トピック

「奥飛火が発生する前」がポイント。NGKスパークプラグに聞く、オススメのプラグ交換時期

「オートアフターマーケットEXPO 2018」で実施された日本特殊陶業のセミナーより

2018年3月14日~16日 開催

日本特殊陶業が「予防整備・予防交換」をポイントに、プラグ交換についてのセミナーを行なった

 3月14日~16日に東京ビッグサイトで開催されていた「第16回 国際オートアフターマーケットEXPO 2018」では、自動車メンテナンスに関わる国内外の企業が数多く出展。会場には最新のメンテナンス機材やアイテムなどが展示されていた。そしてその会場にはクルマやバイク好きにはおなじみの「NGKスパークプラグ」や「NGKイグニッションコイル」の日本特殊陶業もブースを構えていた。

 国際オートアフターマーケットEXPO 2018の開場時刻と同時に入場して日本特殊陶業のブースを探すと、日本人初のインディ500優勝を達成したレーシングドライバーの佐藤琢磨選手の姿が入った大きなパネルを掲げるブースはすぐに見つかった。

第16回 国際オートアフターマーケットEXPO 2018に出展した日本特殊陶業のブース
インディ500で日本人初優勝を獲得した佐藤琢磨選手の大きなパネルが掲げられていた
2輪と4輪の国内最高峰レースが同日開催される「鈴鹿2&4レース」は、NGKスパークプラグが冠スポンサーを務める
日本特殊陶業は国内に17拠点、海外は41拠点という規模で従業員数は約1万5000人。事業内容はスパークプラグやO2センサーなど、自動車用部品の製造と販売を行なっている。また、セラミック製品の半導体部品、切削工具も製造、販売。変わったところでは人工骨も製造しているとのこと
さまざまな種類のプラグの実物を解説とともに紹介
新品だけでなく消耗したプラグの実物もあり、ひと目見て分かりやすい展示がされていた
商品ではスパークプラグやイグニッションコイル、O2センサーなどを展示
NGK「イリジウムIXプラグ」
NGK「イリジウムMAXプラグ」
NGK「プレミアムRXプラグ」
「NGKイグニッションコイル」
「NTK O2センサー」。NTKは日本特殊陶業の略。NGKはスパークプラグ関連製品の商標だ
日本特殊陶業ブースを彩る「プラグチェッカーズ」。技術スタッフと一緒に全国の修理工場を回っていて、整備士さんたちからの人気が高いとのこと

 さて、この国際オートアフターマーケットEXPOは整備業者向けの展示会である。そこで日本特殊陶業も整備士向けの内容を盛り込んだブース展開でテーマとしていたのが「予防整備、予防交換」というものだが、我々ユーザーにこの言葉は聞き慣れないもの。そこでまずはこの「予防整備、予防交換」について、日本特殊陶業 自動車営業本部 市販部 4課(マーケティンググループ) 課長の山田勇志氏に伺ってみた。

日本特殊陶業株式会社 自動車営業本部 市販部 4課(マーケティンググループ)課長 山田勇志氏

 山田氏から説明されたのは「予防整備、予防交換とは、スパークプラグやイグニッションコイルが壊れる前に整備を行なってもらうことを勧めるものです」ということ。続けて「自動車のエンジンが高性能化するとともに、スパークプラグ(以下プラグ)も高性能化しています。それに伴い長期間の使用も可能になりましたが、長く使えるぶん整備の現場でもプラグのメンテナンスが見落とされがちになりました。しかし、プラグがエンジンにとって重要な部品であることは変わりありません。そこで予防整備、予防交換の必要性をご理解していただき、そのことをお客さまのクルマを整備する際に役立ててもらいたいというところから『予防整備、予防交換』というテーマにしました」とのこと。

日本特殊陶業株式会社 自動車営業本部 市販部 4課(マーケティンググループ)広告宣伝担当 主任 岩井大明氏

 同じく日本特殊陶業 自動車営業本部 市販部 4課(マーケティンググループ) 広告宣伝担当 主任の岩井大明氏は、「最近の傾向としてプラグを交換する機会は以前と比べて少なくなっています。そこで、我々は走行距離からの交換啓蒙だけでなく、技術的な情報を伴ったプラグ交換に関する情報を発信しています。しかし、その内容が整備の最前線である整備工場さんに伝わりにくくなっているのも現状ですので、多くの方が来場する場所で今回のセミナーのような場を設けて情報を広める活動をしています。そして整備士の方々にはセミナーで得た情報を元に、説得力ある説明でお客さまにプラグ交換を勧めていただきたいと思っています」と話した。

 確かに白金プラグの登場以来、プラグを交換するという意識は薄れているように思える。筆者は10代のころバイクに乗っていたのだが、当時はプラグを外して「焼けを見る」ことが当たり前に行なわれていたし、クルマに乗り換えてからもプラグのチェックを行なっていた気がする。

 そして、エンジンに変調が起こるとまずプラグを含む点火系に「なにか問題が起こったのか?」という発想をしていたと思う。

 ところが、今では自分でプラグ交換をしたのは「いつだっけ?」というくらいである。また、エンジン不調の話を耳にしてもプラグの存在を飛び越えて、なにかと難しく考えるようになっている。でも、そうではないのだ。お2人の話を聞いていろいろ忘れていたことに気がついた。

 自身にそんな部分があったので、日本特殊陶業ブースの展示物は非常に興味深く見ることができた。そして、がぜん楽しみになったのが、これからご紹介するNGKブースのハイライト、整備仕向けセミナーの「スパークプラグ・イグニッションコイル『予防整備・予防交換』」というものだった。

 このセミナーはタイトルのとおり整備士に向けたものだが、難しい技術面の話ではなく、プラグを交換する理由を思い出してもらい、プラグの消耗が原因となるトラブルを回避することを伝える内容なので、日ごろクルマを運転しているCar Watch読者さんにとってもきっとタメになるはず。この機会にぜひ、覚えていってもらいたい。

プラグ交換が必要になる理由とは

セミナーで解説を担当したのは日本特殊陶業 自動車営業本部 市販技術サービス部 2課 課長 副主管の所慎司氏

 では、セミナーの内容を紹介しよう。解説を担当したのは日本特殊陶業 自動車営業本部 市販技術サービス部 2課 課長 副主管の所慎司氏だ。セミナーの会場はブースの一画でおよそ十数名ぶんのイスが用意されていたが、今回は技術スタッフと一緒に全国の修理工場を回ってプラグ交換キャンペーンをしていた「プラグチェッカーズ」のメンバーがブースに立ち寄った人への声がけも行なったので、開始時刻にはほぼ満席になっていた。

ブース内に設けられたセミナースペース。セミナーは1日3回行なわれ、初回から席は埋まっていた。これはお昼過ぎの2回目の模様

 所氏がモニター前に登場してセミナーがスタート。所氏は「エンジンには燃焼の3大要素というものがあります。それは『よい混合気』『よい圧縮』そして『よい火花』ですが、プラグはこのなかの『よい火花』の部分を担う非常に重要な部品です。しかし、プラグは消耗部品です。定期的な交換をしていないと、よい火花が保てないのでよい燃焼を得ることもできなくなります。すると、アイドリング不安定、加速がよくない、燃費がわるい、それからエンジン始動性の悪化などの不具合につながってきます。だからこそ、よい火花を保つためにプラグは適切なタイミングで交換をしていただくことをお勧めします。この適切なタイミングで交換することを私たちは『予防整備・予防交換』と呼んでいます」と切り出した。

セミナーは、スパークプラグ・イグニッションコイルの予防整備・予防交換がテーマ。最初は基本であるエンジンの燃焼における3大要素の解説。プラグが担うのが「よい火花」だ

 次は交換時期を過ぎたプラグを使い続けた場合について。所氏はモニターに電極消耗と走行距離の関係を表したイラストを表示し、「予防整備・予防交換のことをお話しする前に、消耗したプラグを使い続けたときのことを説明します。走行距離が伸びてプラグが消耗してくるとエンジンの調子は落ちてきます。なぜこのようなことになるかというと、電極消耗に応じてプラグの放電形態が変化するためです。プラグの電極が消耗して徐々にギャップが広がると、そのぶん大きな火花を飛ばさなければならないので、より強い放電電圧が必要となります。しかし、イグニッションコイルが供給できる電圧は決まっているので、プラグの消耗が進むとプラグから要求される電圧がイグニッションコイルの容量を超えてしまう状態になります。こうなるとプラグは火花を飛ばせなくなり、失火が起こるのです」という説明を行なった。

走行距離が伸びるとプラグが消耗していくことを表すイラスト。最終的には火花を飛ばせなくなるのでエンジンは不動になる
電極が消耗するとプラグの放電電圧が高まり、それがイグニッションコイルで供給できる電圧を超えてしまうと失火が起こる。また、そうなる手前には「奥飛火(おくひか)」と呼ばれる現象が発生する
新品プラグ(左)では電極間で火花が発生するが、消耗したプラグ(右)では電極間で火花が飛ばなくなってくる。この状態が奥飛火となる

 電極の消耗が進むと、電極間ではなく中心電極から碍子の表面を電気が走り、プラグの奥で放電を始めるようになる。これを「奥飛火(おくひか)現象」と呼ぶ。では、奥飛火が起こるとどうなるのかだが、このことについて所氏は「奥飛火が起こりますとクルマの加速や燃費が悪化します。では、なぜ奥飛火すると状態がわるくなるのかを説明します。ひと言で言うと奥飛火すると燃焼効率が低下するからなのです。正常に放電しているプラグでは中心電極と外側電極の中央から火炎が広がりますが、奥飛火しているプラグでは中心電極の奥の方から火炎が広がるようになるのです。こうなると、火炎が広がる際に中心電極や外側電極が邪魔となり、結果、火炎の広がる速度が遅くなります。この速度が遅くなるとピストンを押し下げるタイミングが遅れるのでトルクが低下し、トルクが低下すれば加速性がわるくなります。そして、加速性がわるくなるとドライバーは余計にアクセルを踏み込むようになるので燃費も悪化します。つまりプラグが劣化すると、このような負のスパイラルが起こってくるということなのです」と解説。

奥飛火が発生すると中心電極の奥で燃焼が始まるようになる
火炎伝播が広がる際、電極部が邪魔になって燃え広がる速度が遅くなるので、ピストンを押し下げるタイミングが遅れ、それがトルク低下の原因になる
プラグを外した際、絶縁体の表面に火花リーク痕があった場合、奥飛火が発生していた証拠になる。交換時に確認したいポイントだ

 ここまでの解説は非常に分かりやすく、興味深い内容なので会場のお客さんも集中して話を聞いているようだった。そして次はいよいよ交換時期の話だが、モニターに出されたプラグの種類ごとの交換推奨距離の数字は、筆者としてはちょっと衝撃的な内容だった。では、ここからはそのことについての解説を紹介していこう。

注目すべきは奥飛火が発生する前の“経済寿命”

 所氏は「プラグが失火するところが製品寿命になりますが、交換していただきたいのはそのタイミングではなく、奥飛火が発生する前となります。このタイミングのことを私たちは“経済寿命”と呼んでいます。そして経済寿命がきたタイミングで交換することを“予防交換”と呼びます」と説明。

 この経済寿命に関しては日本特殊陶業から一覧表が出ているが、これが驚き。種類によってこれほどの差があるのかと思う内容だ。一般プラグでは2万kmが経済寿命となっているが、それよりも「え?」となったのが、長期間持つと思い込んでいたイリジウムプラグも一般プラグと同じ2万kmに指定されていること。しかもイリジウムプラグでは経済寿命の時期に2万kmのものと10万kmのものと2つの種類があった。その差8万kmである。これはいったい何なのだ。

プラグのタイプ別交換推奨距離。これはNGK製品だけに限ったことではない。10万km以上無交換という「言葉」が広まっていて、そう思っていた人も多そうなだけに興味深い数字ではないだろうか

 この理由についても所氏から解説されたが、それは電極の仕様の違いだった。経済寿命が10万kmのイリジウムプラグでは外側電極に白金チップが使われている。これを「両貴金属プラグ」と呼ぶ。そして経済寿命2万kmのイリジウムプラグは外側電極に白金チップのない「片貴金属プラグ」となっていた。

 その違いはどんなものかというと、ズバリ電極の消耗度の差。白金/イリジウムが片側のみの片貴金属プラグだと、両貴金属プラグに比べて外側電極の消耗が激しくなるため経済寿命に差が出るということだ。

“イリジウムプラグ=長寿命”ということではなかった。片貴金属プラグと両貴金属プラグでは8万kmもの耐久性の差があったのだ。プラグ交換がしにくい構造など長期に渡りプラグ交換をせずに済ませたい場合は、世界初の新素材「ルテニウム配合中心電極」と「白金突き出し+オーバル形状」の外側電極を採用し、推奨距離が12万kmと長いNGK「プレミアムRXプラグ」を選ぶといい

 つまり、巷で広く言われている「イリジウムプラグだから長寿命」という話は半分当たりで半分外れ。正しくは「両貴金属プラグのイリジウムプラグは長寿命だが、片貴金属プラグのイリジウムプラグだと一般プラグと寿命は同じ」だったのである。

 なお、軽自動車はエンジンの使用回転数が普通車より高めになる傾向で、エンジンの圧縮比も高めということから交換推奨距離は「普通車の半分」となっているので、軽自動車に乗っている方はだいたい1年ごとの交換と思ったほうがいいということになる。

 でも、これを実行できている軽自動車はどれだけいるのか、また、軽自動車だけでなく普通車も推奨距離でプラグ交換をしていないケースはかなり多いはず。すると、気がつかないうちに前記した「点火の奥飛火」が発生した状況のまま乗っている可能性も高い。これはクルマが好きなドライバーとしてはかなり気になることのはずなので、しばらくプラグを変えた記憶が無いということであれば、この機会にプラグを外してチェック、もしくは交換をしてみるのはいかがだろうか。

軽自動車の場合はイリジウムプラグであっても片貴金属プラグであれば1万kmごとが推奨距離なので、ほぼ1年ごとに交換時期が来ると考えてもいい

 ここまででもかなりタメになる内容が聞けたと思っていたが、まだ続きがあった。今度はイグニッションコイルの話で、所氏からは「当社ではイグニッションコイルに関しても予防整備、予防交換を推奨しています。このイグニッションコイルはたいてい1気筒ずつ故障していきますが、ほかのイグニッションコイルも同じエンジンに付いているわけですから、受ける熱も同じ、受ける振動も同じ、そしてプラグの消耗度合いも同じなので、かかる電圧も同じです。つまり1つが故障したのならば、残りも全て近いうちに同様に故障する可能性が非常に高いのです。それだけに私どもは故障が発生したものだけでなく、全気筒同時の交換をお勧めしております。ただ、市場を回っておりますと、整備工場さまからは全気筒交換をお勧めしても、お値段などの面からお客さまに受け入れていただけないケースがあるようです。でも、同時に劣化するものなので1カ所だけ直しても、しばらくすると未交換コイルが故障して再入庫することになります。そうなればお客さまとしては“この前直したばかりなのにまた壊れた、ここは信頼できない”という気持ちになると思うので、修理工場さま、お客さまともにいいことはありません。だからこそイグニッションコイルも予防交換、予防整備の観点でトラブルが出たら全気筒交換をお勧めします」とのことだった。

イグニッションコイルは全気筒同時交換が推奨。どうしても1気筒だけの交換になるのなら、そのリスクをユーザー側が理解しておくことが大事

 セミナーはここで終了。時間にして30分ほどのものだったが、内容が濃く、それでいて整備士ではない筆者でも分かりやすい解説だったので、あっという間に終わったという印象だ。それに、こうして改めてプラグ交換の意味を伝えられるとかなり気になってくるもので、実際、しばらくクルマのプラグを変えていなかった筆者はこの時点でプラグを変えることを決断。戻ってから早速ネット通販でNGKのイリジウムプラグを購入(ホントです!)、仕事がひと段落したら交換しようと思っている。

あっという間に思えた30分のセミナー。聴講していたお客さんも皆真剣に聴いていた

 日本特殊陶業ブースでは、セミナーのほかにもいろいろな展示物があったので最後にそれらを写真で紹介するが、この記事を読んでプラグ交換に興味を持っていただいたのなら、ぜひ「予防交換・予防整備」の観点からプラグを変えてみてはいかがだろうか。

NGK一般プラグとNGK「プレミアムRXプラグ」の火花の差を可視化したデモ機。耐久性だけでなく放電性能も高い
車種ごとにどのプラグが適合するかはNGKのカタログ、もしくはWebページの適合表に載っているので、それを参考にしてほしい
プラグ交換時にかなり便利な工具も発見。両端の径が違っているので細いプラグ、太いプラグの両方に対応
材質は硬質ゴム。最近はプラグの台座が奥まった位置にあるエンジンが多く、落下による碍子割れ防止と、プラグホールに斜めに入ったまま締め付けることによるネジ破損を防ぐ目的で、このように専用工具に差し込んでゆっくり確実に手締めするのだ
プラグの締めつけを体感するデモヘッド。最近の車両に搭載されているスパークプラグはネジ径が細くなる傾向にあり、締め付けトルクは小さくなる。かつて主流であったネジ径φ14mmの場合のトルクは2.5kgmだが、現在主流のφ12mmの場合のトルクは1.5~2.0kgmで、昔の感覚では締めつけ過ぎになってしまうのだ
正しいトルクで締めつけないと、プラグが燃焼ガスから受けた熱をヘッド側に逃がせず、異常燃焼や溶損トラブルに繋がる。とはいえ普通はトルクレンチは持っていないだろう。でも、NGKのWebページにはプラグの締めつけ角度で決めるトルク管理法が分かりやすく紹介されているので、DIYで交換する際はそれを参考にしてほしい
ブースには技術サービス部が全国を回るための車両も展示されていた。そこに積んであったのがこのオシロスコープ。上が正常なプラグの波形。下は消耗したプラグの波形。要求電圧が高くなっているのが分かる。また、消耗プラグは火花が飛ぶ時間も短くなっていた
こちらはVRでプラグ交換を体感するコーナー。プラグ交換をしたことがない人でもゲーム感覚で楽しみながら体験できる