【インプレッション・リポート】
日産「ラフェスタ ハイウェイスター」

Text by 岡本幸一郎


 初代「ラフェスタ」がデビューしたのは2004年のこと。当時のホンダ「ストリーム」が先鞭をつけ、トヨタ「ウィッシュ」がその後を継いだMクラスロールーフミニバン人気の高まりを受けて、日産がリバティの後継車として送り出した渾身の作だった。しかし、当初こそ注目を集めたものの、いざ出てみると、いま1つパッとしなかったのは否めなかった。

 それから数年が経ち、一時は消滅説まであったラフェスタだが、絶対的な数こそ少ないものの、なくすにはもったいないと思われる一定数の販売を維持しつつ現在に至る。そして1月には、マツダから日産にプレマシーがOEM供給されることが発表された。

 その時点では車名は明らかにされなかったが、少なからずキャラのかぶるラフェスタと無関係でないことは容易に想像できた。そして6月、それが現実のものとなり、形としては「ラフェスタ ハイウェイスターのモデルチェンジ」となる。

 オリジナルのラフェスタも“低価格版”という位置づけで残し、「ラフェスタJOY」として継続販売されることになったわけだが、これは予想外だった。価格帯は廉価版の「Jパッケージ」の199万1850円から、上級装備の付く「G」の4WD車の248万3250円(2WD車は226万8000円)まで。ちなみにJOYは179万3400円(2WD)~205万2750円(4WD)となる。

 一連の背景には、日産とマツダそれぞれの事情や考えがあるのだろうが、要するに日産としては、世界戦略できずに販売地域の限られる同カテゴリーのミニバンは数が見込めないため、自社開発よりもOEMとしたほうが効率的と判断したのだろう。一方のマツダにとっては、増産メリットをもたらす話に違いない。

 また、あえてJOYを残したことについては、このクラスのユーザーは10万円~20万円という単位の金額に非常にシビアであり、プレマシーをベースとする車種体系ではJOYほどの低価格を実現できないからと、開発陣は述べていた。

 新型ラフェスタ ハイウェイスターのベース車は、色々な意味でマツダ色が強いクルマだが、こちらは日産車の一員として相応しいよう、その特徴的な部分を薄め、かわりに日産車らしさを与えている。言わば、プレマシーが2代目から3代目になったときに新たに加えられた要素のほとんどを廃してしまったという印象でもある。

 具体的に変更されたのは、ボンネット、フロントバンパー、前後ドアなど。意外にもヘッドライトやウインカー、フロントフェンダーは変更されていない。フロントマスクはベース車がいかにもマツダらしいデザインだったところ、セレナと共通性のあるグリルが与えられた。

 サイドビューは、ベース車では自然界の水や風などの「流れ」の美しさに触発された「NAGARE」造形と表現される特徴的なラインが入れられていたが、ラフェスタ ハイウェイスターではそれをやめた。ただし、NAGAREの起点の形状を活かしつつ、リアフェンダーのラインに上手くつながるようサイドにラインを入れ、エルグランドとの共通性を感じさせる造形とした。

 リアバンパーの形状は共通だが、ベース車ではボトムがブラックのところ、こちらはボディー同色とした。テールゲートにメッキガーニッシュを施しているのも、ハイウェイスターらしさの演出の一環だろう。近年こうしたOEM車が増えつつある中で、ベース車との見た目の差別化は大きいほうと言えるだろう。

 ボディーカラーについてはベース車が全7色のところ、ラフェスタ ハイウェイスターは2色少ない5色とされているが、「ハイウェイスター」のイメージに相応しい専用色「スパークリングブラックマイカ」が用意されているのが特徴の1つ。ちなみに同カラーは、マツダではMPVに設定されている。

ラフェスタ ハイウェイスターではセレナと共通性のあるグリルが与えられたテールゲートにはメッキガーニッシュが施される撮影車はオプション設定の17インチホイールを装着

 ここから先はプレマシーの評価と同じなので、執筆すべき内容に困るところだが、ひとまずベース車の出来が非常によいことは、1年前にすでに確認済み。それを譲り受けることができた日産はラッキーだと思うことを、まずはお伝えしておきたい。

 インテリアはベース車からの変更は基本的になく、優れたユーティリティを踏襲している。このクラスのロールーフミニバンでは、ウィッシュやストリームは後席がスイングドアであるのに対し、旧ラフェスタとプレマシーではもともとスライドドアを採用しており、ラフェスタ ハイウェイスターにも686mmという大きな開口幅を持つ両側スライドドアが与えられている。

ステアリングのロゴマークなど細かな点は異なるものの、インストルメントパネルのデザインなどはベース車のプレマシーと共通となる2WD(FF)車はMTモード付き5速ATを備える
さまざまなユーティリティ性を備える2列目シート3列目シート

 2列目シートは左右独立で270mmものロングスライドが可能で、プレマシーの特徴である2列目の「カラクリ7thシート」は、名前を「フレキシブルシート」に変えて装備されている。

 これらの組み合わせにより、多彩なバリエーションのシートアレンジが可能となっており、使い勝手の自由度は非常に高い。このシートがいかに便利であるかは、使ってみればよく分かる。3列目は広々とまでは言わないが、非常用というほどでもない印象。実用に耐えるだけのスペースは十分に確保されている。

2列目、3列目シートを倒すと広大かつフラットな空間が出現する

 ただしラフェスタと言えば、初代のデビュー当初に盛んにアピールしていた大面積のパノラミックルーフのイメージがあるところだが、プレマシーに設定がないのと同様に、新しいラフェスタハイウェイスターにも設定されなかった。

 カーナビについては、ディーラーオプション品のみが用意されていて、カーウイングスに対応したものがないというのも少々残念。これについて、実はプレマシーにもメーカーオプションの設定がなく、ディーラーオプションのみとなっていて、ちょっと不思議に感じていたのだが、その理由が分かったような感じ。

 ご存知のことだろうが、マツダはG-BOOK系、日産はカーウイングス系という事情があるので、OEMが決まった段階で両車でカーナビにおける優劣がつかないよう、こうした形を採ったのではないかと思われる。

 また、ATのマニュアルモードの操作について、日産では一般的となるシフトアップが「+」、シフトダウンが「-」を採用しているのだが、ラフェスタ ハイウェイスターではプレマシーと同じくシフトアップが「-」、シフトダウンが「+」となっている。これについて、どちらがよい・わるいの問題ではなく、配線にちょっと手を加えて「+」「-」の表示を入れ替えればできる話なので、後者にしたほうが「このクルマは日産車の一員」という主張をより出せたように思う。

 走りについても、今回ドライブして改めて素性のよさを再確認することができたのだが、もちろんそのよさも受け継がれている。とにかくアクセル、ブレーキ、ステアリングのすべてがとてもリニア。ベース車の話をすると、先代プレマシー(2代目)については、少々過度にスポーティな味付けがなされているきらいがあったが、マツダの開発陣は次期モデルの開発にあたり、意のままに反応することを意識したセッティングを心がけたと言う。

 パワートレーンもベース車と同じく、FF車で110kW(150PS)を発生する2リッター直噴エンジンに5速ATという組み合わせで、特筆すべき点がないものの、大きな不満もない。アクセルやブレーキを踏んだときの反応に過敏な印象はなく、至ってリニア。欲を言えば、エンジンフィールがもう少し滑らかであるとよりよいところではあるが、それはベース車ともども今後に期待しよう。

 ステアリングを切ったときのクルマの反応にも過敏なところはなく、クイック過ぎず、応答遅れもない。まさに切ったとおりに曲がるという印象。ステアリングを切ったとおりに曲がるというのは、文字で書くと当たり前のような話だが、本当の意味でこれができているクルマというのは実は少ない。ラフェスタ ハイウェイスターは、その1台と言えるだろう。

 また、アイドリングストップシステム「i-stop」もラフェスタ ハイウェイスターに装備されている。これにより、アイドリングストップシステムをはじめ、クリーンディーゼル、ハイブリッドといった次世代環境技術を備えた日産のエンジン進化型エコカーを指す「PURE DRIVE」の第6弾となっている。

 正直なところ、筆者はプレマシーに対してこれほど万能なクルマはないと感じていた。手ごろな価格、両側スライドドアを備えた適度なボディーサイズ、居住性のよい室内空間と優れたユーティリティなどを有しながら、走りもよく、燃費だってわるくない。このクラスの実用車として求められる、あらゆる要素を詰め込んだクルマである。

組み合わせによってベンチシートやキャプテンシートにできる2列目の「フレキシブルシート」について使い勝手に優れると岡本氏は高い評価
2列目シートの足下およびヘッドクリアランスは充分なスペースが確保されている3列目シートについては「広々とまでは言わないが、非常用というほどでもない」(岡本氏)2/3列目をフラットにすると、大人2名が寝そべることができる

 ただ、従来のラフェスタはデザインがチャレンジングでよかったのだが、好みが分かれるというのも正直なところだった。ところがラフェスタ ハイウェイスターは、より万人に受け入れられそうなデザインも手に入れてしまった。逆に価格については装備の違いもあり、プレマシーの割安感がさらに際立った印象もある。

 ちなみに目標販売台数は、プレマシーが1年前に1800台だったところ、ラフェスタ ハイウェイスターは1200台と控えめ。果たして今後の販売の動向はどうなるのか、なかなか興味深いところである。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 9月 9日