただABペダルのレイアウトは違和感が残った。ブレーキペダルが高いのでアクセルからブレーキへの踏みかえがスッキリとしない。マザーカントリーが左ハンドル車のクルマでは時々起るが、パサート全体の好印象を壊すものではない。

 DSGで気になるスタート時のギクシャク感は、モデルイヤーごとに改良されているが、それでも発進時に段差などがあるとやや強めのアクセルの踏み込みが必要だった。しかし、新型パサートではトルコンに近いクリープで、かなりドライバーの負担は軽減された。発進時の滑らかさではトルコンATに歩があるが、走り始めてしまえばほとんど区別がつかない。DSGは進化し続けている。

 コンフォートラインではタイヤは16インチの215/55 R16を履く。市街地の乗り心地はダンピングのある硬さで快適で、路面からのショックもたっぷりしたシートのストロークでしっかり受け止めてくれる。段差やマンホールギャップでもショックはあるものの不快ではない。高速でもそれは変わらず、路面のうねりでもフランス車のようなソフトライドではないがアウトバーンを疾走するにふさわしい硬さと乗り心地のバランス感がある。

 ハンドリングは、日本車に比べるとやや重めのステアフィールだが、ハンドル応答性、ハンドルの効きともにしっかりした手ごたえで、これなら長距離高速ツーリングでもリラックスしてハンドルを握っていられそうだ。欲をいえばよりしっとりしてベタな手ごたえがあると、さらにリラックスできるだろう。

 もともと高剛性だった従来型よりもさらに剛性の上がったしっかりしたボディーに、4リンクのリアサスペンションの相性はよく、高速でのリアサスの接地性もよい。

 ボディーは溶着とレーザー溶接、スポット溶接を部位によって使い分けることで、軽量で非常に高い剛性を得た。またリアサスはサブフレームに組み付けられており、サブフレーム側でもショックを軽減している。4リンクのメリットの1つに軽量化があげられる。直進性はリアグリップが安定性の高いもので、高速のワインディングでも安心して走ることができドライビングに余裕を持てる。

 またエンジンパフォーマンスは市街地ではトルクバンドのおいしいところだけを使うので、加速力には全く不満がない。排気量だけからは想像できない力強さだ。しかも7速あるトランスミッションのおかげで、ほぼどのようなシュチュエーションでもトルクバンドに乗せて走ることができる。

 高速でもこのトランスミッションとの協業でトルクバンドに乗った加速領域に収まるので、追い越し加速でも余力を持って行える。

実力を誇示しないクルマ
 次に乗ったのはヴァリアント。グレードはハイラインで、装着タイヤは235/45 R17になる。スポーティタイヤだけにさすがに路面からの突き上げは強くなり、市街地ではコンフォートラインと乗り比べると乗り心地がわるく感じる。

 しかし高速でのグリップ力はさすがに高く、コーナリング安定性は非常に高い。ただでさえよいハンドルの効きはさらに向上して、ぴたりと路面に貼り付くように走るのは感激だ。しかも前輪駆動でありながらハンドルのキックバックも少なく、高速でのハンドル保舵感は滑らかで好ましい。おとなしいワゴンでありながらハンドリングはグリップが高くてスポーティだ。

 高速になると乗り心地の硬さも全く問題にならず、むしろハンドルを握った時の安定感で、ロングドライブの疲労度は少ないだろう。このタイヤはコンチネンタルの釘穴などを自動修復するモビリティタイヤで、スペアタイヤは省かれる。

 ここではテストできなかったが、パサートはドライバー疲労検知システムを全モデルに搭載している。車が運転操作に不審な操作があるとドライバーの居眠りや疲労を判断して、アラームで警報を鳴らすというものだ。

 静粛性の高いこともパサートの魅力の1つだ。全体に剛性の高いボディーで遮音は優れているが、さらにフロントウィンドーに遮音ガラスを使っていることで、静かな室内には磨きがかけられている。

 アイドリングストップにも触れておこう。日本車の遠慮がちなアイドリングストップに比べると欧州車はかなり積極的にエンジンを止める。交差点で止まると、ほぼすかさずエンジンは停止し、燃料を節約する。再始動も、ブレーキペダルから足を離すとすかさずエンジンをかける。エンジンストップと再始動の呼吸はすぐに体に染みつき、不便は感じない。

 ただアイドリングストップを忘れて車から離れると、エンジンが完全停止するので、私のようなうっかりものは再始動しないと言って慌てないように気を付けなければならない。

 後席についてはまずバックレスト角度が適正で、お尻の収まりも適度で心地よい。クッションストロークも比較的余裕のある作りだ。またレッグルーム、ヘッドクリアランスともにたっぷりしているだけではなく、斜め上も広いので空間の余裕はある。ただ大きなフロントシートのために前方の開放感は限られる。

 ラゲッジルームは奥行があるのでかなりの荷物を収納できる、ヴァリアントでは5人乗車でも約600Lの容積があり、2分割のシートを倒せば長くかさばる物でも積める。ただ幅は、間仕切りを外さないとゴルフバッグを横済みすることはできないだろう。またハイラインではスペアタイヤも修理キットもないので床下にも広大な収納力を持っている。

 パサートはフォルクスワーゲンらしく堅実なミドルクラスのセダン/ワゴンで魅力に富んでいる。実力者だがそれを誇示しないところがこのクルマらしい。

 


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2011年 7月 13日