【インプレッション・リポート】
マツダ「CX-5」

Text by 日下部保雄



 マツダが満を持して投入したクロスオーバーSUV、マツダ「CX-5」がいよいいよ販売されることになった。試乗会場は箱根。ガソリンおよびディーゼル、それにFFと4WDの各CX-5が試乗に供された。一気に試乗できるのはありがたい。

スカイアクティブ技術をすべて搭載
 CX-5はパワートレイン、シャシー、ボディーのすべてに渡って一新され、操る楽しみにフォーカスしつつ、マツダの考える環境技術に渾身の力で取り組んだ「スカイアクティブ」技術を搭載した初のモデルだ。これまで採用されてきたスカイアクティブ技術は、ガソリンエンジンの「スカイアクティブ-G」と、6速AT「スカイアクティブ・ドライブ」のみで、それも「一部を取り入れた」というのが正しい。

 スカイアクティブのガソリンエンジンは高圧縮比により効率を高め、ディーゼルエンジンは低圧縮比で燃焼をコントロールすることで効率向上を目指しており、エンジンのダウンサイジングが主流の欧州とは違ったアプローチを示している点でも注目される。日本メーカーは分かりやすいダウンサイジングにはいまだ消極的だが、エンジンの技術革新で燃費を改善しようとしていることは重要なポイントになる。

 さらにスカイアクティブはガソリンやディーゼルのエンジン技術に注目が集まっているが、トランスミッションの効率化や、シャシーとボディーの軽量化と剛性の向上、それにサスペンションレイアウトの最適化が伴って、初めて「フル・スカイアクティブ」を名乗れる。エンジンもさることながら、こちらにも大変興味が惹かれる。

CX-5のガソリンエンジン

 さてスカイアクティブ-Gは、ロングストロークの2リッターのガソリンエンジン。圧縮比13:1(欧州仕様はガソリンのオクタン価が違うので14:1)という高圧縮で燃焼効率を高めながらレギュラーガソリンを使用でき、スカイアクティブ-Gとして初めて4-2-1のエキゾーストマニフォールドを採用したために、さらに排出ガスの逆流を防ぐことができて燃焼の自由度は増えている。この他にもマルチホールインジェクター、キャビティ付ピストン、可変バルブタイミングなど採用技術は多い。

 エンジンノイズに関してもっと高周波の音が出るかと想像していたが、乗ってしまうとまったくノイジーな音を看破することはできなかった。エンジンの回転フィールは滑らかで金属的な音はよく抑えられており、できのよいエンジンであることが分かる。

 エンジン出力も比較的低回転からトルクが立ち上がり、4000rpmでピークの196Nmを迎えるが、2000rpmをちょっと回ったところからすでに180Nm以上を出しており、実用性が高く使いやすいパワーユニットだ。瞬発力もあり、2リッターの自然吸気エンジンとは思えないほど活気がある。最高出力は114kW(155PS)を6000rpmで出しており、それ以上まで気持ちよく回ってくれるのは頼もしい。

 組み合わされるロックアップ領域を大幅に増やしてダイレクトドライブ領域を増したスカイアクティブ・ドライブは6速トルコンAT。ワイドレシオの設定で、1速から6速までロックアップしてドライブのダイレクト感と燃費の向上を図っている。このトランスミッションも軽量に作られていることが特徴でもある。エンジンとの相性もよく、フルロックアップでありながら変速時のショックもなく、制御はなかなか巧みである。ただ時として、パーシャルからキックダウンしようとするとショックを感じることもあるが、通常はトルコンATの使いやすさの恩恵に預かれる。

CX-5のディーゼルエンジン

低圧縮でよく回るディーゼル
 一方、ディーゼルのスカイアクティブ-Dは、燃料噴射の制御技術の向上で圧縮比を14:1と低く抑えている。通常のディーゼルエンジンは16:1~17:1くらいが多いので、ディーゼルエンジンとしてはかなりの低圧縮比だ。その結果エンジンの強度を従来のディーゼルエンジンほどは上げる必要がなく、アルミブロックをはじめ、ピストン、コンロッドなどを軽量化することができている。

 さて、日本でディーゼルのイメージがわるいのは、「ディーゼル・ノック」と呼ばれるガラガラというやかましいノイズ、それと真っ黒い煤である。音に関して言えば最新のディーゼルはかなり静かになっている、それ以上にCX-5は圧縮比が低いこともあり、ディーゼルを感じさせない静粛性を誇る。

 ガソリンエンジンと比較すると、さすがにアイドリング状態ではガラガラ音が耳につくが、それでも静かな朝の住宅街でも気兼ねなくエンジンをかけられるマナーのよさを持っている。加速時もディーゼルとは分からないほどだ。以前乗ったプロトタイプでは、アクセルを戻した時にディーゼル・ノックが出ていたが、生産型ではほとんど無視しえるほどに抑えられている。エンジン自体の改良もさることながら、遮音材の適切な配置が功を奏している。

 この静粛性と共に高ポイントなのが振動だ。ロングドライブではノイズと振動が疲労の要因と案るが、CX-5はエンジン振動そのものが小さく、低回転でトルクのあるディーゼルエンジンの特性で、低回転で粛々と走るところはなかなか好ましく、疲労の要素はほとんどない。疲れないクルマである。

 ディーゼルは、ロングストロークの2.2リッター+シーケンシャルツインターボ。最大トルクは420Nmを2000rpmで出している。このトルクは1000rpmあたりから既に200Nmを出しているので、低回転で粘りのあるディーゼルらしい特性だ。しかもターボのタイムラグは現代的なエンジンらしく、少しも感じさせない。ターボをうまく組み合わせると、ディーゼルとの相性はなかなか優れているが、スカイアクティブ-Dもそれを実証している。

 このエンジンの特に美味しいところは1000~3000rpmぐらいだが、ディーゼルにありがちなトップエンドの頭打ち感はない。スカイアクティブ-Dは4500rpmで129kW(175PS)を出しているが、それ以上へも躊躇なく回ろうとするので、エンジンにも伸びやかさがある。ディーゼルの魅力を満喫できる高速クルージングだけでなく、ワインディングロードや市街地でも使いやすい。

安定感のあるコーナーリング
 エンジンに注目が集まりがちだが、スカイアクティブ技術はトランスミッション、ボディー、シャシーまで及んでおり、全部を投入したものがフル・スカイアクティブだ。エンジンとトランスミッション、剛性が高く軽量なボディー/プラットフォーム、それに組み合わされるサスペンションの総称だ。

 シャシーはマツダの得意とするところだが、CX-5ではさらに洗練された。ハンドリングはロールが自然で、ダンパーとスプリングがノビノビと仕事をしている感じだ。コーナリングではロール速度も一定しており、無理にロールを抑制していないところがよい。それでいてよく制御されているので安心感がある。スポーツカーのような機敏さはないが適度にしっかりと反応して、安定感のあるコーナリングができる。高速クルージングはもちろん、ワインディングでも過敏でないステアリングフィールは好印象で、リラックスしてハンドルを握っていることができる。

 操舵力は重めで、もう少し軽くしたいところ。マツダの味付けらしく、他車種も概して重めの設定のクルマが多い。

 乗り心地は路面からの入力をシャシーで受け止め、ショックの吸収は巧みで収束もほれぼれするくらいスマートだ。ゴツゴツした路面からの小さな突き上げはあるが、大きなショックはシャッキと抑え、バネ上の動きは小さくて好印象だ。

 もちろんコーナリング中にギャップにあっても、サスペンションはショックをうまく吸収してくれるので、姿勢安定に優れている。場面によらずサスペンションの能力はなかなか高い。

 FFと4WDの両方に試乗したが、4WDの乗り心地に歩がある。前後重量配分の違いからだろうか。FFも優れた乗り心地であることには変わりはないが、リアからの突き上げ感を若干強めに感じる。タイヤの違いでは絶対グリップではもちろん19インチの225/55 R19がよいが、そのかわり乗り心地には若干ゴツゴツ感が付きまとう。標準装着の17インチ(225/65 R17)はさすがにこなれており、CX-5とのバランスがよい。CX-5の素のよさは17インチで、ハンドリングとデザインを優先するには19インチがベターだ。

 さて4WDのシステムは軽量コンパクト、低フリクション化を目指して開発されたスタンバイ4WDで、前輪のスリップによって後輪に駆動力を伝えるタイプである。FFと4WDの違いはオンロードの走行中はほとんど感じないし、走行中の4WDの引きずり感は全く感じなく、極めてスムースだ。ハンドリングでのFFとの違いは、4WDにやや重さとグリップ感がある程度だ。JC08モード燃費ではFF比0.6㎞/Lマイナスの18㎞/Lを表示しており、実用燃費でも期待できそうだ。

 ディーゼルとガソリンのどちらを選ぶべきかといえば迷うところだ。ガソリンのクリーンさ、ディーゼルの燃費(かつ軽油が安い)、いずれにしてもディーゼルのイニシャルコストが高いために、長距離移動が多いユーザーでなければコストが相殺されない。それでも新しいディーゼルのトルクフルな魅力は大きい。

 さらにFFと4WDの駆動方式まで視野に入るとすれば、都市部で使うにはFFのガソリンで十分満足でき、ロングドライブが多く、季節を問わずに移動することが多いユーザーにはディーゼルの4WDが勧められる。

使いやすいインテリア
 CX-5の物足りないところはズバリ、インテリアにある。デザイン的にはシンプルでスイッチ類の質感も高いが、ソフトパッドを使っているとはいえ、トリムなどの素材感がシャビーだ。

 話がインテリアに及んだので、最初に立ちかえってキャビンに目を向けよう。CX-5のボディーは全長が4540㎜、全幅が1840㎜。これが意外とコンパクトに感じる。前後を絞り込んだデザインの影響もさることながら、ドライバーズシートからの視界がよく、特にななめ前方がクリアに見え、直前視界も開けているのでそう感じるのだろう。

 ヒップポイントの高さは乗降性のよさにも表れる。さらにドライバーの右足がまっすぐに伸びることで、楽なポジションを取ることができる。着座姿勢は極めて自然だ。

 リアシートはレッグルーム、ヘッドクリアランスともにたっぷりとしている。前席に比べるとシート自体は固めで平板だが、その分自由度がある。後席はバックレストを4:2:4で前に倒すことができ、長尺物からかさばる物まで収納は得意だ。またテールゲートの開閉に伴いトノカバーが一体となって開閉するので楽に操作でき、かつ室内側がネットになっているのでラゲージルームで作業中でもキャビンの様子を見ることができ、ここにも気配りが伺える。

 安全にも触れておこう。CX-5はセーフーティデバイスとしてオプションで「SCBS(Smart City Brake Support)」を用意している。これは日本で多い30km/h以下での追突事故の回避を狙ったもので、レーザーセンサーを使って近距離の障害物を認識して自動ブレーキをかけるものだ。

 特徴は夜間、カメラで発見できない場面でも反応するために確実性が高まるというメリットがある。ただし30km/h以上では追従できずに効果はない。このシステムはうっかりの追突に対応したもので、障害物との距離6mで反応してブレーキをかけるため、15km/h以下なら確実に止まれる。

 さらにこのシステムを応用した「AT誤発進防止」制御が注目される。これはクルマ止めからアクセルを誤って踏んで発進しようとしても、直前の障害物をレーザーセンサーが検知してエンジンの出力を制御し、発進できなくするもの。昨今のブレーキの踏み間違いによる悲劇を回避しようというシステムだ。

 SCBSは万能ではないが安価なのが嬉しい。斜め後方にいるクルマを察知するリアヴィークルモニター(RVM)などを含めたパッケージオプションで7万8500円というのは魅力的だ。

 フル・スカイアクティブを搭載したマツダCX-5、なかなか隙がないクルマに仕上がっていた。日本のクルマがどんどん走りの質が向上して嬉しいばかりだ。そしてここまで来たかと感慨深いものがある。

レーザーセンサーで障害物を検知する低速自動ブレーキ「SCBS」。センサーはフロントウインドー上部にある

 


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2012年 4月 16日