レビュー

【タイヤレビュー】グッドイヤーのオールシーズンタイヤ、スタッドレスとの違いを雪上で体感してきた

グッドイヤーのオールシーズンタイヤを試した

1年中同じタイヤで過ごせるオールシーズンタイヤ

 暖冬ですね。雪国でもあまり雪が降っていないし、スキーヤーのボクにとって今年はハズレ年。とはいえ、都会で暮らす人にとって降雪&積雪と無縁の生活はラッキーなのかもしれない。しかし分かりませんよ来年は?

 だいたい隔年で暖冬を繰り返しているのと、温暖化によって北海道などが降雪地域であるという常識が覆されつつあるように思う。だから首都圏であっても次のシーズンは分からない。

 そこで今、各タイヤメーカーが力を入れているのがオールシーズンタイヤ。冬になるとスタッドレスタイヤに履き替える、という方も多いだろう。しかし、その間夏タイヤは庭やマンションのストレージ、ベランダ、あるいは契約しているタイヤ屋さんなどに保存する必要がある。実際のところこれは面倒だし、できれば1年中同じタイヤで済ませられれば、と思う人も少なからずいらっしゃるだろう。

 そこで登場するのが、雪が降ろうと1年中同じタイヤで過ごせるというオールシーズンタイヤだ。実はアメリカでは、かなり昔からこのオールシーズンタイヤの装着率が高い。環境に厳しいスパイクタイヤが禁止されたことでスタッド(スパイクのこと)レスタイヤが開発され、日本では冬用タイヤの主流になっているが、アメリカではスタッドレスの装着率が低い。その代わりにこのオールシーズンタイヤが主流となっている。

 カナダに隣接するアメリカ北部では雪が降ると塩化カルシウムを撒くなど、日本に比べると道路行政が積極的。そのため、スタッドレスタイヤほどの性能がなくてもとりあえず支障がない運転環境が保たれているのだ。その代わり、雪のない季節は路面がひび割れてしまうわけだが、アメリカ人はその点はさほど気にしない。細かいことを言わないので、暮らしやすいというわけ。これは雪が降らない地域での話ではなく、いわゆる降雪地帯に隣接する地域でのこと。余談だが、こうしたエリアではテスラが走り去ると、みんなフェラーリを見るかのように指差しスマホで写メを撮るという。アメリカ中にテスラが走っているなんて勘違いもいいところなのである。

会場ではオールシーズンタイヤをはじめ、スタッドレスタイヤ、マッドテレインタイヤを試すことができた
SUV用のオールシーズンタイヤ「Assurance WeatherReady(アシュアランス ウェザーレディ)」
乗用車用のオールシーズンタイヤ「Vector 4 Seasons Hybrid(ベクター フォー シーズンズ ハイブリッド)」
マッドテレインタイヤ「WRANGLER DURATRAC(ラングラー デュラトラック)」

 そんなことはさておいて、件のオールシーズンタイヤの話である。オールシーズンタイヤはこのように以前からアメリカでの普及率が高いのだが、欧州ではイマイチだった。しかし、2010年からドイツを始めとした各国で欧州ウィンタータイヤ規制(冬季に冬タイヤ着用義務)が始まったのを契機にサマータイヤの販売が次第に下がり、代わって年を追うごとにウィンタータイヤはもちろんのこと、オールシーズンタイヤの販売が飛躍的に伸びているのだ。しかも、欧州型オールシーズンタイヤには、アメリカのオールシーズンタイヤに付けられたM+S(マッド&スノー)の刻印に加えて、スノーフレークマークと呼ばれるマークが付いている。

 スノーフレークマークとは、欧州で冬用タイヤとして認証されたマークのこと。欧州では2012年から自動車の安全性に関するEU規則によって、降雪路面の走行にはスノーフレークマークの刻印付きタイヤの装着が義務付けられている。スノーフレークマークの正式名称は「スリーピークマウンテン・スノーフレークマーク」というのだ。

欧州型オールシーズンタイヤにはM+S(マッド&スノー)に加えてスノーフレークマークが付く

 そこで、日本でも欧州のようにオールシーズンタイヤの需要が伸びるのではないかという目論見もあり、各タイヤメーカーが次々とオールシーズンタイヤを発表しているのが現状。しかし、グッドイヤーは40年も前からオールシーズンタイヤを販売している、いわば老舗なのである。しかも今回日本に投入するラインアップは、SUV用タイヤも含め軽自動車用まで実に58サイズと最多の品ぞろえとなっている。

ウィンタースポーツを楽しむ層にもちょうどよい選択肢

 試乗会場となったのは、福島県にあるグランデコスノーリゾート駐車場の特設コース。今年は暖冬ゆえ雪が少なかったため人工的に雪を運んできたのだが、走り出すと地面が見えるというちょっと残念なコンディション。しかし、たまにしか雪が降らない地域だとこのような路面は当たり前。ある意味、試乗には絶好のコンディションととらえた。

 まずはSUV用のオールシーズンタイヤの「Assurance WeatherReady(アシュアランス ウェザーレディ)」とスタッドレスタイヤ「ICE NAVI SUV(アイスナビ エスユーブイ)」の比較。ウェザーレディは北米向けに開発されたSUV向けのオールシーズンタイヤ。テスト車両は「RAV4」だ。

 初めにスタッドレスタイヤのアイスナビ SUVで走り出す。スラロームでは操舵を深く切り込んでもフロントタイヤのグリップダウンは少なく、速度を上げなければスッポリ抜けてしまうようなこともない。滑り出しは穏やかなのだ。

アイスナビ SUVを装着するRAV4

 次にオールシーズンタイヤのウェザーレディで走り出す。意外にもそれほど差を感じず不安感もないが、速度を上げていくに従って深い操舵でフロントが抜けるのを感じる。このあたりがスタッドレスタイヤとの差だろう。しかし、積雪路面ではブレーキ性能とトラクション(加速)性能にそれほど大きな差は感じられない。

ウェザーレディを装着するRAV4。ウェザーレディでは新配合オールシーズンシリカコンパウンドの採用により、低温から高温のあらゆる路面状況で高いトラクション性能を発揮。アウト側リブに配置されたバイアスグルーブ溝により排水性を高めて高いウェット性能も兼ね備える

 今度は乗用車用だ。乗用車用のオールシーズンタイヤは欧州で開発された「Vector 4 Seasons Hybrid(ベクター フォーシーズンズ ハイブリッド)」。テスト車両は「インプレッサ」だ。まずスタッドレスの「ICE NAVI 7(アイスナビ セブン)」から走り始める。こちらもやはり雪上性能は高い。

アイスナビ 7を装着するインプレッサ

 そしてオールシーズンタイヤのベクターに。やはり大きな違和感はないのだが、心持ちかSUV用に比べて深い操舵でも持ちこたえているように感じるのだ。制動、トラクション共に相違をそれほど感じなかった。

 今回は気温も高くアイスバーンを試すことはできなかったのが残念なところ。ただ、たまに降雪がある地域や、そのような地域からスキーなどのウィンタースポーツを楽しむ層にはちょうどよい選択肢ではないだろうか。何よりも付け替えや保管、そしてもう1セットを所持するという手間から解放されるのだから。

ベクター 4シーズンズ ハイブリッドは、高いグリップ性能と操縦安定性を実現するために設計された専用コンパウンド「オールウェザーシリカコンパウンド」、センターエリアのサイプ側面にワッフル状の凹凸の突起を与えることでブロック間を支え合い、より高いブロック剛性を発揮する「3Dワッフルブレード」、優れた排水性を実現するV字型グルーブの「Vシャープドトレッド」などを採用。なお、ベクター 4シーズンズ ハイブリッドは住友ゴムが生産を担っている

 ところで、もう1台「ランドクルーザー プラド」でも試乗することができたのでおまけでお伝えしておこう。SUVのファッション性が上がると人気のマッドテレインタイヤ「WRANGLER DURATRAC(ラングラー デュラトラック)」は2019年8月から導入され、人気を博している。

 デュラトラックにもM+Sに加えてスノーフレークマークが付いているので、高速道路の冬タイヤ規制でもベクターやウェザーレディ同様に走ることができるのだ。ドライブした印象はしっかりとトラクションがあり、ブレーキも安心して止まれるというもの。雪上コーナリングはベクターやウェザーレディほどではないが、十分にこなす実力があるので、ヘヴィーSUVユーザーにはブロックのファッション性も含めておすすめではないだろうか。

ラングラー デュラトラックを装着するランドクルーザー プラドにも試乗した

 雨性能や乗り心地、そして走行音などを含めて、スタッドレスでは達成し得ない魅力がオールシーズンタイヤにはあると感じた次第。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在64歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/

Photo:高橋 学