トピック

新型クラウン(FCEV)に水素活用都市「福岡市」で乗る。THE CROWN 福岡天神へ訪問

福岡市における水素の取り組みを訪ねて(後編)

 福岡市における水素の取り組みを訪ねての前編では、脱炭素へ取り組む「福岡市水素リーダー都市プロジェクト」の紹介と、福岡市が導入した水素で走るFCトラックやFC救急車、FCパッカー車についてお届けした。

下水から水素を作り燃料電池車に供給、「福岡市水素リーダー都市プロジェクト」は脱炭素への取り組み最前線

https://car.watch.impress.co.jp/docs/topic/special/1574704.html

 後編となる本記事では、最新の水素プロダクトである新型クラウン(FCEV)および、水素都市福岡に根差したクラウン専門店「THE CROWN 福岡天神」を紹介していく。

水素で走る、新型クラウン(FCEV)

水素で走る新型クラウン(FCEV)。伸びやかなデザインが美しい

 新型となる16代目クラウンには、クロスオーバー、スポーツ、セダン、エステートと4つのボディタイプが用意されている。パワートレーンとしても、HEVやPHEV、FCEVとさまざまなものを準備している。とくにFCEVはセダンだけに設定されており、クラウンブランドを象徴するセダンに設定されることで、水素エネルギーで走る燃料電池車の普及台数を押し上げることが期待されている。

 これまで、新型クラウンのHEVやFCEVに関東で乗ったことはあるものの、福岡では初めて。取材も兼ねて水素ステーションや都市高速などが充実している福岡市内をクラウンのFCEVで走ることができた。

 セダンタイプの新型クラウンに人々が期待するのは、静粛性や乗り心地といったクラウンの伝統を引き継ぐ価値を得られるかどうかだろう。リアコンフォートモードなど電子制御によるサスペンション、高度なハイブリッドエンジン制御などによりHEV版のクラウンでもその価値は得られたが、FCEV版はさらに一段上質な静かさと乗り味の質感を手に入れていた。

新時代のクラウンデザインではあるが、フロントグリルなどは伝統のクラウンデザインを感じさせる部分がある
新型クラウンではショーファーカーとしてリアシートの居住性を重視、ゲストを迎えるリアシートの乗り心地にも配慮している

 もちろんそれを実現するのは、そもそもエンジンが搭載されておらず、水素による発電のみで動く構造にあり、アクセルを踏み込めば300Nmのモーターによる電動車らしい豊かな加速を、静かさのなかで体感できる。

 乗り心地もマイルドで、静かな移動空間でよく調整された乗り心地を味わっていると、新型クラウンの目指した上質でショーファーライクな移動空間を心から理解できる。

 この新型クラウン(FCEV)は、ほかのボディタイプと異なりリア駆動のみを用意。フロント駆動にモーターによるリア駆動を組み合わせたダイナミックが走りが特徴のクロスオーバーやスポーツに対し、フロントパワーユニット+リア駆動ならではの、リニアでダイレクトなハンドリングのよさを感じる。オーナーカーとしても、安心感の高い運動性能を示す。

 航続距離もFCEVらしく長大で、参考数値で820km。一回充填した後は、十分な航続距離を持ち、また福岡市には水素ステーションが各地にあるため、水素充填にも困らず、水素充填のことをそれほど気にせずに活用できるものはうれしかった。

水平基調の内装デザイン。見切りもよく、落ち着いた雰囲気に仕上がっている
ホールド性の高いフロントシートまわり
新型クラウン(FCEV)の心臓部。フロント部に水素から発電を行なうFCスタックを搭載する。駆動はリア駆動
新型クラウン(FCEV)は、最新の運転支援装置を搭載する

 5030mmという全長から得られる室内空間は広く、後席においてもゆったりしたポジションを得られる。あえて難点を挙げるとするならば、その全長からくる駐車のしづらさだろうが、駐車支援機構であるアドバンスドパークを活用すれば、驚くべき精度で駐車位置に合わせて駐車を行なえる。もちろん、高速道路では高度な支援機構により、レーンキープの精度も高い。都市高速はきつめのカーブも多いのだが、想像以上に曲がっていってくれるのには感心した。

 静粛性に優れる新型クラウン(FCEV)は、伝統のクラウンらしい世界観を極めたクルマと言えるだろう。水素ステーションを利用可能な都市部に住んでいる人であり、静かなセダンを求めているのであれば選択肢に入れておくべき1台。

クロスオーバー、スポーツ、セダン、エステートと4つのタイプをそろえる16代目クラウン

2022年に世界初公開された16代目「クラウン」の4モデル

 トヨタのフラグシップセダン「クラウン」は、上質で威厳もあるクルマだったが、それゆえに似合うオーナー像が決まっており、ある意味ユーザーが固定されているイメージがあった。しかし、新型クラウンはこれまでのクラウンとはまったく違う形でデビューしてきた。ボディタイプも、クロスオーバー、スポーツ、セダン、エステート(エステートは2024年年央発売予定)とバリエーションが増えたことで、クラウンの世界を広げ、「自分らしいクルマ」が選べるようになったのだ。

 例えば、あらゆることに柔軟に利用していきたいのであればクロスオーバー、アグレッシブに動きたいのであればスポーツ、やはりトラディショナルに使いたいのであればセダン。ファミリーでのツーリングに利用したいのであればエステートという具合である。新型クラウンが生まれ変わったことで、クラウンオーナーの印象も変わった気がする。これまでは「クラウンに乗る〇〇さん」であったのが「〇〇さんのクラウン」という感じで、オーナーがクルマよりも「前に立った」イメージである。

クラウン専門店「THE CROWN 福岡天神」へ行ってみた

THE CROWN 福岡天神に用意される和のテイストを盛り込んだコミュニティスペース「THE CROWN CLUB」。クラウンに関する書籍も多数そろっていて自由に読むこともできる

 トヨタでは、新しい世界観を持つ新型クラウンの発売に合わせて、クラウン専門店「THE CROWN」を展開した。現在は神奈川県の「THE CROWN 横浜都筑」、愛知県の「THE CROWN 愛知高辻」、福岡県の「THE CROWN 福岡天神」の3店を展開している。

 THE CROWNでは現在発売中の16代目クラウン全モデルに加え、THE CROWNだけで販売される特別仕様車の展示があり、さらにクラウンをより理解するための試乗の用意もある。

 また、店舗にはクラウンに精通したコンサルタントがいるのも特徴。さらにクラウンが好きな人のためのコミュニティスペースである「THE CROWN CLUB」も用意されているなど、クラウンの世界を堪能できる場になっている。

 3店舗展開しているTHE CROWNの中で、今回は福岡県福岡市にある「THE CROWN 福岡天神」を訪問した。

福岡市中央区渡辺通4-8-28にあるF.Tビル

THE CROWN 福岡天神

福岡市中央区渡辺通4-8-28 F.Tビル2階
https://www.fukuoka-toyota.jp/shop/the-crown-fukuokatenjin

 THE CROWN 福岡天神は、福岡トヨタ自動車株式会社が運営していて、店舗は福岡トヨタの本社も入る複合商業ビル「F.T BUILDING」の2階にある。

 ビルの2階へエレベーターで上がると、そこはTHE CROWN 福岡天神の入口。クルマのショールームとは思えないほど重厚感のある作りになっている。

 開かれた扉の奥にはクラウンのエンブレムを配した壁があり、中に入ると広さのあるホールに福岡に縁のある展示物が飾られている。

 奥へ進むとそこはクラウンの世界。歴代クラウンの実車展示とともにクラウンの歴史を紹介するコーナーから、現在発売されている新型クラウンが展示されていた。

 クルマのショールームという枠を超えた上質な空間に圧倒されるが、落ち着いて見ると和のテイストが盛り混まれていることに気がつく。そう、これは日本を代表するクルマであり、新しい展開を見せた新型クラウンのイメージそのものなのである。

THE CROWN 福岡天神の扉を入ってすぐにあるホール。和のテイストを持つモダンなデザイン
博多人形の名工による初代クラウンの素焼きも展示されている。デザインがかわいらしい
小上がりや縁側をイメージした内装デザイン
取材時の店内にはセダン(FCEV)、クロスオーバー、スポーツが展示されていた
クラウンのオリジナルグッズ「THE CROWN COLLECTION」を展示販売するコーナーもある
入口はもう1つある。下の階は高級家具ブランド「カッシーナ・イクスシー福岡店」が入り、そこからも「THE CROWN 福岡天神」へアクセスできる

専門店の特長と魅力をコンサルタントに聞く

西日本唯一となる「THE CROWN 福岡天神」について、福岡トヨタ株式会社 THE CROWN 福岡天神 営業スタッフ 中野氏に、さまざまなことをうかがった。クルマでの来店だけでなく、福岡の中心地である天神に位置することから公共交通機関での来店も容易。天神へ買い物に来た人の来店も多いと、中野氏はいう

 今回はTHE CROWN 福岡天神のコンサルタントである営業スタッフ 中野氏に、店舗の特徴やお店を訪れるクラウンファンについてうかがった。

 クラウンを販売する従来の拠点もあるなかで、クラウンだけのショールーム「THE CROWN」はどのような位置づけであるのだろうか? この点について中野氏に聞いた。

 中野氏は、「現在、西日本でTHE CROWNがあるのは福岡だけです。西日本のお客さまにクラウンの最新情報をご提供させていただくのが私どもの店舗になります。THE CROWNは従来のショールームとは違った作り、意味合いを持つものなので、新しいお客さまにもご来店いただき、新たな出会いができる場所と捉えています」と説明する。

 実際、福岡周辺に住む人だけでなく、他県から旅行で来る人や出張で福岡を訪れる人の来店もある。さらに福岡は、東アジアに近く国際空港や国際港があるため、インバウンドの人たちも多く訪れている。新型クラウンはグローバルカーとしてデビューしており、日本に旅行に来た海外の人の来店もあるという。

 中野氏は、「交通網が充実している福岡という土地柄からでしょうが」と言いつつも、幅広い層の来店は想定外だったという。幅広い層が訪れることからも16代目クラウン、そしてTHE CROWNの「注目度の高さ」を感じているそうだ。

 予想を超える来店者が訪れるTHE CROWN 福岡天神だが、来店した人からは「クラウンの生の情報が聞けるだけでなく、クルマをゆっくり見ることができる」という好意的な声をもらえると言う。

 これはTHE CROWNそのものが目指していた部分であるが、今は多くの情報をユーザーが集められる時代なので、自分で集めた情報と実際のモノを自分のなかで整理するための時間がほしいもの。そこにTHE CROWN 福岡天神は応え、「ゆっくり見ることのできる環境」が評価されているのだろう。

中野氏は「THE CROWN 福岡天神の落ち着いた空間はおクルマを真剣に考えることに適しているのではないでしょうか」と店舗の雰囲気を評価した

 店舗に来店するユーザー層についても聞いてみたが、中野氏の答えは16代目クラウンの注目度の広さを物語るものだった。

 中野氏からは「私どもの店舗に来られるお客さまでは、すでにクラウンにお乗りいただいているお客さまはもちろんですが、輸入車にお乗りのお客さまがとても多いです。とくに特別仕様車『CROSSOVER RS “Advanced・THE LIMITED-MATTE METAL”』を展示してからは“なお増えた”という印象です。欧州車にはマット塗装モデルが増えているので、今お乗りのクルマや購入候補になっているクルマと比べてみたいという理由でご来店されているようです。そうしたお客さまにも限定車の塗装はご好評いただいています」と、来店者の状況がこれまでのトヨタ販売店とが違っていることが語られた。

 もう一つ興味深いのがどのクラウンが目当てかによってもユーザーの層が違うという点だ。中野氏によると特にスポーツやエステートを目的にしている人は、従来のクラウンユーザーとは異なることが多いという。年齢層としても若い世代となり、16代目クラウンの新たな魅力に引かれて見に来るということのようだ。

クラウン群の中でスポーツはとくに輸入車に乗っている人からの注目度が高いという。これから発売されるエステートも若い世代からの問い合わせが増えている

水素を作り出し、地産地消で使う福岡市

 福岡市は世界初の下水から水素を作り出し、地産地消で使う「福岡市水素リーダー都市プロジェクト」を推進しているだけに、セダンに設定されたFCEVの評判も気になるところ。パワートレーンの選ばれ方についてもうかがったところ、やはりまだなじみの深いHEVが選ばれる傾向であるという。

 ただ、福岡は水素ステーションの数も多いのでFCEVを検討する人は多めであり、福岡市は燃料電池車の購入に対して補助金を設定しているので、補助金を使うことでHEVとの購入費の差がなくなる状況もFCEVを検討する材料になっているようだ(令和6年度の補助金はまだ募集開始されていない)。

FCEVとしてはMIRAI(ミライ)が知られているが、日本を代表するクルマであるクラウンにFCEVがラインアップされたことはインパクトが大きいという。福岡市には市民の下水から製造された水素を充填してくれる水素ステーションがある

 THE CROWN 福岡天神では、地産地消による水素の「つくる」「はこぶ・ためる」「つかう」を進める福岡市、九州大学と協力して3月30日に「水素エネルギー×モビリティサミット」(入場無料)を開催するとのこと。場所はTHE CROWN 福岡天神の入るF.Tビルで、福岡市が進める水素活用についての紹介から、FCEVからの電気を使って作った食事の提供、水素由来の電気エネルギーによる音楽ライブ、クラウン(FCEV)の展示など盛りだくさん。

 そんなイベントの開催に向けて中野氏からは「今回のイベントは産学官が一体となって福岡市における水素活用への取り組みや実績をお伝えしていくものです。それだけにイベントをきっかけに福岡市民の皆さまに水素利活用の輪が広がってくれることを願っています」と笑顔で語ってくれた。

 興味のある方はTHE CROWN 福岡天神を訪れ、ぜひ福岡の街をクラウン(FCEV)で走ってみてほしい。世界的にも注目される福岡市の水素利活用を知ることができるだろう。