レビュー

【タイヤレビュー】ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート」シリーズをドライ&ウェット路面で試す

外気温がヒトケタの状況で、オールシーズンタイヤと夏タイヤを比較試乗

“雪も走れる夏タイヤ”をコンセプトにしたミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート」シリーズを試した

 近年、オールシーズンタイヤに注目が集まっている。雪でも走れる夏タイヤであるオールシーズンタイヤは、タイヤ交換が不要というメリットがあり、非降雪地域のユーザーにとってはかなりの魅力だ。年に数回しか訪れない雪道に対し、タイヤ交換やタイヤの保管場所を確保することは厄介であり、マンション住まいの方々だったりするとそのハードルはかなり高まってしまう。そのような人からすればオールシーズンタイヤはまさに夢のような商品ということなのだろう。

 しかしながら、オールシーズンタイヤは決してオールマイティなタイヤではない。ゴツさがあるトレッドパターンからは、夏タイヤからすればノイズや転がり抵抗が多く、ドライグリップも当然落ちるのが相場。対して冬路面に突入すれば、スノーはオッケーでも氷はイマイチと、どっち付かずの性能だったのだ。個人的な感想を言ってしまえば、そこまでドライ路面をガマンするのであれば、1年に2回のタイヤ交換や保管場所の確保くらいは受け入れてもいいかと考えていた。

 だが、そんなオールシーズンタイヤの常識を打破しようというタイヤが登場した。それがミシュランの「CROSS CLIMATE(クロスクライメート)」シリーズだ。ドライでもウェットでも、そして雪道でも対応するため、幅広い温度レンジで作動が可能なコンパウンドを採用。そして、トレッドパターンは特徴的なVシェイプを採用することで、雪柱せん断効果を発揮しつつ、排水性能にも優れるように設計されたという。また、各ブロックに面取り加工を施すことで、ブロックがねじれた際にもエッジの巻き込みを発生させず、シッカリと接地させることに成功。ドライグリップも失うことがないように気を配っている。さらにショルダー部分にはティアドロップ型のサイプを搭載。これには深い溝があり、ショルダーが摩耗していくことで入り口が拡大し、雪上でのトラクションが確保されるそうだ。

クロスクライメートシリーズは、サイズによって「クロスクライメート」「クロスクライメート+」「クロスクライメート SUV」の3種類を設定
ドライ&ウェット路面での性能に加え、雪道での安心感をも備えるオールシーズンタイヤとして開発されたクロスクライメートシリーズ。幅広い温度域に対応するコンパウンドと、雪踏み・排水性能を最大限に引き出す独特のVシェイプトレッドパターンを採用
トレッドブロックに面取り加工を施し、ねじれやエッジの巻き込みを低減。ドライブレーキ性能を高めた
ショルダー部にはティアドロップ型の高性能サイプを採用し、摩耗によって溝が拡大することにより、雪上でのトラクションを長期間確保する

 このようにさまざまな対策が施されたクロスクライメートシリーズを、12月初旬の外気温がヒトケタという状況のテストコースで試乗した。雪道以外の部分を知ろうというのが今回の目的だ。今回は同じクルマに夏タイヤを装着したものと比較しながらその差を探ってみる。

いざ、クロスクライメートシリーズを体感!

 まず与えられたのは、トヨタ自動車「C-HR」のハイブリッドモデルにクロスクライメート+を装着したクルマだ。かつてのオールシーズンタイヤのイメージはどう変化するのか? 早速走ってみる。すると、驚いたのはトレッドパターンのゴツいイメージとは裏腹に、かなり静かにスムーズに走ることだった。ハンドリング路面で走り始めたのだが、スタッドレスタイヤのようにトレッドの表面がヨレるようなイメージもなく、狙ったラインを見事にトレースしていくから驚くばかり。リアの追従性もよく、これが夏タイヤでは? と思えるフィーリングがある。意地悪にコーナーを攻め込んでみても、フロントのグリップは抜けることがなく、切り込み応答もきちんと受け止めてくれる。これはかなりよさそうだ。コースには所々ウェット路面があったのだが、そこでもグリップが抜けるような瞬間の動きもズルリとマイルドで扱いやすいことが印象的だった。

前日の雨でところどころ水たまりが残るテストコースを試乗
クロスクライメート+(左)と、標準タイヤの「プライマシー3」(右)を装着した「C-HR」のハイブリッドモデルで違いを確認
クロスクライメート+はウェット路面でグリップが抜けるような瞬間の動きもマイルドで扱いやすい印象

 続いてC-HRの純正タイヤである「プライマシー3」に試乗すると、転がり抵抗感が少ない印象がある。燃費を考えられたタイヤであることが手に取るように伝わってくるのだ。ハンドリングについても、初期応答はクロスクライメート+よりもスッキリと反応するイメージ。だが、コーナーで切り込んでいくと、グリップがズルッと抜けるようなシーンもあり、グリップ自体はむしろクロスクライメート+のほうが若干高いような感覚があったのだ。路面温度が低いということもあったのだろうが、冬の路面であれば雪道でなかったとしても、クロスクライメート+のほうがより安心感が強い印象を受けた。こうしたイメージは後に試乗したフォルクスワーゲン「ゴルフ」でも同様の感覚。オールシーズンタイヤのネガは見事に払拭されたといっていい。

クロスクライメート+(左)と、ミシュランの低燃費タイヤ「エナジーセイバー+」(右)を装着した「ゴルフ」にも試乗
C-HRと同様にクロスクライメート+のほうが高い安心感があり、オールシーズンタイヤのネガティブなイメージは払拭された

 けれども、間違ってはいけないのは凍結路におけるグリップまで確保しているとはミシュラン側は謳っていない。あくまでスノー路面までをカバーするのがクロスクライメートシリーズということだ。本格的な雪道に踏み込むならスタッドレスタイヤをどうぞというわけ。あくまでも非降雪地域の突然の雪に対応できるタイヤという受け取り方がいいだろう。

 後日、今度はいよいよ雪道の性能をチェックする予定。そのレポートは追ってご報告する。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸