【インプレッション・リポート】 BMW「アクティブハイブリッド 5」 |
BMWのアクティブハイブリッドモデル第3弾は、「5シリーズ セダン」がベース。すでにBMWでは、マイルドハイブリッドシステムを搭載した「アクティブハイブリッド 7」や、2つの電気モーターによる2モードのハイブリッドシステムを搭載した「アクティブハイブリッド X6」を市販化しているが、「アクティブハイブリッド 5」のシステムは、そのどちらとも異なる。
■初の右ハンドル設定
535iと同じ直列6気筒DOHC3リッター直噴ツインスクロールターボエンジンに、8速ATに内蔵した1機の電気モーターを組み合わせたシステムを搭載する。スペックは、エンジンが最高出力225kW(306PS)、最大トルク400Nm、モーターがそれぞれ40kW(55PS)、210Nm、システム出力が250kW(340PS)、450Nmとなっており、0-100km/h加速は5.9秒、JC08モード燃費は13.6km/Lと好数値をマークしている。
ちなみに、初めて直列6気筒エンジンとの組み合わせとなるアクティブハイブリッドモデルであり、右ハンドルの設定があるのも初となる。車両価格は850万円也。これはベース車である535iセダンの840万円に対し、わずか10万円の上昇にすぎない。850万円でも高いといえばそれまでだが、ハイブリッド化ほか内容の充実度を考えると、なかなか魅力的だと思う。
ベース車との識別点は、ボディカラーが専用色「ブルー・ウォーター」であれば一目瞭然だが、それ以外では、Cピラーとトランクリッドにエンブレムが装着されるぐらいの違いしかなく、実はフロントグリルが550iと同じになっているなど、小技がいくつかあるのだが、それほど大きく差別化されているわけではない。
インテリアについては、基本的な装備は535iとほぼ同等だが、エンジンとモーターのエネルギーの流れをメーターパネルやインフォテインメント・ディスプレイに表示できるほか、アクティブハイブリッド専用の装備がいくつか与えられている。さらに、エンジン始動前にエアコンを動作させ、室内温度を快適に調整できるパーキング・ベンチレーションが備わるのもアクティブハイブリッドの特権だ。
ハイブリッドといえば気になるトランクルームはどうか? 同車ではバッテリー関連がすべてトランクまわりに搭載されており、96セル、容量675Whのリチウムイオン式の駆動用ハイボルテージバッテリーはトランク前方に、そしてフロア下にエンジンスターターバッテリー、右後方にエンジン補助バッテリーが搭載されている。
これによりトランク容量は5シリーズセダンよりも145L少ない、375Lとなっている。ただし、トランク内の形状は、後端の左右に段差はあるが、横幅はあるので、ゴルフバッグは横向きにもなんとか積めそうなので一安心。前後方向の奥行きはガソリン車よりもだいぶ短いものの、これだけあれば一般的な使用には問題ないだろう。
ちなみに、車両重量はサンルーフ付きで1980kgと、535iセダンよりも140kg重く、車検証には、前軸重970kg、後軸重1010kgと記載されていた。バッテリーの搭載によりリアのほうが少し重くなっているわけだ。
■EVにもなればパワフルな高級サルーンにもなる
いざ走ってみて、まず驚いたのは、駆動用バッテリーの残量が5段階表示のうちの1段階しか残っていないときでも、電気走行ができることだ。バッテリーがかなり残っていないと電気走行はできないと思っていたところ、意表をつかれた。
擬似クリープはもちろんモーターのみに任せられ、そのままアクセルを軽く踏むと、60km/hまで電気走行できるようになっているので、市街地をおとなしく走っているぶんには、想像以上に電気走行する時間が長くなる。
なお、取扱説明書には最大で3.5km、プレスリリースには3~4kmの電気走行が可能と記載されている。
これがたとえばトヨタの一連のハイブリッド車では、せっかくEVモードが設定されていても、ちょっと強めにアクセルを踏むとすぐ解除されてしまうところだが、同車は少々強めに踏み込んでも、モーターのみで発進して、そのまま電気走行が維持される割合が高い。
もちろんバッテリー残量が少なくなったときや、アクセルの踏み方次第ではエンジンが始動するが、その後おとなしく60km/h以下で走っていれば、またすぐに頻繁にエンジンが止まるようになる。
エンジンの始動~停止は極めてスムーズだ。市街地を走っていると、バッテリー残量はほとんど1目盛り付近を指していて、あまり積極的に電気を溜めるというよりも、むしろ上手くやりくりして、少ない残量の中で、できるだけ電気走行しようという制御を行なっているように感じられた。とにかくエンジンが頻繁に止まり、そして止まっている時間が長いことが印象的だった。
一方で、強く踏み込んだときのダッシュ力は相当なものだ。車両重量も大きいとはいえ、エンジン単体での性能も高いので、それにモーターのトルクが加わると、かなり力強く加速する。この加速力もまた同車の大きな魅力のひとつ。アクセルの踏み方次第でEVにもなればパワフルな高級サルーンにもなるという双面性も、このクルマならではだろう。
■ハイブリッドならではのインテリジェンス
反面、スムーズなドライビングという観点では、少なからずクセがあるのは否めず、違和感を覚えた。それは加速時もそうだが、減速時により多く見受けられた。
惰走状態からアクセルオフにすると、まずモーターがオルタネーターのように働き、車両の運動エネルギーを電気に変換するので、思ったよりもカクンと減速Gが立ち上がる。さらにブレーキを踏むと、あるところから通常のブレーキシステムが作動するので、ちょっと減速しようと思って軽くブレーキングし、足りないからと踏み増すと、今度は止まりすぎるといったことが起こる。また、一定の踏力のままでも途中で減速Gが変わることもある。
やはり、加速時も減速時も、途中で何かが切り替わるということには大なり小なり違和感を覚える。このあたりハイブリッド車としての課題を抱えているのは、どのメーカーにとっても同じことのようだ。
エンジンがかかっている状態から減速して停止しようとした場合、完全にクルマが停止する前にスッとエンジンが止まる。このとき空調は、エンジン停止後もしばらく設定温度を維持してくれるので、快適性が損なわれることもない。取扱説明書には、エンジンを停止してから15分以内で、最大6分間の継続作動と記載されていたが、このクラスのクルマにとっては重要な部分だと思う。
そして高速道路へ。巡航していると、どんどんバッテリーが充電されていく。試乗時には平坦な道を10kmたらず走って、5段階のうち4段階目までチャージされた。
100km/h巡航時のエンジン回転数は1500rpm。惰性走行していると、いつのまにかエンジンが停止してコースティングモードとなる。エンジンがドライブシャフトから切り離されているので、エンジンブレーキがかかることはなく、まさに滑走状態となる。
そして、高速を降りて再び市街地を走ってみたところ、バッテリー残量はどんどん減る一方となって、最初に市街地を走ったときのように、1段階目付近となり、できるだけ電気走行しようという制御となった。やはり、そのような制御ロジックとなっているようだ。
「ダイナミック・ドライビング・コントロール」には、「スポーツ+」、「スポーツ」と「コンフォート」に加え、「ECO PRO」モードが設定されている。同モードでは積極的にモーターを利用して燃費を抑える制御となる。
また、カーナビをパワートレインと連動させるという機能を搭載している点も特徴だ。これは目的地までのルートにおける勾配のアップダウンや速度制限を解析して、モーターとエンジンの最適な動作スケジュールを設定するというもの。たとえば、上り坂や目的地の到着に備えてバッテリーの回生充電を管理するほか、下り坂でハイボルテージバッテリーを充電したり、さらには住宅地区ではできるだけモーターのみで走行を続けたり、目的地エリアに到着する直前にエンジンをオフにするなどの制御を行なう。
これについては、どこまでがもともとある制御で、どこからが上記の制御に含まれるのか具体的に分かるものではないと思うが、とにかくより効率的であることには違いない。
今回は、あまりアップ&ダウンのない高速と市街地を半々ぐらい、いろいろなモードを試しながら走行し、オンボードコンピュータには平均速度が44km/hと表示されていたが、平均燃費は11.7km/Lとの表示。300PSオーバーの3リッターターボエンジンを積むクルマとしてはまずまずと思う反面、やはり2t近い車両重量の影響もけっして小さくないようで、もう少し伸びてもよかった気もするところではある。
ちなみにリリースには、「燃料消費量は約15%向上」と記されている。その燃費性能や、BMWのハイブリッドシステムに共感する人にとっては、価格はさておき、このクルマは問題なく薦められる。
反面、前述のとおり、ハイブリッドシステムが複雑な制御を行なっているぶん、いろいろなところに違和感が存在するのも事実。それが許せない人や、ハイブリッドに関心のない人にとっては、あまりオススメできるクルマではないように思う。
とはいえ見方を変えると、その違和感こそハイブリッドならではの、いわば「インテリジェンス」を感じさせる部分でもあり、まさに紙一重。ただ、諸々のことを理解した上でドライブすると、前述の違和感は、むしろ積極的に楽しめるものになるのではないかと思った次第である。
■インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/
2012年 9月 28日