特別企画

【特別企画】橋本洋平の「エクストレイル ブラック・エクストリーマーX」の魅力に迫る

本格SUVとしてのタフなイメージを強調しつつ、「LEDヘッドランプ」などで上質さも向上

エクストレイルの本来の姿? 「エクストリーマーX」

 新型車といえば、旧モデルでのネガを洗い出し、それを徹底的に潰した上で新たなるタマを盛り込むのが自然な流れ。“ない物ねだり”を続け、新たなる世界を構築して行くのが常だ。これは工業製品ならば当然。けれどもクルマってやつは、そう単純にはいかないところが面白さでもあり難しいところでもある。特に根強いファンが多く存在するモデルなら、その難しさはかなりのものだ。

 日産自動車「エクストレイル」のモデルチェンジはその最たるものかもしれない。初代、2代目ともにタフさを前面に押し出した“4駆テイスト”が世間に受け入れられたこのクルマ。だが、3代目となる現行モデルは先代モデルから一転し、ややシティユースを意識したデザインへと変貌したことは周知の事実である。もちろん「ALL MODE 4×4-i」など本格4駆としてのメカニズムを継承しつつも、ことデザインに関しては主に欧州市場からのリクエストがそうさせたと聞くが、従来のテイストを支持していた層からすれば、それは物足りないと感じる人々も少なくはなかった。

 しかし、従来からのタフさを引き継ぐモデルもラインアップしていた。大型フォグランプやアンダーカバー類、そして専用アルミホイールなどを奢った「X-TREMER X(エクストリーマーX)」がそれだ。このクルマは他のモデルでも「Rider(ライダー)」や「AXIS(アクシス)」、そして特装車をリリースしているオーテックジャパンが企画を担当。カスタムカーを得意とする同社が仕上げているだけあって、従来あったエクストレイルならではの世界観を上手く引き継いでいるように感じる。やはり、エクストレイルならこれくらいの4駆テイストがあってもいいよね、と思わず頷ける仕上がりなのだ。

 ただ、ここまで二分する世界をともに構築すると、さらなる欲求が出てくるのがクルマ造りというもの。ない物ねだりの始まりだ。今度はタフさを持ちつつも、街中でも溶け込むような統一感を持たせたいとなるわけだ。いかにも4駆テイストのアンダーカバーや専用ホイールをクルマと一体化させたらどうか?

 こうして仕上がったクルマが、今回紹介する「BLACK X-TREMER X(ブラック・エクストリーマーX)」という1台だ。エクストリーマーXが持っていたシルバー基調のホイールやアンダーカバーをダーク化することで車体との一体感を持たせ、タフな装備がありながらもそれを前面に押し出すことをやめたこのクルマ。外装色がダイヤモンドブラック(他にバーニングレッド、チタニウムカーキ、ブリリアントホワイトパールも用意)に塗られた今回の仕様では、ギュッと引き締まった感覚があり、これをシティユースでも何ら不満が出ない仕上がりをみせている。それでいて、エクストリーマーXと同様の装備(ルーフレールは標準化)を持っているのだから、タフさも十分。オリジナルモデルとエクストリーマーXとのオイシイとこ取りをしたような仕様なのだ。

エクストレイルの特別仕様車「ブラック・エクストリーマーX」。ベースグレードと同様に、2列シート仕様(5名乗車)と3列シート仕様(7名乗車)を設定するとともに、約10~80km/hで走行中に前方車両と衝突の危険性がある場合に作動し、自動的に衝突回避や衝突被害の軽減を図る「エマージェンシーブレーキ パッケージ」装着車も用意。ボディーサイズは4670×1820×1715mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2705mm。撮影車は「20X ブラック エクストリーマーX“エマージェンシーブレーキ パッケージ”」(2列車)で、価格は289万3320円
「ブラック・エクストリーマーX」のフロントマスク。「エクストリーマーX」でも採用されるフロントオーバーライダーやアンダーカバー、フロントグリルなどのカラーをダーク化して力強いスタイルを実現。余談だが、「ブラック エクストリーマーX」の商品企画には、自身も「エクストリーマーX」を所有するプロスノーボーダーの角野友基選手が参加するというユニークな試みが行われている
ベース車にオプション設定(のぞく20S)される「LEDヘッドランプ」(ハイ/ロービーム、オートレベライザー付、フレンドリーライティング作動付、シグネチャーLEDポジションランプ付)を特別装備
フロントオーバーライダー(ダーククロムフィニッシュ)とダークメタリックフロントアンダーカバーも専用カラー
フロントグリルにはダーククロムを採用
大型フロントフォグランプは「エクストリーマーX」と共通のものだが、ダークメタリックカラーのフォグランプフィニッシャーは専用品
ブラックメタリックカラーの専用17インチアルミホイール(17×7J)に225/65 R17サイズのタイヤを組み合わせる。時節柄、撮影車にはミシュランのスタッドレスタイヤが装着されていた
専用ダークメタリックサイドアンダーカバー
オプション設定のマッドガードを標準装備
専用ダークメタリックリアアンダーカバー(ダーククロムフィニッシュ)
オプション設定のルーフレールも標準装備。アウトドアスポーツ・ギアとしての機能をより一層充実させている
パワートレーンは直噴の直列4気筒DOHC 2.0リッター「MR20DD」エンジン(レギュラーガソリン仕様)とCVTの組み合わせで、「ブラック・エクストリーマーX」の駆動方式はすべて4WDとなる。最高出力は108kW(147PS)/6000rpm、最大トルクは207Nm(21.1kgm)/4400rpm
「ブラック・エクストリーマーX」のインテリア
インテリアカラーはブラックのみの設定。防水シートもエクストレイルならではの魅力の1つ。2列シート車の後席は6:4分割可倒式を採用する
バックドアオープン時にハンガーなどを引っかけられる「バックドアインナーフック」も「エクストリーマーX」シリーズならではの標準装備となるが、リモコンオートバックドアを装着した場合は非装着になる
トランスミッションはCVTを採用
センターコンソールの中央に「ALL MODE 4×4-i」のコントロールダイヤルを設置。その左側にあるのは「アドバンスドヒルディセントコントロール」のスイッチ
オプションの「NissanConnectナビゲーションシステム」では、MOD(移動物検知)機能付きアラウンドビューモニター機能が利用できるほか、自動的にステアリングを操作して車庫入れや縦列駐車をサポートしてくれる「インテリジェントパーキングアシスト」機能もセットされる

センスよくまとめられた内外装デザイン

 装備をあれこれ取り付けると、いかにもコテコテなカスタムカーになってしまう場合が多いが、ブラック・エクストリーマーXの場合、その印象がまったくないところが絶妙だ。あらゆるカスタムカーをトータルプロデュースしてきたオーテックジャパンのセンスのよさが光っているといえるだろう。欲をいえば、エンブレムや窓枠、そしてルーフレールもダーク系に塗って欲しいとも思えるし、室内の天井もブラックアウトして欲しいような気もする。

 カスタムカー好きな僕からすれば「もっとブラックを!」となるのだが、それはきっとやり過ぎ。程よく留めているのがメーカー系カスタムという世界であり、だからこそセンスよく見えるのだろうとも感じる。ここまで仕上げてエクストリーマーXの8万8000円高にしかなっていないというからお買い得。ルーフレール、LEDヘッドランプなどの標準化があってその価格はお値打ちだ。

 さらには、ミニバンの代わりとしても注目できる7人乗りが設定されたことも現行エクストレイルのよさの1つ。決して広いとはいえないが、いざという時のことを考え、多人数乗車がどうしても欲しいというユーザーには、候補車種の1つとしてこのクルマをぜひとも加えて欲しいところだ。事実、ミニバンからの買い換えも多いと聞く。

 一方、走りの部分で一切変更点がないところも魅力の1つ。雪道を走ろうが舗装路を走ろうが、思い通りに走る4駆になっているエクストレイル。歴代が積み重ねてきた4駆システム「ALLMODE 4×4-i」は、どんな路面も受け入れる仕上がりとなっている。

 つい先日、このクルマで雪上を走ってきたが、改めてその走破性とコントロール性が両立していることに感心したことを思い出す。アクセルを入れながらコーナーリングしてもライントレース性はかなり高いことがその特徴だ。こうして悪路走破性が特化しているにも関わらず、ロードホールディング志向になりすぎず、舗装路を走った際にグラグラと動きが大きくなりすぎるところがないことも魅力の1つ。都会で使ったとしても何ら不満が出ないところも絶妙。ストレスを感じることなく要求に対して応答してくれる直列4気筒DOHC 2.0リッターのガソリンエンジン+CVTの組み合わせも好感触。それでいてJC08モード燃費はベースのエクストレイルとして16.4km/L(2WD車)を達成しているから、なかなかのバランスだ。

 いま登場した“ない物ねだり”の究極にいるブラック・エクストリーマーXは、まさにそんな走りを体現しているように思う。タフさを強調しながらも、都会に馴染むスタイルを手に入れたこの1台は、エクストレイルが持つ走りの世界観をみごとに打ち出している。これぞ、男の中の男ならぬ、エクストレイルの中のエクストレイル! 根強いエクストレイルファンでも、きっと受け入れてくれる1台ではないだろうか。

Photo:安田 剛

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。