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ミシュラン、タイヤの静粛性開発を行なう研究拠点「太田サイト」を公開

「日本ミシュランタイヤ 太田サイト」の半無響室

 日本ミシュランタイヤは、群馬県太田市にある研究開発センター「日本ミシュランタイヤ 太田サイト」で、「タイヤのノイズ(音)」をテーマにした報道公開を行なった。

 ミシュランは1980年代から日本で官能評価を中心とした車上試験を開始。1989年に日本ミシュランタイヤの前身である「ミシュランオカモトタイヤ」が設立され、タイヤの生産施設があった群馬県太田市でタイヤの性能研究、車上定量試験が行なわれるようになり、1991年にアジア地域の研究開発センターとして「MRA(Michelin Research Asia)」が設立された。

 MRAでは1996年からタイヤと材料の設計、各種法規適合、競合他社の研究などを担当する部署が設立され、2000年以降は日本でのタイヤ生産が終了したことなどもあり、試作タイヤの製造設備を用意するなど研究活動を拡大する大規模な設備投資を実施。この太田サイトはフランス ラドゥ、米国 グリーンヒルの各研究開発センターと並んで「ミシュランの3大拠点」になっているという。

 太田サイトではタイヤの静粛性のほか、乗用車用、商用車用タイヤの基礎・先行開発、スタッドレスタイヤの氷上性能などの研究開発が行なわれており、なかでも静粛性については太田サイトだけが専門に取り扱う分野となっている。

技術勉強会の会場となった日本ミシュランタイヤ 太田サイト
日本ミシュランタイヤ株式会社 製品開発本部 PC/LTタイヤ新製品開発部 部長 蔭山浩司氏

 技術勉強会では最初に、日本ミシュランタイヤ 製品開発本部 PC/LTタイヤ新製品開発部 部長の蔭山浩司氏からミシュランにおけるプレミアムコンフォートタイヤが歩んできた開発の歴史について説明された。

 ミシュランでは1982年に、高速走行中のウェットグリップやロングライフ性能を追究した新製品「MXV」を発売。欧州で開発されたこのタイヤは高い評価を受けてヒット製品となったが、日本市場では購入者から静粛性の面について苦言が出ることもあったという。これを受けてミシュランは、MXVをベースとしつつ日本市場向けの低騒音パターンを採用した「MXGS」を開発。このMXGSはトヨタ自動車の「マークII」、三菱自動車工業の「ギャラン」で純正装着タイヤに採用されるなど日本市場で受け入れられ、さらにMXGSをベースにサイプを増やし、ウェットグリップ性能を高めた「MXGS2」が用意されるなど、市場ごとのニーズや使い方にマッチする製品作りの重要性をミシュランが認識する大きなきっかけになった。

 アジア戦略商品として2003年に発売された「MXV8」は、先行開発の段階から太田サイトで開発プロジェクトがスタート。静粛性を高める低騒音パターンの開発のほか、転がり抵抗の低減技術、未舗装路も多いアジア諸国での耐久要件などを重視して開発が進められたことから、トヨタや本田技研工業といった日本メーカーだけでなく、メルセデス・ベンツの車両でも純正装着タイヤに採用されることになった。また、上級ラグジュアリーカーでの純正装着をターゲットにして2009年に発売された「プライマシー LC」も太田サイトで開発が行なわれているという。

 グローバル展開するプライマシーシリーズでは、2013年発売の「プライマシー 3」、7月に日本での販売が始まった「プライマシー 4」を日欧の研究開発センターで協働開発。ミシュランのタイヤ作りのポリシーである「ミシュラン・トータル・パフォーマンス」を実現するため、ウェットグリップと静粛性を高次元でバランスさせて性能向上させているほか、プライマシー 4では車両に装着して使い続けた後も、濡れた路面での排水性を維持する新しい溝形状を採用。タイヤ性能に「長く続く安心感」を盛り込んでいると蔭山氏は紹介した。

日本ミシュランタイヤ株式会社 タイヤ性能研究部 性能研究実験 エンジニア 齊藤由典氏

 静粛性を向上させるタイヤ技術の詳細については、日本ミシュランタイヤ タイヤ性能研究部 性能研究実験 エンジニアの齊藤由典氏が解説を担当。

 タイヤでは静粛性(快適性)に加えて運動性能、安全性、経済性、環境性能など多彩な性能が求められ、いくつかの要素で背反関係が存在している。タイヤを原因とする騒音は「車外騒音」と「車内騒音」の2つに分類され、車内騒音は車外騒音が空気をつうじて車内に入るほか、タイヤの動きが振動になってステアリングやシートに伝わり、それが騒音になる。

 近年の傾向としては、タイヤのラベリング制度でタイヤの転がり抵抗低減が商品性に直接反映されるようになっているが、転がり抵抗を下げるためにタイヤが硬くなると静粛性の面では不利になるという。さらにEV(電気自動車)やハイブリッドカーが普及したことで、これまで車内騒音の主な要因となっていたエンジン音が目立たないクルマが増えてきたこと、軽量化を目的に高張力鋼板などを使ってボディを薄板化した車両は遮音性・吸音性の面で不利なことなど、自動車技術の進化によってタイヤの静粛性に対する要求が厳しさを増しているという。

 タイヤから騒音が出るメカニズムとしては「加振系」「伝達系」「伝播系」の3種類があり、齊藤氏はそれぞれに、タイヤのゴムが路面と当たって振動することによる「太鼓系」と、空気の振動が共鳴する「笛系」という異なる原理で騒音が発生すると解説。

 太鼓系の騒音となる「パターン加振音」は、トレッド面にあるブロックが接地したときにタイヤが断続的に変形して発生する音。これを低減するためにはトレッド面の内側にあるタイヤベルトにかかる力が変動せず、できるだけ一定になることが重要で、ミシュランではプライマシー LCから「サイレントリブテクノロジー」を採用。サイレントリブテクノロジーではトレッドパターンの横断面で、リブのどの位置でも溝とブロックの幅が一定の比率になるよう設計しており、タイヤが回転しても一定の力がかかり続けるようになっている。

 その一方で、ブロックは隣り合うパターンを異なるサイズにして、パターン加振音で発生する音の周波数を分散させて一定の部分が目立たないようにする「バリアブルピッチ」を用いている。横方向で均一化を目指しつつ、縦方向では積極的に変化させる相反する要素となるので、パターン設計では幾何学的に非常に難易度の高い技術が必要になると説明された。

 笛系の騒音となる「気柱共鳴音」はトレッド面にある縦溝部分で発生。音が発生する原理は管楽器と同じで、溝の内部で空気が反響することが原因となる。接地面の長さに応じて発生する音の周波数が変わり、タイヤの外径が大きく接地面が長くなると低い音が出るようになる。

 タイヤの静粛性を高める技術開発では、こういった騒音が発生するメカニズムを把握した上で、加振系の「3次元タイヤ転動解析」、伝達系の「タイヤ振動解析」、伝播系の「音響伝播解析」などのシミュレーションを実施。さらにサンプル試験、台上試験、車上試験などを経て新製品が開発されていると説明された。

日本ミシュランタイヤ株式会社 取締役副社長 兼 研究開発本部 本部長 東中一之氏は日本におけるミシュランの研究開発について紹介
日本ミシュランタイヤ株式会社 製品開発本部 PC/LTタイヤ新製品開発部 シニアエンジニア 工藤健一氏は新製品の開発プロセスなどについて解説

 当日はスライド資料を使ったプレゼンテーションに加え、敷地内にある「半無響室」が公開された。四方の壁と天井をグラスウール製の吸音材で囲まれた半無響室では、中央にドラムテスターなどを使った計測器を設置。タイヤの周辺に設置されたマイクで車外騒音を測定する場となっている。

 テストで使われるタイヤのサイズは225/45 R17となっており、組み付けるホイールはとくに規定がないとのこと。走行路面を模したドラムテスターのスピンドルは、「スムーズな表面」「アスファルト路面」「粗い路面」の3種類を用意。スムーズな表面は路面の影響を考慮しない、タイヤそのものの静粛性を評価する場合に使用される。

 タイヤから一番遠い位置に並べられた「ラインマイクロフォン」は計21個で、タイヤの騒音規制で計測される「通過騒音」などをチェックする。近接騒音を計測する「ニアマイク」は側面に3個と前後に各1個の計5個を設定。こちらでは音量以外に、タイヤのどこから騒音が出ているかも確認できる。これに加え、タイヤを取り込む「やぐら」に自在マイク1個が設定され、自由な位置で騒音を計測できるようにしている。

 室温は25℃に保たれ、通常は80km/h走行を再現する回転数でタイヤを回して計測を実施。そのほかにもチェック内容や開発目標に応じて、30km/h~160km/hの範囲で計測が行なわれているという。

半無響室の様子。内部にあるものは基本的にすべてミシュランの内製になっている