【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記
第10回:クラッシュ多発の第7戦岡山で思った86/BRZ Raceの将来
(2014/9/19 17:09)
体制面を見直した第7戦岡山
少しでも上へ、そして少しでもプロドライバーに近づきたい……。前回のレースで5位入賞を果たし、日に日にこんな思いが強くなってきた今日このごろ。今さらと言われてしまいそうだが、自宅ではこれまでまったく取り組むことがなかった筋トレをはじめ、さらには食生活も改善。TV-CMに出てくるような引き締まったボディーになれば、レースの成績も上向くかと考え始めたのである。小さなことからコツコツと、そんな心境の変化が出てきたのだ。
だから体制面も見直してみようと考えた。プロに近づきたいのであれば、プロと同じ環境を整えねばというわけだ。「GAZOO Racing 86/BRZ Race」はナンバー付きの86を使うため、レースカーを公道で走らせてサーキット入りすることが可能だ。だが、上位チームの車両は積載車に載せてくるパターンが多く、公道でその姿を見ることは少ない。そこで今回は我が86も積載車に載せて移動しようと目論んだのだ。わずか1~2戦で消耗してしまうLSDを気遣い、さらにクラッチやトランスミッションのストレス軽減というのが主な目的だ。今回レースが行われた岡山国際サーキットまで、自宅から片道およそ700kmの道のり。その間86を休ませてやれば、何かいいことあるかもね、と考えたのである。
実は現在、レースに行く時は86のほかにメカニック用のサービスカーを同行させている。メンテナンス機材、そして雨風をしのぐタープなどを持っていこうと考えると、どうしても86だけでは無理があるのだ。車載ジャッキと簡単な工具のみで参戦していた2013年の体制はかなり例外的であり、いまの状況が一般的なのだ。
もしも岡山までサービスカーに積む機材を積載車に詰め込めれば、高速代もガソリン代も1台分となる。積載する86は動かす必要がなく、その気になればドライバーズシートだって荷物スペースにできるのだから、やってやれないことはなさそうだ。あとはレンタカー代が気になるところだが、メカニックが業者価格で積載車をレンタルしてくれたおかげで、トータル2~3万円アップで積載車移動が可能になるという試算が出たので、その計画を実行することにした。
だが、その体制をやってみると意外にも厄介! 86にメンテナンス機材やヘルメット&レーシングスーツなどを詰め込むと、タイヤやタープは積み込めずという感じなのだ。仕方なくタイヤ&ホイール、そしてタープは荷台に括り付け、それでも収まらない小物はトラックのキャビンに押し込むことに。移動空間はやや窮屈な感じだった。
しかし、走り始めてしまえばなかなか快適。今回借りた積載車は2ペダル仕様でクラッチ操作いらず。さらにパワーもなかなかであり、中央高速の上り坂だって登坂車線いらずなのだ。トラック移動とはいえ、ストレスの少ない走行が可能だった。だから思わず運転したくなり、メカニックとステアリングの奪い合いをするほど。トラック野郎気分もわるくない。
こんな時、アラフォーのオッサンでよかったと心底思う。86/BRZ Raceに出場する若手ドライバーに聞いたところ、今は普通免許を取得しても中型免許がオマケで付いてくることはなく、僕のように積載車を動かそうと考えた場合、改めて免許を取りに行かなければならないのだそうだ。まさかこんなところでオヤジのメリットがあるとは……。
そんなこんなでおよそ9時間。岡山国際サーキットに到着してみると、僕と同じように小さなことからコツコツと努力する集団がそこにいた。それはブリヂストン陣営である。なんと、現在装着しているブリヂストン「POTENZA RE-11A 4.0」がマイナーチェンジを行ってきたのだ。トレッドパターンや内部構造についてはこれまでと何ら変更はなく、従来品との混使用もOKとのことだが、トレッド面にあるコンパウンドをチューニングし、ウエット路面におけるコントロール性をよくしようという狙いがあるらしい。なお、今回の変更におけるドライグリップは変わらずというが果たして!?
扱いやすさが増した印象のRE-11A 4.0改
ニュータイヤを装着し、早速コースインしてみる。ちなみに岡山国際サーキットでレースをするのは自身初めてのこと。イベントで軽く走ったことはあるが、限界ギリギリまで攻め込んだことがない慣れない場所である。そんな状況で86&RE-11A 4.0改はどう走ってくれるだろう?
走り始めると以前のタイヤよりも温まりが早く、即座にアタックできる印象がある。旧型はインラップ、そして1周目はリアが温まりにくく、アタックラップに入れなかったのだが、新型にはそのようなところが一切ない。扱いやすさが増した印象だ。ただ、ややソフトになり、微操舵域の応答が鈍くなったようにも感じる。ごくわずかなレベルの話ではあるのだが、これまで馴染んできた状況とは違うのだ。空気圧や足まわりのセッティングを少し変更する必要があるかもしれない。
そして岡山国際サーキットの難しさも少しは理解できた。特に高速で駆け抜ける2コーナー付近は、アウト側のエスケープゾーンが少なく攻めがいがある場所。その先の登り右コーナーは、ブレーキングで行きすぎず、イチ速くアクセルを開けて続くストレートスピードを稼ぐ必要がありそう。イケイケだけで走ってもタイムは出ず。走りやすそうで実は奥が深い。岡山国際サーキットの印象はそんな感覚だった。
こうして2つの要素が手探りの練習走行ではあったが、自分なりに纏めて初日を終えた。このまま翌日を迎えれば、よい結果が見えてきそうな気配がするのだが……。
そんな予想とは裏腹に、予選が始まる20分前にコンディションが急変した! なんと、サーキット全体がスコールに襲われたのだ。コース上はフルウエットであり、所々水溜りができている状態に。練習走行でウエットを走る機会がまったくなかっただけに、これはかなり痛い。
そもそもウエットのサーキットはかなり難しい。ドライで走るレコードラインはまるであてにならず。むしろソコを通るとかえって滑りやすく、タイムが出ないばかりか危険な状況に陥ることもあるくらい。ライン上にラバーが乗っていて水はけがわるかったり、舗装が磨かれすぎていてグリップしないなどがその理由。ウエットにはウエットのベストラインがある。だが、岡山国際サーキットのそれを僕は知らない。地元の選手やプロドライバーの後ろにクルマをつけ、それを探りながらの予選が始まった。
だが、ドライを想定していたセッティングはまったく合うわけもなく、さらに皮むきすらしていない新品タイヤはグリップを発揮するまでにかなりの時間を要してしまい、ウエットラインを習得しようと他車の後ろにつけたところで、どんどん置いていかれる始末。ひとまず、ドライのようにアウト・イン・アウトではなく、アウト・アウト・アウトで走り切ればよさそうな気配が解ってきたところでTHE END。予選1組目の16番手。総合32位という結果に終わってしまった。ちなみにその後行われた2組目はドライ。ツキなしというか、僕が雨男ということなのか……。
後に岡山国際サーキットを走り慣れた某S耐ドライバーに、このコースのウエットラインについて聞いてみると、「アウト・アウト・アウトのところもあれば、アウト・ミドル・アウトのところもあるし、アウト・アウト・インのところもあるんだよ」とのこと。サーキット習得は1日にしてならず、ということを思い知ったのでありました。
クラッシュが多発する傾向にある86/BRZ Race
というわけで、かなり後方からのスタートとなってしまった決勝レース。こうなれば、あとはガンガン抜いて行くしかない! 気合いを入れ、けれども冷静にスタートをこなすと、直後に2台ほど抜くことに成功。この調子で行けば、またもやジャンプアップ賞を狙えるかもしれない。なんてスケベ根性丸出しでバトルを楽しんでいると、並走して入ったコーナーで仕方なく縁石に乗り上げた拍子に、ステアリングセンターがかなりズレてしまった。後日チェックすると、ステアリングラックがズレるだけでなく、リアのアライメントも狂っていた。結果、ストレートスピードが伸びなくなり、抜けるはずの状況で抜けない事態に。我慢を強いられる展開になってきた。
時を同じくして、前方集団でいくつかのクラッシュが発生した。その度に後続集団は右往左往。僕もヒヤリとするシーンがあった。結果として一時はセーフティカーが導入されるほどの状況になってしまった。コース上には廃車になってもおかしくなさそうな86が2台。それ以外の場所にもボディーを凹ませた86がコースの片隅に置かれている。
結果として僕は無傷のまま23位でチェッカーを受けることができたが、これは7台ものクルマがクラッシュによってリタイアしたからだ。9台抜いた事実に変わりはないが、どこかスッキリとしないレースだった。それは結果がわるかったからじゃない。イヤなものを見てしまった感覚があったからだ。
いま86/BRZ Raceは、バトルがヒートアップしすぎてクラッシュが多発する傾向にある。あらゆる事情を背負って勝ちに行くドライバーが多ければ多いほど、それは仕方がないことなのかもしれない。クラッシュさせようが、例え廃車にしようが、積載車に載せて帰ることができるのなら、勢いよく突っ込んで行ける心境になるのが人情ってもの。万が一壊してしまっても、即座に修理or代替え車両を出せるような潤沢な資金があれば尚更だろう。
事実、今回は積載車でサーキット入りした僕も「今回は何があっても帰れるから安心だね」とメカニックに話していたことを覚えている。すなわち、帰りの足が確保されているなら、多少のクラッシュならイイかもしれないと、頭のどこかで考えてしまうのだ。
こんな事態になるのなら、いっそ積載車禁止のレギュレーションにしてみたらどうだろう? 以前参加したことがある他のナンバー付きレースでは、積載車を使うチームがほとんどなく、自走でサーキット入りするクルマばかりだった。結果、帰りの足が気になり、お互いに尊重しあってバトルをするため、クラッシュがほとんどなかったことを思い出す。まあ、参加者はアマチュアドライバーがほとんどであり、ドライバー=クルマのオーナーだったからという事情もあるのだろうが、いずれにせよクルマを大切にしようという人々が多かった。
86/BRZ Raceもそんな環境になって欲しい。それがローンの残り66回のオーナードライバーの切なる願いだ。今回は積載車を持ち込み、やり過ぎるくらいの体制でやってみたが、見えてきたのは意外な結末だった。