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ミシュラン、新型スタッドレスタイヤ「X-ICE SNOW」発表会レポート
SUVサイズもラインアップ。発売は8月11日
2020年6月30日 21:15
- 2020年6月30日 開催
日本ミシュランタイヤは6月30日、新型スタッドレスタイヤ「MICHELIN X-ICE SNOW(ミシュラン エックスアイス スノー)」シリーズを発表。同日、オンラインによる新製品発表会を開催した。
X-ICE SNOWは先代モデル「X-ICE3+(エックスアイス スリープラス)」から3年ぶりにフルモデルチェンジしたスタッドレスタイヤ。コンパウンドとトレッドパターンを一新し、従来モデル比で氷上ブレーキ性能を9%、雪上ブレーキ性能を4%向上したという。また、従来は「LATITUDE X-ICE XI2(ラティチュード エックス アイス エックス アイ ツー)」でラインアップしていたSUV向けサイズについても、「X-ICE SNOW SUV」としてシリーズラインアップに加わる。なお、X-ICE SNOWの詳細は関連記事(ミシュラン、スタッドレスタイヤ新製品「エックスアイス スノー」シリーズ。ロングライフ設計の採用など全面改良)を参照いただきたい。
登壇した日本ミシュランタイヤ 代表取締役社長 ポール・ペリニオ氏は冒頭のあいさつで、「新製品の発表の前に皆さまと少し『移動』『モビリティ』について考えたい」と述べ、新型コロナウイルスの影響によって移動が制限されたことで、モビリティの重要性を改めて認識することになったとした。
遠い昔は遠くに移動すること自体が危険で、「モビリティ」が人類の発展に大きく貢献してきたと説明。現代においてもその恩恵は大きく、経済発展だけでなく、モビリティは1人ひとりの日々の生活を充実させてくれる存在だとした。
しかしながら、モビリティに危険がなくなったわけではないと述べ、クルマ自体の安全性能はもとより、タイヤにおいてもより高い安全性が求められ、ユーザーに“より安心な運転”を提供できるものでなくてならないと説明した。
それは冬タイヤにおいても同様で「冬道の運転では時期、地域や場所、そして時間帯によって、さまざまな路面環境に遭遇します」と説明。新製品のX-ICE SNOWについて「冬季における使用環境とユーザーニーズを徹底的に分析し、多くの人々がどんな路面環境でも『より安全に移動できる』ように、多機能、かつそれぞれの機能が高いレベルで発揮できるスタッドレスタイヤを開発しました。これは冬用タイヤにおける“ミシュラン・トータル・パフォーマンス”の象徴といえるでしょう」と紹介した。
さらにミシュランの目的は性能の優れたタイヤをつくることだけではないと語り「この新しいスタッドレスタイヤが、“移動本来の目的”である、より充実したビジネスや安心な日常生活、また旅行やウインターレジャーを満喫するなど、ユーザーの『よりよい体験』に貢献できることを願っています」と思いを語った。
アイス、スノーだけじゃないトータルパフォーマンス
続いて日本ミシュランタイヤ PC/LTタイヤ事業部 ブランド戦略マネージャーの黒谷繁希氏より製品説明が行なわれた。
黒谷氏によれば、日本で初めてスタッドレスタイヤが発売されたのは1982年で、ミシュランが最初だと説明。そこから38年目の歴史があるとした。そうはいっても「外国のメーカーだから日本の道にはあわないのでは」といった声も聞かれるというが、ミシュランのスタッドレスタイヤは北海道の士別で開発しており、「日本の状況を克服したスタッドレスタイヤといっても過言ではない」と自信を見せた。
特に新雪、圧雪、ザラメ雪、シャーベット、アイスバーン、ミラーバーン、ブラックアイスバーン、さらにドライやウェットなどが混在する日本の多種多様な路面状況は世界的に見ても極めて過酷だと紹介。そうした日本でなにがおきているのかを知るため、北海道の12月~2月の路面状況別事故件数を調べたところ、約半数が凍結路面での事故だったと説明。しかし26%は積雪でも起きており、さらにウェットで13%、ドライでも11%事故は発生していたと述べ、スタッドレスタイヤにおいてアイスバーンが重要なのは間違いないが、アイスだけにとがらせては多種多様な路面で完璧とは言えないとした。
また、ミシュランが目指すものとして、ユーザーの実体験をもとにニーズを捉え、それに応えることだとしつつ、さらにニーズのその裏側にあるものを考えたとき、「冬のどのような路面でも、いついかなる時でも何も気にせず安全・快適にクルマの運転をしたい」という思いがあるといい、これがミシュランの目指すものだとした。
この点について黒谷氏は、「従来品でも目指していたもの」だとし、従来モデルのXICE3+でもトータルパフォーマンスとして高い評価を得ていたが、今回はそこからさらに、アイス性能、スノー性能を向上させたと説明した。
具体的には冒頭で記したとおり、アイスブレーキ性能で9%を向上、スノーブレーキ性能で4%を向上させたほか、氷雪上での高い制動力が長く続く「性能持続性」と寿命が長く持つ「ロングライフ」も向上。消費者の安全性と経済性に貢献するとともに地球環境へも貢献するとした。
新たに投入した技術としては、新コンパウンド「Ever Winter Grip(エバー・ウインター・グリップ)コンパウンド」を紹介。これは従来コンパウンドに練り込んでいた「Mチップ」の代わりに、剛性の高いポリマーベースの材質を配合。ベースコンパウンドとの摩擦差によって微少な凹凸が生成され、この凹凸がエッジ効果と水膜を破って接地する効果を生んでアイスグリップ性能を高めるとともに、雪上では雪踏み効果(雪柱せん断効果)を発揮するという。摩耗した場合にも表面の凹凸は再生され続けるため、性能が長く続くと説明した。
従来のMチップと比べより大きくより不均一な凹凸としたことで、エッジ効果や水膜の除去効果、雪踏み効果が向上。さらに、ポリマーベースの配合物としたことで、従来品よりも高いブロック剛性を実現し、ロングライフ性能が向上したという。
またトレッドパターンも一新。サイプ長を28%増加したことでエッジ効果を強化し、アイス性能を向上。加えてVシェイプのパターンとボイドレシオ(トレッド接地面に対する溝比率)の増加でシャーベット路面やウェット路面で安定したグリップを発揮するという。
サイプはより厚みを持たせて雪をつかみ、倒れ込みの防止によってアイスグリップを高める「VTSサイプ」と、3Dサイプによって倒れ込みを防いで剛性を確保し、安定したハンドリングとアイス性能を実現する「NewクロスZサイプ」を採用。さらにこうしたサイプはプラットフォームよりも深くまで刻まれるため、履き替え時期となる50%摩耗した状態でも新品時と同様にサイプが残るという。これは従来モデルでも採用されていたもので、X-ICE SNOWでも継続される。
一方、従来はプラットフォームより下の層には硬いコンパウンドを使う2層の「バイコンパウンド」にしていたのに対し、今回はプラットフォームの下も表面と同じコンパウンドを使う「モノコンパウンド」とした。これにより摩耗した状態になってもトレッドブロックがしなやかさを保ち、氷雪性能が長く続くのだとした。
サイズラインアップはSUV向けも合わせ14インチ~22インチの全84サイズをラインアップ。8月より順次出荷する。トレッドパターンなどSUVサイズで共通となるが、サイドのロゴは、通常モデルには「X-ICE SNOW」、SUV向けサイズには「X-ICE SNOW SUV」のロゴが配置される。
また、同社の全額返金保証プログラムの対象になるため、店頭で購入した場合、購入から90日の間で性能に満足できなかった場合、全額返金するとした。
新コンパウンドはどうやって開発されたか
続いて、日本ミシュランタイヤ 製品開発本部 新製品開発部 シニアエンジニアの池田聡氏より、X-ICE SNOWで採用された新コンパウンドの開発ヒストリーが紹介された。
池田氏は新製品を出すにあたって、従来のX-ICE XI3+より性能を進化させなければならず、「従来のMチップを上まわる新しい配合物が必要だろうと開発がスタートした」と語った。
従来のMチップの知見から性能の傾向は分かっていたが、新しいものでより性能が出るのか、まずはメカニズムを解析するところからスタートしたという。
そのため実際に3Dプリンターによってモールドを作り、どのようなメカニズムでウインター性能に効くのか、また最適な形状はどれなのかを特定するため、凹凸のパラメーターを形状や幅、深さなどが違う30種類のパターンを試作したという。
そこから最適な凹凸の形状が見つかったところで、その凹凸を作り出すためにどういった素材を練り込むのかいいか、材料を検証。候補の中からセラミック系とポリマー系に絞り込み、最終的にポリマーベースの材料に決定したという。
こうしてどういった材料、どういった凹凸がよいかは分かったものの、「実際に製造するにあたって、どういったサイズのものをどれくらい配合すればどういう形状になるかというのが難しく、想定したとおりに配合しても表面にうまく出ないということが起こった」と、開発中の苦労を語った池田氏。そこで実際にできたタイヤ表面を3D顕微鏡で測定することで、配合物のサイズと形成される凹凸を分析し、最適なサイズを特定していったとのこと。
こうして開発されたEverWinterGripコンパウンドの特性に合わせる形で、トレッドパターンやサイプテクノロジーも開発していったとした。
山本シンヤ氏が試乗した印象を語る
最後にひと足早く2020年2月にX-ICE SNOWに試乗したというモータージャーナリスト 山本シンヤ氏が登壇。その印象について語った。
山本氏は、「当然アイス性能は上げてくるだろう」という予想はしていたと言いつつ、商品名については「X-ICE XI4」になるだろうと思っていたためX-ICE SNOWという名前は意外だったと言及。しかし実際に乗ってみると「アイス性能もいいけれど、スノーもよかった」と新製品の印象を語った。
テストコースの屋内氷盤路で新旧のブレーキ制動比較をしたところ、もちろん制動距離が短くなっているとしつつも「印象的なのはアクセルを踏んだとき、ブレーキを踏んだときの反応のよさ」だと語り、「止まるのはもちろんだが、それがドライバーに実感できるところが印象的。そこがないと大丈夫なんだろうかと不安に駆られるところがある」と語り、操作に対する反応のよさがドライバーにとっては大きな差につながると語った。
同じくテストコースでの雪上での印象については「トラクションのかかりがよく、ブレーキを踏んだときの瞬間のGの立ち上がりは安心感がある」と言及。スノー性能においてもドライバーにその実感が伝わるとして「アイス性能とスノー性能は相反するというが、実感できる性能というのはすごいと思った」と驚きを語った。
また一般道や高速道路でも試乗をしたという。試乗を行なった2月は暖冬でドライ路面のようなシチュエーションもあったが、結果的にさまざまな路面を試すことができたのでよかったと説明。アイス、スノーだけでなくドライ路面でも静粛性が高く、刻一刻と変わるシチュエーションにおいても安心して乗っていられるのは総合性能なのではと述べ「アイスとスノーは日本人が大切にするが、そこを上げつつトータルパフォーマンスを上げた」との印象を語った。
高速道路では速度域が高くなるため、一般的に操作に対する遅れが不安につながるとしつつ、「X-ICE SNOWは応答性がすごくいい、サマータイヤと間違えてしまうぐらいの安心感」と印象を語った。総じて一番感じたのは「アイス性能、スノー性能が向上しているのはもちろんだが、一般道の信頼性の高さに驚いた」と語り、「ミシュランタイヤはトータルパフォーマンスに定評があるが、まさに冬のトータルパフォーマンスタイヤといっていい」とX-ICE SNOWの印象をまとめた。