【インプレッション・リポート】
アルファ ロメオ「ジュリエッタ」

Text by 岡本幸一郎



 

 2010年春に本国でデビューをはたした3代目ジュリエッタを、初めて日本で目にしたのは、同年夏に東京お台場で開催されたコンクール・デレガンスでのこと。30年ぶりに復活を遂げたビッグネームを冠し、アルファらしい個性的なデザインをまとったジュリエッタを目の前にして、やっぱりアルファはこうでなくちゃ! と大いに感じたものだ。

 そのうち日本に正式に入ってくるだろうと楽しみにしていたのだが、TCTの準備が整わず、なかなか実現しなかったところ、ようやくそのときが来た。

ドイツ車にはない雰囲気
 日本に導入されるのは、直列4気筒DOHC1.4リッター直噴ターボエンジンに6速デュアルクラッチAT「アルファTCT」を組み合わせた、ベーシックな「スプリント」と上級の「コンペティツィオーネ」、伝統の1,750cc(正確には1,742cc)の直噴ターボエンジン+6速MTの「クアドリフォリオ ヴェルデ」という3タイプ。同じ日に発表された限定車は左ハンドルだったが、カタログモデルはいずれも右ハンドルのみとなる。

 ちなみに、これはカタログ等でご確認いただきたいが、装備内容を考えると高価なグレードになるほど割安感があることもお伝えしておこう。

 ボディーサイズは4,350×1,800×1,460mm(全長×全幅×全高)と、前身の「147」に比べるとふたまわりほどサイズアップしており、車両重量も1,400kg~となっているが、いまどきのCセグメントとしては標準的といえる。

クアドリフォリオ ヴェルデ

 「軽快」をコンセプトにデザインされたというインテリアは、水平を基調に、素材感を生かしたシンプルなラインで構成されている。スプリントではカラフルなパネルが選べ、その他のグレードではアルミヘアライン調となる。外観に加え、このあたりの雰囲気はドイツ車にはないもので興味深い。カーナビを選択しても、センターにビルトインされるため後付け感は小さい。

 一方で、アルファというと気になるのが、右ハンドル仕様の仕上がりだ。フットペダルの配置が左に寄っている、左足のすねが当たる、ドライバーの中心に対してステアリングの中心が微妙に右にあるなど、正直なところ違和感がないわけではないが、慣れれば大丈夫かなという印象ではある。ちなみに今後、左ハンドル仕様の要望が大きければ、正式な導入も検討するとのことだった。

クアドリフォリオ ヴェルデのインテリアスプリントはボディー同色のパネルが装備されるラゲッジスペース

 アルファお得意の、あたかもドアノブが存在しないかのようなリアドアも特徴。ドアを開けて低めのサイドシルを越えて後席に乗り込むと、クーペ的にルーフラインがなだらかに下がっているので、ヘッドクリアランスは小さめだが、シート自体はそこそこ大きく、長めに確保されたホイールベースのおかげもあって、成人男性が座るには十分なスペースが確保されている。

 ラゲッジスペースも横幅が比較的大きいスクエアな形状で、350Lというゴルフと同等の容量が確保されている。

スプリント

印象的なステアリングフィールと独特の足まわり
 試乗会が行われた、横浜 みなとみらい界隈を走っていると、なんだか異様な視線を感じたのは、やはりこのデザイン、とりわけフロントマスクのインパクトゆえだろう。車内にいると、それほど奇抜なクルマに乗っている感覚がないのだが、2ボックスの量販車で、これほど周囲から目で追われたのは初めてのことだ。

 ドライブして、まず印象的だったのはステアリングフィールだ。非常にクイックで、切り始めからグンと曲がるさまには少々驚かされたほど。この感覚はとても新鮮で、たとえ一般道の十字路を曲がるだけでも味わうことができる。

 クイックといっても、昔のアルファのようにテールを流して向きを変えるのではなく、リアはどこまでも粘る。リアの安定性に自信があるから、これほどフロントをクイックにできたのだろう。ただし、直進性を確保するため中立付近にはある程度の不感帯が設けられている。

 ライバルもいろいろやっていて、たとえばBMWの「1シリーズ」は可変ステアリングレシオを採用しているが、なかなか完成度は高いものの、可変である部分にどうしても違和感が残る。しかし、可変ステアリングレシオではないジュリエッタのそれは、なんの違和感もなく、直進性も保たれた中で、クイックなハンドリングを楽しむことができる。

 足まわりの味付けも独特だ。乗り心地が柔らかめなのかと思ったら、意外と引き締まっていて姿勢変化は小さく、やっぱり硬めかなと思ったら、路面からの入力があまり衝撃となって伝わらないので、ギャップを越えてもそんなにガツンと来ることもない。高速道路に乗るとピタッとフラットに落ち着き、ハイペースのコーナリングでも、とても安定していて、高速巡航も得意と感じさせる性格も持ち合わせていた。

 ただし、これは装着されるタイヤによって印象が微妙に異なり、試乗会会場で確認したところ、17インチだけでも3銘柄があり、中には硬さやノイズが少し気になるものもあった。

 ブレーキのブースターは左側にあり、ちょっと利き始めがカクンとなるものの、慣れれば大丈夫だろう。乾式クラッチを採用したデュアルクラッチシステムのアルファTCTも、つながりがマイルドで比較的扱いやすい。

大いに目を向けるべき価値のある1台
 アウドリングストップシステムは、かなりよく止まる印象。勾配が5%以上の上り坂で、エンジンが回転しているときには、発進時にヒルホールドシステムが約1秒作動するので、坂道発進も安心だ。

 全車に搭載される「DNA」は、N=ノーマルを基準に、D=ダイナミックを選ぶと、オーバーブースト機能が働き、ディスプレイは過給圧表示になる。A=オールウェザーは、低ミュー路を想定した、マイルドな特性となる。Dにするとエンジンもいくぶん速くなるし、通常は微低速でかなり軽いステアリング操舵力も重くなって、スポーティなドライブフィールとなる。

 そして肝心のエンジンフィールなのだが、1.4リッターターボ マルチエアエンジンは、非力ではないものの、少々パンチに欠ける印象。アルファでなければ、これで十分という話になるのかもしれないが、アルファのクルマらしさに期待する向きにとっては、たとえDNAをDにしても、ちょっと物足りなく感じられるかもしれない。

 その点では、1,750cc直噴ターボのクアドリフォリオ ヴェルデは、3,000rpmあたりからもりもりとトルクが湧き上がり、吹け上がりも気持ちよい。往年のアルファが持っていた、駆り立てるようなエキサイティングな走りにへの期待に応える味がある。1.4リッターに比べて、排気量が大きいぶんパワフルというよりも、もともとこのエンジンに与えられたキャラクター自体がまったく異質という印象だ。

1.4リッターターボエンジン1.75リッターターボエンジン

 こちらは許容トルク容量の問題からか、MTのみの設定となっている。ただし、ギア比の設定が、2速と3速が離れ気味。箱根あたりのワインディングでは、2速では吹け切ってしまい、3速ではついてこないというシチュエーションも考えられる。

 また、右ハンドルのMTドライビング環境はTCTよりもさらに悪化し、ペダル位置が不自然で、フットレストもないので左足の置き場に困る。おそらく左ハンドル仕様では、そのあたりは問題ないはずなので、個人的にはMTで乗りたい人のために、ぜひ左ハンドルをカタログモデルに加えて欲しく思う。

 ところで、もうひとつ印象的だったのが、18インチタイヤを履き、専用スポーツサスペンションが与えられるクアドリフォリオ ヴェルデのほうが、その他のグレードよりも乗り心地がよかったことだ。タイヤの厚みは小さくなっているが、微妙な領域でしなやかにサスペンションがストロークしている印象で、より硬さを感じさせない。16インチ、17インチ仕様と比べても、乗り心地だけでなく、もちろんスポーティなハンドリングの意味でも、18インチがベストセッティングといえるだろう。

 ジュリエッタという名前が与えられたことからしても、アルファ ロメオがこのクルマに賭ける意気込みというのは相当なものに違いない。個性的なデザインや独特の雰囲気、直感できるドライビングプレジャー、実用車としてのユーティリティを、現代的に洗練された中に持ち合わせたクルマである。

 すでにこのクルマに気に入っている人はもちろん、なんとなく興味はあっても、とかくネガな情報も少なくないアルファ車に対して不安を抱いている人にとっても、背中を押してあげたい1台だ。とりあえず、大なり小なり興味を持っている人は、ぜひ早めに実車に触れてみることをオススメしたい。

 あるいは、ドイツ車を愛用してきたが、ちょっと飽きてきたので違った選択肢を考えている人にとっても、このクルマは大いに目を向けるべき価値のある1台だと思う。いつのまにか9割がドイツ車となった日本市場の輸入車Cセグメントにおいて、新しいジュリエッタは、そこに一石を投じる存在となることだろう。

【お詫びと訂正】記事初出時、グレード名を誤って記述しておりました。お詫びして訂正させていただきます。

インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 2月 17日