トピック
乗用車の雪上走破性向上にこの手があった! 車高を上げることで、乗り心地とハンドリングを向上させる新発想スプリングとは?
中央発條の「CHUHATSU PLUS MULTI ROAD」を街乗りで試してみた
- 提供:
- SPK株式会社
2022年12月28日 00:00
クルマのシャシー性能を高めようとしたとき、まず思いつくのが足まわりのチューニングだ。その車高を「ほどよくローダウンして、重心を下げながら同時に見た目もスタイリッシュにする」というのが王道だろう。
しかし、今回紹介するSPKの「CHUHATSU PLUS MULTI ROAD (以下、マルチロード)」は、なんとその車高を“アップ”することで、走行性能を向上させるスプリングという。
これを提唱するのは自動車メーカーにもスプリングを供給する「中央発條」と、数々の自動車部品やモータースポーツ部品を手掛ける「SPK」。両社がタッグを組んで「マルチロード」を開発し、いまそのバリエーションを精力的に拡大している。
ここからは、その技術と効果について迫ってみよう。
マルチロードが車高を上げる理由は、大きく2つある
まず1つは降雪地域のユーザーが、「冬場に雪上路を走る際、深い轍(わだち)でもクルマの下まわりを擦らないようにしたい」というニーズがあった。
もう1つは、走行性能の向上だ。
車高を上げることでクルマは、重心位置とロールセンターまでの距離を縮めることができる。こうすることで重心の振り子運動を抑えることができ、ロール量が減るのである。
ちなみにロールセンターとはサスペンションアームの延長線(ストラットならロアアーム、ダブルウィッシュボーンであれば上下アームから伸ばす)とタイヤの接地中心からの延長線の交点で、これを起点に車体はロールする。
スプリング長を短くして重心の位置そのものを下げるのがチューニングにおける一般的な考え方だが、車高を上げて重心点までの距離を短くすることでも、車体を安定させることはできるのだ。
さらにこのマルチロードをはじめとしたチューハツ・プラス スプリングシリーズには、中央発條の「SASC(Side Action Spring by CHUHATSU:サイド アクション スプリング バイ チューハツ)」が盛り込まれている。
通常スプリングは圧縮されると、その反力が上下方向だけでなく横や斜め方向にも発生する。しかし中央発條はスプリングの巻き数、コイル径、リードやピッチを最適化することで、反力を一定方向に制御。これによってダンパーはサイドフォースを受けにくくなり、スムーズに伸び縮みできるようになって、結果として減衰力が初期から素直に立ち上がり、狙いどおりのロールスピード制御と、快適な乗り心地が得られるようになる。
ちなみにSPK開発課の佐藤氏によると、「CHUHATSU PLUSは、自社のテストで通常のスプリングよりも、ダンパーの摩擦抵抗を最大25%低減することができた」という。
また、スプリングの素材には高応力材を採用し、経年劣化(ヘタリ)を最小限に留めた。そして表面には耐チップ1コート粉体塗装をすることで、その防錆力も高めている。
さらに言うと最適なストローク量とロール量を実現するために、一部の車種を除くが車種ごとに専用設計したバンプラバーをも用意している。
マルチロードをノーマルスプリングと比較しながら試乗してみた
というわけでいよいよマルチロードのインプレッションだが、今回はこれをトヨタ カローラ クロスに装着。同時にノーマル車両とも乗り比べた。
まずマルチロード装着車で感じたのは、アイポイントの高さだ。カローラ クロスはその名のとおりクロスオーバー車だが、実は乗り込むとさほどアイポイントの高さを感じない。
しかしマルチロードを装着した車両は、ノーマルと比べて明らかに視界が良好だった。聞けばその車高は20mmほどしか上がっていないとのことだったが、体感的には、30mmは車高を上げたのではないか?という印象を持った。
そしてその乗り心地が、街中ではとても気持ちよかった。
足まわりのシッカリ感がそう感じさせるのだろう、アクセルを踏めばタイヤが“スーッ”とスムーズに転がり、ハンドルを切れば軽い操舵感で、気持ちよくクルマの向きが変わる。
ノーマルは重心そのものが低く、ダンパーがねっとりとロールを制御する感じ。これはこれでわるくないのだが、もしかしたらこの動きこそがダンパーの摺動抵抗なのかもしれないと思わされた。
この動きの素直さとシッカリ感はまさに、ロールセンターと重心までの距離を短くした効果だ。感覚的にはスプリングレートをほんの少し上げたような印象だが、そこには線径やピッチの組み合わせも絶妙に作用しているから、一概にスプリングレートの高い・低いでは判断できない。
適度な剛性感が得られているにもかかわらず乗り心地がよいのは、ダンパーがスムーズに動いているから。小刻みな入力が連続する石畳や減速帯を通ってもバネ下がよく動き、マンホールや、荒れた国道の突き上げおよび段差落ちを通過しても、短い時間で衝撃が収束する。
一方高速道路では、試乗車が18インチの純正オプションタイヤを装着していたこともあり、ノーマル車に対してレスポンスがよくなりすぎている一面もあった。
操舵に対して荷重の移動速度が速くなったため、小さい舵角でクルマがよく曲がる。逆を言えば、不意な操舵でもやや過敏に反応してしまうところがある。
これに対して重心位置そのものは高くなっているから、旋回速度が上がるほど、重心の高さを感じる場面がある。
だが言ってみればそれは、きちんと変化が出ているということでもある。もしもう少し穏やかな特性を得たいならタイヤの内圧は高めすぎないように注意したり、17インチタイヤを選べばいい。18インチタイヤのままで装着したいなら、トー角をアウト方向に少し振るのもありだろう。
また高速巡航時にACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を使うと、電動パワステの抵抗が増えてステアリングが落ち着き、直進安定性も少し高まった。試乗した限りだが車高が20mmほど上がった状況でも、「TOYOTA Safety Sense」に違和感はなかった。先進安全技術との兼ね合いは、開発においてもさまざまな環境で、走行テストを重ねているのだという。
SUV以外の車種でも効果を感じられるマルチロード
当日はカローラ クロスの他にも、マルチロードを装着している「GR86」と「ヤリス クロス」に試乗してみた。
スポーツカーであるGR86の車高を上げるというのは、見た目も含めてかなり新鮮だったが、肝心な乗り味は街中を走る限り、カローラ クロスと同じでむしろ快適だった。低いスピードレンジでもロールの様子が体感できるようになり、なおかつダンパー制御が効いているため、運転も楽しい。
かたやヤリス クロスは車体重量やボディサイズ、慣性マスがカローラ クロスに比べて小さいこともあり、スポーティさと上質さがさらにうまくバランスしていた。ダンパーの質感が上がったように感じられるのは、うれしいポイントだ。
ちなみに今回試乗したカローラ クロスとヤリス クロスはFF車だったが、4WD車にもマルチロードはラインアップが予定されている。それぞれのスプリングは別品番で、もちろんFF車とは別にセッティングされている。
降雪地域の強いニーズから誕生したマルチロードは、ただ単に車高を上げてロードクリアランスを稼ぎ、SUVテイストを楽しむスプリングではない。むしろ増えたストロークを使ってさらなる乗り心地とハンドリングのよさを提案する、新しい発想のスプリングだった。
マルチロードの効果は誰にでも感じられる?
取材時に一般ドライバー代表として、A PITオートバックス東雲の森田泰彰リーダーにもノーマルとマルチロードを比較試乗してもらった。果たして違いを感じることはできるのだろうか?
マルチロード装着車とノーマルの比較試乗を終えた森田氏は「接地感が高いといえばいいのでしょうか、ハンドルを切ったときの反応がよくなっていました。ノーマルだとフワフワした乗り味が、ビシッと定まった感じ。それなのに乗り心地がよいのは、とてもいいですね。ノーマルだと段差やギャップでお尻の辺りに衝撃が広がって残るのですが、マルチロードだとこれがすぐに吸収されました。普通スプリングをアップサスに換えたら、乗り心地はわるくなるイメージなのにすごいですよね! 最近は乗り心地をよくしたい、というお客さまが多いので、ぜひこのよさを味わっていただきたいと思いました」とのこと。
ちなみに、今回試乗したカローラ クロス用のマルチロードは2023年1月発売予定で価格は4万5000円(税別)。また、ヤリス クロス用、GR86用は順次発売予定となっている。また、A PITオートバックス東雲では2023年1月28日~29日に、マルチロードの体感試乗会を予定しているというので、ぜひ店舗に足を運んでこの違いを感じてみてほしい。
Photo:高橋 学