トピック
下水から水素を作り燃料電池車に供給、「福岡市水素リーダー都市プロジェクト」は脱炭素への取り組み最前線
福岡市における水素の取り組みを訪ねて(前編)
- 提供:
- トヨタ自動車株式会社
2024年3月19日 11:00
福岡市が進める「福岡市水素リーダー都市プロジェクト」
世界は「脱炭素社会」の実現に向けて進んでいる。多様な形での脱炭素の取り組みがあり、日本ではその1つとして「水素」の利用に大きな期待を寄せ、さまざまな社会実装の取り組みが進められている。
その中でも注目を集めているのが、福岡県の県庁所在地である「福岡市」の取り組み。自治体として「福岡市水素リーダー都市プロジェクト」を掲げ、水素社会の実現に挑戦している。ここでは、日本でも最先端の取り組みとなる、福岡市における水素エネルギーの活用を紹介していく。
福岡市では早くから水素エネルギーに着目し、市民の生活にとって身近な場面に水素を実装する取り組みを行なっている。
このプロジェクトでは、下水(生活排水)から取り出したバイオガスを元に水素を作り出すことと、作った水素を供給するための水素ステーションの運営。さらにさまざまなFCモビリティでの活用など、水素を「つくる」「はこぶ・ためる」「つかう」というエネルギーサイクルの構築に取り組んでいる。
福岡市が官民共同で取り組む「下水から水素を作り、燃料電池車へ供給する水素ステーション」は、世界でも福岡市でしか行なわれていない最先端のもの。下水は市民が暮らしていれば安定して得られる都市型「資源」であるため、福岡市から全国へ、そして世界へ広がる可能性を持つ事業でもある。
こうした活動をしていくなか、福岡市は水素活用を積極的に進めているトヨタ自動車に出会い、市民の生活のなかで身近に感じ、持続可能で実践的な水素利用を広げることについて協議を重ねることとなった。
2021年にはスーパー耐久シリーズのレースに出場している水素エンジン搭載レースカーの燃料として福岡市の下水から作られた水素を使用。これが福岡市とトヨタの初めての連携となったのだ。
さらに2022年2月7日には、福岡市とトヨタは水素社会の早期実現に向けて商用事業での協業に取り組むCJPT(Commercial Japan Partnership Technologies株式会社)と共同で、相互に連携をした幅広い取り組みを推進していくことに合意し、連携協定が締結された。
福岡市の水素事業のキーパーソンに聞く、水素社会実現に向けた取り組み
現在のクルマ社会では、水素を燃料として使うトヨタのMIRAIや燃料電池バスのSORAが街中を走行しているだけに、脱炭素エネルギーの選択肢として水素はある程度身近に感じることができるだろう。
しかしながら、水素製造価格の課題、水素供給の課題など、水素の「つくる」「はこぶ」「つかう」がすべて整っているわけではない。「福岡市 水素リーダー都市プロジェクト」では、それをどのように解決していこうとしているのだろう。
そこで福岡市における水素活用の取り組みについて、福岡市経済観光文化局 創業・立地推進部 水素推進担当 モビリティ推進担当 主査の清見康平氏に話をうかがった。
清見氏によると、福岡市は都市の特性に合わせ水素の実装を進めているという。日本十大都市の1つである福岡市は、大きな工場が建ち並ぶような地域ではなく、約164万人の市民が暮らし、国際空港や新幹線の基幹駅、そして国際港があるので、市外からも多くの人が訪れる。
そのため福岡市内の業種は約9割がサービス業であり、下水も多く出ているという。そのような構造の中、福岡市が選んだのが下水から水素を作り出して、水素エネルギーを地元で消費するという地産地消の形態だ。
福岡市の製法では、下水から水素を作る際に、新たな二酸化炭素が発生しないので、カーボンニュートラルによる水素製造が行なわれていることになる。
下水から発生するバイオガスを取り出し、そのバイオガスから水素を作り出し、下水処理場のすぐ横に設置してある水素ステーションに貯蔵する。その水素ステーションを訪れるFCEVである乗用車やトラックにはカーボンニュートラルで製造された水素が供給されていく。そのようなエネルギーのエコシステムがすでに実現している。
実際、水素ステーション横にある福岡市中部水処理センターは1日あたり約40万人分の下水を処理しており、都市ガスに近い下水バイオガスを製造。水処理センターで製造される水素の生産能力量は多く、一日あたり、トヨタ MIRAIを約60台分満充填できる3300立方メートルになるとのこと(数値は実証当時のもの)。
福岡市水素ステーションでは、下水由来の水素を容器(カードル)などに入れて出荷できる機能も用意されている。地元企業が施設に設置している燃料電池向けに出荷している。
また、レクサスの主力製造工場として知られるトヨタ自動車九州からは、同社小倉工場に純水素燃料電池を設置しているため、そこで使用する水素の供給依頼もきているという。
こうした水素を「つくる」取り組みだけでなく、福岡市は「つかう」の部分も広げるところに力を入れることが必要であるという。
福岡市が取り組む、水素を「つかう」チャレンジ
福岡市が水素を「つかう」取り組みとして導入しているFCEVは、市民の生活に身近な車両である。福岡市の公用車であるMIRAIは冒頭に紹介したが、市内の中学校や特別支援学校に給食を配送する配送トラックにもFCEVを導入。市内に3箇所ある給食センターのそれぞれにFCトラックを1台ずつ配備した。
給食配送車は搬入時、搬出時とも授業中に校内に入場する。作業中はアイドリング状態で待機することもあり、従来のディーゼルエンジンのトラックではエンジン音や排気ガスなどが発生するが、FCトラックになったことにより、音も静かになり、排気ガスもなくすことができた。
また、3月8日にはFCトラックベースのFCパッカー車(ゴミ収集車)の導入とFC救急車の実証開始も発表した。FCパッカー車は深夜に稼動し、走るエリアも広いことから、無音で走行でき、バッテリーEVよりも長距離の走行が可能なFCEVは、市民目線からも分かりやすい水素の有効利用になる。
そのほか、トヨタとの連携協定を締結したことで導入された「Moving e」というFCバスもある。これはトヨタのFCバス「チャージングステーション」に、ホンダの外部給電器や可搬型バッテリなどを搭載した移動式発電、給電機能を持った車両。
災害が発生した際の給電ステーションとして使用できるほか、平時でもイベントでの展示や給電、水素活用のPRなど、さまざまな用途に使われている。Moving eの展示予定は福岡市のWebサイトで確認もできる。
まちへの水素実装で、水素を「ためる・はこぶ」にもチャレンジ
このように有効に活用されている福岡市の水素であるが、課題ももちろんある。まず第一はコストだ。
現状、水素を使うクルマの台数が多くなく、発電のための燃料電池を備える施設の数もかぎられているためステーションの利用も限定されている。
需要増がこれからという水素は、現時点では製造コストがそれなりにかかる。モビリティとしての燃料代は国の支援があってもガソリン代と同等レベル(というより、国がガソリンと同等レベルになるように支援している)。
また、水素ステーションを作る際の法的な問題も多く、水素ステーションを増やしにくいという部分もある。
しかしながら、そうした課題があっても燃料電池で容易に電気へ変換でき、水しか排出されないという特性を持つ水素はこれからのエネルギーとして大きな期待を背負っている。燃料電池だけでなく、直接燃やす利活用の取り組みも始まっており、トヨタの水素カローラや、トヨタとリンナイの水素コンロ、川崎重工業や三菱重工業の水素燃焼発電など、質量あたりのエネルギー密度がガソリンの3倍という水素の特性に期待が集まっている。体積では石油系の約3分の1だが、質量では約3倍という優れた特性から、体積よりも質量エネルギー効率を重視するロケットに使われているのは多くの人に知られているとおりだ。
質量エネルギー密度
圧縮気体水素(35MPa):39,400Wh/kg
圧縮気体水素(70MPa):39,400Wh/kg
液体水素(LH2):39,400Wh/kg(気体にして使用するため、圧縮気体と同じ)
石油系(ガソリンなど):約12,800Wh/kg
リチウムイオンバッテリ系:約250Wh/kg
体積エネルギー密度
圧縮気体水素(35MPa):767Wh/L
圧縮気体水素(70MPa):1290Wh/L
液体水素(LH2):2330Wh/L
石油系(ガソリンなど):約9600Wh/L
リチウムイオンバッテリ系:約700~600Wh/L
(参考文献:GSユアサ 再生可能エネルギーの大規模導入に対応するためのエネルギー貯蔵・輸送技術[PDF])
このように優れた面の多い水素エネルギーについて、福岡市ではモビリティだけでなく、「まちづくりへの水素実装」にも取り組んでいる。その1つとして注目されているのが、九州大学箱崎キャンパスが移転した跡地で今後計画される新たなまちに水素を実装していくもの。
福岡市中心部にある九州大学箱崎キャンパスの跡地は約50haという広大な敷地で、そこに新しい街を作っていく計画が進んでいる。その街に「水素のパイプライン」を引き、民間、公共問わず各施設に設置する純水素燃料電池へ水素を供給するという仕組みを構築していく。
水素ガスをパイプラインで送る取り組みは、東京の晴海でも行なわれているが、福岡市では学校などの公共施設にも水素ガスを送り、それをエネルギーとして利用していくことを考えている。水素の供給拠点としては、同エリアに新たに水素ステーションの整備を検討しているという。
このように福岡市では水素の「需要と供給」を拡大していく取り組みが行なわれている。福岡市が率先して手掛けたことはほかの自治体のモデルとなり、それが広がることで水素についての理解が進み、全国の自治体や世界へと広がっていく未来も見えている。
水素社会というとなかなか実現しない遠い未来と思われている部分もあるが、福岡市では下水由来のバイオガスから水素を製造し、水素を有効に使う取り組みへと進めている。「福岡市水素リーダー都市プロジェクト」では、水素ステーションとFCEVという組み合わせだけでなく、水素供給パイプラインを活用した、まちへの水素の実装も視野に入っており、水素エネルギーを多様な形で利活用しようとしている。
世界的にも最先端の取り組みとなる「福岡市水素リーダー都市プロジェクト」には、モビリティだけでなく、市民の生活全体への水素の実装といった観点からも注目していただきたい。
「福岡市における水素の取り組みを訪ねて」の後編では、実際に福岡市を新型クラウン(FCEV)で走行したレビューと、HEV、PHEV、FCEVと多様なパワートレーンを展開する16代目クラウンの情報発信店舗となる「THE CROWN 福岡天神」の紹介をお届けする。
新型クラウン(FCEV)に水素活用都市「福岡市」で乗る。THE CROWN 福岡天神へ訪問
https://car.watch.impress.co.jp/docs/topic/special/1575085.html