【インプレッション・リポート】
マツダ「アテンザ」「アテンザ ワゴン」プロトタイプ

Text by 編集部:谷川 潔


 マツダの新たなフラッグシップモデルとなる、新型「アテンザ」「アテンザ ワゴン」。11月後半の発売が予定されており、価格やグレード体系について公表され、すでに予約が開始されている。それらについては、関連記事(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20121005_564435.html)を参照していただきたい。

 そのアテンザとアテンザ ワゴンのプロトタイプに試乗する機会を得ることができた。試乗会場は、「TOYO TIRES ターンパイク」で、ここを貸し切って試乗は行われた。

 試乗車として用意されたのは、2.5リッターガソリン「SKYACTIV-G 2.5」、2.0リッターガソリン「SKYACTIV-G 2.0」、2.2リッターディーゼル「SKYACTIV-D 2.2」を搭載したセダンと、2.2リッターディーゼル「SKYACTIV-D 2.2」を搭載したワゴン。SKYACTIV-D 2.2搭載セダンのみ、6速MT仕様で、ほかはすべて6速AT搭載車となっていた。

 アテンザ セダンについては、筑波サーキットで行われた「メディア4耐」の際に見ていたものの、天候のよいターンパイクで改めて見ると、そのラインの美しさが際立つ。同社独自の「スカイアクティブ テクノロジー」とデザインテーマ「魂動(KODO)- Soul of Motion」を全面採用した新世代商品の第2弾となるのだが、SUV「CX-5」と比べても、より際立つラインを描いているのが一目で見て取れる。とくに、メインカラーとも言える「ソウルレッドプレミアムメタリック」のボディーカラーは、光の陰影が深く出る感じもあり、素直に美しいと言えるものだ。

日差しにより美しい陰影が現れるセダン。とくにソウルレッドプレミアムメタリックでは、それが映える印象だ
セダンのインテリア

 ワゴンについては、この試乗会で初めて実車を見たが、リアやサイドから見ても抑揚が十分についており、スタイリッシュなワゴンとして仕上がっている。Bピラー部までの前半はセダンと共通の部品を使っているのだが、それ以降は専用デザインが与えられている。

スタイリッシュなワゴン。ボディーカラーはブルーリフレックスマイカ


ボディー形状セダンワゴン
全長×全幅×全高[mm]4860×1840×14504800×1840×1480
ホイールベース[mm]28302750
定員[名]5
最小回転半径[m]5.65.5

 ボディーサイズなどは、別表の値を見ていただきたいが、セダンが全長4860mm、ホイールベース2830mmに対し、ワゴンは全長4800mm、ホイールベース2750mmとなっており、ワゴンのほうが若干コンパクトなものとなっている。これは、Bピラー以降の異なる個所で差が付いており、セダンは後席を広く取り、ワゴンはラゲッジルームを広く取る。マツダのスタッフによると、セダンとワゴンの使われ方の違いにより、4人の大人で旅行する機会が多いのなら後席がゆったりしたセダンを、2人の大人と子供での旅行する機会が多いのならラゲッジルームが広いワゴンをという狙いだ。

タイヤが正確に接地する感覚が得られるシャシー
 まず最初に試乗したのは、2.5リッターガソリンエンジン「SKYACTIV-G 2.5」を搭載したセダン。組み合わされるトランスミッションは、6速ATの「SKYACTIV-DRIVE」で、駆動方式は2WD(FF)。セダン、ワゴンとも駆動方式は2WDのみとなり、2.2リッターディーゼル「SKYACTIV-D 2.2」搭載車のみ、6速AT以外に、6速MT「SKYACTIV-MT」が用意される。

エンジンSKYACTIV-G 2.0SKYACTIV-G 2.5SKYACTIV-D 2.2
種類ガソリンディーゼル
排気量[cc]199724882188
形式直列4気筒 DOHC 16バルブ 直噴直列4気筒 DOHC 16バルブ ターボ 直噴
最高出力[kW(PS)/rpm]114kW(155PS)/6000rpm138kW(188PS)/5700rpm129kW(175PS)/4500rpm
最大トルク[Nm(kgm)/rpm]196Nm(20.0kgm)/4000rpm250Nm(25.5kgm)/3250rpm420Nm(42.8kgm)/2000rpm
燃料種類無鉛レギュラーガソリン軽油

 ターンパイクの試乗は、大観山からスタートして見晴台駐車場を過ぎ、ほおづき橋手前でUターンするというルートで行われた。アップダウンのあるゆるやかなコーナーを次々に抜ける、主に高速コーナー中心のルートと言えるだろう。

 最初に試乗した2.5リッターガソリンエンジン搭載のセダンは、トルクも十二分にあり、ゆっくりアクセルを踏み込むスタート時でも、急にアクセルを踏み込む急加速時でも、必要とするパワーを導いてくれる。とくに素晴らしいのは、ドライバーのアクセル操作に対する、エンジンとトランスミッションの反応で、加速したいと思ってアクセルを踏み込めば、きちんと加速し、一定速で流したいと思ってアクセルを維持すれば、おかしな変速をすることなく車速を維持できる。これがアップダウンのあるターンパイクでできるのだから、走っていて気持ちがよくなってくる。

 また、AT車では加速したいときにアクセルを踏み込むとキックダウンというローギアへの変速操作が行われ、加速に必要なトルクを引き出す仕組みがある。昔のAT車では、このキックダウンがアクセルに取り付けられたメカニカルスイッチによって行われるものが多く、キックダウンを起こす操作を意識的に行えた。しかし、最近のAT車は、電子化が進んだ結果、アクセルの踏み込み量をはじめとするさまざまなパラメータからキックダウンが行われるため(しかも、モードというマッピング変更機能まであり)、どうしたらキックダウンを起こせるのかドライバー側の学習が必要になっている。

 アテンザでは、アクセルの裏にメカ機構を設けることで、キックダウン操作を明確化。アクセルを踏み込んで行くと、「カチッ」と足応えを得たところでキックダウンが起こるという分かりやすい(人に優しい)操作を実現している。メカ機構は足応えを作るためだけに設けられており、キックダウン動作はアクセルの踏み込み量などを元に発生させているとのことだ。

 2.5リッターガソリンを搭載したアテンザでターンパイクを走っていると本当に気持ちよいのだが、この気持ちよさはステアリング操作に対する、明確な追従性にもあると思う。一般的にFF車の場合、ある程度の高速コーナーになると、ステアリング操作に対して弱アンダーからそこそこアンダーになり、さらにアップダウンが加わると、そのズレがさらに激しくなる。実際の操作では、ステアリング操作に対するクルマの動きのズレを予測しつつ修正を行っていくが、アテンザではそのズレが極めて少ない。

 4輪が正確に接地している感覚があり、ステアリングを切れば切っただけ曲がっていき、路面変化や速度域の変化での影響も少ないのだ。運転する上では、これは安心感につながり、運転負荷も小さい。フロントがマクファーソンストラット、リアがマルチリンクというサスペンション形式となるが、とくに硬められてもいないのに正確なステアリング追従を実現できており、精度の高さを感じる部分だ。ターンパイクを運転しながらも、「長距離ドライブがきっとラクだよなぁ」と思えてくる部分だ。

i-ELOOPのインジケーターは、メーターパネル内に表示される

 また、アテンザではキャパシタを使った減速エネルギー回生システム「i-ELOOP(アイ・イーループ)」が組み込まれているのも、大きな注目点だ。このi-ELOOPは、効率的な発電を行うオルタネータと、電気エネルギーを蓄えるキャパシタから構成される。エンジンの動力を使っての常時発電を廃することで、加速時は100%の動力を使えるようにし、減速時にのみオルタネータが発電してキャパシタに電気を蓄え、それを適宜利用していく。メリットとして、エンジンが発生したエネルギーを加速に100%使えることなどが挙げられているのだが、i-ELOOPのOFFスイッチや非装着車が用意されていたわけでもないので、正直に書くとその違いが分からない。逆に言えば、エネルギー回生を行うクルマにありがちな違和感のある動作はまったくないまま、アクセルを離せば、あっという間にキャパシタが満充電される、という動作をメーターパネル内のインジケータで確認できるのみだ。違和感なく、エネルギー回生が行えるシステムが実現できているということだろう。


どこまでも続くトルク感に感動
 2.5リッターガソリン車の次に試乗したのは、2.2リッターディーゼル「SKYACTIV-D 2.2」を搭載したアテンザ ワゴン。最高出力は129kW(175PS)/4500rpmと、2.0リッターガソリンと2.5リッターガソリンの間に収まるものの、注目はディーゼルターボならではの420Nm(42.8kgm)/2000rpmという最大トルクになるだろう。単純計算で4.2リッター自然吸気のガソリンエンジン相当の最大トルクを2000rpmで発生することになる。

 スタートしてすぐに分かるのが、その圧倒的なトルク感。アクセル全開時では、2000rpmで最大トルクを発生するが、アクセルを少しだけ開けて、ゆっくりスタートしてもそのトルクの太さは明らか。車重は未公表のスタイリッシュなボディーをゆるやかに、そしてスムーズに加速していく。

 このワゴンは6速AT車となるのだが、セダンとワゴンの変速比はエンジンが同じであるならば同様で、2.5リッターガソリンと、2.2リッターディーゼルではファイナル(最終減速比)のみ異なる。順に記せば、3.487(1速)→1.992(2速)→1.449(3速)→1.000(4速)→0.707(5速)→0.600(6速)が前進で、後退が3.960。ファイナルは、2.5リッターガソリンが4.056で、2.2リッターディーゼルが3.804になる。タイヤは、2.5リッターガソリンと同じ、225/45 R19なのでタイヤ外周に変化なく、トルクの差をファイナルで調整してあることになる(同様にセダンとワゴンで変速比に差がないことから、ボディー形状による車重差も小さいと思われる)。

2.2リッターディーゼル+6速AT搭載車のコクピットまわり。レッドゾーンは5000rpmから

 ファイナルで2.5リッターガソリンに比べハイキヤードとなっており、ディーゼルならではの伸びやかなトルクをたっぷり味わえる。とくに、ターンパイクの空へと向かう上り坂で味わえるトルクは、6速ATの出来のよさと相まって、このアテンザ&アテンザ ワゴンでしか味わえないものだろう。グイグイと力強く、また、スムーズに上っていくのは、快感と言ってもよいものだ。レッドゾーンは5000rpm(2.5リッターガソリンは6500rpm)からとなっているが、アップダウンの激しいターンパイクといえども、そこまで引っ張る必要はまったくなかった。

 セダンとワゴンでは、ホイールベース、全長ともワゴンのほうが短くなっている。コーナリング時における、ワゴンの回頭性の高さを感じることはできたが、これがホイールベースに起因するものか、それともワゴンが搭載する2.2リッターディーゼルの重さによる、前輪軸重の違いによるものかの判別はできなかった。大観山の駐車場をターンパイクに向かうと、やや路面の荒れた個所があるのだが、同じ225/45 R19のタイヤなのだが、2.5リッターガソリンを搭載するセダンはやや前輪の通過音がバタつくのに対し、2.2リッターディーゼルを搭載するワゴンはしなやかな通過音がした。フロントまわりの構造はセダンとワゴンで変わりないため、エンジンの差による軸重の違いが現れたものだろう。

 2.2リッターディーゼルを搭載したワゴンの次に試乗したのは、同じエンジンを搭載するセダン、そしてトランスミッションは6速MTとなる。直噴ディーゼルターボ+6速MTは、日本で販売されるクルマとして非常に珍しい組み合わせとなり、待ち望んでいた人も多いだろう。

 SKYACTIV-D 2.2のトルクバンドは広く、アップダウンを伴うターンパイクにおいても頻繁に変速する必要は感じない。1速あたりの守備範囲が広く、3速や4速にして低速で走ってみても、苦しさを感じることはなかった。ただ、個人的には、6速ATのトルクのつながりのよさに比べると、MTであるため変速時にクラッチを踏む必要があり、当たり前だが、その際にトルクの切断が起きる。ターンパイクにおいては、ディーゼル+ATのどこまでも伸びていくトルク感が気持ちよく、MTではクラッチを切る度に、現実に引き戻されるという印象を受けることになった。

 最後は、最廉価モデルとなる2.0リッターガソリンを搭載するセダン。最高出力114kW(155PS)/6000rpm、最大トルク196Nm(20.0kgm)/4000rpmを発生する、2.0リッターの自然吸気エンジンだが、試乗した順番がよくなかったというのが正直な感想だ。アクセルを踏めば踏んだだけ回ってくれる2.0リッターエンジンだが、2.2リッターディーゼル搭載車の後では、いかにもトルクを細く感じてしまう。その後発表された250万円という価格を考えると、詳細な装備内容は分からないものの、ディーゼルとの間に存在する40万円の価格差を十分感じてしまうものだ。ガソリンエンジン搭載車を考えるのであれば、まず、2.5リッターの25S L Packageから検討したいところだ。

 今回試乗したクルマはいずれもプロトタイプであり、量産状態ではないが、アテンザ、アテンザ ワゴンとも大きなインパクトを市場に与えるのは間違いないと感じるほどの出来だった。デザインももちろんだが、その美しいデザインと、気持ちのよい走りが両立していることに驚く。シートもゆったりとしていながら、ホールド性の高いもので、長距離走行にも適していると実感できるものだった。

 アテンザ、アテンザ ワゴンは、どのグレードにおいても美しいボディーが与えられているが、エンジンとトランスミッションの組み合わせによって、走りは大きく異なるものだった。どのグレードを購入する際にも、一度は2.2リッターディーゼルターボ+6速ATを搭載するモデルへの試乗をお勧めする。よい意味で、従来のガソリン車とはまったく異なる走行感覚を得られるだろう。

 なお、アテンザ、アテンザ ワゴンには、マツダ レーダー クルーズ コントロール(MRCC)、前方衝突警告システム(FOW)、車線逸脱警報システム(LDWS)、リアビークルモニタリングシステム(RVM)など多数の先進安全技術が搭載されているが、今回の試乗においてはそれらを試す機会はなかった。新しい価値観をもったマツダのフラッグシップとして登場するクルマだけに、それらの先進安全技術についても、いずれリポートできたらと考えている。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 10月 11日