レビュー

【スタッドレスタイヤレビュー】ミシュランの最新「X-ICE SNOW」、際立つアイス性能の高さ

SUV向け「X-ICE SNOW SUV」も試した

橋本洋平がミシュラン「X-ICE SNOW(エックスアイス スノー)」に速攻試乗

 ミシュランのスタッドレスタイヤが今年の8月11日より新製品へと生まれ変わる。従来までは「X-ICE3+(エックスアイス スリープラス)」という製品だったが、それも登場して3年が経過。前回はトレッドパターンは変わらずだったが、今回のフルモデルチェンジでは、コンパウンドもトレッドパターンもそこから進化させてきたというわけだ。

 新製品となる乗用車用スタッドレスタイヤは「X-ICE SNOW(エックスアイス スノー)」という名称が与えられた。雪上重視だから“スノー”という名称なのかと思いきや、もちろんそんなことはなく、日本の消費者ニーズをきちんと反映しようと、北海道においてテストを行ない、世界で最も過酷と言われる日本の冬道に合わせ込んでいる。ガチガチに凍った氷の路面から、温度が高くなって水膜が浮き出す0℃付近の最も難しい路面、さらには圧雪された路面にももちろん対応している。海外メーカーだがそこは抜かりナシというわけだ。

ミシュラン「X-ICE SNOW」
コンパウンドもトレッドパターンも一新

 そんな新たなX-ICE SNOWは、X-ICE 3+に比べてアイスブレーキング性能で9%、雪上ブレーキング性能で4%の向上を果たしたという。それにも関わらずロングライフ性能も向上したとある。そのバランスはいかにして保たれているのか?

 冬路面における性能向上の秘密は、やはりコンパウンドの変更とトレッドパターンを変えたところにポイントがある。新たに投入された「EverWinterGripコンパウンド」は、剛性の高いポリマーベースの素材をコンパウンドに配合。この素材がベースコンパウンドとの摩擦差によってトレッド面の表面に微小な凹凸を生成し、その凹凸がエッジ効果と水膜を破る効果によってグリップを高めるという。この凹凸は、摩耗しても常にタイヤの表面に再生され続けるため、性能が長続きする、という点でも役立つそうだ。

 トレッドパターンについては一新。サイプ長を28%増加したことでエッジ効果を強化しているところが特徴的だ。Vシェイプパターンを基本としているところは従来の流れだが、明らかに溝面積を拡大したこともまたX-ICE SNOWの特徴ともいえる。

従来モデルのVシェイプを踏襲した「新世代Vシェイプトレッドパターン」
さらに溝を太くしてシャーベットやウェットでの排雪・排水を向上している
サイプの厚みを持たせつつ倒れ込みを防ぐ「VTSサイプ」
厚みの薄いサイプは「NewクロスZサイプ」。3Dサイプによって剛性を確保
回転方向指定となる

 ここまで細かくなってくると、やはり摩耗時にどうかが気になるが、プラットフォームより深く刻まれたフルデプスサイプによって、履き替え寸前(プラットフォームが出る50%摩耗状態)までトレッドパターンはくっきりと残る。また、以前はトレッドゴムの下の方は硬いコンパウンドを使っていたところを、今回は溝底まで新コンパウンドとすることで、摩耗が進んでもしなやかさが長続きして、氷雪性能も最後まで続くような設計となっているようだ。

あまりに違いがないので分かりにくいが写真奥側が新品、手前側が50%摩耗した状態の溝の様子
溝がプラットフォームよりも深く刻まれているため、50%摩耗してもサイプが減らず、性能が持続する

ひと足先に北海道の冬道で試乗した

 そんなX-ICE SNOWについて、まだ発表前の今年2月に、北海道のテストコースや一般道で試乗する機会を得て、その性能を試すチャンスを得た。

 まずはSNOWという名前ながら、スタッドレスタイヤならば最も気になる項目であるアイス性能をチェックする。スケートリンクのような試験路で加減速テストの開始だ。これは5km/hから20km/hまでの加速距離と、20km/hから5km/hまでの減速距離を、テスト車両に取り付けられた計測器を使って比較するというもの。比較対象となるのはもちろん、旧作のX-ICE 3+だ。試験場は屋根付きで温度キープもきちんと行なえる状況。この時の室内温度は-8.5℃。氷表面温度は-5.5℃。水膜もなく条件としてはかなりよい状況だ。

ドームで覆うことで気温を安定させ、条件をそろえて比較ができる氷盤試験路で新旧比較

 まずはX-ICE3+で計測を4回行なう。発進はトラクションコントロール任せで、減速もABSに頼り切りで、車速コントロールする必要はない。計測器が試験する速度域だけを距離計測してくれるからテストする側としては気がラク。4本すべてで大きなばらつきは無かった。最良の値は加速18.66m、減速7.6m、4回の平均値では加速18.98m、減速7.89mだった。

 X-ICE SNOWで同じ試験を行なうと、加速も減速も感覚がまるで違うことに驚くばかり。トラクションは確実に路面に食いつく感覚があり、減速はリアタイヤも踏ん張ってクルマ全体で止められているイメージがある。最良の数値は加速15.87m、減速6.68m、4回の平均値は加速16.22m、減速6.95mだった。

車両には正確な車速を計測する機械が取り付けられており、ドライバーはアクセルもブレーキもいっぱいに踏むだけで自動で加速距離、制動距離を測定してくれる

SUVでも際立つアイス性能の高さ

 続いて外のテストコースや一般道も使って試乗。圧雪やアイスバーンなどさまざまな路面を走る機会を得たが、そこでもやはり印象的だったのはアイス性能の高さだ。ブレーキ操作に対して、減速Gがスッと立ち上がる安心感は何よりもありがたい。

 また、圧雪路における走りも操舵を大きく与えれば効いてくる感覚がある。ただ、ひとつ気になるのは、小舵角における反応の鈍さを感じたことだ。不感帯領域が大きく、そこが気になるといえば気になるところ。トレッド面のヨレがその要因だと思われるが、今回のモデルチェンジでは、ウィンター性能を上げ、さらにその性能を持続させるためにより多くのサイプを刻み、溝面積も拡大、コンパウンドも下まで柔らかくしているので、仕方がないところかもしれない。

テストコースの複合的な路面でスラロームやブレーキングをテスト
一般道でも試乗。街中から郊外まで走ってみた
交差点や踏切の手前など、磨かれたアイス路面での性能が目を引く

 今回のX-ICE SNOWでは、SUVサイズもラインアップに加わることになった。車重の重くなるSUVサイズについてもトレッドパターンなどは変更なく、タイヤサイドに刻まれる製品名が「X-ICE SNOW SUV」になるのみだ。こちらもテストコースで試乗する機会を得たが、車重が重く、重心も高いSUVにおいても頼りなさを感じることはなかった。トレッドパターンやコンパウンドも共通ということでその印象もスタンダードなモデルと同様で、やはりアイス性能の高さが際立った印象だ。

SUVでも試乗
重量級のSUVでも頼りなさは感じない
SUVサイズでもトレッドパターンなどは変わらずサイドのロゴにSUVの文字が加わるのみ

 いま冬タイヤ市場ではオールシーズンタイヤが活発だ。ミシュランでも「CROSSCLIMATE(クロス クライメート)」をラインアップ。それは夏タイヤに近いフィーリングを持ちながらも、雪道も受け入れることを可能にしてきた。ただ、オールシーズンタイヤはアイス路面が苦手。圧雪路面でもスタッドレスタイヤと比べれば、横方向のグリップは多少劣る。しかしながら、そこを頭に入れた上で乗るなら大いにアリということで、いま人気が拡大しつつある。

 そうした状況下にある今だからこそ、「スタッドレスタイヤはやはり冬路面に特化させるべき」という姿勢が今回のX-ICE SNOWからは感じられる。より氷に強く、雪道に強い、それがこのタイヤの正体といっていい。商品ラインアップが拡大したことで、スタッドレスタイヤの方向性もこれから変わってきそうだと思える今回の試乗だった。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。