ワールドリポート

マセラティの新型車プロジェクトを探る

マセラティが公開した新型「クアトロポルテ」の画像

 イタリアのスーパーカー・メーカーとしては最も古い歴史を誇るマセラティが、近年稀に見る活況を呈しているようだ。

 まずはつい先日、オフィシャルフォトとともに、来る2013年1月の北米デトロイト・ショーにおけるワールドプレミアが予告発表されたビッグサルーン「クアトロポルテ」について。

 メーカー側から現時点で正式に公開されている情報は数点の写真のみだが、イタリア本国をはじめとする欧州メディアでは、搭載されるエンジンについてもスクープ情報が出回っている。この情報によると、新型クアトロポルテのエンジンはV型6気筒3リッターとV型8気筒3.8リッターの2本立て。信頼できる筋からの情報によると4ドアサルーン・ボディーは全長5.2m級にも及ぶという巨大さ。これを勘案すればかなりの小排気量となるが、今や当然と言うべきかV6/V8ともに2基のターボチャージャーを装着する。つまりは当代最新のダウンサイジング・トレンドに則った小排気量過給ユニットということになる。

 既に正式発表がなされているように、これらのエンジンはフェラーリが開発を担当。V6版は、同じフィアット・グループに属する北米クライスラー系のV型6気筒4カム「ペンタスター」ユニットをベースとする……? とも言われている。一方のV8版は従来型クアトロポルテや「グラントゥーリスモ」系に搭載されている4.2/4.7リッターユニットを縮小し、ツインターボ化を図ったと見るのが自然だが、一方で完全な新設計とする噂もあるようだ。

 ともあれ、そのパフォーマンスは名門マセラティの名に恥じないもので、スクープ情報によるとV6 3リッター版でも410PSの最高出力を発揮。マキシマムスピードで285km/h、0-100km/h加速でも5.0秒というデータを持つとされる。一方のV8 3.8リッター版は530PSものパワーを発生。最高速は307km/h、0-100km/h加速でも4.7秒というパフォーマンスを発揮すると言われる。これは仮想ライバルと目されるメルセデス・ベンツ「S63 AMG」にも匹敵するものとなるだろう。

 またトランスミッションは、V6/V8版ともパドルシフト機構も組み込んだZF製トルクコンバータ式8速ATが組み合わされるのに加えて、V6版にはこれまでと同じFR駆動のほか、AWD仕様も追加設定されるとの見方が濃厚である。

 しかし、マセラティの攻勢はこれだけには留まらない。メルセデス・ベンツ「Eクラス」やBMW「5シリーズ」に相当するEセグメントのミドルサルーンが、来年春のジュネーヴ・ショーないしは上海モーターショーあたりで発表されることになっているのは、既に今年9月のパリ・サロンに際して車両概要が公表されていることから、ご存じの向きも多いだろう。

 マセラティ伝統のネーミング「ギブリ」を冠するこのミドルサルーンは、新型クアトロポルテの下位モデル、あるいは同社のエントリーモデルとしての役割が期待される。そのシャシーについては、以前は次期クアトロポルテのホイールベースを短縮したフロアパンを使用するとの観測もあったが、現在最も有力視されているのはクライスラー「300C」やダッジ「チャージャー」用の「LXプラットフォーム」を流用するとの説である。

 ホイールベース3050mmのこのプラットフォームは、新型クライスラー300Cに例をとれば、5070×1905×1495mm(全長×全幅×全高)と、当代最新のEセグメントとしてもかなり堂々とした体躯と言える。これは、Eセグメント車の一部高性能バージョンも仮想ライバルとしていた現行型クアトロポルテのサイズ、5110×1895×1440mm(同)、ホイールベース3065mmにも近いことから、クアトロポルテの大型化に伴っていっそう空白感が強まったスーパー・ミドルサルーン市場におけるマセラティの存在感を、いま1度アピールする役割も期待されていることだろう。

 エンジンは新型クアトロポルテのベーシック版と共通となる、V6 3リッター+ツインターボ410PSが誕生当初から搭載されると見られている。しかしメルセデス・ベンツ「E63 AMG」やBMW「M5」、アウディ「S6」「RS6」、そしてキャデラック「CTS-V」などという手ごわいライバルがひしめくこのマーケットでは、やはり大パワーの高性能版が必須。さらにポルシェ「パナメーラ」への対抗からも、V8 3.8リッター+ツインターボ版の追加もあり得ると見るべきだろう。

 また新型ギブリと同時にデビューが予告されたマセラティ史上初のSUV「クーバン」改め「レヴァンテ」に搭載が予定されているV6 3リッターのツインターボ・ディーゼル(300PS以上?)が、新型ギブリはもちろん、新型クアトロポルテにも設定される公算が高いとも言われている。

 現行型クアトロポルテによってLセグメントにスーパーカー的なアプローチを導入し、その後ポルシェ「パナメーラ」やアストンマーティン「ラピード」など数多くのフォロワーを喚起する先駆けとなったマセラティは、現代の自動車業界きっての激戦区として知られるEセグメントで、果たしていかなる戦いぶりを見せることになるだろうか?

 現在マセラティと親会社であるフィアット・グループが着々と進めているという、全世界の販売台数を2015年期までに5万台までアップさせる大プロジェクトの可否を占うためにも、今回デビューを果たすことになる新型車たちの近未来は非常に興味深いところなのだ。

武田公実