DIYでクルマいじり
NAOさんのDIYでクルマいじり
第13回:工具で遊ぼう トルクレンチ編・カウル静音化
(2012/12/6 13:54)
ネジを正しく締め付けられる「トルクレンチ」
あれは小学1年のときだっただろうか、電圧や電流を測定する回路計=アナログテスターを初めて買ってもらい、あちこち測りまくって「こんなに楽しい世界があるのか!」と感動したことを今でも鮮明に覚えている。なにしろ、乾電池からいまDC何ボルトを得られるのか、壁のコンセントは本当にAC100Vなのか、この物体の抵抗値はどのぐらいなのか、ロータリースイッチをクルクル回すだけで測り放題という夢のような世界が現実になったのだから(笑)。
テストリードをAC端子に当てる際に手を滑らせて、腕を通して「ブン!」という交流ショックを感じたり、ロータリースイッチの設定を誤って内部のヒューズを「メラッ」と溶かして一晩ヘコむなど、この時代に得た経験は今でも基礎の基礎として役立っているような気がする。
これまで特に説明することなくさまざまな工具類を扱ってきた訳だが、たまには工具にスポットライトを当ててみたい。なお、筆者は事故なく自己責任で楽しめる範囲であれば本来想定されていない工具の活用方法もアリだと考えているので、この点について予め含み置き頂ければ幸いだ。
今回最初に紹介するトルクレンチは、ネジの締めすぎや緩みを防ぎ適正な締め付けを実現してくれる便利な工具で、最も一般的なプリセット型シグナル式トルクレンチは、ホームセンターやカーショップに行けば数千円から手に入れることができ、タイヤ交換など日常整備にはこれで十分だろう。見た目も収納箱も立派な有名ブランド品は数万円で販売されているので、余裕のある方はそちらをどうぞ。
正しく使わないと、宝の持ち腐れに
トルクレンチを使う主な目的は「ネジを正しく締め付ける」こと。正しく締め付けたいのに、設定や使用方法がメチャクチャでは元も子もない(笑)。
今回使用している「プリセット型シグナル式トルクレンチ」を含め、ホームセンターなどで市販されているバイクや車での使用を想定したトルクレンチは、ヘッド部に9.5mmや12.7mmの差込角(抜け止めボールがついた四角い凸部分)が用意されている。ソケットレンチ仕様になっているということは、原理的にソケットさえ用意すればどんなに大きなナットでも小さなナットでも締め付けることが可能な訳だが、そこはドライバーの番手と同様にある程度の使用範囲が決められている。今回使用したトルクレンチの仕様は以下のとおり。
項目 | 内容 |
---|---|
トルク設定範囲 | 30~180Nm |
形式 | プリセット型/ラチェット式 |
差込角 | 12.7mm |
精度 | ±3% |
全長 | 450mm |
質量 | 1.32kg |
トルク設定方向 | 右回転のみ(ラチェット切り替えで左回転使用も可能だが、トルク測定は保証されない) |
トルクレンチのセットには17・19・21mmの薄肉ディープソケットが付属しており、トルク設定範囲からタイヤ交換を念頭に置いていることが分かる。とはいえ、30~180Nm、昔風に言えば約3キロから約18キロまでのトルクに対応できるのだから、さまざまな作業に活用できそうだ。某普通車のホイールナットは規定トルクが9~12kgfm、某軽自動車のホイールナットは5~7kgfm、某サスペンションのナットは約5kgfmで某オイルパンのドレンボルトは約3.5kgfm。設定上限値と下限値付近ではあまり使用しないほうがよいそうだが、これ1本あればいろいろ楽しめる。ちなみに某エンジンのシリンダーボルトは0.8~1.2kgfm、バルブアジャスタナットは0.7~1.1kgfmといった感じなので、エンジン整備に使うためにはもう一回り小さなトルクレンチが必要となる(※数値はあくまで例えばの話しです。実際に整備する際には、メーカー規定トルクを必ず確認してください。1kgfm = 100kgfcm = 9.80665Nm)。
プリセット式のトルクレンチは、予め設定したトルクに達すると「カチ!」という音を立てて、設定値になったことを教えてくれる。だが、ここでもう一度力を入れ直して「カチ!」とやってしまうと、若干ではあるが締めすぎ状態になってしまう。返事とカチ!は1回でよいのだ。もっとも十字レンチを足で蹴飛ばして締めていた時代を考えればカチ!の1回ぐらい誤差なのだが(笑)。
締めすぎはハブスタッドボルトが折れる原因になるため、規定トルクで締め付けることを心がけたい。もちろん、エンジン内部など高精度が要求される部分でカチ!カチ!おまけにカチ!は厳禁だ。
取り扱いは丁寧に
格安ドライバーをストックしておいてハンマー叩き用に使うといったケースはままあるが、安価なものでも数千円はするトルクレンチを使い捨てにするのは現実的ではない。おまけにトルクレンチは精密測定工具であり、乱暴に扱ってしまうと一発で壊れ、ただの太いラチェットレンチに成り下がってしまうのだ。
トルクレンチ これだけはやめておこうシリーズ]
冗談はともかく、パッケージや説明書に書かれた正しい取り扱いをしないと、精度が悪化したり壊れたりする可能性がある。例えば逆向き使用で当初精度±3%のトルクレンチが精度±6~10%に落ちてしまうといったことがあるそうなのだが、±10%の精度など使い物にならん、誤用は許せない!と考えるか、まあ±10%確保できているし、そういう使い方も楽しいのではと考えるか、ここもまたDIYの楽しみどころということで。もちろん精度は高いに超したことはないので、必要があれば定期的にメーカー校正に出すのが良いだろう。トルクレンチの校正費用は1回あたり5000円から1万円前後だそうだ。
筆者のように工具とつきあう人もいれば、正攻法の人もいてなかなか奥が深い工具の世界。機会があれば工具メーカーを訪ねて、さまざまな部分を聞いてみたいと思っている。
※重要※ 言うまでもなくクルマは命を乗せています。筆者もおふざけ山盛りで楽しみつつも、必要があればもう1つ同種の工具を買い増す、近所の馴染みディーラーですぐダブルチェックしてもらうなど安全面は十二分に配慮しています。実際に作業される際は、万が一にも事故にならないよう十分な配慮をお願いします。無理無謀な作業を推奨する意図はまったくありませんし、工具は取扱説明書をよく読んで正しく使用してください。
SI単位に慣れなくちゃ……
一昔前までトルクは「○kgfm」と表記し、「トルク○キロね~」と言うのが普通だった。が、しかし、1993年に新計量法が施行されSI単位=ISO国際規格表示が導入されたため「Nm」で表記されることになった。クルマのエンジン性能も「280PS/6800rpm、40.0kgfm/4400rpm、うぉ~、すげ~」と言っていたのが、いつの間にか「206kW/6800rpm、392Nm/4400rpm、うん、速そうだね」といった表記に切り替わり、筆者のように違和感があるというかピンと来ない方も多いのではないだろうか。
慣れ親しんだ1馬力=1PSは、0.7355kW、トルク1kgfmは9.80665Nm。馬力の定義は英馬力、仏馬力など国毎に微妙に異なるし、ハイブリッド車が一般的になってきて出力をkW(キロワット)で書いたほうが合理的なのもよく分かるのだが、やはり73.55kWと言われるよりも100馬力だ!と言われたほうが力強そうに感じるのは、オッサンのノスタルジーなのだろうか(笑)。
前回号の補足説明とお詫び
前回号(第12回)でサスペンションマウントのナットについて「トルクは5kg程度だった」と書いたのだが、新計量法に基づいて表記すれば5kgfm程度ではなくて50Nmということになる。トヨタディーラーに確認したところこのナットの規定締め付けトルクは約50.0Nm (資料では510kgcmと表記)で、トルクとしての表記が不完全だった。
また、文中プリセット型トルクレンチを逆転させてトルク測定しているシーンがあったが、その際に多少精度は落ちるものの逆転できる器具を使用したこと、誤用だが敢えて参考数値を測ったことについて丁寧に説明していなかった。上記二点について、この場を借りてお詫びしたい。
筆者は両振り測定できる、または保証外だが両振り測定“できてしまう”プリセット型トルクレンチであれば、誤用ではあるが締まっているナットのトルク確認も一応できると経験上考えている。例えば10kgfmで締まっているナットは、逆転1kgfmでカチ!2kgfmでカチ!3、4...8、9kgfmでカチ!9.5kgfmでもカチ!10kgfmでヌルッと緩む(もちろん固着していない場合だ)。改めて実験してみたが、何度やってもちゃんとした数字で測れてしまう。もちろん同じナットに対して何度もやればちょっとずつ緩んでしまうかもしれないし、機種によっては一発で壊れるかもしれない。そういった意味で、記事での紹介は適切ではなかった。メーカーが推奨する使い方ではなく、筆者独自の経験則を盛り込んだ使い方になっている部分もあるので、まずは説明書を読んでから使ってほしい。
そして静音化の虫が騒ぎ出す
前回、フロントサスペンションナットを取り外すためにカウルトップベンチレータルーバはじめさまざまなパーツ(以下まとめてカウルと表記)を取り外した訳だが、ダッシュパネルの下のこの空間は以前に乗っていたミニバンの騒音対策でかなり重要だった場所だ。現在の愛車ではとくに必要性を感じていなかったものの、一度見てしまったからには静音化の虫がウズウズと騒ぎ出して止まらない。ドアのデッドニングで使用した部材を流用して、カウル/ダッシュボード裏側の静音加工をしてみよう。
エンジン付近は、当然いろいろと配慮が必要です
音楽計画に同梱されているものをはじめ、制振/防音/吸音素材はどれも高い性能と優れた耐熱性を持っている。もともとドアなどでの利用を想定した商品なのでエンジンルームでの使用は保証されていないが、素材製造元のWebサイトなどで調べると以下のデータが書かれている。
材料 | 温度 | 備考 |
---|---|---|
ポリエステル繊維ニードルフェルト(モコモコの布状) | 耐熱温度 150℃ | 難燃性 |
シンサレート(白い綿状) | 耐熱温度 120℃ | 難燃性 |
アウターパネル用制振シート(灰色のシート) | 耐熱温度 90℃ | 難燃性 |
エプトシーラー(黒いスポンジ状) | 耐熱温度 90℃ | 難燃性 |
レジェトレックス(銀色のシート) | 耐熱温度 80℃ | 難燃性 |
耐熱温度が高くても熱によって粘着が弱まって剥がれるおそれには注意が必要だが、場所さえ選べば何の問題もなく性能を発揮してくれる。また、筆者はエンジンルームに制振材ベタベタ貼りまくりのクルマ4台で6回の車検を通し、問題なく合格できている。検査官にも質問してみたのだが、難燃性素材だと確認できていれば特に問題ないが、脱落など事故の原因になる可能性がある場合は撤去を指導するとのことだった。
また、雨水が触れる部分にニードルフェルトなどを詰め込むと濡れて腐るのではないかという心配があるが、以前に乗っていたミニバンで雨が入りまくるタイヤハウスにニードルフェルトを満杯に詰め込んでいたが、5年20万km走って手放す際に確認したところ湿気ってはいたが特にカビもなければ腐ってもいなかった。
雨で濡れても晴れれば乾き、湿気についてもエンジンの熱気などで乾いてあまり問題なかったようだ(もちろん筆者や編集部が保証する訳では無いので、試す際は例によって自己責任ということで)。さて、カウル部分の静音化もできたし、ここまでやったらフロアもまるごと静音化してみようかな……。