レビュー
【タイヤレビュー】静粛性から走りまでトータル性能の高さを感じる横浜ゴム「ADVAN dB V552」
2017年10月18日 00:00
- 2017年11月1日 発売
2017年10月13日に横浜ゴムは創立100周年を迎えた。実際のタイヤ開発は1921年(大正10年)だったというから、タイヤの歴史として100周年を迎えるのはもう少し先となるが、いずれにしてもこれまで多くのジャンルに対して画期的な商品を提供してきたことは誰もが知るところだろう。
そんな横浜ゴムが次の100年へ向けて最初にリリースするのが「ADVAN dB V552(アドバン・デシベル・ブイゴーゴーニ)」である(発売日は11月1日)。このタイヤはモータースポーツだけでなく、今ではグローバル・フラグシップブランドとして扱われるADVANの文字を掲げ、走りとコンフォート性能を追求する一方で、dBの持ち味である静粛性に拘っている。今回のタイヤはdBとしては5世代目、ADVAN dBとなってからは2世代目となる。従来モデルとなる「ADVAN dB V551」が登場したのは2009年だったことを考えると、久々のモデルチェンジだ。
なぜこの段階で新たなADVAN dBが開発されたのか? それは静粛性を求める市場がさらに拡大してきていると横浜ゴムが捉えたからだ。プレミアムミニバンユーザーが増加する一方、静粛性やコンフォート性に優れる大型セダンから、どちらかといえばそれらが得意ではない軽自動車やコンパクトカーへと乗り換えるダウンサイザーが増えたこと。さらにはクルマ自体が静かでロードノイズが気になりやすいEVやハイブリッドカーの市場が拡大していることもまた、静かなタイヤが求められると考えられた一因のようだ。
そこでADVAN dB V552が打ち出すコンセプトは、「車内の空気感すら変えてしまうほどの静かさを」というもの。それを達成するためにトレッドパターンは左右非対称とし、イン側のブロックはかなり小さくすることで、路面にブロックが叩きつけられる際に発生する打音を抑制。また、一部のブロックに対してはエッヂ部をツイスト状に面取り加工するツイストエッヂカットを施すことで、ブロック剛性をコントロールしている。一方でセンターには2本のストレートリブを通して直進安定性を確保。アウト側はサイプを非貫通とすることでコーナーリング時の安定性を出している。静粛性と走りをバランスさせようというADVAN dBならではの世界が、トレッドパターンを見るだけでも垣間見える。
また、トレッドを支える内部構造もかなりのこだわりがある。ベースゴムは厚みをサイズごとに吟味し、厚みをシッカリと持たせることでタイヤの振動をコントロール。一般的なタイヤよりも幅の広いベルトを採用したほか、ベルトのエッヂをカバーし、振動を高次元で抑えるサイレント・エッヂカバーも装備。走りに対しても抜かりなく、サイドに対して補強ベルトを入れ、重量級のミニバンでもシッカリと支えるように設計。サイド部の発熱を抑える低燃費サイドゴムも採用している。さらにショルダー形状や溝の配置などもゼロから再設計することで、従来品よりも滑らかな接地形状を実現。偏摩耗を抑制することで、静粛性を長続きさせることに成功。また、操縦安定性の向上にもそれは寄与している。これらの対策によってパターンノイズは10%低減。ロードノイズは32%も軽減したというから興味深い。
コンパウンドについては従来よりも細かいシリカを使ったほか、それを分散して配合することに注力するようになったという。「A.R.T.Mixing」と呼ばれるその新配合技術により、シリカの分散性は11%向上。微小変形領域が柔らかくなり、路面追従性が向上するというメリットをもたらし、結果としてウエット性能が向上したそうだ。
荒れた評価路面での走行
そんなADVAN dB V552の静粛性を確認するため、まずは荒れた評価路面を走行してみる。速度は60km/h一定という状況で、従来品V551との変化を感じてみることになった。まずは新製品のV552で走行を始めると、荒れた路面でも微振動は少なく、入力の柔らかさを感じる。そして静かさが際立っている感覚があった。もちろん、ロードノイズを感じることは感じるが、あくまで低い音質で耳障りなことがない。
後にV551で走行を始めると、明らかに先ほどよりも甲高い音が車室内に入ってくる。乗り心地は硬さがあり微振動が続くほか、タイヤから弾けるような音を感じるところがやや気になる。わずか1dbくらいの差しかないとの話だったが、耳障りな感覚が残るところにV551の古さを感じる。燃費性能を追求したタイヤの場合、軽量化を追求するあまり、こうした弾けるような乗り味と音を感じることが多いが、V551は明らかにその傾向にある。V552は重厚さがあり、高い音が排除されていることが素晴らしいと感じた。
これほどの差があれば、ロングドライブでの疲れなどにも明らかに差が出るような気がしてくる。実際に新旧のタイヤを比較すると、V552のほうが重量的には重くなっているという。軽くせずに、無駄な発熱を防ぐなどのさまざまな対策によって転がり抵抗地を5%以上軽減でき、燃費的にも問題がないという余裕が、乗り心地や振動、そして静粛性を出す方向に活かせたのではないだろうか。
高速周回路でさまざまなクルマに試乗
続いて高速周回路をさまざまなクルマで試乗することに。すると、高速域の直進安定性はシッカリと確保。レーンチェンジをしてみても高荷重できちんと車体を支えている印象があった。これは重量級のミニバンに乗っていても同様の感覚。微操舵についてはスポーツラジアルほどの応答性はないが、荷重が乗り始めればシッカリ感はかなり高い。
これは後に一般道試乗した時にも感じたことだが、深く操舵した時に頼りがいのあるところが安心感につながっていると思えた。静かさだけでもなく、低燃費性能ばかりでもなく、きちんとした走りを提供する。そこを抜かりなく確保したところは、さすがはADVANブランド掲げるだけのことはある。
ウエット円旋回路でのコントロール性
最後に試したのはウエット円旋回路だ。まずはV552で走り始めると、限界域まで操舵感がきちんと残っていることが印象的だった。そこから先のグリップの失い方もマイルドであり、コントロール性は高い。グリップ限界スピードは52km/h。トラクションもなかなかだった。
これを受けて従来モデルのV551はどうか? 走り出すと始めから操舵感がかなり薄く、限界を迎えるとスッとグリップが抜けていく。テールがスライドし始めるスピードが低い割には、瞬間的に破綻を始めてしまう。グリップ限界スピードは46km/h。これほどまでに違うものかと驚くばかりだった。それくらいV552の安心感と限界の高さ、そしてコントロール性能もまた目を見張るものがあったのだ。
飛び道具的なものは一切なく、タイヤをイチから造り直しコツコツと仕上げた感覚のあるADVAN dB V552は、前述したとおり静粛性から走りまでトータル性能の高さが感じられる仕上がりだった。そこに次の100年へ向けてあらゆるジャンルで妥協なき開発をしていこうという、横浜ゴムの意気込みのようなものが垣間見えた。