トピック

SUPER GTドライバーが教える、速く走るためのレーシングギア選び

最新アイテムはドライバーのポテンシャルを引き出す魔法の道具

GT500クラス38号車 ZENT CERUMO LC500の石浦宏明選手(左)・立川祐路選手(右)

 筆者は新車情報などの他に、クルマ趣味を持つ人向けの取材をすることが多いが、そこで感じるのがクルマ好きな人の「クルマへののめりこみ度」が以前より高まっているということだ。ネットを利用することで日本中に同じ車種に乗る仲間、趣向の合う仲間を作ったり、はたまた「一生ものと言える憧れのクルマを手に入れた」という話もよく聞く。

 そしてCar Watchでも紹介している86/BRZレースを始めとする参加型モータースポーツにチャレンジする人も増えているし、もっと気軽にスポーツ走行を楽しみたい人にはサーキット走行会も人気だ。

 こうした流れのなかで注目されているものがレーシンググローブにレーシングシューズ、レーシングスーツといった本格的なレーシングギア。これらは公式レースに出るには必須なものだし、走行会派にとってもドライビングをしやすくするため、安全性を高めるため、そしてより気持ちを高めることができるものである。

 しかし、いざ買おうと思ってもこういったアイテムはカタログに記載されている以上の情報はなかなか見つからないし、現物を置いているお店も限られるので「サイズ選びや選択が難しい」という面もある。

 ということで、今回はプロドライバーにも人気が高いレーシングギアメーカー「アルパインスターズ」の総輸入代理店SPKの協力により、レーシングギアの選びのポイントを紹介していく。ただ、この手のアイテムを語るには使用感が重要だ。そのため実際に使っている選手からの話が聞きたいところ。

 そこでなんと「AUTOBACS SUPER GT 2018シリーズ」に参戦するドライバーに話を聞く機会をいただいた。登場していただくのはGT500クラス 38号車 ZENT CERUMO LC500の立川祐路選手・石浦宏明選手。さらに、GT300クラス 25号車 HOPPY 86 MCの松井孝允選手である。現役トップドライバーからのアドバイスだけに、レーシングギアに関心がある人にとっては大いに参考になるはずだ。

GT300クラス 25号車 HOPPY 86 MCの松井孝允選手も以前からアルパインスターズのギアを愛用している

軽くて動きやすい、そしてカッコいい。これが最新のレーシングスーツ

GT500クラス38号車 ZENT CERUMO LC500の石浦宏明選手(左)・立川祐路選手(右)。アルパインスターズはイタリアに本拠地を置くメーカー。レーシングスーツも最先端のデザインを採り入れ、かっこいいものになっている

 まずは立川選手と石浦選手が愛用するレーシングギアを紹介しよう。立川選手はスーツが「GP TECH SUIT」で、スーツの下に着用するアンダーウェアが「UNDERGEAR ZXシリーズ」。シューズは「TECH1-Z SHOES」を愛用している。

 石浦選手はスーツが「GP TECH SUIT」でアンダーウェアが「UNDERGEAR ZXシリーズ」。石浦選手はグローブもアルパインスターズ製の「TECH1-ZX GLOVES」、そしてシューズが「TECH1-Z SHOES」という装備だ。

38号車の2人が着ている「GP TECH SUIT」はアルパインスターズのラインアップでは上から2番目のモデル。契約ドライバーなので1番いいモデルも選べるが、着心地で「GP TECH SUIT」を選んだと言う。こういうところからも本気で選んでいるのが分かる

 両選手ともプロドライバーなのでレースで、身につけるレーシングギアは契約ありきのもの。とは言え、これらのアイテムはドライビングの質や正確さに関わるものであり、なおかつ事故の際には自分を守ってくれるものなので、好みやこだわりに合わないものだとしたら契約はしない。これについて立川選手も「どんなものを着るかによって仕事の環境が変わってくるので、ここは大事な部分です」と言った。

 では、どんなところを重視しているかというと、レーシングスーツにおいては動きやすさと軽さ、そしてこの時期だと涼しさであるという。FIA公認のレーシングスーツは3レイヤーの作りなので、それなりにゴワついて肩に重さを感じるようなもの……と思っていたが、それは数年前の話。2人が着ている「GP TECH SUIT」は普段着ている洋服より軽量とのこと。立川選手からは「今日ボクがサーキットに着てきたTシャツと短パンより軽いんですから。このスーツは軽すぎて落ち着かないときがありますよ」という発言も出たくらいだ。

かなり薄くて通気性もいい。そしてスポーツ用のジャージより軽い。そんな作りながらノーメックスを使用した3レイヤー構造。そんな進化をしているレースングスーツを見ると「スポーツ用品なんだ」ということを改めて感じる

 続いて石浦選手からは「着ていてカッコいいことも大事ですよ」というひと言があった。このときはその場にいた全員から笑いが出たが、決してふざけた発言ではない。レーシングスーツを着ようと考えている人にとってカッコよさは優先順位の上位にあるはずだが、その点に関しても優れたデザインを得意とするアルパインスターズの製品は文句なしだ。

 2人のレーシングスーツの着こなしを見て分かるとおり、いまどきは体型にピッタリ合ったサイズ選びが基本。しかし、ドライビングはシートに座った状態がプレイスタイルなので、立った状態でフィット感を高めたチョイスをすると座ったときに窮屈になる部分が出たりする。

 そこで「GP TECH SUIT」を含むアルパインスターズのレーシングスーツでは立体裁断に加えフルフローティングアーム構造を備え、肘、腕下、それに腰部など動きのある部分にはストレッチパネルを採用。こうすることでフィット感を高めたサイズ選びをしても可動性のよさを実現。立ち姿のよさと座った状態の動きやすさを両立しているのだ。

シートに座った状態で突っ張ったりしない作りが施されている。体型に合わせた着方をするうえでこの機能は重要。また、SUPER GTではドライバー交代があるが、かなり窮屈な姿勢とるために動きやすいスーツのほうが素早い乗り降りができるとのこと

 ちなみに立川選手は既製品の「SUPER TECH SUIT」を着ているとのことだが、既製品でも着心地に不満はないという。アルパインスターズの四輪用スーツには9サイズの設定(うち4サイズは特注設定)があるので、立川選手、石浦選手と同じスーツを着てみたいと思うのなら身体の採寸をしっかり行ない、カッコよく着られるサイズを選びたい。

「四輪用レーシングスーツ」のサイズ表
アンダーウエアも以前と比べて薄く、軽い。また、身体を締め付けるところと動きやすくするところを分けた作りになっている。2人が使っているのは「UNDERGEAR ZX」

 2人が選んでいる「GP TECH SUIT」は通気性に優れ、体温のコントロール性や汗の蒸発性が高いのも特徴だ。GT500クラスは冷気を身体に当てるエアコンが装備されているが、それでも車内は50℃以上の温度になるので汗はたっぷりかく。ここで通気性がよくなければ蒸れてくるし、汗を吸ったスーツは重くなり動きにくくなる。それだけに風を当てたときに汗がどんどん飛んでいってくれる通気性のよさが求められているのだ。

 アマチュアレーサーや走行会ドライバーも走っているときは当然エアコンは使えない。しかも体力的にはアスリートであるレーシングドライバーほどではないだろうから、よけいに夏のきつさを軽減するスーツは必要だ。今年、そして来年以降、暑い時期も走ろうと考えているならこの点は重視してほしい部分だ。

ZENTのスーツは赤がベースでそこに金色と黒色のラインが入るが、これは赤の上に金の布を被せるのではなく、赤、金、黒、赤と重ならないよう縫い合わせている。それくらい手間を掛けて「軽量」に仕上げているのだ

レーシングドライバーにとって一番大事なのがシューズ!

「TECH1-Z SHOES」には非常に柔らかくて薄いカンガルー皮革を使用している。それぞれ名前入り

 続いてはレーシングシューズに付いて。立川選手、石浦選手ともに「TECH1-Z SHOES」を愛用しているが、シューズの話になって早々、立川選手の口から出た言葉が「レーシングドライバーにとって、スーツやグローブよりシューズが一番大事なものなんです」だった。これは予想外の展開だったのでさらに聞いてみると「繊細なドライビングをするにはアクセルワークやブレーキングがとても重要です。そしてそれを行なうにはペダルから伝わる情報をしっかり感じ取れること、細かいペダル操作が行なえる動きやすさがあることが求められます。シューズに関してはいろんなメーカーのものを試しましたが、その中で一番よかったのがアルパインスターズのTECH1-Z SHOESなんです」とのこと。

「レーシングドライバーにとって、スーツやグローブよりシューズが一番大事なものなんです」と話した立川選手
繊細なペダル操作をするのに「TECH1-Z SHOES」は必須という。2人からは「もし、チームから違うシューズで走ってくれと言われても絶対拒否します」というコメントも出た
ヒモで締めるタイプだが、ワンタッチで締め付けできる機構を採用している

 石浦選手からも「ボクもTECH1-Z SHOESが一番気に入ってます。これは履いたあとの締め上げも簡単、重さも軽いと履き心地もいいのですが、何よりソールの柔らいところがいいですね」という。

 これはどういうことかというと、レースでのペダル操作では足先だけ曲げてペダルを少しだけ動かすような繊細な踏み込みもある。そのときソールが硬かったらソールの動く面積も大きくなって余計にペダルが動いてしまうので操作が難しくなるし、どれくらい踏んだかも感じにくくなる。しかし、ソールが柔らかければ繊細な力の入れ具合に合わせてソールが反ってくれるので、思ったとおりのペダルワークができるということだ。

手相のような手のひらのグリップで握りやすさを追求

石浦選手からは「グローブは素手で握っているかのように、手のひらになにも感じないのがいいと思う」というコメントがあった

 レーシングギアの中で最も買いやすいのがグローブだが、これも初めて買うときはどれを選んでいいか分からないもの。そのためつい値段で選んでしまいがちだが、グローブもシューズ同様に繊細な操作をするには重要なものなので、ここも機能重視で選ぶべきなのだ。

 そこで長年、アルパインスターズのグローブを使っているという石浦選手にグローブ選びのポイントを聞いてみた。

 石浦選手が使っているのは「TECH1-ZX GLOVES」というモデル。縫い目は外縫いなので指を入れたときに布の合わせ目や糸が指先に当たることなく、フィット感も高い。そして手のひらにはステアリングが滑らないためのグリップ加工が施されているが、現行モデルではこのグリップ部分がとても薄くなっている、また、手を握ったときにグリップ部が重ならないようにデザインしてあるので、握ったときに段差を感じないという。

 また、薄くしながらもグリップ感は高めているので、ムダな力を入れなくてともステアリングをしっかり操作できるようになっている。ただ、手のひらのグリップを高めると今度はグローブの内側で手のひらから動いてしまう。これでは別の意味で運転しにくくなるので、現行モデルではグローブ内側の手のひらの面にも滑り止め加工を施している。

グリップ部分は握ったときに重なって厚みを感じたりしないようデザインされている
ドライバーによってはステアリングからのバイブレーションを嫌がるケースもある。そこで「TECH1-Z」というモデルではパッドを少し厚めに作っているとのこと

25号車 HOPPY 86 MCの松井孝允選手が語るレーシングギアへのこだわり

25号車 HOPPY 86 MCの松井孝允選手

 続いてはGT300クラス、25号車「HOPPY 86 MC」の松井孝允選手に話を伺った。松井選手も以前からアルパインスターズのレーシングギアを愛用していて、現在はスーツが「GP TECH SUIT」、グローブが「TECH1-ZX GLOVES」、そしてシューズは「SUPERMONO SHOES」という組み合わせだ。

 スーツに関しては松井選手も「シートに座った状態で動きやすいこと」を一番に挙げた。「乗っていてストレスがない」ということだった。ただ、外から見ている分にはドライビング時に激しく身体が動いているようには見えないので、動きやすさというワードはどうもピンとこない。そこでその点を聞いてみると「確かに激しい動きはないですが、基本的に腕も足も曲げた状態が乗車姿勢なので、ここで突っ張りがあるようだとすべての動作に影響が出ます」とのこと。これは理解できた。確かにそうである。

松井選手は立っている状態よりシートに座った状態を重視した採寸でスーツを作っているとのこと。ポジションが狭めが好みという人は、松井選手のように座った姿勢を重視した採寸でスーツを選択してみるのもいいだろう

 松井選手はアンダーウェアに「UNDERGEAR ZX」を使っている。このモデルは体へのフィット感が高く、筋肉が動くところに締め付け効果をもたらしているので「これがあると身体が楽になる」と言う。ただ、反対に締め付けがイヤな人には締め付けのないタイプも用意されているので、どちらがいいか最初は迷うところだが、それについては「適度な締め付けがあると筋肉の疲労が溜まりにくいので、長い時間走るなら締め付けタイプがいいと思います」とのこと。参考にしてほしい。

汗をかいても乾きやすいので、ピットインしたあとに干しておけば次の走行時はかなり気持ちよく着られるとのこと。なお、ノーメックス素材を使っているスーツは裏返して陰干しが基本。表向き、日なたではノーメックスが劣化する
こちらは締め付けのないタイプのアンダーウェア。好みで選ぼう

 GTマシンにはパワステが付いているが、それでも普通車よりはステアリングは重い。でも、かといって肩や腕にギュッと力を入れてしまうとクルマのフィーリングが掴み取りにくくなる。そこで松井選手は「TECH1-ZX GLOVES」のグリップのよさを最大限に利用。できるだけ力を抜いてステアリング操作をしているということだ。また、松井選手はステアリングを強く握らず手のひらを押しつけるように操作するので、グローブのフィット感で重視するのは手のひらとのこと。

ステアリングから伝わり挙動をしっかり感じるため強く握らない。それだけに手のひらのグリップを重視している
「TECH1-ZX GLOVES」は立体裁断で作られている。そのため写真のように外した状態からステアリングを握っているような形状になっている。それだけに、実際にステアリングを握っても突っ張る部分がない
松井選手は「SUPERMONO SHOES」を愛用。締め付けがベルクロになっているのが特徴。締め具合の調整がしやすい

 最後にシューズについて。松井選手が履いている「SUPERMONO SHOES」はソールやボディの柔らかさは「TECH1-Z SHOES」と同様だが、締め付けの部分がベルクロになっているのが特徴。松井選手曰く「個人差はあると思いますが、足をあまり強く締め付けると血行がわるくなって疲れやすくなったりするので、ボクは多少緩めに履くのが好きです。そのときに『SUPERMONO SHOES』は締め具合の調整がしやすいです」とこと。ただ、そのぶんフィット感は落ちるので、普通の靴選びよりはちょっとタイトなイメージでサイズを選んでいるとのことだった。

 そして次に松井選手が話題にしたのはシューズの柔らかさ。これは前出の石浦選手が言っていたのとまったく同じことで「ペダルの繊細な操作を行なうにはこのシューズでなければダメだ」と言う。

クルマを操るのは手と足なので、ここの部分に付けるギアはとくに大事ということ。それゆえにわれわれのような素人がスポーツ走行をするときは、グローブだけでなくシューズも履き替えるとそれまでとは違うドライビングができるかも

 レーシングギアは長く使うものであり、購入費もそれなりに掛かるもの。それだけに失敗できない買い物だと思う。だからこそ、購入を検討している人は立川選手・石浦選手、松井選手という現役のトップGTドライバーが解説してくれたポイントを参考に、機能的でカッコよく、自分をレベルアップしてくれるレーシングギアを選んでほしい。