【インプレッション・リポート】
スズキ「スイフトスポーツ」

Text by 岡本幸一郎



新型スイフトスポーツの誕生を歓迎
 モデルチェンジから約1年、ベース車の評判も上々なようだが、惜しいのはパッと見の印象があまり変わらなかったこと。モデルチェンジした事実を知らない人も少なくなさそうだが、意識の高い多くのファンが注目する「スイフトスポーツ」の動向となれば話は別だろう。あまり変わりばえしないといわれるエクステリアも、数々の専用パーツが与えられて新鮮味があるし、全体のまとまり感もよい。

 それにしても、まだ先代スイフトが現役だった3年前くらいに、「次期(=現行)スイフトにはスイフトスポーツのプランがない」との情報を耳にしたこともあったのだが、こうして出てきてくれて本当によかったと思う。

 今回は箱根の芦ノ湖スカイラインでスイフトスポーツに試乗した。アップダウンに富み、中小さまざまなRのコーナーが連なり、路面の起伏や荒れもそれなりに見受けられるという、“走り”を売りとするクルマを試すにはもってこいの場である。

 まず確認したかったのはエンジンフィールだ。先代(2代目)スイフトスポーツも、同クラスのライバルに比べると十分によかったが、期待値の大きさからすると物足りない気もしなくなかった。だからこそ新型ではどうなっているのか、とても興味があった。

ボディーサイズは3890×1695×1510mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2430mm

直列4気筒DOHC 1.6リッターの「M16A」は、最高出力100kW(136PS)/6900rpm、最大トルク160Nm(16.3kgm)/4400rpmを発生

出力/トルクの向上、重量も10kg軽量化
 スペック的には、排気量は同じ1.6リッターながら、最高出力は約9%アップの100kW(136PS)/6900rpm、最大トルクは約8%アップの160Nm(16.3Nm)/4400rpmと、それぞれ向上している。そして実際にドライブすると、数値の上がり幅よりももっと上がったように感じられたほどフィーリングはよかった。レスポンスがずっと鋭くなり、全域にわたってトルクがあるので、きつめの上り坂でもものともせずに駆け上がっていける。4000rpmあたりからパンチが効いた加速感も先代とまったく違うし、吹け上がり方もより抵抗のない“抜けた”感じになっていた。

 新たに採用されたものとして、樹脂製インテークマニホールドと可変吸気システムが挙げられる。これは、エンジン回転数に応じて吸気管路を切り替え、より多くの空気を吸い込めるようにするためのもの。吸気バルブが開いた瞬間に吸い込まれる空気の圧力がもっとも高くなるよう、吸気管の長さを低回転では短く、中回転では長く、高回転では短くすることで全域でのトルクアップを図るというものだ。さらに、その可変吸気システムによる充填効率を最大限に活かすため、吸気バルブの開閉タイミング制御と吸気バルブリフト量の増加を図っている。

エキゾーストノートは低音の効いたもので、「『ノイズ』は抑えつつ、『サウンド』は出すというニュアンス」で開発されたと言う

 音についても整理されている。開発者によると「音で速さを感じる部分もあるので、静粛性に配慮しつつ、気持ちのよい音を出すことを考えた。品質感を欠くことのないよう『ノイズ』は抑えつつ、『サウンド』は出すというニュアンス」とのことだった。実際、低音の効いたサウンドがスポーティなムードを高めていてよいのだが、実は騒音に関しては法規的にギリギリのレベルらしい。

 ちなみに車両重量についても、全長は90mm大きくなったものの、全体では10kg軽くなったのもありがたい。

 トランスミッションは、従来の5速MTは6速MTへ、4速ATは7速マニュアルモード付CVTに変更された。これまで日本で7割、欧州では実に9割もの比率でMTが選ばれていたとのことで、まずはMTがどんなものか気になるところ。6速MTは、キザシ等に搭載されるものをベースに容量を最適化し、軽量化を図ったもの。シフトストロークはとくに横方向が短く、シフトチェンジ時の吸い込まれ感も心地よい。5速までがクロスしたギア比は箱根を走るにもちょうどよい。6速は巡航用で、今回は高速道路を走れなかったが、100km/h走行時のエンジン回転数は従来の約3200rpmから、約2700rpmに下がっているそうだ。

 余談だが、今回ホイールベースが延長されているのは、衝突安全性への対応だけでなく、この6速MTを収めるために必要という物理的な事情もあったようだ。

 一方のCVTについては、4速ATから7速のマニュアルモード付CVTとなったことで、MT/CVTの販売比率が少なからず変わってくるのではと思うところだが、いずれにしてもスイフトスポーツに相応しい走りが楽しめることに期待したいところだ。

副変速機の存在が気にならないようなチューニングを心がけたCVT
 CVT車に乗ってすぐに感じたのは、標準車のスイフト(CVT)と違って、踏み始めのレスポンスがよい。スイフトでは、副変速機の機構的な制約に加え、燃費への配慮から意図的に初期のレスポンスを落としていたのだが、スイフトスポーツはまったく違う。「これは本当に同じジヤトコ製の副変速機付きCVTなのか?」と思ったほど。

 開発者に聞いたところでは、エンジンとの協調制御を図り、副変速機の存在が気にならないようなチューニングを心がけたとのこと。副変速機付CVTで多少のタイムラグが出るのは宿命と認識していたのだが、そんなことはないようだ。ちなみに、MT車ではクラッチを切ってアクセルOFFにしたときのエンジンのストール性が悪い、つまりエンジン回転の落ちが遅いことが少々気になったのだが、CVTではそれが気になることもない。

 また、できるだけ高い回転域でもシフトダウンできるように専用にチューニングされている。マニュアルシフトの操作を行えるのはパドルシフトのみで、フロアセレクターのポジションはP/R/N/D/Mとなっているが、これも合理的でよいと思う。ただし、高回転が苦手なCVTの耐久性を考慮し、7200rpm~がレッドゾーンになっているもののそこまでは回らず、最高出力の発生回転数である6900rpmあたりで頭打ちとなるような設定になっている。

CVT車のインテリア。ステアリングにはシフトパドルが備わる
6速MT車のインテリア

イメージどおりにラインをトレースできるフットワークのよさ
 そして、フットワークの仕上がりにさらに驚かされた。よく「意のまま」という表現が使われるが、このクルマの走りはまさにそれ。ステアリングを切ったとおりに、余分な動きを出すことなく、イメージどおりにラインをトレースしていける。

 大前提としてあるのは、極めてリアのスタビリティが高いこと。接地性が高く、オーバーステアが顔を出すことはまずない。これに、可変ステアリングによる俊敏な操縦性がピッタリの相性ではまった印象で、ほぼ90度を超えることのない小さな舵角でもノーズが軽快に向きを変えていく。ちなみにMT車とCVT車では前軸重に車検証上で20kgの差があり、実際にもMTのほうがノーズが軽いように感じられた。

 さらに、ツイスティに切り返すようなシチュエーションでも、普通は直前の操作による挙動が残るものだが、1つ1つが瞬時に収まるので、すぐに次の動きに移ることができるところもよい。だからフェイントを使おうと試みても、その操作にすら位相遅れなくついてくるので、よい意味であまりフェイントは使えない。一連の操作に対するヨーモーメントの出方に高い一体感があり、極めて自然に仕上がっている。小さくて軽いという強みこそあれ、重心が低くないにもかかわらず、小手先に頼ることなくこのような走りが実現できていることには驚くばかり。

 コーナリングでは、内輪がちゃんと接地してクルマを曲げようと働いている感覚があるし、フロントの内輪がほとんど空転することがないのは、それだけグリップが確保されているということだろう。

 しかも、今回はこのように限定的な状況下で試乗したわけだが、開発時には欧州に持ち込んで走ったところ、200km/h付近での安定性に若干の不安があったため、そのあたりも徹底的に煮詰めたと言う。日本国内で現実的に遭遇するシチュエーションでは、十二分に担保されていると考えてよいだろう。

 ステアリングフィールも、外乱による影響を受けにくいように感じられた。聞いたところでは、大きな入力によりステアリングがぶれないよう、ステアリングギアボックスのブラケットを、これまで下だけだったところを上下で挟むことで、舵に対するタイヤの動きができるだけ変化しないよう注力したそうだ。

 また、リアサスペンションのトーが動いてオーバーステアにならないよう、トーションビームやサスペンションフレームを補強したほか、ブッシュの動き規制、サイドストッパーの設定、ベアリングのサイズアップなどといった対策を講じている。スイフトスポーツが素晴らしい走りを手に入れた背景には、こうしたいくつもの理由があるわけだ。

タイヤサイズは195/45 R17。専用ホイールは鋳造後にリム部分をローラーで引き延ばし加工を行うことで材料の強度特性を高めつつ、薄肉化を実現。さらにタイヤの軽量化、キャリパーの軽量化などで先代よりもバネ下重量を約9.8kg/台低減したと言う

 従来の195/50 R16から195/45 R17へと大きくなった、ブリヂストン製「ポテンザRE050A」という銘柄やサイズのセレクトも、安定性とスポーツ性のベストバランスにあると思う。乗り心地も「少し固めだが、ファミリーカーとして許容範囲の乗り心地を確保した」と開発者が述べるとおり、それほどガチガチでないところもよい。これには、ダンパー径を太くするとともに、オイルが温度によって特性が変化しにくいものを採用したことも、少なからず効いているのだろう。

 加えて、バネ下の軽量化にもだいぶ注力した。元来、鋳造ホイールは薄くするのが難しいのだが、圧延加工によって軽くするとともに、リアのブレーキキャリパーを従来では鉄の鋳造品だったところを片側で1.5kgも軽くできるアルミに換えるなどしたことで、バネ下はトータルで10kgほど軽くなっている。そのおかげで足まわりはよりきれいに動くようになり、追従性も乗り心地もよくなった。こうして、スイフトスポーツが目指した「しなやかで限界の高いスポーツ」が実現したわけだ。

シートレールも改善
 インテリアでは、専用のスポーツシートが与えられているのは見てのとおりだが、シートの取り付け状態がドライブフィールに与える影響の大きさを再検証したところ、標準のスイフトのシートレールには若干の緩さがあったと言う。こうした細かい点を詰めたところにも、走りへのこだわりが垣間見られるのだ。

 そんなスイフトスポーツのことを、「ご購入いただくお客様に喜んでいただけそうなものは全部入れた」と開発陣は胸を張る。スイフトには「RS」を名乗るスポーティモデルも存在するが、知れば知るほどスイフトスポーツはまったく違った次元で作り込まれていることが伺い知れる。それでいて価格はベース車のXSなどと比べても大差ないのだから、いかにお買い得かということも改めて思い知らされるし、もっと高価な欧州ホットハッチ勢と比較しても上回っている部分は小さくないと思う。

インテリアでは専用のスポーツシートが与えられる

 とにかく、この価格帯の中でこんなに楽しめるクルマはほかに思い当たらない。手の内で操ることのできる感覚と、パワーを使い切って走る楽しさ。そして、ノーマル状態のままでも本格的なスポーツ走行の醍醐味を味わわせてくれるクルマである。


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2012年 3月 6日