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スプリング交換だけで驚くほど操縦安定性と乗り心地が向上する「チューハツプラス クロスオーバー」をGR86で試してみた
- 提供:
- SPK株式会社
2023年12月28日 00:00
操縦安定性+乗り心地を高め、居心地のいい車室内を実現
主に自動車メーカー向けのコイルスプリングやスタビライザー、板ばね、トーションバーなど、軽自動車からトラックまであらゆる車種に搭載される「シャシばね」と呼ばれるパーツを手がける中央発條。創業1925年という老舗企業で、横力制御技術「SASC(Side Action Spring by CHUHATSU)」を有している。
また、カスタマイズユーザー向けに「CHUHATSU PLUS」という自社ブランドで、SASCを用いたハイパフォーマンススプリングを多数ラインアップしている。中でもあえて車高を10mm~30mm(※車種で異なる)ほどアップさせる「マルチロード」は、特に降雪エリアに住むユーザーからの支持は高い。
しかし、最近の新型モデルはADAS(先進運転支援システム)用のカメラやセンサーが増え、特にフロントカメラやセンサーは標準車高に合わせて調整されているため、車高変更に難色を示すディーラーが増えているという。そこで中央発條では、「操縦安定性+乗り心地=居心地」と定義し、車高を変えずにハンドリングの向上と前後バランス重視のフラットな乗り味で、ドライブに出かけたら休憩することすら忘れてしまう、そんな居心地のいいスプリング「チューハツプラス クロスオーバー(以下、クロスオーバー)」を新たに開発したという。
そのクロスオーバーを、さっそく試す機会が訪れた。「純正のショックアブソーバーをそのまま使いつつ、どこまで居心地(操縦安定性や乗り心地)をよくできるかというのが命題です」と中央発條 営業部の山本浩之さんが言うとおり、持ち込まれた黒いGR86は、スプリング以外はまったくのノーマル。ちなみに山本さんは「営業」という肩書ながらも、設計、企画、開発、販促などなど、図面引きと製造以外のすべてに深く携わっているそうだ。
もともとGR86はリアのばね定数が高く(=硬い)、自由長も短い。そこで中央発條は、スプリングをショックアブソーバーに組み付ける際のプリロード(=イニシャル)がほぼゼロとしつつ、ショックアブソーバーのストロークが伸びきってもスプリングが遊ばないギリギリの設計で、ばね定数を限界まで高めることを狙ったという。最終的なばね定数はフロント18%増、リア26%増で落ち着いたとのこと。
開発にあたっては、まず純正スプリングに「カラオケ」と呼ばれる減衰力のない状態のショックアブソーバーを装着して確認しておく。それからばね定数の高いスプリングを何種類か試し、減衰のない状態でもちゃんとフラットで走れるバランスのよいところを探る。途中であえてセオリーから外れれたスプリングも装着して、本当に方向性が間違っていないかも確認するなど、徹底した確認作業を繰り返すことで綿密にベストな前後バランスを探っていくのだという。
車高を上げるとロール剛性も上がる
GR86はノーマル車高ならロアアームはほぼ水平だが、車高を下げるといわゆる“バンザイ”したような状態になって、入力に対してクルマを傾けようとする方向に力が働き、ロール剛性が下がってしまう。するとその分ばね定数を上げないと姿勢を保てなくなり、ひいては乗り心地もわるくなってしまう。
そこでクロスオーバーでは、車高を公差の範囲内で見直すことで、ロールセンターと重心を近づけてロール剛性を高めている。もちろん、あくまで見た目が不格好にならないよう、さらにはADAS用のカメラやセンサーも付いているので前後バランスが狂わないよう配慮しながらの範囲でだ。
「目指しているのはコーナリングマシンです。既存のチューニングメーカーではまだまだローダウンが一般的ですが、本当に走りをよくしてタイムを短縮するには、理論にもとづいて、車高は少し上げたほうがいいんです」と前出の山本さんも述べていたとおりで、コーナリングマシンぶりの片鱗を、市街地を軽く走っただけでも感じ取れた。
筆者はより違いを感じられるように、ノーマルスプリングの白いGR86も用意して乗り味を確認したのだが、ステアリング操作に対して正確についてくる感覚がノーマル車両とはぜんぜん違う。山本さんが「一番こだわった」と言うステアリングを戻す際の動きも、揺り返しがない。こんな領域までスプリングだけで調整できることにも驚いた。
高速道路では、フラットライド感が心地よい。山本さんが「キャパが広くて、なかなかいい」と述べていた純正のSHOWA製ショックアブソーバーのよさも改めて感じた。こんなによかったっけ? と思ったほどだ。マッチングがいいおかげでショックアブソーバーのよさもより引き立てられたのだろう。
「それでも“変えた感”は欲しいので、乗り心地がわるいと感じないギリギリのところを狙いました」と山本さんが言うとおり、適度にひきしまった感覚がありながらも、乗り心地の快適性は十分に確保されている。クルマの動きも自然で落ち着いた印象もあり、上質になったようにすら感じられた。
濡れた路面でも安心して楽しく走れる
市街地や高速道路を走ったのち、ワインディングでも試乗してみた。雨上がりで濡れた路面には葉っぱがたくさん落ちているうえ、GR86は意図的にテールスライドしやすいように味付けされているので、ノーマルモード&VSC ONでもかなり滑りやすく、VSCが頻繁に作動するような状況だった。
ワインディングでもまずはノ-マルスプリングから試乗。それなりに楽しく走れたのだが、クロスオーバー装着車に乗り換えると、やっぱりかなり違う。クルマの動きがより手に取るように分かり、もし滑ってもコントロールして立て直せそうな雰囲気を感じ取れた。ちゃんと地に足が着いている感じが強く、走っていて安心感がぜんぜん違うのだ。
回頭性も、切り始めと戻したときの反応が違うことを改めて実感。左右のコーナーがつづらおりになっているような箇所でもキレイにちゃんとついてくる。ノーマルスプリングもわるくはないが、微妙な応答遅れと前の挙動が残りがちなのが気になった。
ロール剛性が上がっているというのも確かにそうだ。人間は意外と敏感で、地上高やサスペンションストロークの数mmの違いや、ロールの仕方の違いをかぎ分けられる。ロールしにくくなっていながらもストローク感は増えていて、前後左右の荷重移動の感覚がつかみやすく、クロスオーバー装着車のほうがよりメリハリのある走りができた。
山本さんが「まだ硬さ感はあります」と言っていたのも分からなくはないが、ノーマルスプリングで感じがちだった衝撃っぽい入力はずいぶん払拭されていたので、不快に感じるシチュエーションは激減している。
乗り心地のよさには、中央発條が得意とする横力制御の技術も効いている。ストラット式のフロントサスペンションは、横力をキャンセルするためスプリングをオフセットして装着するのが一般的だが、86やGR86の場合はそれが不可能なレイアウトになっている。そこで初代の86の途中で純正スプリングにも横力を制御するよう工夫され、現行のGR86にも採用されているのだが、中央発條はより進化した横力制御の技術をスプリング自体に採用。さらに、設計面での自由度が高く、より理想的な仕様としやすい冷間成型を採用していることも強みという。
「GR86はベースがいいから、やりがいがありました」と山本さんも言うように、とにかくスプリングだけの交換で、乗り心地、操縦安定性、ロール剛性の向上といった、さまざまなメリットを得えられて、足まわりがよく動いて挙動が分かりやすく、こんなに楽しく走れることにとても驚いた。もちろんスプリングだけだからコストもあまりかからない。費用対効果はバツグンだ。
クロスオーバーは、適正なバランスを突き詰める必要があるため開発にとても時間がかかるゆえ、現状ではまだGR86用しか開発は完了していないというが、ぜひGR86オーナーには試していただきたい逸品だし、さらなる車種拡大にも期待したい。
Photo:堤晋一