レビュー
【タイヤレビュー】路面との対話を楽しめる。ミシュランの2輪車用スポーツタイヤ「POWER 5」
前後バランスの改善、ウェット路面での性能向上も体感
2019年12月11日 18:27
- 2020年春から 順次発売
- オープンプライス
ミシュランが12月2日に発表した2輪車用スポーツタイヤは4種類。「MICHELIN POWER EXPERIENCE」シリーズと命名された、いずれもスポーツ走行もしくはサーキット走行向けのラジアルタイヤだ。主に600cc以上のスポーツバイクやスーパースポーツモデルに適合する製品で、発売は2020年春以降の予定となっている。
その中でも、カジュアルなスポーツ走行と街乗りをすることが多いユーザー向けの「MICHELIN POWER 5」(以下、POWER 5)の装着車を、今回試乗する機会に恵まれた。従来モデル「MICHELIN POWER RS」(以下、POWER RS)と、その後継モデルとなるPOWER 5を比較試乗してみると、その進化の度合いは明確だ。
用途が細分化されたミシュランのスポーツタイヤ「MICHELIN POWER EXPERIENCE」シリーズ
サーキットでのスポーツ走行も見据えたPOWER RSの後継になるPOWER 5だが、基本的な用途は完全に公道向けに絞られる形になっている。というのも、「MICHELIN POWER EXPERIENCE」シリーズとして周辺ラインアップが一新されたことにより、POWER 5はこの中で最もスポーツ走行の“入口”に近いところに位置付けられたからだ。
もちろんサーキットで使えないわけではないものの、主には街乗りからワインディングでのスポーツ走行までを幅広くカバーするオールラウンダーな性格が特徴となる。サーキットでの走行も想定する場合は、同シリーズで合わせて発表された「MICHELIN POWER GP」や「MICHELIN POWER CUP2」が候補となり、レース専用タイヤの選択肢は「MICHELIN POWER SLICK2」。オンロードタイヤのミドルクラスからフラグシップまでのラインアップが細分化された格好だ。
同シリーズのタイヤのユニークなところは、一貫した意匠のトレッドパターン(POWER SLICK2を除く)とタイヤ構造を採用している点。たとえば水滴が広がっているかのような細かな溝は、サイズやレイアウトが微妙に異なっているものの、3製品で見た目の印象は共通している。
タイヤ構造にはいずれもタイヤのセンター部とショルダー部とで異なるコンパウンドにした「2CT」(フロントタイヤ)および「2CT+」(リアタイヤ)を採用。コンパウンドの素材・配合を4種類のタイヤで適切に設定することで、それぞれが得意とする領域のグリップ性能を高めている。
また、内部のプライやカーカスにアラミドやポリエステルといった樹脂系素材を用い、軽さと柔軟さにつなげているのも共通点。ラジアルタイヤでは一般的なスチールワイヤーを排除しているのがミシュランならではだ。
POWER 5だけの特徴は、トレッドショルダー部に「スクエアーデザイン」と「ゴルフボールデザイン」と呼ぶデザインパターンが施されていること。走行時に、これらがライダーにスピード感やグリップ感、安心感をもたらすといい、タイヤ自体の個性も演出している。
2CTおよび2CT+はPOWER RS譲り。ただし、素材としてシリカとカーボンブラックの配合比率を前後タイヤ、センター・ショルダー部でそれぞれ最適化したことで、特にウェットグリップを向上させているという。
タイヤの丸みが変わったかのようなスムーズな切り返し
実際に新しいPOWER 5を装着した車両を走らせてみると、POWER RSと比べてドライ路面でのバンク時のフィーリングが向上していることが分かる。もともとケース剛性がしなやかで、路面からのインフォメーションを受け取りやすいのがミシュランのスポーツタイヤの特徴だったが、POWER RSはそれがやや過剰なところがあった。細かな凹凸も素直に拾い、それがノイズとなって伝わってくるため、ハンドリングの不安感にもつながっていた。
一方、POWER 5では細かな凹凸をコンパウンドがうまく吸収しているのか、あるいはトレッドパターンが変わったことによる影響か、路面から必要なインフォメーションだけがうまくフィルタリングされている。おかげで路面と対話しながら走るようなイメージで、コーナーを楽しくクリアしていける。どっしり落ち着きがあって安定している、といったような運動性能を損なう方向ではないのがポイントだ。
前後タイヤのバランスも大きく改善された。レーンチェンジを想定した高速スラロームでは、タイヤのクラウン形状が変わったのではないかと思うほどのスムーズな切り返しが可能になった。POWER RSにあったフロントに遅れてリアがついてくるようなちぐはぐさが解消され、車両との一体感が増している。狙ったラインのトレースのしやすさにも直結していると感じる。
この変化は、ウェット路面における低速スラロームの切り返しのスムーズさにも表れてくる。滑らかな切り返しが可能になったことで、恐れずに左右へ車両を振ることができる。また、グリップ性能のアップにより、次のパイロンに向けて加速した時にリアタイヤが空転しても、しっかり車両を前に押し出してくれる粘り強さが感じられる。
制動距離については、新旧タイヤを装着した2台の試乗車でABSの調子にばらつきがあり、POWER 5装着車がフロントブレーキの握り始め2mくらいを空走してしまうような状況。ただ、それでもブレーキが効き始めてからのグリップ感はPOWER 5の方が高く、60km/hからの制動距離は最終的に50cm~1m程度の差に収まっていた。
POWER 5はPOWER RSよりとっつきやすい性格に変わり、タイヤ全体の限界性能も向上していることは確か。柔軟なケース剛性で路面のインフォメーションを得やすいという部分では少し玄人向けなところがあるようにも感じるが、こうした要素はライディングの楽しさを補強するものでもある。ワインディングを通過するツーリングの道中では、あらゆる場所、状況でその楽しさを堪能できるに違いない。