レビュー

【タイヤレビュー】横浜ゴムのオールシーズンタイヤ「ブルーアース 4S AW21」にオンロードで乗ってみた

非降雪地域での味方になるか?

北海道での雪上試乗に続き、横浜ゴムのオールシーズンタイヤ「ブルーアース 4S AW21」をオンロードで試した

オールシーズンタイヤのメリット

 いま注目のオールシーズンタイヤを舗装路で走ったらどのような感覚なのか? それを1日かけて試すことになった。テストしたタイヤは横浜ゴム「BluEarth-4S(ブルーアース・フォーエス)AW21」だ。サイドウォールにはマッド&スノーを意味するM+Sの表記があると同時に、欧州で冬用タイヤとして認証されていることを示すスノーフレークマークも掲げられている。

 ただし、このオールシーズンタイヤは他メーカーのそれと同様、積雪には対応するが凍結路面における使用は推奨しないという立ち位置。今年の2月に冬路面における性能を北海道旭川のテストコースで試してきたが、その印象はメーカーが発表する通りであり、雪上ではかなり走れる印象が高かった。特に小舵角で駆け抜けるような状況ではかなり満足できる印象。ひと昔前のスタッドレスタイヤくらいの性能はある感覚だった。

BluEarth-4S AW21は雪上性能とウェット性能を両立させるとともに、ドライ性能や耐摩耗性能も確保したオールシーズンタイヤ。国際基準で定められたシビアスノータイヤ条件に適合した証となる「スノーフレークマーク」がサイドウォールに打刻され、チェーン規制時でも走行可能なタイヤとして認められている

 ただし、スタッドレスタイヤと圧倒的に違うと思えたのは、大舵角を与えた状況でグリップダウンが見られることだった。つまり、縦方向のグリップは確かなものがあるが、横方向に関しては注意が必要ということ。直線でシッカリとスピードを落として、旋回時は無理をせずに走ることが求められる。そのクセをシッカリと頭に叩き込んで乗れば問題ないと思えた。

 また、凍結路に関しては不向きであり、20km/hからのフル制動を行なうとスタッドレスタイヤに比べてクルマ1台分ほど制動距離が伸びてしまう。メーカーが推奨するように、凍結路がある状況では乗らない選択をするか、もしくは事前にチェーンを巻くなどの対策が必要だ。これもまた、性能を過信せずに使えば問題はないだろう。

パターンデザインでは、ウェット路面での排水性を高めるためセンター部から左右斜め方向に広がるV字ダイバージェントグルーブの方向性パターンを取り入れるとともに、雪上性能に貢献するクロスグルーブを採用。また、ドライ路面での性能を高めるため、接地面積の確保に有効な幅広トレッドや大型ショルダーブロックの採用によって操縦安定性を高めた。コンパウンドにはシリカを配合しウェット性能を向上させたほか、末端変性ポリマーの配合によって雪上性能やウェット性能を高めたという

 いずれにしても、ドライバーがタイヤをきちんと理解して使えばオールシーズンタイヤのメリットは大きい。1年中タイヤの履き替える必要がないことで、タイヤの保管に気を遣う必要もない。そして突然の雪道に遭遇したとしても、難なく自宅ガレージまで帰って来られるのだから……。サマータイヤでは動くことすら許されない状況を打破できる。そこがオールシーズンタイヤのメリットといっていい。

舗装路でのフィーリングは?

 では、果たして舗装路における走りはいかなるものなのか? それが今回のテストの本題だ。オールシーズンタイヤとしてはオーソドックスなトレッドパターンとなるV字ダイバージェントグルーブは、あらゆる方向にエッジを効かせることができる形状だが、それが常に路面に叩きつけられることで音や振動といったネガが気になるところ。縦溝を持つことがないために、排水性に関しても心配だ。また、センターリブを持たないことから、ステアリングのインフォメーション性能も出しにくいようにも予測できる。

 BluEarth-4S AW21で都内を走り出すと、第一印象はやはりサマータイヤのように滑らかな感覚はない。甲高いシャー音は常につきまとうし、コロコロとした微振動がフロアに伝わり、それがペダル操作をするかかとに与えられる印象がある。ただし、そのレベルはそれほど大きなものではない。例えば隣にトラックがいたり、ラジオでも聴いていれば、タイヤが発する音は気にならないで済むレベル。スノー性能を持ち合わせていることを考えれば十分に許せるというのが正直なところ。オールシーズンタイヤというものが登場し始めたころに比べれば、かなり静かになった印象だ。

 走行フィールは、スタッドレスタイヤほどヨレる感覚はない。もちろん、サマータイヤの応答性から比べればやや弱い傾向にあるが、タイヤを気遣ってそっと走るようなことをしなくても済むレベル。ハンドリングは若干ダルになる傾向で、ニュートラル付近の操舵の座りは曖昧となり、ステアリングの反力は薄くルーズだ。足が若干柔らかくなったかのような乗り味がある。けれども、サマータイヤでフィーリング云々を気にしないような人であれば、それに気づくこともないだろう。あくまで普通に走れる、そんな印象だ。

 今回はウェット路面も走ったが、そこでもグリップを十分に感じられた。濡れた高速道路の継ぎ目であっても危うい動きはなく、多少の水たまりでもヒヤリとするようなことはなかった。もちろん、水深がある程度以上になれば排水はサマータイヤのようにこなせはしないだろうが、それも乗り手がきちんとスピードコントロールをすれば問題は起きないだろう。排水が考えられている都市部の状況では、ネガらしいネガは見えてこなかった。

 こうして1日共にしてみたBluEarth-4S AW21は、舗装路における走りもそれほどわるくはないことが理解できた。音振に関しては1日終えるころには慣れてしまったのだから、あとは走行フィールが納得できるか否かが判断の分かれ目かもしれない。しかし、そこさえ目をつむれるユーザーであれば、これは非降雪地域ではかなりの味方になってくれることは事実。1年を共にしてみてもいいかもしれない、BluEarth-4S AW21はそう素直に思えるオールシーズンタイヤだった。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学