レビュー

【スタッドレスタイヤレビュー】“Mチップ”の詰まったミシュラン「X-ICE3+」

ミシュランスタッドレスに採用された画期的な“Mチップ”

2017-2018年シーズンから投入されるミシュランの新型スタッドレスタイヤ「X-ICE3+」

 非常に評判のよいスタッドレスタイヤ「X-ICE XI3(エックスアイス エックスアイスリー)」の登場から5年が経過。日本ミシュランタイヤから新たに発売された後継モデルは、内容的には5年分の進化を遂げているのだが、トレッドパターンの変更がなかったことを主な理由に、「X-ICE3+(エックスアイス スリープラス)」と名づけられた。

 日本にはメジャーなタイヤメーカーがいくつもある中で、初めてスタッドレスタイヤを販売したのが実はミシュランで、それが1982年のこと。やがて日本でスパイクタイヤの使用が禁止されたのはご存知のとおりだ。その最初のスタッドレスタイヤの販売開始から35年目に開発された「X-ICE3+」には、効果的に除水を図る「マイクロポンプ」や、路面をワイドに捉えグリップを強める「クロスZサイプ」、エッジ効果を高める「ZigZagマイクロエッジ」を組み合わせた「トリプル・エフェクト・ブロック」や、接地面を最適化する「マックスタッチ」、互いに支え合うことで横ブレを抑える「バリアブルアングルサイプ」といった従来からの技術に加えて、「Mチップ」と呼ぶ物質を詰めた「表面再生ゴム」という画期的な新コンパウンドを用いているのが特徴だ。

トレッドパターンは現行のX-ICE XI3と変わらない。Mチップの投入でコンパウンド変更しアイス性能などを引き上げている。製品名もシンプルにX-ICE3+となった
ミシュランの特徴である方向性パターン。ミシュランならではの設計思想が現われている
外見上の大きな違いは製品名が刻まれた場所くらいか

 表面再生ゴムは、しっかり詰まったMチップによりブロック剛性を維持し、摩耗が進むことでMチップが溶け出して現われる無数の穴が、氷の表面にある水分を除去していく。これによりタイヤが氷にピタッと密着するため、高いアイスブレーキ性能が長期にわたって続くというわけだ。具体的には、X-ICE3比で新品時のアイスブレーキ性能が4.5%向上、摩耗時のアイスブレーキ性能が実に約11.5%も向上したというから大したものだ。むろん、非降雪時での高速安定性や静粛性など、ミシュランがかねてよりタイヤづくりの身上としている「トータル・パフォーマンス」もしっかり受け継いでいる。

体感できるアイス性能の向上

北海道の士別寒冷地技術研究会自動車試験場などでX-ICE3+を一足先に試乗

 そんなX-ICE3の実力を、北海道の士別寒冷地技術研究会自動車試験場と都内のスケートリンクで試すことができた。

 士別の同試験場では、圧雪路や氷盤路を走行した。同試験場にはさまざまなコースがあるが、圧雪路で印象的だったのは、スタッドレスながら極めて応答遅れが小さいことだ。まるでちょっとだけ路面ミュー(摩擦係数)の低い舗装路を走るかのごとく、操舵に対してあまり遅れることなくヨーがついてくる。これにはグリップの高さに加えて、ミシュランが大いにこだわるケース剛性やブロック剛性が高いことの表われといえそうだ。

 定常円旋回では思ったよりもやや高い車速で回れたように感じられ、ステアリングを切り増してもリアが不安定になる印象もない。グリップが高いことに加えて前後のグリップバランスもよい。

 アイス性能についても新技術による効果を実感した。ツルツルの路面ながら容易に発進できて、予想以上によく止まる。何度も走って路面が磨かれて水膜が増えてきても、グリップの落ち込みが小さいように感じられた。

 さらに、都内のスケートリンクで実施された試乗会でも、アイス性能の高さをより具体的に体感することができた。けっして広くはないスケートリンク内につき速度には制約があったのだが、その優れたアイス性能を理解するには十分だった。

 コースはまずスタート地点からフル加速し、目標の15km/hまで加速したところでフルブレーキングを行ない完全停止。そして外周に沿ってぐるりと回って、今度は12~13km/hを目安にパイロンスラロームを試す。これを3回繰り返して、アクセルの踏み方や、操舵量や操舵スピード変えて違いを確かめてみた。

 路面の上を自分の足でも歩いてみたが、かなりツルツル。にもかかわらず、フルスロットルで滑ってからのグリップの回復が早く、前に進み出すまでに待つ時間が短いし、車速の乗りもスムーズ。フルブレーキングでは思ったよりもかなり手前で止まることができた。

 パイロンスラロームでは、操舵に対するヨーの出方が自然で、イメージどおりにラインをトレースしていける。素早い操舵を試してもグリップが抜けて横に逃げにくく、操舵量も小さくてすむ。

摩耗時のアイスブレーキ性能を実証

 参考までに、車速と距離を厳密に測定できる機器の装着された車両で、X-ICE3とX-ICE3+の新品と摩耗したタイヤを履かせた車両でのアイスブレーキのデモ走行も行なわれ、結果は、新品同士ではX-ICE3が8.3m、X-ICE3+が7.7m、摩耗品同士では、X-ICE3が16.2m、X-ICE3+が14.6mとなった(参加者全員が走行すると条件が変わりやすくなり計測結果の正確性が問われるため、スタッフが2回だけ走行し、その結果の平均値を表記)。

 実際、それぞれ摩耗品のデモ走行に用いたタイヤの表面を調べてみると、トレッドパターンこそ同じながら、見た目も触った感じも違うのも興味深かった。X-ICE3はつるっとしているのに対し、X-ICE3+はざらっとしていて、触ると少しボコボコしているのが分かり、いかにもアイス路面でグリップしそうだ。

 その後は、X-ICE3+を装着した車両で周辺の一般道を走行し、相変わらずの操縦安定性と静粛性の高さを確認。サマータイヤとまったく同じとまではいわないが、かなり近い感覚でドライブできるのは、ミシュランのスタッドレスタイヤのよき伝統だ。乗る前にスタッドレスだと教えてもらわなければ、スタッドレスだと気づかないんじゃないだろうか。それぐらいの走りっぷりだ。

 このように見た目は変わっていないが、中身は大きく進化していることがよく分かった。絶対的なアイス性能の高さは、冬道を走る際により大な安心感をもたらしてくれるし、摩耗時の性能の落ち込みが小さければ、その安心感を長く得ることができるし、むろん経済的でもある。これから装着する人の大半が、その性能の高さに舌を巻くことだろう。非常に価値ある進化を遂げた、ミシュランの最新作である。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。