騙されたと思って、チャンスがあれば女性にもぜひ試乗してみて欲しいです。乗り心地もちょっと硬め系だけど悪くはなく、動きは軽快。速く走らせなくたって、運転の楽しさが感じられるはずですから……

　「水平対向エンジン・後輪駆動・極限」＝「Boxer Rear-Wheel drive Zenith」がスバル「BRZ」の名前の由来なんですね。水平対向エンジン＋4WDでさまざまなスポーティモデルを世に登場させてきたスバルが、FRのスポーツカーづくにり挑んだことはとても新鮮であり、興味深いことです。

　「トヨタと一緒にやらなければ、ウチだけで1台の全く新しいスポーツカーを造るのは無理でした」とスバルの開発者は言い、「スバルがパートナーだったからこの軽量で低重心の小型FRスポーツカーを造ることができた」とトヨタの開発者も言います。例えばアウディとランボルギーニがエンジンやトランスミッション、ボディーなどのユニットを共有してR8やガヤルドを作っても、できあがったスポーツカーは別モノです。そういう意味で、類似ケースが思いつかない2社の共同プロジェクトは新しい。

　「これでいくら儲かるか」なんてことを考えなくていい私が無責任に言わせていただくと、車名こそ異なるもののこの“軽量で低重心の小型FRスポーツカー”が世界でどれだけ注目されて売れ、影響を与えることができるのか。日本人としては頑張ってほしいと思うのです。いい人ぶって聞こえるかもしれないけれど、そのくらいの規模で考えないと両社の熱いスポーツカー魂は浮かばれない。

　ところで先日、ツインリンクもてぎのサーキットを利用した特設コースで、BRZの試乗をさせていただいたところ、R8とガヤルドほどの違いはないものの、BRZと86ではやはり乗り味に微妙な違いがあるようです。最終的なチューニングで、両メーカーの乗り味に違いを出しているんですね。例えば「サスペンションのバネレート（数値）は両社の取り決めで非公表」とのこと。そういう秘密があったっていい。そのくらいがオモシロイ。

バネレートなどの数値は非公表。そういう秘密が両車にあってもいいですね。ちなみに両社の開発者の方たちはもちろん知っているわけで、一般には“ナイショ”なんです	水平対向エンジンとD4-S（直噴）の融合によってできたエンジンは、高出力と環境性能の両立が図られています

　その面白さをちょっとオーバーに例えると、ポルシェとBMWみたいな感じか？（エンジン搭載位置は異なりますが）　86とBRZが“まるでポルシェのよう”とか“まるでBMW”と言ってるわけではないので、ご注意ください。乗り味の違いを例えているだけです。

　ポルシェとBMWという例えが思い浮かんだのかと言えば、86は後輪駆動モデルらしさがより強く、ともすればオーバーステア傾向になりやすいところが面白く、その分VSC（横滑り防止装置）のマネージも効果的に感じられます（2段階あり、かなりキッチリ制御してくれます）。ポルシェっぽいと例えたくなったのは、前回、女神湖で体感したポルシェ911 GT2の挙動が忘れられないから……。ハンドル操作と後輪駆動が直結しているような、リヤタイヤでグングンと曲がっていく楽しさがクセになる感覚に似た動きが86には感じられます。

　対するスバルはリヤのスタビリティが高く、けっこう踏ん張りが利く。FRと言っても安定感が印象的だったので、例えるならBMW。走行中、オーバーステアな状況が顔を出す頻度が極めて少なく、ガツガツと減速→ステア→加速を繰り返して走っても安定感が高く、VSCの介入もほとんどなし。走っていくうちに徐々に高まる安心感とともに気持ち良く、楽しくBRZを走らせることができました。

　個人的な好みから言えば、17インチのタイヤにトルセンLSDが装備されているほうが、より無難に楽しめそう。乗り味にもよりリッチ感が出ていますから、女性にもおススメです。自分でアレコレとチューニングしていこうと思うなら、話は別ですけれど……。

　トヨタファン、スバルファンをのぞけば、どうしても両車を比べてみたくなるもの。見た目では両車は主にフロントまわりに個性を与えています。その点で言えば、86はまだ超チョイ乗りしかできていないので、タイヤサイズ違いや仕様の違いでどんな異なる印象が得られるのか、86の試乗チャンスがますます待ち遠しくなりました。

【お詫びと訂正】記事初出時、「トラクション」という用語を使いましたが、トラクションは駆動する力を表すものであり、「スタビリティ」（安定感）と表記すべきところを誤っておりました。お詫びして訂正します。