レビュー

【タイヤレビュー】グッドイヤーのエントリースポーツ「イーグル F1 スポーツ」をシビックで試してみた

グッドイヤーのスポーツタイヤ「EAGLE F1 SPORT」を試す

 低燃費で長持ちするエコタイヤは経済的にはありがたい。でも、走る、曲がる、止まるというクルマ本来の醍醐味をしっかり味わってみたいときもある。そうなるとスポーツタイヤに食指が動くけれど、スポーツ寄りのタイヤはなんとなく「乗り心地がよくなさそう」というイメージがないだろうか。家族を乗せることが多いクルマだと、そのあたりはなおさら気になるところだ。

 グッドイヤーが2021年4月に発売したばかりの「EAGLE F1 SPORT(イーグル エフワン スポーツ)」は、同社のスポーツタイヤEAGLEシリーズの中でも「エントリー向け」と銘打たれたモデル。エントリー向けだけに、ファミリーカーにも、初めてスポーツタイヤを装着するようなユーザーにも優しそうな雰囲気が漂う。が、実際のところどうなのか。筆者が所有する本田技研工業「シビック ハッチバック」に装着して確かめてみることにした。

シビック ハッチバックの純正ホイールに装着

なぜ「EAGLE F1 SPORT」なのか

 2021年2月末に購入したシビック ハッチバックは、ピュアスポーツカーである「シビック TYPE R」と同じDNAを持つ車両だ。なので、シビック ハッチバックもスポーツカー……とは言えないまでも、スポーティなクルマではある。装着するタイヤも、どちらかというとエコタイヤよりスポーツタイヤの方が似合いそうだ。

2月に納車されたシビック ハッチバック。2020年の現行型の、ほとんど最後の生産分だった

 しかしながら、筆者の用途はサーキットでのスポーツ走行ではない。通常は単なる移動手段であり、主に家族でドライブに出かけるためのもの。もちろん、移動自体をドライバーである筆者自身が楽しめるようにしたい、という思いもあって選んだ車種でもある。わざわざMT車を選んだのもそれが理由だ。

 家族を乗せることが多い以上、スポーティな走りをすることはあまり考えられないし、そもそもガチのスポーツタイヤにしてしまうのは気が引ける。だからといって燃費やライフを重視したエコタイヤだと車両特性的にマッチしないような気がするし、なによりドライバーが移動を楽しめないかもしれない。

筆者自身が移動を楽しめるように、MT車を選択

 そういう意味で、エントリー向けの「EAGLE F1 SPORT」は筆者のように「スポーティな走りに憧れがあるけれど、家族にも負担を感じさせないタイヤを選びたい」と考える人にちょうどいい選択肢になるのでは、という期待があった。そして、結果的にその期待に見事に応えてくれるタイヤだと感じた。

スポーツタイヤらしからぬ穏やかさと、スポーツタイヤらしい情報量

 シビック ハッチバックに適合するEAGLE F1 SPORTは235/40R18 95W XL。このサイズでは、タイヤラベリング制度における転がり抵抗性能が「A」、ウェットグリップ性能が「a」となる。スポーツタイヤとはいっても、燃費や雨天時走行にもきっちり配慮した性能を備えているようだ。

EAGLE F1 SPORT
縦に深く掘られた4本グルーブと、右サイドの鷹の爪を模したスリット、サイプが特徴的なトレッド
シビック ハッチバックに適合するサイズは235/40R18 95W XL

 だからだろうか、EAGLE F1 SPORTに交換してまず感じたのがスポーツタイヤらしからぬ穏やかさだった。スポーツ走行にも耐えるハイグリップタイヤとなると、路面の微細な凹凸を丁寧に拾ってネガティブな乗り心地になるのでは……なんて身構えていたのだけれど、いい意味で拍子抜けしてしまった。

 段差による突き上げや、峠道のコーナーなどにある減速帯の凹凸などの路面のギャップは、まるで角が取れたかのようで、当たりがとてもマイルドだ。同時にロードノイズも抑えられ、下道でも高速道路でも荒い路面から伝わってくる騒音で気疲れすることが少ない。これまでは幅員に余裕のある道路だと、振動やノイズが大きくなりそうな個所は可能な範囲で逸れて走るように意識することもあったけれど、EAGLE F1 SPORTでは「そこまでしなくてもいいか」と思えるくらい。

減速帯の凹凸などにおける「当たりのマイルドさ」はスポーツタイヤらしからぬところ

 かといって、スポーツタイヤに求められる敏感さみたいなものがごまかされている、というわけでもなさそう。凹凸の大小、肌理の細かさ・粗さ、μの高さ・低さといった刻々と変化していく路面のあらゆるインフォメーションは、シートから、ステアリングから如実に伝わってくる。乗り心地はマイルドだけれど、少し意識を集中させてみれば路面の情報を拾い集めている感覚が得られ、自分の手でクルマを走らせている実感が増す。

高速道路でのロードノイズも意外と少ない。直進・操縦安定性の高さは言わずもがなだ

 また、シビック ハッチバックはシャープなハンドリングも魅力だと個人的に思っているのだが、それはタイヤがEAGLE F1 SPORTになった後も健在だ。街中の緩やかなカーブを走るときや高速道路で車線変更するときの、舵角の少ないシチュエーションではごくごく普通のフィーリング。けれど、ある程度ステアリングを大きく、素早く切るコーナーなどではクイックに向きを変えてくれる。

 これは、車両がもつVGR(可変ステアリングギアレシオ)と呼ばれる機能の効果によるものと思われるが、そういったシビック ハッチバックならではのハンドリングの妙というか、味付けがEAGLE F1 SPORTでも相変わらず楽しい。

狭い道路での安心感にもつながる、頼もしいグリップ力

 家族と移動するためのクルマではあるけれど、ちょっとだけスポーティに走ってみたいな、ということでワインディングにも出かけてみた。連続する中速コーナーでも、少しタイトなヘアピン風のカーブでも、「攻める」というほどの積極的なドライビングはしていないとはいえ、「限界はまだまだずっと先だな」と思えるグリップ感が頼もしい。それは「安心感」と言い換えてもいいだろう。

流れていく景色を楽しみながら、中速コーナーが続くワインディングを走る

 どちらかというとコンパクトカーに分類されるとはいえ、全幅が1800mmあるシビック ハッチバックだ。狭いすれ違い車線がところどころにある峠道では、どうしても慎重にならざるを得ない。車線をはみ出してしまいそうになれば、対向車に無用な恐怖感を与えかねないし、なにより自分自身も(家族も)怖い。

 だからこそ、安心感につながるグリップ力の高さはあればあるだけうれしい。修正舵がききやすく、思った通りのラインを描けるパフォーマンスの高さは、やっぱりスポーツタイヤだと思わせる部分だし、安心して走らせられることで気持ちにも余裕が生まれる。もちろん、タイヤだけでなくシビック ハッチバック自体のポテンシャルも影響しているだろうけれど。

峠道では極端に狭いすれ違い車線になっているところもあるが、ハイグリップなスポーツタイヤなら安心感をもてる

 少しアクセルを踏み込んで、元気よくコーナーに飛び込んで行ったとき、減速帯の凹凸でうねるような路面になっていたところでも、それを的確に吸収して路面に張り付くようにグリップを維持してくれた。ワインディングを走るなか、そういった要所要所で何度も「さすがスポーツタイヤだな」とうなってしまう実力が垣間見える。むしろ純正シートのホールド性がもの足りなく思えて、「バケットシートだったらもっと楽しくなるかな」などと新たな物欲にかられるほど。

少し元気よくコーナーに飛び込んでみたところ、路面の凹凸もうまく吸収し、張り付くようなグリップを発揮してくれた

 ただ、もしかするともっとペースが上がっていったときに、この凹凸をうまく受け流しているしなやかさみたいなものが、反対にネガに感じてしまう可能性がありそうにも思えた。しなやかさは、剛性とのトレードオフになっている場合もある。よりハイペースで走る人からすれば、ピュアスポーツタイヤよりは柔らかめに思えるEAGLE F1 SPORTは、ときに「頼りなさ」として捉えてしまうこともあるかもしれない。

純正のファブリックシートはそこまでホールド性が高いわけではなく、ハイグリップタイヤだともの足りなく思える場面も

最初の1歩にぴったりの、快適性も兼ね備えたスポーツタイヤ

 ところで、シビック ハッチバックに乗っている人ならご存じのことと思うが、実のところ標準装着タイヤは同じグッドイヤーの「EAGLE F1 ASYMMETRIC 2」だ。すでに国内のラインアップからは外れている少し古い世代のもので、後継モデルとして同ASYMMETRIC 3やASYMMETRIC 5という製品が登場している(シビック ハッチバックに適合するサイズラインアップがあるのはASYMMETRIC 5のみ)。

 したがって、英国生産のいわば輸入車であるシビック ハッチバックのタイヤを交換したいと思ったとき、純正のASYMMETRIC 2を選べない可能性がある。そうすると、交換候補として有力なのはASYMMETRIC 5か、もしくは今回試したEAGLE F1 SPORTのどちらか、ということになるだろう。

純正タイヤを交換したいと思ったとき、何を選ぶべきか

 純正のASYMMETRIC 2の流れを継承しているのは、おそらくASYMMETRIC 5。ただ、よりスポーティさが増す傾向になると思われ、街乗りを含めた日常走行の乗り心地の面では、やはりEAGLE F1 SPORTに軍配が上がるはず。何しろ今回、ASYMMETRIC 2からEAGLE F1 SPORTに換えたことで、ASYMMETRIC 2が「まさにスポーツタイヤだったなあ」と改めて気付かせてくれることにもなったからだ。

 つまり、ASYMMETRIC 2はかなり剛性感の高い、マジメにスポーツなタイヤだったのである。筆者のようなまだ小さな子供もいる家族向けのタイヤか、と言われると、ちょっと返事に詰まるくらい(そもそも車両が家族向けじゃないのでは、なんて無粋なツッコミはなしにしてほしい……)。それもあって、ASYMMETRIC系よりEAGLE F1 SPORTの方が、筆者にとってはワクワクするようなスポーツ性能を持ちつつも、日常走行に求められる性能もスポイルされていない、バランスが取れたタイヤだと感じたところもある。

わくわくするようなスポーツ性能を備えるが、十分な日常走行性能も持つEAGLE F1 SPORT

 あともう1つ付け加えると、シビック ハッチバックはCVT車だけでなくMT車も衝突軽減ブレーキ、歩行者事故低減ステアリング、路外逸脱抑制機能、車線維持支援などを実現する安全運転支援システム「Honda SENSING」を搭載している。これらの動作は純正タイヤをベースに検証しているはずで、そういう意味でも、同じグッドイヤーかつEAGLEシリーズのタイヤを選んでおけば安心できるという側面もある。

シビック ハッチバックはMT車にも「Honda SENSING」を搭載する
車両の先進安全運転支援機能を正しく活かす意味でも、純正に近い性質を持つグッドイヤーのEAGLEシリーズは安心できるだろう

 スポーツタイヤになんとなくハードルの高さを感じていたり、家族のことを考えてできるだけコンフォートなタイヤを選んだりしている人はきっと少なくないはず。でも、皆さんが想像している通り、スポーツタイヤにすれば今よりもっとドライブが面白くなるのは確実なのだ。普段の乗り心地にも配慮されたEAGLE F1 SPORTは、その第1歩にぴったりのチョイスになるに違いない。

日沼諭史

日沼諭史 1977年北海道生まれ。Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。IT、モバイル、オーディオ・ビジュアル分野のほか、四輪・二輪や旅行などさまざまなジャンルで活動中。Footprint Technologies株式会社代表取締役。著書に「できるGoPro スタート→活用完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)など。2009年から参戦したオートバイジムカーナでは2年目にA級昇格し、2012年にSB級(ビッグバイククラス)チャンピオンを獲得。所有車両はホンダ シビックとスズキ隼。

Photo:高橋 学