レビュー

【タイヤレビュー】路面との対話を楽しめる。ミシュランの2輪車用スポーツタイヤ「POWER 5」

前後バランスの改善、ウェット路面での性能向上も体感

2020年春から 順次発売

オープンプライス

ウェットグリップのほか全体的な性能が底上げされた「MICHELIN POWER 5」を試乗

 ミシュランが12月2日に発表した2輪車用スポーツタイヤは4種類。「MICHELIN POWER EXPERIENCE」シリーズと命名された、いずれもスポーツ走行もしくはサーキット走行向けのラジアルタイヤだ。主に600cc以上のスポーツバイクやスーパースポーツモデルに適合する製品で、発売は2020年春以降の予定となっている。

 その中でも、カジュアルなスポーツ走行と街乗りをすることが多いユーザー向けの「MICHELIN POWER 5」(以下、POWER 5)の装着車を、今回試乗する機会に恵まれた。従来モデル「MICHELIN POWER RS」(以下、POWER RS)と、その後継モデルとなるPOWER 5を比較試乗してみると、その進化の度合いは明確だ。

MICHELIN POWER 5のリア(左)とフロント(右)

用途が細分化されたミシュランのスポーツタイヤ「MICHELIN POWER EXPERIENCE」シリーズ

 サーキットでのスポーツ走行も見据えたPOWER RSの後継になるPOWER 5だが、基本的な用途は完全に公道向けに絞られる形になっている。というのも、「MICHELIN POWER EXPERIENCE」シリーズとして周辺ラインアップが一新されたことにより、POWER 5はこの中で最もスポーツ走行の“入口”に近いところに位置付けられたからだ。

 もちろんサーキットで使えないわけではないものの、主には街乗りからワインディングでのスポーツ走行までを幅広くカバーするオールラウンダーな性格が特徴となる。サーキットでの走行も想定する場合は、同シリーズで合わせて発表された「MICHELIN POWER GP」や「MICHELIN POWER CUP2」が候補となり、レース専用タイヤの選択肢は「MICHELIN POWER SLICK2」。オンロードタイヤのミドルクラスからフラグシップまでのラインアップが細分化された格好だ。

2020年に登場する「MICHELIN POWER EXPERIENCE」シリーズのタイヤ4種類
POWER 5はほぼ完全な公道向けタイヤと定義される

 同シリーズのタイヤのユニークなところは、一貫した意匠のトレッドパターン(POWER SLICK2を除く)とタイヤ構造を採用している点。たとえば水滴が広がっているかのような細かな溝は、サイズやレイアウトが微妙に異なっているものの、3製品で見た目の印象は共通している。

こちらはサーキット走行をメインとするユーザー向けの「MICHELIN POWER CUP2」
トレッドパターンの見た目の印象は近しい

 タイヤ構造にはいずれもタイヤのセンター部とショルダー部とで異なるコンパウンドにした「2CT」(フロントタイヤ)および「2CT+」(リアタイヤ)を採用。コンパウンドの素材・配合を4種類のタイヤで適切に設定することで、それぞれが得意とする領域のグリップ性能を高めている。

 また、内部のプライやカーカスにアラミドやポリエステルといった樹脂系素材を用い、軽さと柔軟さにつなげているのも共通点。ラジアルタイヤでは一般的なスチールワイヤーを排除しているのがミシュランならではだ。

内部構造には樹脂系素材を使用。スチールワイヤーを使う一般的なラジアルタイヤとの大きな差別化ポイントとなっている
レーザー刻印によってサイドウォールをデザイン
よくあるゴムの感触とは違う触り心地

 POWER 5だけの特徴は、トレッドショルダー部に「スクエアーデザイン」と「ゴルフボールデザイン」と呼ぶデザインパターンが施されていること。走行時に、これらがライダーにスピード感やグリップ感、安心感をもたらすといい、タイヤ自体の個性も演出している。

ショルダー部にはデザインパターンが施されている

 2CTおよび2CT+はPOWER RS譲り。ただし、素材としてシリカとカーボンブラックの配合比率を前後タイヤ、センター・ショルダー部でそれぞれ最適化したことで、特にウェットグリップを向上させているという。

POWER 5のコンパウンド。前後、センター・サイドで素材と配合を変えている
サイズラインアップはフロント1種類、リア5種類

タイヤの丸みが変わったかのようなスムーズな切り返し

ドライ路面の細かな凹凸をほどよく吸収してくれるPOWER 5

 実際に新しいPOWER 5を装着した車両を走らせてみると、POWER RSと比べてドライ路面でのバンク時のフィーリングが向上していることが分かる。もともとケース剛性がしなやかで、路面からのインフォメーションを受け取りやすいのがミシュランのスポーツタイヤの特徴だったが、POWER RSはそれがやや過剰なところがあった。細かな凹凸も素直に拾い、それがノイズとなって伝わってくるため、ハンドリングの不安感にもつながっていた。

新しいPOWER 5を装着したスズキ KATANA
POWER 5のリア(左)とフロント(右)
旧モデルのPOWER RSを装着したスズキ KATANA
POWER RSのリア(左)とフロント(右)

 一方、POWER 5では細かな凹凸をコンパウンドがうまく吸収しているのか、あるいはトレッドパターンが変わったことによる影響か、路面から必要なインフォメーションだけがうまくフィルタリングされている。おかげで路面と対話しながら走るようなイメージで、コーナーを楽しくクリアしていける。どっしり落ち着きがあって安定している、といったような運動性能を損なう方向ではないのがポイントだ。

POWER 5ではフロントからもリアからも、路面の必要な情報が得られやすい
そのためペースも上げやすい

 前後タイヤのバランスも大きく改善された。レーンチェンジを想定した高速スラロームでは、タイヤのクラウン形状が変わったのではないかと思うほどのスムーズな切り返しが可能になった。POWER RSにあったフロントに遅れてリアがついてくるようなちぐはぐさが解消され、車両との一体感が増している。狙ったラインのトレースのしやすさにも直結していると感じる。

高速周回路でのテスト

 この変化は、ウェット路面における低速スラロームの切り返しのスムーズさにも表れてくる。滑らかな切り返しが可能になったことで、恐れずに左右へ車両を振ることができる。また、グリップ性能のアップにより、次のパイロンに向けて加速した時にリアタイヤが空転しても、しっかり車両を前に押し出してくれる粘り強さが感じられる。

POWER 5では切り返し時のスムーズさもあり、荷重をしっかりかけてグリップさせながらクリアしていける
リアタイヤのグリップ感にやや不安があったPOWER RS
POWER 5はリアの高いグリップ性能で、前にぐいぐい押し出してくれる

 制動距離については、新旧タイヤを装着した2台の試乗車でABSの調子にばらつきがあり、POWER 5装着車がフロントブレーキの握り始め2mくらいを空走してしまうような状況。ただ、それでもブレーキが効き始めてからのグリップ感はPOWER 5の方が高く、60km/hからの制動距離は最終的に50cm~1m程度の差に収まっていた。

60km/hからのフルブレーキングを試した
ウェット路面での制動テスト
POWER 5装着車は握り始めの2mほどを空走してしまう状況だったが、グリップ力の高さは十分に感じられる

 POWER 5はPOWER RSよりとっつきやすい性格に変わり、タイヤ全体の限界性能も向上していることは確か。柔軟なケース剛性で路面のインフォメーションを得やすいという部分では少し玄人向けなところがあるようにも感じるが、こうした要素はライディングの楽しさを補強するものでもある。ワインディングを通過するツーリングの道中では、あらゆる場所、状況でその楽しさを堪能できるに違いない。

当日の路面温度は11~12℃。この温度でもPOWER 5はすぐに温まり、本来のグリップ性能を発揮してくれた

日沼諭史

日沼諭史 1977年北海道生まれ。Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。IT、モバイル、オーディオ・ビジュアル分野のほか、四輪・二輪や旅行などさまざまなジャンルで活動中。Footprint Technologies株式会社代表取締役。著書に「できるGoPro スタート→活用完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)など。2009年から参戦したオートバイジムカーナでは2年目にA級昇格し、2012年にSB級(ビッグバイククラス)チャンピオンを獲得。所有車両はマツダCX-3とスズキ隼。

Photo:高橋 学