レビュー
【スタッドレスタイヤレビュー】ミシュランの最新「X-ICE SNOW」、際立つアイス性能の高さ
SUV向け「X-ICE SNOW SUV」も試した
2020年7月2日 15:22
ミシュランのスタッドレスタイヤが今年の8月11日より新製品へと生まれ変わる。従来までは「X-ICE3+(エックスアイス スリープラス)」という製品だったが、それも登場して3年が経過。前回はトレッドパターンは変わらずだったが、今回のフルモデルチェンジでは、コンパウンドもトレッドパターンもそこから進化させてきたというわけだ。
新製品となる乗用車用スタッドレスタイヤは「X-ICE SNOW(エックスアイス スノー)」という名称が与えられた。雪上重視だから“スノー”という名称なのかと思いきや、もちろんそんなことはなく、日本の消費者ニーズをきちんと反映しようと、北海道においてテストを行ない、世界で最も過酷と言われる日本の冬道に合わせ込んでいる。ガチガチに凍った氷の路面から、温度が高くなって水膜が浮き出す0℃付近の最も難しい路面、さらには圧雪された路面にももちろん対応している。海外メーカーだがそこは抜かりナシというわけだ。
そんな新たなX-ICE SNOWは、X-ICE 3+に比べてアイスブレーキング性能で9%、雪上ブレーキング性能で4%の向上を果たしたという。それにも関わらずロングライフ性能も向上したとある。そのバランスはいかにして保たれているのか?
冬路面における性能向上の秘密は、やはりコンパウンドの変更とトレッドパターンを変えたところにポイントがある。新たに投入された「EverWinterGripコンパウンド」は、剛性の高いポリマーベースの素材をコンパウンドに配合。この素材がベースコンパウンドとの摩擦差によってトレッド面の表面に微小な凹凸を生成し、その凹凸がエッジ効果と水膜を破る効果によってグリップを高めるという。この凹凸は、摩耗しても常にタイヤの表面に再生され続けるため、性能が長続きする、という点でも役立つそうだ。
トレッドパターンについては一新。サイプ長を28%増加したことでエッジ効果を強化しているところが特徴的だ。Vシェイプパターンを基本としているところは従来の流れだが、明らかに溝面積を拡大したこともまたX-ICE SNOWの特徴ともいえる。
ここまで細かくなってくると、やはり摩耗時にどうかが気になるが、プラットフォームより深く刻まれたフルデプスサイプによって、履き替え寸前(プラットフォームが出る50%摩耗状態)までトレッドパターンはくっきりと残る。また、以前はトレッドゴムの下の方は硬いコンパウンドを使っていたところを、今回は溝底まで新コンパウンドとすることで、摩耗が進んでもしなやかさが長続きして、氷雪性能も最後まで続くような設計となっているようだ。
ひと足先に北海道の冬道で試乗した
そんなX-ICE SNOWについて、まだ発表前の今年2月に、北海道のテストコースや一般道で試乗する機会を得て、その性能を試すチャンスを得た。
まずはSNOWという名前ながら、スタッドレスタイヤならば最も気になる項目であるアイス性能をチェックする。スケートリンクのような試験路で加減速テストの開始だ。これは5km/hから20km/hまでの加速距離と、20km/hから5km/hまでの減速距離を、テスト車両に取り付けられた計測器を使って比較するというもの。比較対象となるのはもちろん、旧作のX-ICE 3+だ。試験場は屋根付きで温度キープもきちんと行なえる状況。この時の室内温度は-8.5℃。氷表面温度は-5.5℃。水膜もなく条件としてはかなりよい状況だ。
まずはX-ICE3+で計測を4回行なう。発進はトラクションコントロール任せで、減速もABSに頼り切りで、車速コントロールする必要はない。計測器が試験する速度域だけを距離計測してくれるからテストする側としては気がラク。4本すべてで大きなばらつきは無かった。最良の値は加速18.66m、減速7.6m、4回の平均値では加速18.98m、減速7.89mだった。
X-ICE SNOWで同じ試験を行なうと、加速も減速も感覚がまるで違うことに驚くばかり。トラクションは確実に路面に食いつく感覚があり、減速はリアタイヤも踏ん張ってクルマ全体で止められているイメージがある。最良の数値は加速15.87m、減速6.68m、4回の平均値は加速16.22m、減速6.95mだった。
SUVでも際立つアイス性能の高さ
続いて外のテストコースや一般道も使って試乗。圧雪やアイスバーンなどさまざまな路面を走る機会を得たが、そこでもやはり印象的だったのはアイス性能の高さだ。ブレーキ操作に対して、減速Gがスッと立ち上がる安心感は何よりもありがたい。
また、圧雪路における走りも操舵を大きく与えれば効いてくる感覚がある。ただ、ひとつ気になるのは、小舵角における反応の鈍さを感じたことだ。不感帯領域が大きく、そこが気になるといえば気になるところ。トレッド面のヨレがその要因だと思われるが、今回のモデルチェンジでは、ウィンター性能を上げ、さらにその性能を持続させるためにより多くのサイプを刻み、溝面積も拡大、コンパウンドも下まで柔らかくしているので、仕方がないところかもしれない。
今回のX-ICE SNOWでは、SUVサイズもラインアップに加わることになった。車重の重くなるSUVサイズについてもトレッドパターンなどは変更なく、タイヤサイドに刻まれる製品名が「X-ICE SNOW SUV」になるのみだ。こちらもテストコースで試乗する機会を得たが、車重が重く、重心も高いSUVにおいても頼りなさを感じることはなかった。トレッドパターンやコンパウンドも共通ということでその印象もスタンダードなモデルと同様で、やはりアイス性能の高さが際立った印象だ。
いま冬タイヤ市場ではオールシーズンタイヤが活発だ。ミシュランでも「CROSSCLIMATE(クロス クライメート)」をラインアップ。それは夏タイヤに近いフィーリングを持ちながらも、雪道も受け入れることを可能にしてきた。ただ、オールシーズンタイヤはアイス路面が苦手。圧雪路面でもスタッドレスタイヤと比べれば、横方向のグリップは多少劣る。しかしながら、そこを頭に入れた上で乗るなら大いにアリということで、いま人気が拡大しつつある。
そうした状況下にある今だからこそ、「スタッドレスタイヤはやはり冬路面に特化させるべき」という姿勢が今回のX-ICE SNOWからは感じられる。より氷に強く、雪道に強い、それがこのタイヤの正体といっていい。商品ラインアップが拡大したことで、スタッドレスタイヤの方向性もこれから変わってきそうだと思える今回の試乗だった。