レビュー

【タイヤレビュー】ちょっと古いベンツに装着したミシュランのオールシーズンタイヤ。雪道で「クロスクライメート」のグリップやいかに?

 四季の変化が激しい日本でクルマを走らせるためには、従来では夏タイヤと冬タイヤを準備し、タイミングを見計らいつつ交換するのが一般的だった。2種類のタイヤを保有するということは、経済的な面だけでなく、保管場所や履き替えの面倒さなどの問題があり、特に非降雪地帯にお住まいのドライバーにとっては通年で使用できるタイヤがあればいいのに、とお思いの方も多かったのではないだろうか。

 そんな中、3シーズンほど前に日本で販売が開始されたグッドイヤー製のオールシーズンタイヤ「ベクター4シーズンズ ハイブリッド」(以下ベクター)は、通常のドライ&ウェット路面から、冬場、急に降り始めた雪の路面でも安心して走ることができる全天候タイヤとして登場し、この分野のパイオニアとして一気に装着率が拡大した。筆者が所有するちょっと古いS124型メルセデス・ベンツ「E220」(1995年製)にもすぐに装着。すでに2万5000kmほど走ってきたが、さすがに今シーズンは残り溝が50%であることを表すサインが現れ、ブロック高に由来する雪道性能に不安が生じたこと、ザーッというロードノイズが高まってきたことなどもあって、新しいオールシーズンタイヤを選択、装着することになったのだ。

 当時はベクター1択であったが、現在はこのカテゴリーの人気が高まり、海外メーカーではミシュラン、ピレリ、国内メーカーはヨコハマやダンロップ、ファルケンからオールシーズンを謳うタイヤが発売されていて、選ぶのに迷うほどの状態だ。

 ベクターの性能は十分満足いくものであったが、やはり新しいブランドのものをテストしたいという願望もあり、サイドウォールのメーカーロゴがS124に似合いそうという“ミーハー”な理由もあって、今回装着したのがミシュラン製のオールシーズンタイヤ「クロスクライメート」だ。

ミシュラン製のオールシーズンタイヤ「クロスクライメート」

 本場の欧州で2015年から発売されていたという実績と、「冬も走れる夏タイヤ」というキャッチコピーを掲げ、このカテゴリーの弱点である静粛性と走行安定性に着目して開発されたという点も、筆者の心を動かした理由だ。

 195/65R15というS124の適合サイズは現代では細身でハイトの高いものであるが、実はハイブリッド車「プリウス」のノーマルモデルが採用しているのと同じで、比較的手に入れやすいサイズなのである。今回装着したのは、2019年の31週(7月末ごろ)にイタリアで製造されたもので、サイドウォールのホイールに近い面には「M+S(マッド&スノー)」の刻印とともに、欧州で冬用タイヤとして認められている「スリーピークマウンテン・スノーフレーク」マークが記されていて、これがあれば冬用タイヤ規制時でも走行が可能なのである(チェーン規制時には当然チェーンを巻く必要がある)。

サイドウォールのメーカーロゴがS124に似合いそうという理由で選んだタイヤの性能はいかに?
2019年31週(7月末ごろ)に製造されたことを示す3119の刻印
イタリアで製造されたことを示す刻印
「M+S(マッド&スノー)」の刻印と「スリーピークマウンテン・スノーフレーク」マーク

 オールシーズンタイヤのその多くがV字パターンのブロックを採用するもので、その点はベクターもクロスクライメートも同じだ。ただし実物を比べてみると、ベクターが厚みのあるゴムのトレッド面にV字の溝を刻み込んでいるのに対して、クロスクライメートは薄めのトレッド面に高さのあるV字のブロックを並べていったような独特のデザインであり、考え方に少し違いがあることに気がつく。

クロスクライメート(左側)とベクター4シーズンズ ハイブリッド(右側)
クロスクライメートのV字ブロック
残り溝が50%であることを表すサインが現れたグッドイヤー製のオールシーズンタイヤ ベクター4シーズンズ ハイブリッド

 ミシュランでは、①通常のものより幅広い温度域に対応するコンパウンドがさまざまな路面への接地効果を発揮。②雪踏み効果を最大限に引き出すユニークなトレッドパターン。③面取り加工のトレッドブロックがドライでのブレーキング性能を発揮。④夏・冬の路面で効果的なグリップを実現する3次元設計の高性能サイプを採用し、ショルダー部の溝が磨耗するにつれて拡大することで雪上のトラクションを確保。といった技術をアピールしている。

 2019年末、「雪が降った」との情報で、新しいクロスクライメートを装着して軽井沢に向かった。中央道、圏央道、関越道を経由する約150kmのドライの高速道路では、明らかに静かになったパターンノイズと、ミシュランらしい安定した直進性がすぐに感じられた。道路の継ぎ目や凹凸のショックは比較的感じるものの、角がきちんと取れた状態で伝わってくるので路面状況が掴みやすく、この辺りはまさに夏タイヤそのものといってよい感触だ。

新しいクロスクライメートを装着して軽井沢に向かった

 碓井軽井沢IC(インターチェンジ)を降りると、まわりの山々は一気に冬景色。軽井沢町内では、メイン道路を外れて裏道や日陰の道路に入ってゆくと、数cmの雪が路面に残っていて、クロスクライメートの走行性能を確認するのにはもってこいの状態だった。

ラゲッジに積んだ亀甲型チェーン

 そして、ラゲッジにはまさかのときのために亀甲型チェーンを積んできたので、安心してどんどんと走り込んでみた。結果は、確実なトラクションとブレーキング性能がタイヤを通して伝わってくる状態で、全く問題なしだ。S124は、4速AT+後輪駆動という古めかしい機構のため、急なトラクションをかけないよう慎重に走ったのだが、激坂や深く降り積もった雪道でない限りは、心配なさそうである。雪面には、クロスクライメートのV字ブロックパターンがはっきりと残されていて、雪を噛んでグリップしている様子が手にとるように分かった。

雪面に残るクロスクライメートのV字ブロックパターン

 また、別荘地内には、当日履いていったドライビングシューズではツルリと滑って転んでしまいそうな、凍ったワダチの残る路面があった。スピードはゆっくりだが、普通に走り切ってしまったのにはちょっと驚いた。ただし急ブレーキをかけてみると、ABSが作動しながらツツーっと車体が流れたので、雪道より制動距離が伸びることも体験できた。

 都内からの往復と軽井沢町内の一般道を走ったこの日の走行距離は338km。使用したハイオクガソリンは26.97Lで、単純な満タン法で計算すると12.53km/L。条件は違うものの、ベクターのときのロングドライブの記録である10.83km/というデータと比べると、燃費性能もかなりよさそうである。

原 アキラ