自動車博物館はお好きですか? 私は古いクルマのカタチが好きですし、そのモデルが生きてきた歴史を辿り、さらに想像を巡らせながら見るのも好きで、どちらかと言えば性能はその次かもしれません。
クルマの歴史は人の歴史。人々が育み積み重ねられたヒストリーが好き。活躍ぶりやその性能を知ると「偉かったんだね~」と少し上から目線で愛おしく見られるものですが、とにかく歴史のある芸術品を見るようにクルマを見て歩く時間は私にとって“恍惚のとき”なのであります。人によりいろんな価値観があってよいものですよね?
PSAオルネー工場(パリ)の敷地内に、シトロエンの「コンセルバトワール」はあります。コンセルバトワールとは、フランスの文化遺産や自然遺産を管理し文化的遺産を保存する特定の公的機関や組織を意味します。「のだめカンタービレ」でのだめが通っていた音楽学校もその1つでしたが、あまりわかりやすい例ではないかもしれない?(笑)
シトロエン コンセルバトワールの外観。約500台のコレクションのうちの約300台がここにあるのだそうです ただしこちらは一般公開をしていないシトロエンの博物館……というか、広い小奇麗な倉庫にクルマをキレイに保存している“保管庫”という雰囲気。それは私にとっては、博物館以上のパラダイス感がありました。今回は一般公開されていない場所だけに、とにかくどんなクルマが展示されていたのかを重視し、私が撮った沢山の写真を整理して載せることにプライオリティを置いています。そこで「私の話はどうでもよろしい……」という方がいらして当然です。
ただ、こちらが博物館らしくないおかげで味わえるパラダイス感だけはお伝えしておきたい。歴史ある一企業の凝った展示(それはそれで素晴らしい)ではなく、むしろシトロエンが大好きなコレクターの、保管庫的なムードに共感と感動を覚える場所です。
エントランスに展示されたミニチュアカーやシトロエンにまつわる芸術作品、ポスターや看板、トロフィー、エンジニアのユニフォーム、プロトタイプのエンジン。そして保管庫のドアを開ければプロトタイプモデルも含むクルマがギッシリと並んでいる。おかげで私は立派な博物館の展示よりも豊富なアイテムの数々に“同類愛”を感じることができたのです。
展示車両は本当にどれも貴重で、国内外のイベントに出かけていくこともあるそうですが、こちらが一般開放されていないのは、博物館として運営するのは容易ではないから。いつか博物館が建てられたらいいなぁと思うのは私だけではないはずです。しかし博物館の倉庫が楽しいことを知るマニアもいるはずです? そんな気分で眺めてみてください。写りのわるい写真もありますが、どうかお許しを……。
案内してくださったDenis Huilleさん。肩書きは「Pesponsable Patrimoine Historique Direction Marketing and Communication」。“歴史遺産責任者”というのが日本語表記になるようですが、ここが自動車博物館ならここの主任学芸員という立場になるのでしょうか 入口にあったオブジェ。フランス人芸術家Emmanuel ZURINIの作。彼のクルマ関係の作品の評価はかなり高いみたい シャルル・ドゴール空港近くにあるPSAオルネー工場はフランスに2番目に大きな工場で現在は主に「C3」が生産されていますが、間もなく閉鎖が決まっているのだとか。この一角にあるコンセルバトワールの移転予定はないそうです エントランスから始まるさまざまな展示。創業者アンドレ・シトロエンや、「2CV」の生みの親であり、戦前戦後のシトロエンの経営難を救ったピエール・ブーランジェの像、「DS」などのデザイナーであるフラミニオ・ベルトーニの写真などもあります 1951年(直列6気筒)や1965年(V型6気筒)など、DS向けに開発されたエンジンのプロトタイプなどもズラリと並んでいます。エンジンの上の潰れたクルマはDSで、これもアート作品なのだとか 空冷水平対向6気筒エンジンのプロトタイプ(1948年) シトロエン誕生90周年を記念して造られたオブシェは、シトロエンのミニチュアカーで“90”を形作っていました。左右の棚も含めミニカー好きとしてはたまらない~ 保管庫のドアの上には90周年に用いられたのであろう看板があり、マークの変遷を見ることができました ドアを開けると……1919年に販売開始された「タイプA」から、近年のモーターショーに展示されたコンセプトカーまでが、スペースの許す限り展示されているという雰囲気 クルマの後に見えるレトロな看板は当時、フランスの街中の道路標識と広告を兼ねていたのだとか。シトロエンとミシュランがやっていたのだそうです 「B2 キャディ・スポーツ オープンツアラー」(1923年) 1928年に子供向けに製作されたトイカー「シトロエンネット」。電気自動車でした 「ロザリー」(1936年)。ロザリーのエンブレムは、ロザリーがまるでスワンが湖上を進むような乗り心地と優雅さを持つことからそれを表現しているのだとか 「トラクシオン 11BL サルーン」(1939年) 左は「B2 ハーフトラック」(1922年)。アルジェリアや西アフリカなどへ探検に出たモデルだそうです。右は「ハーフトラック タイプP19 b」(1931年) 戦前に造られた2CVのプロトタイプ。このプロトタイプが貴重なのは、戦時中、ドイツにこのクルマや設計図が渡るのを恐れて、それまでに造られたモデルはすべて壊されたと言われていたから。1990年代に発見されたそうです キレイにレストアされたプロトタイプの「タイプA」(1939年)。これ以外のプロトタイプはあえてレストアせず保存されているそうです 2CVとトイカー。こういうモノもコレクションされているのが嬉しい 2CVの助手席には卵を入れたバスケットが。「農道を走っても卵が割れない」をイメージさせる展示が可愛かったです 初期モデルの紹介をしてくださっているHuilleさん。前開きドアだったことを説明中…… 「2CV 007ジェームス・ボンド」(1981年) DS19は1967年にフロントパートのデザインが変更され、「DS21」に。同年のパリサロンに展示 「DS21 プレステージ」(1972年)。DSは1971年にウエーバーのキャブレターから電子制御燃料噴射に変更。自動車メーカーとして初採用したのだとか 「パナール 24CT プロトタイプ」(1967年)。1890年代から自動車を生産していたフランスの老舗メーカー「パナール」は、1955年にシトロエン傘下に入り、1965年には完全に吸収され、1967年にはパナール・ブランドのクルマは消滅。このパナール24のプロトタイプモデルは、DSのエンジンやシャシーを用いてシトロエンのエンジンニアであるW.Becchiaが造ったもので、貴重なのでは? 「アミ 6」(1963年)勉強不足の私はシトロエンにこんなおブスなお顔のモデルがあることを知らずに生きてきました。いや、正確にはアミ6ってこんな顔してるんだ……と。不思議なのですが、見慣れるとこの個性がとても魅力的に思えるのが不思議なモデルでした 「MEP X27」(1972年)。さまざまなレーシングカーの展示もあった中で、唯一のフォーミュラマシンでした 「ヴィザ ミルピステ」(1984年)。グリル上の2つのダブルシェブロンが意味するのが、4×4モデルだったのだとか 「BX 4TC」(1985年)。グルーブBマシン。こちらもダブルシェブロンが2つで4×4 「BX16 TRS」(1982年)。実車のみならず、プレゼン用のモデルも大事に保存されており、そういうモデルを見るほどマニアックな収集ぶりがうかがえて楽しい C1のレース車輌。小っちゃいのにカッコよかったな……