日本発充電方式「CHAdeMO」は、安全と低コストを目指した規格
日産のEV「リーフ」もCHAdeMOを採用する |
今、電気自動車(EV)やプラグイン・ハイブリッド(PHV)への充電方法に注目が集まっている。
これまで、EVなどへの充電の方法では、日本が提唱した「CHAdeMO(チャデモ)」方式が、普及という面で先行していた。しかし、最近になって突然、独フォルクスワーゲンをはじめ米GMなどの欧米メーカーが、「コンボ」方式と呼ばれる新しい方式を採用するとアナウンスしたのだ。
これにCHAdeMO陣営は驚いた。もちろん、我々、メディアも同じだ。そのため、日本と欧米、どちらの提唱する方式が世界標準となるのか? はたまた地域ごとに、2種類の方式を使い分けることになるのか? それとも、また別の方式になるのか? その着地点を巡って、さまざまな予想や思惑が渦巻いているのだ。
ここでは、その先行きを占うのではなく、まずは前提の話となるCHAdeMOを説明したいと思う。日本が普及を進めるCHAdeMO方式の内容だ。
CHAdeMOという名称は、CHAdeMO協議会が標準規格として提案する急速充電器の商標名であり、「CHArge de MOve=動く、進むためのチャージ」や「クルマの充電中にお茶でもいかがですか」の意味を含むという。CHAdeMO協議会は日産をはじめとする日系メーカーを中心とした団体で、CHAdeMO方式の普及を目的としている。
リーフの充電ポート。急速充電コネクタ(左)と普通充電コネクタが見える |
■「普通充電」と「急速充電」を別々のコネクターで実施
まず、充電の基本の話からすると、電気自動車(EV)などへの充電には、「普通充電」と「急速充電」の2つがある。「普通充電」は家庭のコンセントなどのような比較的低い電圧/電流(100~200V/15A程度)を使い、時間をかけてゆっくりと充電を行う方法だ。家庭用のコンセントを使うように、電気は交流(AC)で供給される。
しかし、「普通充電」よりも早く充電したい! というときに使うのが「急速充電」だ。こちらは、一気にEVに電力を供給するために「普通充電」よりもはるかに高い電圧/電流を流し込む。CHAdeMOの場合で、最大500V/100Aという電力が用いられる。そして、こちらは直流(DC)で行われている。
日本の進めるCHAdeMO方式では、この2つの充電方式に対して、それぞれ別の充電コネクターを設定した。それに対して、欧米メーカーが提唱する「コンボ方式」では、この「普通充電」と「急速充電」を、1つのコネクターでまかなうという。
ちなみに、コネクタの交流(AC)と直流(DC)の統一に関して、CHAdeMO協議会はどう考えているのか? その見解は協議会のWebサイトにあるFAQで見ることができる。以下がそこからの引用だ。
CHAdeMOの急速充電コネクタ |
つまり、大電力を使用する急速充電に対応するには、コネクタ&ケーブルが太くて重く、しかも高額になる。それを使って毎日の普通充電を行うのは、合理的ではないという意見だ。
実際に、急速充電に使われる最大500V/100Aという出力は、一般家庭で使われる電力の何倍にも相当する。もちろん危険性は高い。そのため、急速充電を安全に行うための工夫が必要であり、そのための方策がCHAdeMO方式には数多く採用されている。
CHAdeMOの急速充電の特徴は、充電するときに、電気を受け取るクルマと、電気を送り出す急速充電器の間で情報のやりとりを行うところにある。クルマ側から、「どの程度の電気を送って欲しい」という情報が急速充電器側に送られ、その情報の通りに電気が送られる。そのための通信方法やインターフェイスとなるコネクターが定められている。逆に言えば、その通信方法とコネクターに準拠したEVと急速充電器なら、どのEVがどの急速充電器で充電してもよくなるわけだ。
なぜ、情報をやりとりするかといえば、クルマ側に搭載される電池を痛めず、しかも安全に、なるべく早く充電を行うためだ。EVなどに使われる電池は、高温になると劣化が加速してしまう。劣化を防ぐためには、高温になるのを防がなければならない。そのために、クルマの車載コンピュータによって、電池の電力残量や温度を監視し、その状態を見ながら、充電を行おうというわけだ。
その情報のやりとりを行うため、CHAdeMO方式の急速充電器のコネクターの接続部には、9個ものピンが配置されている。この中で、実際に充電のための大きな電流を流すものは、一番大きな2つのピンだけ。他は情報のやりとりのために存在する。
これらのピンのうち2つがCAN通信用で、他が電流のやりとりでスイッチングなどを行うアナログ制御線となる。
CHAdeMOの急速充電コネクタのピン配置 | 車両と充電器が通信することで安全を確保する |
CAN通信は、クルマに広く使われているネットワーク技術であり、ノイズに強く通信としての高い安定性と信頼性を備えている。そのため、極端なことをいえば、充電時の情報のやりとりと電気の制御をCANに任せきりにすることも技術的には可能だ。しかし、デジタル回線の暴走という最悪の事態を想定し、デジタルとアナログの二重の回路とすることで、リスクを回避するという。つまり、これほど多くのピンが必要なのは、リスク回避=安全性向上のためであったのだ。
■アナログ制御とCAN通信を織り交ぜた充電の手順
それでは、次にCHAdeMOの具体的な充電の手順を見てみよう。
・準備
1.充電開始の信号が12Vの電流としてアナログ回線を通じて充電器からクルマ側に送られる。
2.クルマ側からCAN通信で、電池残量や最大に受けられる電圧、充電予想時間などの情報が充電器側に送られる。
3.CAN通信によって、充電器側の情報をクルマに送信。
4.クルマ側から充電を受ける準備完了をアナログ回線で送信。
5.充電器側が絶縁確認試験を実施。回路に電圧を短時間かけて、コネクターやケーブル、回線がショートしたりしないかを確認するのだ。スタートから、ここまではわずか数秒。
・通電
6.クルマ側が回線を接続して充電を開始。
7.クルマは自身の電池の状態と供給される電流値を監視。充電可能な最大電流量をCAN通信を使って、0.1秒ごとに充電器に送信する。
8.充電器側も、回路の電流/電圧/温度を監視。問題が見つかれば、即座に電気の供給をストップさせる。また充電時間が最初に設定した時間よりも長くなれば停止する。
・停止
9.充電を終了させるときは、クルマ側からCAN通信で「電流をゼロにしろ」という指示を充電器側に送信。
10.充電器側が電気の供給を停止。
11.クルマ側は回路の電流が5A以下になったのを確認してシャットダウン。
12.充電器側でも、クルマ側がシャットダウンした信号を受け取り、回線を解除する。
この手順を見れば、CHAdeMO方式はアナログ制御とCAN通信を織り込みながら、充電作業を進めていることがわかる。デジタル一辺倒にすれば、もっとスッキリとしただろう。しかし、あえて、この煩雑な手順を踏むようにしたところに、安全性を重視するというCHAdeMO方式の特徴があったのだ。
今後、欧米メーカーの提唱するコンボ方式の詳細が明らかになり、そこからCHAdeMO方式と利便性やコスト、安全性などという点での比較がなされるだろう。推進する団体のメンツではなく、ユーザーにとってベストなジャッジが下されることを祈るばかりだ。
CHAdeMOでの車両と充電器の通信手順 |
■CarテクノロジーWatch バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/tech/
(鈴木ケンイチ )
2012年 8月 23日