レビュー

【タイヤレビュー】ちょっと古いメルセデス・ベンツに装着したミシュランのオールシーズンタイヤ「クラスクライメート」。春先の雪対応と、ロングドライブの燃費は?

ちょっと古いメルセデス・ベンツ「S124」に装着したミシュラン製オールシーズンタイヤ「クロスクライメート」。3月末のような突然の降雪にも慌てず対応できるところがうれしい

 北米や欧州では、新車販売時に純正装着されることが多いというオールシーズンタイヤ。1年を通して1セットのタイヤだけで走りきることができるという能力とともに、別に冬用タイヤを所有することで生じる保管場所や交換の手間が不要となるというメリットがある代わりに、夏と冬、それぞれの天候に十分対応できる性能を有しているのか、という不安から装着に二の足を踏むユーザーの心配があることもよく分かる。一方では社内の帰国子女(カナダで自家用車所有経験あり)から聞いた「えーっ、日本では夏と冬に別々のタイヤを使うんですか?」という衝撃的な言葉に答えるように、近年日本国内ではグッドイヤーの「ベクター 4 シーズンズ ハイブリッド」を皮切りに、ミシュラン、ピレリ、ダンロップ、横浜ゴムなど各社から新型オールシーズンタイヤの発売が相次いでいる。

 筆者が所有するちょっと古いメルセデス・ベンツの「S124」(1995年製E220ステーションワゴン)には、3シーズン前からベクター(2016年日本製造)、今シーズンからミシュラン「クロスクライメート」(195/65R15サイズ。2019年イタリア製造)を装着しており、ことあるごとに性能チェックを続けているのだ。ちなみにどちらのタイヤのサイドウォールにも、雪や泥道に対応できると米国で認められた「M+S(マッド&スノー)」マークと、欧州で冬用タイヤとして認定されている証拠である「スリーピークマウンテン・スノーフレーク」マークが型押しされていて、冬用タイヤ規制時でも走行可能な性能を有していることをアピールしている(チェーン規制時にはもちろんチェーン装着が必要)。

独特のV字型ブロックパターンを持つミシュランのクロスクライメート。S124の純正サイズは195/65R15だ
クロスクライメートのサイドウォールには、タイヤのネーム(右上)以外にも、雪道対応を証明する「スリーピーク・スノーマウンテン」と「M+S(マッド&スノー)」マーク(左上)、製造年月日(3119は2019年31週目の製造の意、左下)、製造国(MADE IN ITALY、右下)などさまざまな情報が刻まれている

突然の雪に対応できる安心感

 3月29日。この日、筆者が住む東京 国立市の桜を早々と満開に導いた暖かな天候は一変し、前日の天気予報が当たって早朝から激しい雪模様だ。気温がそれほど低くないので、雪質は粉雪というよりも牡丹雪に近い感じ。マンションの屋外駐車場に停めているわがS124のボンネットにあるスリーポインテッドスターは、10時過ぎの時点で下側3分の1程度が隠れるほど積もっていたので、積雪は3~4cmというところか。暖冬のせいですでにスタッドレスタイヤから夏タイヤに付け替えてしまったユーザーには、当日のドライブを諦めていただいた方が賢明といったレベルだろう。

3月29日の季節外れの大雪。東京・国立市内は5センチ程度積もった
S124のボンネットに取り付けられたスリーポインテッドスターは、下側3分の1程度が雪で覆われた
シャーベット状の路面には、クロスクライメートのブロックパターンがくっきり

 食料品の買い物のため市内の道路をしばらく走ってみたが、国立の大学通りと桜通りに並ぶソメイヨシノの古木は、重い雪が積もってまるで枝垂れ桜のようになっていて、なかなかすごい景色だ。そんな中を平気で走っているクルマはやはりSUVが多く、商用車以外の普通車は本当に数少ない。

国立市内の大学通りにある桜並木は、重たい雪が降り積もったせいで枝垂れ桜のようになった

 路面に積もった雪は水分が多く、走るとクロスクライメートのV字型ブロックの跡とともに路面の黒い部分が現れるような状態で、この程度であれば直進時のグリップ力がきちんとキープされているだけでなく、交差点での右左折時でも普段通りにステアリングを切っていける。雪の粒が大きいので視界がわるく、交差点の手前などではスピードを緩めておく必要があるが、制動力はペダルの踏み込み量に連動して確かな感触があり、安心して車速がコントロールできるのだ。SUVでも4WDでもない25年前のFR車でも、タイヤがしっかりと対応できるものであればなんの問題もなく走り切れる。そして、こうした季節外れの降雪というシチュエーションにピタリとハマるのがオールシーズンタイヤなのである。

往復1000kmのロングドライブの燃費は

 現在装着中のオールシーズンタイヤ「クロスクライメート」はミシュランのものだ。季節ごとの履き替え不要、タイヤの保管スペース不要、タイヤコストを抑える経済性、広い温度域に対応するコンパウンドによるさまざまな路面への接地効果、V字のユニークなトレッドパターンによる雪踏み効果、面取り加工したトレッドブロックによるドライブレーキ性能、高性能サイプによる雪道での安心感など、数々の性能がメーカーによってアピールされている。1月に行なった軽井沢でのレポートで、雪道での性能はすでに確認済み。今回はドライ路面での性能を確かめるべく、約1000kmのロングドライブに挑戦してみた。

 行き先は東京から約450km先の宮城県 松島と石巻。目的は3月20日の東京オリンピック 2020聖火到着式で披露される航空自衛隊ブルーインパルスの演技を見るためだ。2時30分に国立IC(インターチェンジ)から中央自動車道に乗り、首都高速道路から常磐自動車道へ抜けるルートは、早朝という時間帯もあって3連休の初日ながらクルマはほとんど走っていない。ドライ路面でのクロスクライメートは、ステアリング中立付近の座りがよく(つまり直進性が高い)、走行音が夏タイヤを凌ぐほど静かなのでとても快適だ。3Dのようにうねってカーブの曲率が高い首都高でのコーナリングでは、流石に夏タイヤと全く互角とまでは言えないが、安定感は十分キープされている。

 常磐道で福島県内に入ると、この日の天気予報通り北北西からの強烈な風が吹き始める。道路脇の吹き流しは水平になったまま暴れ狂っているので、風速は10m/sをはるかに超えているはずだ。切り通しや橋の上など地形によって風向や強弱が変化するので、絶え間ないステアリングとアクセルの修正に神経を使う。当然、速度は50km/hや70km/hに制限されている。さらに道路脇のモニタリングポストの数字も、福島第一原子力発電所に近づくにつれて大きくなり(人体には影響のないレベルだが……)、前後や対向車線を走るクルマがほとんどいないので一層不安感が増加してくる。そんな状況でもクロスクライメートはドライグリップ力をしっかり発揮してくれたので、福島県内を無事通過。さらに強風が続く仙台平野を抜けてお目当ての松島基地に到着することができた。S124は、付近の田んぼの所有者の方に許可を得て畦道に駐車。狭い土と砂利のアクセス道路でも、M+Sマーク付きのクロスクライメートは全く問題なしに通過できた。ブルーインパルスの演技の結果は既報の通り。ここまで466km走ってハイオクガソリンを43.82L給油したが、強い向かい風の中での走行のため燃費は10.63km/Lと伸びなかった。

3月20日の常磐自動車道ならはパーキングエリアで休憩するS124
強風のため70km/h規制であることを知らせる常磐道・常葉双葉付近の掲示板
松島基地近くのたんぼ道を走るS124。後方は見物客のクルマで渋滞する県道
ブルーインパルスがスモークで描く五輪の輪は、強風に吹きとばされてしまった。残念
5色のスモークで描くリーダーズベネフィットは見事に成功

 この日は、北上川河口近くにある震災遺構となっている大川小学校跡地を訪問し、松島で1泊。翌日は復興中の石巻を訪れた後、15時過ぎに帰路についた。都内に入ったのが21時ごろで、GSに入った時点のトリップメーターはちょうど530km。ハイオク41.18Lを給油したので、帰りの燃費は12.87km/Lとかつてないよい数字を記録した。

北上川河口付近の砂利道にて
多くの児童と教職員が津波の犠牲になった大川小学校跡地に到着。後方の校舎は、当時のまま保存されている
翌日訪れた石巻市の日和山公園。震災当日は、多くの市民が高台の公園に避難したという

 走りもよくて、走行音も静か。そして好燃費をマークするとなると、非降雪地域に住むユーザーにとっては、ほぼ満足できる性能を持つと断言できる。あとはどこまでこの性能が維持できるのかという耐久性のチェックだけか。一方、夏、冬それぞれの専用タイヤにはピーク時の性能では劣るので、その辺りをしっかりと配慮して選択することも当然必要になってくるのだが。

原 アキラ