【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第13回:2014年最終戦。なるか昨年のリベンジ、因縁の鈴鹿にふたたび挑戦!

 昨シーズン、決勝レース中にガソリン入れ忘れによるガス欠リタイアという事件を引き起こしてしまった因縁の鈴鹿(http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/gazoo/20130926_616700.html)。その鈴鹿が今シーズンの締めくくりのレースとなる。ここにくるまで9戦を消化。北は北海道の十勝から、南は九州のオートポリスまで、ありとあらゆるサーキットを回ってきた。だからこそ、シーズンの幕引きする現場に居られることは実に感慨深い。全損級のクラッシュ車両を数多く見てきたこれまでのレースは、まさにサバイバル。クルマの原型を留めて鈴鹿を迎えられただけでも幸せなのだ。

 いざ練習走行へ。すると、そんな感傷的な心もすぐに吹き飛ぶ。少しでも速く、少しでも前へと気合がみなぎってくるから我ながら面白い。そこにはぶったるんだお腹をブルつかせながら、テレビの前でゴロゴロしているオッサンの姿はない。F1ドライバーのキミ・ライコネン並のシャープな顔つきで、コーナーの先をクールに見つめている自分がいる……ような気がしてくる。ま、実際のところはヘルメットに弛んだ頬を押し上げられ、メガネを曇らせるほどハアハア言っている40歳のオッサンなんですけれどね。

コンディション、タイヤ、業界の大先輩

 走り終えれば昨年とはまるで違うタイムを叩き出していることに驚くばかり。軽く走って2~3秒は速かっただろうか? ひょっとしてかなり上手くなっちゃった??? なんて思ったが、もちろんそんなはずはない。その要因は昨年とはまったく違う時期にレースが行われていること。昨年は真夏のレース、今年は秋口のレース。外気温も違えば路面温度だってかなり低いから、タイムが出て当たり前なのだ。

 そしてタイムが引き上げられたもう1つの要因は、この1年でタイヤの性能がハンパなく高まったことである。当時は量販タイヤと同じパターンを持つ「POTENZA RE-11A 2.0」。今年は浅溝でブロック剛性も高い「POTENZA RE-11A 4.0」。それもコンパウンドまで改良が施されたバージョン2が投入されているのだから、タイムアップして当然といえば当然。これを履いてタイムアップしなければ、それはドライバーが退化しているといっていい。それほど昨年とは違う状況にあるのだ。

写真左が「POTENZA RE-11A 4.0」。この1年でタイヤの性能は劇的に高まった

 結果として走りがかなりレベルアップ! コーナーリングスピードは昨年の比ではなく、ギアの選択も昨年のようにはいかない場所がちらほら。一番スリリングな高速コーナーの130Rは、アクセルオフか全開で駆け抜けることができそうな勢い。息を止めて慎重にアプローチしても、おしっこ漏らしそうに恐怖感満点である。

 だからこそ攻略するのはかなり難しい。ちょっとのミスが命取り。かなりシビアなドライビングが求められるようになってきた。これはかなり厄介だ。そのことをきちんと気づかせてくれたのは、チューニング誌「REVSPEED」などで活躍される自動車雑誌業界の大先輩、大井貴之さんだ。自身でレース活動をするだけでなく、ドライビングレッスンなどでも経験豊富なインストラクターを務めている大井さんが「インカービデオを見てあげるよ」とピットで声をかけてくれたのだ。

自動車雑誌業界の大先輩である大井貴之さんが動画で筆者の運転を分析してくれた。その節は本当にお世話になりました

 すると、おもむろに普段使っているビデオカメラ兼データロガーの「M&S CAM」(http://www.gps-nero.com/ms-cam.html)の設定をパソコン上で変更し、どこが遅くてどこが速いのかを分析。一瞬で「コーナリング中のシフトアップ時、ステアリングを一瞬切り込んでしまっているシーンがあって、それがきっかけでロスしているよ」とズバリ。自分では分からなかったクセを瞬時に読み取り、それを的確に指摘してくれたのである。これには目からウロコ状態。

 わずか指1本分切り込むか切り込まないかでコンマ3秒もロスしているというのだから恐れ入る。カメラもロガーも、使う人が使えばかなり役立つということを教わったのでありました。これもまた勉強が必要か。

練習走行時のベストラップ動画

なるか昨年のリベンジ!

 そんなこんなで予選。前日同様、ドライ路面で行われる。そこでは教わったことを少しでも展開しようと慎重に走り、何とか1周を纏められたかに思えたが、最後の最後に130Rでスロー走行をするクルマに引っ掛かり、結果は1グループ目の10番手/総合19位という情けない結果に終わってしまった。ノーブレーキで行くべき130Rで軽くブレーキングしてしまったことが今でも悔やまれる。タラレバはいくらでも言えるが、レースってそんなことの連続。ベストで走り切ることの難しさを痛感したのでありました。

 というわけで、中段グループからの出走となってしまった決勝レース。混戦が予想されるだけに、できればドライでスタートしたいところだったが……、鈴鹿は雨。今年のレースはことごとく雨に悩まされる。前回のオートポリスではウエットセッティングにしないでスタートして痛い目を見ただけに、今回はとことんやってやろうと、スプリングのプリロードやショックの減衰力は極力緩め、タイヤのエア圧は高めることにした。が、それもテストできているわけではないので不安が高まる。

 だが、意外にもセッティング変更はそこそこ当っていたように感じた。走り始めからオートポリスの時のような不安感はなく、安心して走れるようになっていたことがせめてもの救いである。スタートを無難に決めて、混戦の中を走り出す。しかし、1周を終える前にセーフティカーが入るほどの大クラッシュが発生! コース上にはまたしても全損級の車両が横たわるように佇んでいる。明日は我が身、気を引き締めて再スタートを待っていた。だが、一瞬空調スイッチに手が伸びたその時にレースが再開。前のクルマとかなり離れてしまった。まったく、我ながら何やってんだか。

 結果として僕の後ろには集団が張り付き、かなりプレッシャーがある状況で走り続ける始末。少しでも引き離そうと努力するがペースは上がらずである。何とか頑張らねば……、そう思っていた逆バンクコーナー先でのことだった。なんと、クルマの左わき腹あたりに衝撃が走り、コントロールを失ってコースアウト! 深いグラベルにはまりリタイアとなってしまった。

 レーシングアクシデントといえばレーシングアクシデントだが、前述した自らのミスもあっただけに悔やまれる。もしも再スタート時にしっかり前について行ければ……。またもやタラレバを言いたくなるモヤモヤした終わり方だった。ただ、クルマのダメージがそれほど大きくなく、自走して帰ることができるレベルだったことはラッキーだ。キレイにカラーリングしたクルマが傷つき凹み、ドア内側の塗装が割れて剥がれ落ちてしまったことは残念だが、走行する上では支障なし。不幸中の幸いである。

 こうして10戦目となる最終戦の鈴鹿は終わった。やはり僕にとっての因縁の地は昨年と変わらず。完走して克服することは許されずにシーズンを終了することになってしまった。今年こそ最低でも完走を、と意気込んでいただけに本当に悔しい。いつかリベンジしたいものだ。

本当に悔しい終わり方をしてしまった最終戦。クルマは傷ついてしまったが、不幸中の幸いにも走行に支障はなし。いつか鈴鹿にリベンジしたいと心に決めた1日になったのでした

「GAZOO 86/BRZ ドリームレース」に参戦、パートナーはなんと!

 と、普段ならここで原稿を終えるところだが、今シーズンはまだまだ終わらない。実は「トヨタ ガズーレーシング フェスティバル 2014」で行われる「GAZOO 86/BRZ ドリームレース」への招待を受けたのだ。プロドライバーやレジェンドドライバーと組んで走ることができるというこのイベントは、シリーズ順位の上位から声がかかる。実のところは上位者が出場を辞退したために、ポイントランキング17位の僕まで声がかかったというだけのことなのだが、いずれにしてもそんな大舞台に立てるのだから断る理由もない。

秋晴れの中開催された「トヨタ ガズーレーシング フェスティバル 2014」
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20141126_677636.html

 レースが行われる富士スピードウェイに訪れると、そこでパートナーとなることになったのはナント、TOYOTA TEAM TOM’Sの代表であり監督も務めている舘信秀さん。普段はSUPER GTやスーパーフォーミュラのテレビ中継でしか拝見したことがないアノお方である。こりゃヘマをやったら大変だ。ある意味、普段のレース以上に緊張してしまう。

 そこで、予選はいつも以上に慎重かつ大胆に攻めることにしたところ、23台中11位という微妙なポジションを獲得。すると舘さんからは「なかなか速いじゃない」とお褒めの言葉を頂戴。社交辞令であることは重々承知しているが、あの大監督にそんな言葉をもらったのだから嬉しい。もしもSUPER GTやスーパーフォーミュラでそんな順位だったら、きっと怒られるんだろうな。プロドライバーの皆様方、こんなプレッシャーを受けて走っているのですね、ご苦労さまです……。

 無難に終えた予選ではあったが、決勝レースは波乱の幕開け。ドリームレースだからとニヤニヤしながら寄せてくるヤツもいるし、本気のドライバーもいる。これはなかなか難しい。普段以上に大混戦! けれども、なんだか皆が楽しんでいる感じが伝わってくるからホッとする。シーズン本番とはまるで違う、かなりファンなレースだった。走り終えて舘さんにドライバー交代をするのだが、ここでかなり手こずってしまった。ベルトがうまくはまらず、さらにはシートがきちんとスライドせずとドタバタ劇を演じてしまったのだ。というわけで、結果は聞かないで欲しいし、調べないで欲しい(笑)。

社交辞令でも速いといってくれた舘監督、とてもプレッシャーを感じつつ(笑)、純粋にレースを楽しませていただきました!

1年間ありがとうございました

 こうして今シーズンすべてのイベントが終わった。あらゆる部分が噛み合わず、昨シーズンよりはかなり苦戦した今年ではあった。LSDが消耗して気持ちよく走れなかったこと、雨に悩まされ苦労したことなど、さまざまなハードルがあった。もうレースなんて辞めてしまおうかと考えたこともあった。けれども、一度は富士で5位入賞できたこともあったし、わるいことばかりじゃなかった。いまはそう素直に思える自分がいる。

 収穫だったのは、タイヤの進化というものとともに歩み、タイヤのことをより深く理解することができたことだ。タイヤ戦争もわるくない。むしろ面白かった。そこからドライビングを見直す必要性も感じ、改善に努めた。もう成長できない年齢だと自覚しながらも、その中では上向いた部分もあり、人生いつまで経っても成長できるんだということを改めて悟った。オッサンとはいえまだまだ。諦めるなんてできやしない。

 どんな形になるか今は分からないが、また来年も86とともにサーキットに帰ってきたい。サーキットで出会うことができたすべての人たちと再び会うために。そして因縁の鈴鹿をいつかは克服するために。

 最後に、今シーズンお世話になったすべての方々へ、本当にありがとうございました。たった一人で自走でサーキットへ行き、レースするにはナメた体制だとお叱りを受けることもありましたが、皆様がサポートしてくれたおかげで何とか無事にシーズンを終えることができました。それはスポンサードしてくださった方々だけでなく、サーキットで工具を貸してくれたアナタ、声をかけてくださったアナタにも感謝しております。そしてこの連載を最後まで読んでいただいた読者の皆様も、オッサンの戯言にお付き合いいただき、改めてありがとうございました。また来年も皆様とお会いできるよう努力したいと思います。

今シーズンを振り返ると、少しでもレース結果が上向くようクルマのお祓いをしに行ったり、フェリーを使って北海道に遠征してみたり。はたまたクルマを気遣って積載車で岡山まで行ったり、たまには賞をいただいてみたり(第4戦富士でブリヂストン グループ・グローバルマーケティング戦略・モータースポーツ担当フェロー 牛窪寿夫氏からジャンプアップ賞を頂戴しました)。そして「GAZOO Racing 86/BRZ Race」を通じて人生で初めてラジオ番組に出演する機会をいただきました(下段中央はベテランレーシングドライバー・レーサー鹿島さんの番組「ドライバーズミーティング」[FMヨコハマほか]、下段右はJ-Waveのピストン西沢さんの番組「BRIDGESTONE DRIVE TO THE FUTURE」に出演したときの写真)
つらいこともあったけど、レースを通じて色々な素晴らしい経験ができた。これもスポンサードしてくださった方々、愛機の写真をハガキで送ってくれた方をはじめとする読者の皆さまによる応援あってこそのこと。1年間本当にありがとうございました!

Photo:高橋 学

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。