トピック
ジムニーの走りの弱点を克服する「サスペンションピボットブレース」とは? その効果のほどを確かめてみた
さらに走りの質を最上級まで高めるアイシンの新製品「MCBコンパクト」も試乗
2024年4月26日 00:00
走りの質を高めるパーツを手掛けるムーンフェイスの「Genb」ブランド
ハイエースやキャラバンの足まわりチューニングパーツを得意とするパーツメーカー「ムーンフェイス(MOON FACE)」が、そのアイテム群に対して「Genb(ゲンブ:玄武)」というブランドで展開しているのをご存知だろうか?
「Genb」の商品ラインアップは実に幅広く、ショックやスプリングに始まり、サスペンションブッシュやバンプストッパー、さらにはボディ強化パーツ、キャタライザー(触媒)など多岐にわたる。聞けばムーンフェイスの阿部代表は、その昔ダートトライアルやサーキットのタイムアタック車両で好タイムを記録。その功績が認められて某ワークス系エンジニアとして招かれたこともあったそうだ。
そんな「Genb」がいま新たにパーツ開発に着手したクルマが、スズキのジムニー&ジムニーシエラである。ムーンフェイスの本社には、まるで自動車販売店かのように、MTやATを含め、さまざまなグレードのジムニー&ジムニーシエラが並ぶ。これらはパーツのフィッティングやセッティングの確認、型式認証を取得するための車両とのことで、「Genb」のジムニーに対する本気度が伝わってきた。
さて、「Genb」がジムニー用に打ち出した第1弾は「サスペンションピボットブレース」である。これは車体中央部から前後車軸に斜めに伸びている「リーディングアーム」と「トレーリングアーム」のピボット部を左右に橋渡しするような構造のアイテム。すなわち、ラダーフレームの左右間をつないでしまうことで剛性アップを図ろうというわけだ。
取り付けはピボット部分のボルトを外してブラケットを取り付け、ブラケットの間をアルミ製のバーでつなぐというもの。二柱リフトで車両を持ち上げれば装着できるが、ムーンフェイスの阿部社長は、「1G(地面に置いた状態)で取り付けたほうが正しく効果が出る」とのことで、車検場のように地面にもぐれる作業場で取り付けていた。
「サスペンションピボットブレース」のポイントとなるのはまずブラケットだ。ピボット部と共締めとなる部分は筒状で、そこに板が溶接されている。もっとシンプルな構造のL字ステーでつなげてもよさそうなものだが、ここを筒状にすることで全方位的にバランスよく剛性アップできるという。確かにパイプフレーム車両のサスペンションアームの付け根などでよくみる形状だ。L字ステーだと縦と横で剛性が変わってしまうと言い、さすがレースで鍛えられたムーンフェイスである。
さらに注目したいのは、左右をつなぐバーの素材をアルミとしたことだ。鉄のほうが剛性アップには効果がありそうだが、鉄だと硬すぎてかえって乗り心地がわるくなってしまうのだとか。剛性はアップさせたいが、ある程度のしなりがほしいとアルミをあえて選択していることもまたポイントの1つと言う。
実はそのムーンフェイスの開発姿勢に興味を示した会社がある。それがトヨタグループ企業でトランスミッションやeAxleなどを手掛けるアイシンだ。アイシンは2015年12月に、車両への入力や微振動をスプリングの反力とPOM(Polyoxymethylene:ポリオキシメチレン)樹脂の摩擦を使って“いなす”ことで、ステアリングノイズを消してすっきりとしたインフォメーションを実現する「MCB(モーションコントロールビーム)」を独自に開発。装着場所は車種によって異なり、最適な場所を見つけてから適合としている。
そして、その高い確実な効果が認められ、これまでに「TRD」「TOM'S」「D-SPORT」「SARD」「AutoExe」「PROVA」「SPOON」など、モータスポーツシーンで活躍する多くのメーカーが採用しているほか、輸入車を扱うショップにも採用されている。
さらに、2023年にMCBの性能をそのままにダウンサイジングに成功、これまで大きさが原因で装着できなかった車両にも適合させた。今回ジムニー用を設定するにあたり、ラダーフレームの橋渡しとして利用しようとアイシンは考え、足まわりパーツで定評のある「Genb」のブラケットを採用したというわけだ。
興味深いのは「MCBコンパクト」とブラケットをつなぐ間は鉄製の棒を利用していることだ。ムーンフェイスの「サスペンションピボットブレース」はアルミ製で若干のゆがみを使って入力をいなすが、MCBは内部に入力をいなす構造があるため鉄製の棒を使用している。複雑な構造ゆえ価格は「サスペンションピボットブレース」のおよそ2倍となるが、その効果はどう違うのか? そこも興味深いところ。
サスペンションピボットブレースとMCBコンパクトをそれぞれ装着して試乗
今回はまずベース状態を確認したのちに、「サスペンションピボットブレース」を取り付け、最後に「MCBコンパクト」を試してみることにした。テスト車両はスプリングを変更することで20mmアップの車高を実現したものだ。ショックアブソーバーはノーマルとなる。ブレーキホースやラテラルロッドなどを変更する必要がなく、ビギナーでもお手本にしやすいジムニー界では割と一般的なライトチューニングというヤツだろうか。ジムニー乗りの筆者もやや惹かれているアイテムだ。
まずは何も装着していない状態を確認するために走ってみると、荒れた路面に差し掛かったところでブルブルとした微振動をかなり感じる。ノーマル状態でもそれは出るような路面だったが、やや硬さやハリを感じるこのスプリングでは、それが強調されるような感覚があった。
サスペンションがストロークする感覚がなく、四輪がバラバラな方向を向いているような感覚があり、直進安定性はノーマル状態よりも悪化した感覚だ。ステアリングの応答性には曖昧さがあり、ラダーフレームならではの遅れ感がつきまとうところも厄介だ。ノーマルでも感じるところだが、これもまたスプリング変更によって強調されてしまっている。タイヤ、サスペンション、ラダーフレームそれぞれの剛性バランスが崩れてしまったような感覚だ。
続いてGenbの「サスペンションピボットブレース」を装着して走りだすと、第一印象は余計なブルつきがかなり排除された感覚があった。サスペンションは明らかに仕事をし始め、綺麗に縦にストロークしている感覚がある。先ほどは動かず、他が横方向に逃げていたとでも言えばいいだろうか?
車格が軽自動車から普通車になったかのようなしなやかさがあり、段差の乗り越しが苦にならない。また、ステアリングの応答性にもリニアさが出てきた。これは荒れた路面を走るとより理解できる。狙ったラインをきちんとトレースする仕上がりはさすが。シャープになりすぎていないところもマルだ。
続いて「MCBコンパクト」を装着して走り出すと、30km/h以下のシーンでの滑らかさに驚きを感じた。まるで上質なダンパーでも付けたのかと思えるほど。突起やうねりの乗り越しも微振動がなくなり、さらにしなやかさも感じるのだ。コンフォート性能は確実に最上級といっていい。まるでプレミアムタイヤにでも交換したかのようなフィーリングだ。けれどもステアリングの応答性やリアの追従性が失われるわけじゃない。コンフォートでありながらもリニアさが損なわれることのないバランスはなかなか絶妙。価格が高いのには理由がある。やはり「MCBコンパクト」の凝りに凝ったシステムはダテじゃなかった。
いまムーンフェイスとアイシンでは、ジムニーにMCBをさらに2本追加しようと検討しているそうだ。今度はラダーフレームの最前部と最後部の左右をつなぐというから、今後の展開も要注目。この2社のタッグはさらに面白い化学反応を見せてくれそうだ。
Photo:佐藤安孝(Burner Images)