【インプレッション・リポート】
シトロエン「DS4」

Text by 河村康彦


 

 新世代の「DS」は、“レトロ”に未練は残さない──まるで、このDSという名称を耳にするとどうしても「かつての名車」に思いを馳せてしまう人たちの心を見透かし、加えてBMW MINIやフィアット500といったモデルに“宣戦布告”をしたかのようにも受け取れる、そんなフレーズと共に発表されたシトロエンの新しいモデルレンジに、その第1弾である「DS3」に続く2台目が早くも誕生した。今年春のジュネーブ・モーターショーに出展され、半年と遅れることなく日本にも導入の運びとなった「DS4」だ。

大胆な5ドアクーペ
 ネーミングからも察しが付くように、フルモデルチェンジを行って間もない新型「C4」をベースとしたこのブランニュー・モデルは、しかし「C3」に対する「DS3」のように、必ずしもスポーティさだけを狙ったものではないのが、大きな特徴。

 ざっくりと表現すれば、こちらの狙いどころは「SUV風味もまじえた、5ドアクーペ」と言ってよいもの。実際、その全高はC4よりも45mm高く、アイポイントもプラスの33mmと、そのパッゲージングには確かにSUVの風情が漂っている。

 C4に比べるとグンとアグレッシブで、顕示性の強い表情のフロントマスクや、車輪と同心円のフレアが強調された前後のフェンダー。そして、ウインドーシールドからリアウインドーへと滑らかな弧を描いたルーフラインに、後端部で強くキックアップをしたサイドウインドーのグラフィック等々と、そのエクステリア・デザインには、「今回はゴルフに真っ向勝負!」という思いが込められた結果に“実用本位”のデザインが与えられたC4では考えられない、個性的なディテールがあちらこちらに採り入れられている。

 そして、このモデル固有のデザインの最大のハイライトは、リアドアに与えられた。クーペらしさの表現に拘って視覚上“抹消”されたドアのアウターハンドルは、なんと通常であればリアドアの三角窓に相当する場所へとひっそりと移動。しかも、より高いデザイン自由度を求めた結果、そんなドアガラスは開閉機構が省かれたいわゆる“はめ殺し”だというのだ。

 ちなみに、そんな大胆な設計はインテリア側でもドアトリムのデザイン自由度を高め、軽量化に貢献をした上でコストダウンの効果すらもたらすに違いない。コストにうるさい日本の軽やコンパクトカーでも、ここまで思い切った構造を採用した例を他に知らない。これぞまさしく、DSレンジが狙う“大胆な発想”の具現化例のひとつと言えるものだろう。

リアドアのアウターハンドルはこんなところにある

質感の高いインテリアに“隔世の感”
 前述のようにシーティング・レイアウトの違いなどはあるものの、エクステリアの大胆なまでのデザインの相違ぶりに比べると、インテリアのムードはベース・モデルであるC4のそれに準じたものだ。

 というよりも、世に現れる順序としては逆になったものの、基本的に両車で共通のダッシュボードなどは、「そもそもDS4での採用を意識してデザインして来た」というコメントをすでに今度のC4がデビューする段階で耳にしていたもの。新型C4のインテリア・デザインが、見方によってはまるで評価の高かった従来型のそれを“全否定”するかのように変化したことに驚いた記憶があるが、実はそこにはこうした“お家の事情”があったわけなのだ。

 ホイールベース値は同一ながら、カタログ上では新型C4よりも55mm短い全長と20mm広い全幅を謳うDS4だが、キャビンスペースは大人4人が長時間を寛ぐことができる空間を確保。後席でのレッグスペースは際立って広いとは言えないものの、前後方向への使用スペースを“節約”できるアップライト気味の姿勢で着座することもあり、決して窮屈な印象は抱かずに済む。

 ただし、DS4と大差があるのはそんな後席への乗降性で、正直なところこれは決して褒められたものではない。特に、「コンシールド・ハンドル」と称するアウターハンドルを収めた部分のドアのでっぱりが開閉の操作時に顔面を直撃しそうになるのは、「実用性が、凝ったスタイリングの犠牲になった」と認めざるを得ない部分。一方、ラゲッジスペースは「C4よりも容量が10Lのマイナス」というものの、それでも満足の行く大きさが確保されている。

「シック」のインテリアこちらは「スポーツシック」
フロントウインドーがドライバーの頭上近くまで伸びた「パノラミック・ウインドー」。バイザーが前方へ伸びて頭上部分を隠すこともできるラゲッジスペース

 115kW(156PS)エンジンに2ペダルMT「EGS」を組み合わせる「シック」。147kW(200PS)エンジンにオーソドックスな3ペダルMTを組み合わせる「スポーツシック」と、日本に導入される2タイプのDS4は、いずれも右ハンドル仕様。後者では、操作を行わない際の左足の置き場にややタイト感が伴うものの、それでも基本的なドライビング・ポジションに違和感はない。

 Cピラー部分の特徴的な造形ゆえに、斜め後方の死角はやや大きめなものの、フロント・ドアの“三角窓”が効果的に働いて、斜め前方の視界が大変に優れているのは特筆もの。C3ほどの巨大さではないものの、ルーフ側へと伸びた「パノラミック・ウインドー」上方からの日差しをカットするため可動式のサンバイザーを採用するが、そのレールが収められたAピラー上部の太さが、個人的には意外に気になった。もちろんそれは、ドライビングに必要な視界をスポイルするようなものでは決してないのだが……。

 そんなインテリア各部の質感はどこも満足すべき高さで、このあたりはトップランナーであるフォルクスワーゲングループの最近の作品を研究し尽くした感が伺える。いずれにしても、そうした見た目のクオリティという点に関しては「殆ど見るべき部分がなかった」(!)、というひと昔前のフランス車の常識からすると、このあたりはまさに隔世の感アリだ。

期待以上の走り
 前出2モデルのうち、まずは日本ではベーシック・グレード扱いとなる「シック」でスタート。実は、今回の試乗会会場から公道へと乗り出そうという部分には、かなり急勾配の上り坂があった。安全確認のためにそこでは一時停止する必要があるのだが、実は2ペダルMTのEGSは、こうしたシチュエーションこそを最も不得手としてしまう。ブレーキペダルから足を離しても、数秒間はブレーキ油圧を保持して“ずり下がり”を防ぐ機能は搭載するものの、それでも滑らかな発進はかなり難しいのだ。

 トルコンATのような発進時のトルク増幅効果を持たないため、こうしたシーンでは動き出しの力感が薄く、どうしてもアクセルペダルを余分に踏みがちになる。ところが、ひとたびクラッチミートされるとその先は、“MTゆえ”のダイレクトなトルク伝達が行われるため、今度はどうしても過剰な加速Gが現れてしまうのだ。

 動き出してしまえば加速力そのものには全く不満はなく、むしろ「これだったら200PSエンジンなど要らないのでは!?」とさえ思えてしまったほど。ただし、変速時の加速力の断絶は構造上免れず、同じMTベースとはいえ完全にシームレスな変速を実現させるデュアルクラッチATが一般的になりつつある現在では、こちらはどうしても“時代遅れな変速機”の印象が免れない。

 もっともこの一点を除くと、路面への当たりがソフトで、サスストロークもしなやかでタップリ。かつ静粛性が高く、正確でフィーリングにも優れたステアリングを備えるこのモデルの走りには、予想と期待以上の好印象が感じられた。

 

スポーツシックのエンジン

シトロエンとは“走り”のブランド
 そして、そんな「シック」から今度は「スポーツシック」へと乗り換えると、そうした好印象はさらに加速することになったのだ。

 こちらのトランスミッションはオーソドックスなMT。“スコン”と軽い操作感のシフトは、ストロークが大きめでいささか剛性感に欠けるキライはあるものの、狙ったギアポジションを外すことなく確実に決まり、操作そのものも十分に“プレジャー”の一環として含まれる印象。クラッチのミートポイントは掴みやすく、滑らかなスタートを決めるのはむしろ前出の「シック」の場合よりも遥かに容易いもの。こちらにも「ヒル・スタート・アシスタンス」が採用されているので、上り坂発進も敵ではない。

 回転落ちがやや鈍いのが惜しまれるが、パワフルさや低回転域での柔軟性は文句ナシ。同様のユニットながらプジョーRCZ用には搭載されている「サウンド・ジェネレーター」は省かれているというこちらのエンジンだが、それでもアクセルONの際の乾いたサウンドは十分にスポーティでゴキゲン。もちろん、最高200PSを謳う絶対パワーも満足できるものだ。

 あいにくの荒天の中、こちらのモデルでは意を決して(?)のワインディング・ロードにも繰り出したが、そこで驚かされたのは予想と覚悟をしていたよりも接地感が遥かに高く、そんなシチュエーションの中をドライ路面の場合とさして変わらぬ緊張感のままに駆け抜けることが可能であった点。ヘビーウェットの路面にも関わらずトラクション能力は高く、トラクション・コントロールが頻繁に介入するようなだらしない事態には陥らなかったし、こうした状況であれば度々顔を覗かせてもおかしくないはずの、タイトターンでのアンダーステアにも殆ど見舞われなかったのだ。

 ブレーキのコントロール性が今ひとつであった点は、ブースターが左ハンドル用の位置に置かれているためか。しかし、「C4に比べると、背が高く、重心も上がってしまう分だけ、“走り”では不利なのではないか?」という心配は杞憂に終わった。C4用をベースに、スブリングやダンパー、トーションビームやスタビライザーの設定を全面的に見直したというDS4の脚は、なるほど「シトロエンとは“走り”のブランドだ!」と快哉を叫びたくなるほど絶妙なる好印象を味わわせてくれたのだ。

 少なくとも日本では、「シトロエンが“走りのブランド”」と受け取っている人は少数派だろう。しかし、このDS4というモデルに乗ってみれば、今ここで言わんとしていることが決して誇張などではないのは、即座に理解して貰えるはずだ。

 振り返れば、「回らないシフトパドル」に「レブリミットに達すると真っ赤に輝くタコメーター」、「減速Gが発生し始めるまさにそのポイントで、アクセルペダルと高さが“面イチ”となってヒール&トウが極めてやりやすいスポーツシックのブレーキペダルのレイアウト」等々と、実はカタログには現れにくい様々なポイントで「このモデルの開発には、“ドライビングの達人”が関わっている」と思わせる形跡がある。

 そう、DS4の魅力とは、単なるルックス面での個性だけではなく、そんな“シトロエン流儀”が色濃く味わえる走りのテイストにも大いに存在をしているということだ。

 ChicSport Chic
全長×全幅×全高[mm]4275×1810×1535
ホイールベース[mm]2610
前/後トレッド[mm]1530/1525
重量[kg]13601400
エンジン直列4気筒DOCH 1.6リッターツインスクロールターボ
最高出力[kW(PS)/rpm]115(156)/6000147(200)/5800
最大トルク[Nm(kgm)/rpm]240(24.5)/1400-3500275(28.0)/1700
トランスミッション6速EGS6速MT
JC08モード燃費[km/L]11.712.9
駆動方式2WD(FF)
ステアリング
前/後サスペンションマクファーソン・ストラット/トーションビーム
前/後ブレーキベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤ215/55 R17225/45 R18

 


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 10月 11日