レビュー

【タイヤレビュー】ミシュランの雪でも走れる夏タイヤ「クロスクライメート」は本当に雪道を走れるのか?

北海道のテストコースを走ってみた

北海道のテストコースでミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート」の雪上性能を試した

 雪でも走れる夏タイヤとして今注目が集まっているオールシーズンタイヤ。この市場にミシュランが「CROSS CLIMATE(クロスクライメート)」という商品を投入してきた。このタイヤは以前Car Watchでもレポートしたとおりだが、舗装路における走りや静粛性は夏タイヤとさほど差はないことが実証された。これなら非降雪地域のユーザーでスタッドレスタイヤの保管が難しいユーザーにとっては、かなり魅力的だと感じたものだ。

 だが、実際の雪道ではどう走るのかは試せていない。そこで今回は北海道のテストコースに訪れ、その性能を存分に味わってみようということになった。今回の試乗で比較対象とするのは夏タイヤの「ENERGY SAVER+(エナジーセイバー プラス)」だ。これと「クロスクライメート+」を同じクルマに装着して、雪道での走りの違いを体感してみる。

ドライ&ウェット路面では、夏タイヤとほとんど遜色のない性能を発揮したクロスクライメートシリーズ。中央部分から両サイドに向けてV字の特徴的なパターン形状を採用し、このパターンが雪上走行時に雪を踏み固めて効果的に雪柱を作り、グリップ力を確保する

 まず試したのは勾配路。東京でドカ雪が降った際、ニュースなどでは坂道を上れなくなったクルマがクローズアップされる。それは夏タイヤで雪道に出かけてしまった結果、スタックして動けないというものだが、今回はそんな状況を再現できるような環境だ。

 試乗当日は雪が降りしきる天候であり、テストコースは圧雪もされていなければ、凍っているような路面も出ていない。まずは、夏タイヤであるエナジーセイバー+を装着した「ノート e-POWER」の4WDモデルに乗り込む。最初は意地悪に4WDを選択せずにFF状態で走り出す。すると、平地ではアクセルコントロールに気を遣えば動き出すことは可能。だが、勾配がちょっとでもついた場面に遭遇すると、駆動をかけた瞬間にフロントは空転をして横方向にスライドを始めて坂道を上ることが困難になる。そこで車両の駆動モード切り替えスイッチを押して4WDモードにすると、アクセルコントロールを慎重に行なえばゆるゆると上ることが可能になる。だが、それも13%勾配のところで上れなくなってしまった。

夏タイヤの「ENERGY SAVER+(エナジーセイバー プラス)」と「クロスクライメート+」を「ノート e-POWER」に装着し、勾配路での走破性を試す

 そのままの場所から、“雪でも走れる夏タイヤ”というオールシーズンタイヤのクロスクライメート+を装着したノート e-POWERに乗り換え、FFで走り出す。すると、スルスルと13%勾配を駆け上がってしまったのだ。なんと4WDいらず。

 縦方向のトラクションはきちんとしており、一切不安がない。その後、勾配路をUターンして坂を下ったのだが、不安感なく減速することも可能。夏タイヤでこの勾配を下ることを考えるとかなりの恐怖だ。いざという時に役立つタイヤ、それがクロスクライメート+ということだろう。

エナジーセイバー+では上れなくなってしまった13%の坂も、クロスクライメート+ではするすると上れた
下り勾配でも安心して減速できた

 ただし、クロスクライメート+は万能タイヤではないことは頭の中に入れておいたほうがよい。スラロームするような環境をメルセデス・ベンツ「GLA」で走れば、縦方向のトラクションはシッカリしているものの、ステアリング操舵初期に応答の甘さがあり、横方向のグリップはスタッドレスタイヤほどではないことを確認できた。また、氷の路面におけるトラクションやストッピングパワーも、動けなくはないがスタッドレスタイヤには劣る。ここをきちんと理解して使うことが必要だろう。

メルセデス・ベンツ「GLA」でパイロンスラロームを行なった際は、ステアリング操舵初期に応答の甘さが感じられた。縦方向のグリップはあっても、横方向のグリップはスタッドレスタイヤにおよばない

 しかしながら、突如として訪れる雪道において、動けるか否か、そして止まれるか否かという差はかなり大きい。そんな環境に遭遇した時、即座にスタッドレスタイヤに履き替えられる人ならいいかもしれないが、なかなか非降雪地域ではそうはいかないのも現状。それならば、クロスクライメートを常に装着しておくというのもわるくはない。

 乾燥路におけるネガをきちんと潰し、それでいて氷雪路も何とかこなせるその仕上がりは、かなり魅力的な保険だ。環境変化をものともしないその仕上がりは、これから重宝されそうな存在となりそうだ。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。