【インプレッション・リポート】
オーテック「エルグランド ハイ パフォーマンススペック」「セレナ パフォーマンススペック」

Text by 岡本幸一郎


 メッキパーツを多用した個性的なルックスや、ハイクオリティで精悍なインテリアなどによる独特の雰囲気が大いに受けているオーテックジャパンの「ライダー」シリーズ。

 当初は内外装のみのカスタマイズだったところ、現在では足まわりをファインチューンした「パフォーマンススペック(以下PS)」や、さらにエンジンにも手を入れた「ハイ パフォーマンススペック(以下HPS)」など、走りのパフォーマンスを高めた「ライダー高性能シリーズ」が、いくつかの車種に設定されている。そしてこのほど、ベース車が2010年にモデルチェンジした現行モデルのエルグランドとセレナに対し、エルグランドにHPS、セレナにPSが設定された。

“King of ライダー”に相応しいエルグランド ライダー HPS
 ライダーシリーズの中でも、とりわけベース車に対するライダーの販売比率が高いというエルグランドに設定されたのは、エンジンまで手が入ったライダーHPS。持ち前の押し出し感がさらに強調されたエスクテリアは、まさに“King of ライダー”に相応しい風格がある。もともとフラッグシップミニバンであるエルグランドに対して、まさに「上には上がある」を体現したモデルと言える。残念ながら未登録車のため、公道ではなく広い駐車場に設定されたクローズドコースのみでの試乗となったものの、その実力のほどは十分に伺い知ることができた。

 足まわりは、ベースのライダーに対して1インチアップとなるタイヤ&ホイールを履き、それに合わせてシャシーとボディーを強化するとともに、VDC(横滑り防止装置)を最適化。サスペンションは、スプリングの強化をほどほどに抑え、一方でダンパーの減衰力は強めにというのがオーテック流。PSの特徴の1つである、ヤマハが開発したパフォーマンスダンパーも、先代に続いてこちらにも装着されている。

エルグランド ライダー HPS
足まわりではヤマハ製パフォーマンスダンパーや専用フロントクロスバー、リアクロスバーなどを装備する

 用意された試乗コースは、レーンチェンジやスラロームの試せる個所が設定されていたが、これほど大きく、重く、背の高いクルマにもかかわらず、操作に対してとても一体感のある走り方をしたことがとても印象的だった。コーナリングでは、欧州車でよくあるような、やや前下がりの姿勢になるので、フロントに安定して荷重が乗り、横に逃げる感覚もなく舵の効きは良好だ。

 そして、HPSならではの動力性能がまた魅力的。排気系をリファインし、それに合わせて専用ECUを用意したVQ35DEエンジンは、ベース車に対して20PSアップの300PSを達成。ピークトルクも、344Nm(35.1kgm)から361Nm(36.8kgm)に向上している。このクルマのために設計された効率の高い排気管を装着するため、オイルパンまで専用に作り直したという力の入れようだ。さらに、その性能をいかんなく発揮するため、CVTも専用にチューニング。リニアでスポーティなシフトパターンを追求したと言う。

 限られたコース内のドライブとは言え、十分に速いベース車よりもさらに速くなっていることはよく分かった。まるで全域がパワーバンドのごとくスムーズで力強く加速し、トップエンドまで気持ちよく吹け上がる。コースには、一旦停止して全開加速を試せる個所も設定されていた。このステージではわずかにホイールスピンした直後に、病み付きになりそうな加速感と、より迫力を増した重厚なV6サウンドを味わわせてくれる。

試乗コースはレーンチェンジやスラロームの試せる個所が設定されていた

 さらにCVTのよさも実感できる。それは全開加速よりも、ON/OFFやハーフスロットルでの反応を見るとなお実感できるのだが、絶対的な加速性能だけでなく、過渡領域のフィーリングがまたいい。CVTというのは、一昔前よりもずいぶんフィーリングがよくなったものの、やはりどうしてもレスポンス遅れを感じてしまう。しかし、このクルマにはそれがなく、ダイレクト感がある。そのおかげで、せっかくのエンジンを余すところなく味わうことができるのだ。

 また、オーテックの開発スタッフによると、燃費はベース車とほぼ同等とのこと。ベース車と同じように「ECOモード」が使える点もありがたい。パワーの追求だけでなく環境性能にもしっかり配慮しているわけだ。

 ベース車もそれなりに完成度が高く、魅力あるエルグランドだが、それをさらにスペシャルに仕立てたHPSは、まさに“究極のミニバン”を求めるユーザーの期待に応える仕上がりを見せつけてくれた。いずれ公道でドライブできる機会を楽しみにしたいと思う。

エルグランド ライダー HPSのインテリア

低い乗用車のような乗り味のセレナ ライダーPS
 続いて、セレナ ライダーのPSに試乗した。セレナとエルグランドではユーザー層が違って、セレナの場合はエルグランドのように“究極”を求めるのではなく、もっと現実的で、コストに対する見方もシビアなユーザーが多いとのこと。ちなみに、先代セレナにはエンジンにも手を入れたHPSが設定されていたのだが、チューニング費用に加え、使用燃料がハイオクガソリンになることもあってか、販売的には伸び悩んだと言う。そこで現行セレナについては、エンジンには手を入れないPSのみが設定されている。

 ミニバンの中でもっとも人気の高いセレナは、なにより室内の広さが魅力だが、半面、走りの楽しさにはあまり多くを期待できない。なにせ重心が高く、トレッドが狭く、重量もそこそこあり、ボディー剛性面でも不利と、走る上ではデメリットばかりが目立ってしまう。そこにチャレンジしたのがセレナライダーPSだ。

セレナ ライダーPS

 試乗会会場から近い箱根ターンパイクは、比較的Rの大きなコーナーの続く、ペースが速めとなるワインディングロードだが、そうした道でもセレナPSは走っていて「楽しい!」と感じさせる味があった。重心の高いクルマでは、横転しそうで危なっかしく、コーナリングを楽しむことなどできないものだが、このクルマは見るからに重心が高そうでありながら、そのハンデをあまり感じさせることもなく、もっと全高の低い乗用車と同じような感覚のままコーナーに入っていける。

 こちらもヤマハ製のパフォーマンスダンパー付きで、ボディー各部が効果的に補強されている。そのおかげで、ボディー自体の不要な振動が抑えられるおかげか、荒れた路面を走っても振動が瞬時に収束する。加えて、絶妙にチューニングされたサスペンションのおかげで、ロールやピッチングなどの挙動変化が小さく抑えられており、フラットな姿勢を保つ。これらのおかげで、常にタイヤが路面にしっかりと接地している感覚がある。ベース車では走っていて「楽しい!」という印象は大きく受けなかったが、このクルマにはそれがあるのだ。

「全高の低い乗用車と同じような感覚のままコーナーに入っていける」と岡本氏

 この乗り味を実現する上で欠かせなかったのが、一見ミニバンには不似合いに感じられるスポーツラジアルタイヤをチョイスしたことが大きいとは開発スタッフ談。何種類かのタイヤを試した結果、この銘柄がベストだったとのことで、タイヤを決め、さらにそれに合わせて各部を最適にチューニングしたという。同モデルの購入者は、タイヤを交換する際も同じ銘柄を選ぶべきだろう。

 箱根からの帰路の途中で後席に乗り換えて、K編集部員のドライブで、路面があまりよろしくなく、乗り心地に厳しいと評されることの多い西湘バイパスを通って乗り心地をチェック。実をいうと、先代セレナのPSも運動性能はなかなかのものだったが、乗り心地がやや固いのが少々難点だった。そんなわけで、新しいPSではどうなっているのか気になっていたのだが、今回は乗り心地にもより一層配慮したとのことで、これなら後席乗員から不満が出ることもないであろうと思える仕上がりとなっていた。

 内外装のカスタマイズに加え、走りを求めるミニバンユーザーにとって、オーテックの高性能シリーズは、そんな願いにしっかり応えてくれるコンプリートモデル。新車と同等の保証も付くし、さらに今回、より精悍なブラックラインも選べるようになったことも朗報だ。ベース車に物足りなさを感じるユーザーにとって、こうした魅力的で完成度が高く、そしてなにより信頼性の高い選択肢が用意されたことを大いに歓迎したいと思う。


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http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 1月 31日