冬道ドライブには欠かせないスタッドレスタイヤ。冷え込んだ路面、雪や凍結路などの厳しい環境で使われるタイヤとなるだけに、各社はさまざまな技術やアイデアを駆使しながら、滑りやすい路面における信頼性を追求しようと凌ぎを削っている。
クルマはその国の道が育てるというが、実はタイヤについてもその国の事情や国民性が磨き上げることもあるのではないかと思う。そうした意味では、フランスのタイヤメーカーであるミシュランは、ヨーロッパをはじめ、世界の道を知りつくしたブランドで、ドライブの道のりをクルマと対話しながら安心で快適に過ごしたいと願うコダワリ派に選ばれてきたブランドという印象がある。スタッドレスタイヤの使用環境としては、日本は雪が溶けたり凍ったりを繰り返す0℃付近を行き来する世界的にみても厳しい環境。そのため1982年に日本で初めてスタッドレスタイヤ「XM+S100」を発売したミシュランは、フランスメーカーでありながら実は北海道の中でも“特別豪雪地帯”に指定されるほど冬の寒さが厳しい士別市の冬季テストコースで開発を行なったので、日本の道も知り尽くしているといってもいい。
ミシュランのスタッドレスタイヤ「X-ICE SNOW」を装着。日本は世界の中でも過酷な冬道環境であることから、ミシュランは日本でもテストを行なったという
今回はミシュランのスタッドレスタイヤ「X-ICE SNOW」を一泊二日の旅路で試す貴重な機会を得た。X-ICE SNOWは雪を示す製品名がつけられているだけあって、これまでのX-ICEの商品群のなかでも、アイスブレーキング性能を向上させたことに加え、雪上におけるブレーキ性能を大幅にアップさせているのが特徴だ。
氷や雪に対する性能を向上させた技術のひとつは新開発のコンパウンド。「EverWinterGripコンパウンド」と呼ばれ、練りこまれた配合物とベースコンパウンドの摩耗差によって、タイヤの表面に微小な凹凸を生成。氷上でスリップする原因となる水膜を破ってタイヤを路面に接地させるという。また、雪の上を走る時は雪を踏み固めて蹴り出す効果を発揮するという。
EverWinterGripコンパウンドを溝底部まで採用したことで、使用限界末期(50%摩耗)になってもトレッドブロックがしなやかさを保ち、アイス性能が長期間継続する
また、スタッドレスタイヤはアスファルトの走行などで摩耗が進み、肝心な時に性能が劣化して効果が得られにくくなってしまわないか気になるところ。その点、X-ICE SNOWはスタッドレスタイヤの使用限界と定められている50%まで摩耗した状態でもブロックの柔軟性を確保できるようになっているそうだ。安心が長く続いてくれるのはうれしい。
さらに、雪上性能に効果をもたらすのがVシェイプ。タイヤのトレッド面に目を向けると、内側から外側に広がるようにV字の溝が刻まれていて、雪や水を効率良く排出する効果をもたらすという。冬の複雑な道路環境において、どんな場面で効果を与えてくれるのか楽しみだ。
今回はトヨタ車で人気のコンパクトSUV「ヤリスクロス」に装着(タイヤサイズ:215/50R18)、富山県内を巡るドライブをスタートした。天気予報は日本海側に結構な雪が降り積もったと伝えていたが、富山駅周辺の市街地はシャーベット状の雪や除雪された路面が入り交じっているほか、路面電車の軌道が交差点付近を横切る複雑な環境に置かれている。市街地の走行と言っても、日常生活の中でさまざまな路面に遭遇することが伝わってくる。
私自身、久しぶりの雪道走行で最初はわずかな緊張感とともに走り出したが、いざタイヤが転がり出すと、路面の雪に足をとられにくく、クルマの姿勢が安定した状態を保ちながら、アクセルペダルの踏み込み量に応じて素直に車速を高めていってくれる。
路面の凹凸もソフトにいなしてくれる優しい乗り心地が印象的だったX-ICE SNOW
混雑しはじめて、軽くブレーキを掛けて車速を調整するシーンでは自然な感覚でグリップしている感触を得られるし、車速のコントロール性のよさがクルマの動きを手中に収めて走っているという安心感を与えてくれるのだ。赤信号が青に変わり、歩行者の横断を待って再び加速。そんな一連の流れがスマートにキマるから、雪の上でもリズミカルに駆け抜けていける。
静粛性が高く、室内へと入ってくるロードノイズは少なかった
立山に向かう道中、高速道路の走行を試すタイミングが訪れたが、高速域でも安定性の高い走りを披露してくれていた。今回のヤリスクロスはハイブリッド車で、さらにリアモーターを搭載した4WDモデル。つまり、ヤリスクロスのラインナップでは最も車両重量が重たい仕様となり、裏を返すと、路面の継ぎ目を乗り越える時など、本来はゴツンとくる突き上げが乗員に伝わりやすい仕様ともいえる。
ところが、ヤリスクロスの18インチの純正ホイールにX-ICE SNOWを履かせてみたところ、そうしたネガを補うメリットが感じられた。路面が荒れた箇所を乗り越える時はソフトにいなしてくれるから、ゴツンのほかにゴロゴロするといった不快な振動を感じにくい。優しい乗り心地が得られることはドライブの疲れにくさに結び付くし、レジャーで遠くに足を伸ばすことを考えたらなおさらだ。優しい乗り心地とはいっても、高速走行時の直進安定性は高くフラツキが少ない。助手席に座っている同乗者と会話がしやすいところをみても、走行中のノイズが少ないタイヤであることに気がつく。
ドライからウエット、ウエットからシャーベット、シャーベットからスノー、スノーからアイスと、刻々と様変わりする路面でもX-ICE SNOWはいつも安定したグリップ力を発揮してくれるので安心してドライブできた
再び一般道に降りて、今度は山間の地へ。スキー場が連なっているエリアだけに、雪が積もりやすい地域といえる。そこにアクセスする過程では実にバリエーションに富んだ道に遭遇した。
ひとつは、雪国にありがちな道路に通した水道管から水を流し続けている路面。こうした路面は雪が解けて走りやすそうに見える一方で、ウエットで制動距離が伸びやすいスタッドレスタイヤで走る場合、加減速の際は大量の水に足を取られないように注意が必要な場面といえる。この路面には勾配のキツい坂道で遭遇したが、X-ICE SNOWを履いていると、唐突に水の川に差し掛かっても、それまで走ってきた雪の路面からグリップが大きく変化するような違和感を受けなかった。Vシェイプの排水性の高さが効果を発揮してくれている証拠だ。
立山駅まであと少しの距離に近づいたころ、時刻は昼を迎えようとしていた。標高が高い山の上まで走ってきただけあって、冴え渡る碧い空と遠くに望む真っ白な雪山のコントラストがなんとも美しい。しかし、足下はさらに過酷なコンディションになっていた。
立山駅までの道中も、ドライ路面から日陰のアイス路面まで、さまざまな状況が混在していた
燦燦と照りつける太陽が峠道の雪をシャーベット状に溶かし、水をたっぷりと含んで重たくなっている。アスファルトが露出していたり、風が吹きさらす橋は凍結していたりするが、X-ICE SNOWはこうした場所でもしっかりした足取りで安定性の高さを発揮してくれていた。
雪道はアップダウンを伴うカーブを走る時など、タイヤのグリップが限界付近に達すると、曲がりきれず、想像しているよりも外側にラインを辿ってヒヤリとすることがある。その点、X-ICE SNOWもわずかにスリップする箇所があるのも事実だが、滑り始めとグリップが回復していく過程の状況がつかみやすい。ペダルを踏む足裏を押し返す反力やハンドルの手応えを通じてタイヤがどんな操作を行なって欲しいのか伝えてくる。つまり、タイヤが路面を捉える感触もブレーキの効き具合も、クルマの動きを予測しやすく、対処しやすい。
路面状況の突然の変化にも翻弄されず、常に安定してドライブできるからX-ICE SNOWは頼もしい
山陰に差し掛かると、凍結した轍に出くわしたが、ここでも適度なグリップ感とともに、最小限の姿勢の変化で通過することができた。何より、唐突な挙動の変化を感じないところがいい。こうした複雑な路面を走る時、ドライバーに雪道の走行経験が浅いと不安を抱きがちで、急な操作で回避しようとすると車体の挙動が乱れる悪循環を招く。そうしたリスクを踏まえると、X-ICE SNOWは環境の変化に対して翻弄されないタイヤであることが最大の強みなのではないかと思えてくる。
今回X-ICE SNOWを試すドライブで気づかされたのは、冬道は絶対的なトラクション性能やグリップ力の数値が高いことが安全とうワケではないということだった。運転操作を行なうドライバーに寄り添い、安心感を与えるタイヤであることが、結果的に安全なドライブに結びつくということ。ドライブ中の景色を堪能したり、同乗者と会話が楽しめる“気持ちの余裕”が生まれていたのは、実は環境変化に揺るがないミシュランならではのタイヤづくりが私たちに大きな安心感を与えてくれていたのかも知れない。ドライブは安心が担保されてこそ、大切な人との旅路を楽しめるというものだ。
日本の渚百選にも選ばれている雨晴海岸。富山湾越しに、3000m級の立山連峰を望むことができる貴重な場所
今回の富山県内を巡る一泊二日のドライブでは、「レストラン・トレゾニエ」「富山市ガラス美術館」「瑞龍寺」「雨晴海岸/道の駅雨晴」を訪問。地元の食材を活かした料理に舌鼓を打ち、芸術や歴史に触れてきました。その模様は【文化や歴史そして絶景に魅了されながら、地産地消の美味しい食材と出会えた富山トリップ】でお楽しみください。