【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第35回:2レース開催だった十勝戦はまさかの2戦連続リタイヤ。今の思いを綴る

 北海道遠征はまさかの2戦連続リタイヤ……。愛車は他車との接触によって壊れ、いまガレージでバラバラになっている。こんな結末になろうとは想像もしていなかっただけに、いま心は完全に折れている。

 GAZOO Racing 86/BRZ Race 十勝大会は、前例のない2レースを行なうというものだった。土曜日に開催される1レース目は、通常どおりの予選と決勝が行なわれるが、決勝レース中のファステストラップが翌日に行なわれる第2レースの決勝グリッドとなる。使えるタイヤは6本まで。戦略を立てるのは実に難しい。

 十勝に旅立つ前、そのレースを制すために準備はいつも以上に万全を期した。クルマに負担をかけないよう陸送会社にクルマを託すことを決意。コストが増すことは仕方がないと割り切った。レース前のシリーズランキングは2位と同ポイントの3位。優勝を手にすれば一瞬で順位アップすることができるだけに、妥協したくはなかったからこその決断だった。

十勝に旅立つ前にいつも以上に万全を期すため、明け方まで走ってタイヤを最善の状態へと仕上げた

 タイヤに対する準備も怠らなかった。陸送会社にクルマを託す直前、レースで使うためのタイヤを仕上げるために徹夜で走り、タイヤを最善の状態へと仕上げた。眠い目をこすりながらタイヤ交換をし、レースで使うための6本をすり減らしたのである。

 その甲斐あって、レースは車検も問題なく通過。岡山大会であったいざこざはとりあえず回避できた。だが、今回の車検でもタイヤの問題で車検落ちした車両が何台かあった。素人目には何がOKで何がNGなのかは分かりにくい。クラブマンシリーズも、プロフェッショナルシリーズと同様に新品タイヤでスタートするルールに変更すべき時が来ているような気がする。

金曜日の練習走行は雨だった

1回転スピン後にリタイヤ

予選は3番グリッド。装着するブリヂストン「POTENZA RE-71R」の持ち味であるロングディスタンスのよさがあれば、優勝を狙える位置だ

 第1レースの予選はまずまずの手応え。予選は3番グリッドを確保した。トップ2台はライバルメーカーのタイヤだが、レース後半は熱ダレが予測される。ブリヂストン「POTENZA RE-71R」の持ち味であるロングディスタンスのよさがあれば、優勝だって十分に狙える位置だ。

 スタートをまずまずの状態でこなし、トップ集団とともに周回を重ねていく。前後のタイヤがうまく温まりバランスが取れてきた終盤、ここがファステストラップの取り時だという段階でアクシデントは発生した。すぐ後ろを走っていたクルマを接触しながら抜いてきた5番手を走っていた選手が、僕の背後までやってきたのだ。その後、僕が最もラップをまとめていたところで、ヘアピンの進入でリアバンパーにヒット。クルマはカウンターステアを当てるほど横を向き、結果として自身のファステストラップはレース全体の3番手で終わった。それと同時に、前を行く2台は完全に離れてしまった。いま思い返しても本当に腹立たしい。

 こうなれば後はその選手との一騎打ち。ぶつけられているだけに、絶対に前に出したくはない。先ほどの接触時には手を上げて詫びを入れてきたことをルームミラーで確認していただけに、2回はないだろうと高を括っていた。だが、2度目が起きたのだ。4コーナー進入でインを突いてきたところをこちらもブロック。2台の意地の張り合いは、こちらが飛ばされるという形で幕を閉じた。結果として僕は1回転するスピン。クルマはABSのチェックランプが点灯してしまったために、ピットに戻ってリタイヤとなった。

 クルマを見ればバンパーやフェンダー、そしてホイールが曲がり、それなりのダメージを受けているように見受けられる。レース後にリペアエリアでハブベアリング交換とアライメントチェックを行なって応急処置を施した。これで第2レースも無事に出走できそうだという見通しがその時はついていた。

 その選手のクルマもリペアエリアにいた。フロントまわりを左右ともに凹ませているが、角を当てているからそれほどのダメージはないようだ。それにしても同じレースで僕に2回、他の選手に1回の合計3回の接触とは。

 結果として、第1レースでその選手はペナルティを受けて順位降格となった。ペナルティポイントが発動されるのは、次の大会の富士でとのこと。十勝は1大会2レースという扱いだから、ペナルティポイントを即座に2レース目に展開できないと主催者は言う。件の選手は第1レースでファステストラップを記録しているため、第2レースではポールポジションからのスタート。順位降格まで受けている選手が第2レースでそのままポールスタートとなるルールには、自分の気持ちとのずれを感じた。

レース後にリペアエリアでハブベアリング交換とアライメントチェックを行なって応急処置した

「どこかがおかしい」

 翌日に行なわれた第2レースのスターティンググリッドは、かなり残念なものだった。3番グリッドにクルマを止めれば、目の前にはその選手がいるのだから……。何とかして抜き返してリベンジをとも思うが、そんな精神状態でレースに挑まなければならないこのルールはどうにかならないのだろうか? そんなことを思いながらレースはスタートする。

 クルマがどうも万全な状態ではないことがスタートの瞬間から理解できた。トラクションのかかりがいまいちで、スタート直後に4番手へと転落した。どこかがおかしい、とても信頼のおけるいつもの愛機ではない。だが、最終コーナーの脱出をまとめてふたたび1コーナーでパッシング! キレイに抜いたつもりだったが、立ち上がりでトラクションがかからずに4位へと転落する始末。その際、突然駆動が抜けたために、背後を走っていた選手にオカマを掘らせることになってしまった。そして、次の周の1コーナー立ち上がりでもトラクション抜けが発生したために、集団の中で走るには危険だと判断。2コーナー先にクルマを止めてリタイヤすることを選択した。

 レース後、愛車はレッカーされて表彰台近くまでユルユルとけん引されてきた。そこでポディウムを見上げれば、件の選手がてっぺんにいたのである。やりきれない思いが爆発し、「人のクルマを壊して勝って嬉しいのか?」と声を上げてしまった。レース後に熱くなっていたとはいえ、不適切な発言だったことをここでお詫びしたい。

 ただ、こんなことに至った経緯は、やはり主催者側のルール作りや判断があまりにも納得がいかなかったからに他ならない。タイヤの件、ペナルティの件、そしてルール作りについても再検討すべきことは多いのではないだろうか。

 今回、プロフェッショナルシリーズもかなり荒れた。第1レースでは予選で失敗したクルマがレースを放棄してピットスタートをあえて選択する車両があった。クリアな状況でファステストラップを出してリタイヤしてしまえば、タイヤを温存することが可能となり、第2レースでは有利に戦うことが可能だからだ。そんな大混乱でスタートした第2レースでは、4台による大クラッシュが発生。ある選手はクルマから脱出することもできないほどの衝撃であったらしく、赤旗中断。その選手は救急車で病院へと搬送された。大事には至らなかったようだが、これもまた第1レースの決勝ベストラップが第2レースの予選順位となったことの弊害だったように見受けられる。速いクルマと遅いクルマが混在するグリッドが混乱を招いたのではないだろうか?

 見ている人を楽しませたい。北海道で人が集まらないから2レース行なって参加者の数を増やそう。その考えはよいと思う。だが、今回のルールはあまりにも抜け道が多すぎるのではないだろうか。第1レースはどんな手を使ってでもファステストラップを取りにいき、第2レースに賭ければいい。そんな手が通用してしまうルールは改善する必要があるだろう。

 現在、我が84号車はガレージでひっそりと修復を待っている。このレース独自の保険をかけていたから、修復するために出費は抑えられるが、それでも免責は20万円でカッティングシートの修復は面倒を見てもらえないのだとか。毎回2万8100円を掛け捨てていた甲斐があったということだろうか。いまのところ、フェンダー板金、バンパー修復、ハブベアリング、ドライブシャフト、デフ、LSD、アーム、ブッシュの修復が必要との見積もりが出ている。直してみなければ分からないが、きっと免責20万円は大きく超えるだろう。こんなことを続けていたら、独自のレース保険の存続だって危ういのではないだろうか? プロフェッショナルクラスの全損車両だってあるのだから。もっと接触に対する罰則を強化すべきとも言えるだろう。

このレース独自の保険をかけていたので、保険会社のアジャスターが査定
メンテナンスガレージで愛機をバラしているところ。デフ内部はクラッシュによるキズや損傷が見られた

 なぜここまで接触に対してシビアに考えるのか? それはきっと僕が86のオーナードライバーだからこそ。一見すれば派手なカラーリングを身にまとい、何不自由なくレースをしているように見えるだろうが、このクルマは正真正銘、僕のクルマであり、レースは自転車操業もいいところだ。だからこそ愛車は大切だし、自分の分身といっても過言じゃない。レースカーの場合だと使い捨てだと考える人もいるのかもしれない。けれども、そんな気持ちにはとてもなれないのだ。もっとクルマを大切にしてほしい。それはクラブマンシリーズであっても、プロフェッショナルシリーズであっても思いは変わらない。

 いまは沈み切った気持ちだが、続く富士までに気持ちを切り替えてレースに参加できるよう最善を尽くしたい。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学